بيت / 恋愛 / The Last Smile / Chapter 31 -الفصل 40

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STORY 31

私は久しぶりに神田グループ本社ビルを見上げていた。このビルには、グループ本体だけでなく、すべての関連会社が入っている。大阪、名古屋、福岡、そして海外にも多くの支社を持つ神田グループの中心となるこの本社ビル。エントランスに足を踏み入れると、三階分もの高さの吹き抜けが広がっていた。その広々とした空間には、開放的なワークスペースや、洗練されたデザインの受付カウンターがあり、スタイリッシュなカフェやコンビニ、社員向けの飲食店まで並んでいる。さらにはクリニックも完備されていて、このビルの中だけで生活のほとんどが成り立ってしまうほどだ。――もし、大学を卒業してから、あのまま普通に働いていたら、結婚をしていなかったら。思わず、そんな「もしも」に思いを馳せてしまう。今さら考えても仕方がないけれど、あのときの選択のいくつかを違えていたら、人生はどうなっていたのだろうか。少しだけ、時間を無駄にしてしまったような気がして、私は小さくため息をついた。「沙織!」名前を呼ばれて振り返ると、そこには懐かしい顔があった。「芹那!」笑顔を浮かべて手を振ってくれる彼女の姿に、思わず表情が緩む。高めのヒールをコツコツと鳴らしながら歩いてくる芹那は、細身のパンツスーツを完璧に着こなし、見る人すべてを惹きつけるような華やかさを纏っていた。「今日からよろしくね」軽くウインクをして言うその言葉に、私は「こちらこそ」と微笑み返す。「ねえ、今日は久しぶりに飲みに行こうよ。あのクズの話、聞かせてよ」クズ――当然、それは芳也のことだ。中高と同じだった芹那は、私が芳也と結婚した頃からずっと気にかけてくれていた。たびたび相談に乗ってくれた彼女にとっても、芳也のことはあまり好意的に映っていなかったようで、遠慮なくそう呼ぶ。「昔は気弱で、沙織がいなければ何もできなかったくせに、バカな女に捕まるなんて。後で後悔しても遅いんだから」そんな風に苛立ちを隠さず言いながら、芹那はエントランスからエレベーターホールへ向かう。その背筋はまっすぐで、言葉とは裏腹に、どこか頼もしさすら感じた。「もう、いいの。関係ないし」私は苦笑しながらそう言うと、芹那は少し声を落とし、真剣な表情に変わった。「それはそうと――元旦那の会社、さっそくまずいことになってるわよ」「え?」今までの軽口とは打って変わった彼女の声に、
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STORY 32

「それから、頼まれていた通り、沙織のことは神田グループからの出向という形にしておいたから。人事部長しか知らないから安心して」「ありがとう、いろいろ助けてもらって」社長令嬢だと知られると厄介なこともあるし、芹那にも相談されていたことがあったので、そのようにしてもらった。「こちらこそ、あの件頼んじゃってごめんね」芹那が申し訳なさそうに顔の前で手を合わす。「謝らないで。問題は早期に解決しないと」芹那が言っている「件」とは、最近社長の仕事ぶりに不審な点があるという話だった。現社長は海外支社から戻ってきたばかりで、彼の就任後、不透明な契約が増えたと芹那は感じていると言っていた。「沙織、社長と会ったことは?」「私のことを知っている人は少ないし、もちろん彼とも面識はないから、大丈夫」そう言いながら、私と芹那はエレベーターに乗り込んだ。ガラス張りのエレベーターは静かに上昇していき、遠ざかるフロアを見下ろすと、巨大なビルの中で自分がほんの一部でしかないことを実感する。コードシステムは神田グループの中で、スマホなどの電子機器を作っている会社だ。フロアに入ると、壁一面が大きな窓になっていて、そこからは都心の高層ビル群が一望できた。広々とした開放的なオフィスは、自然光が差し込んでいて、白を基調としたデスクやパーティションが並んでいる。社員たちはそれぞれの持ち場で、電話をしたり、パソコンに向かったりしていて、全体に程よい緊張感と活気があった。各営業部のほかに、芹那が部長を務めているプロジェクト管理部門もそこにあった。今、中心となっているスマホ開発事業は、本来半導体や製造など、神田グループやその下請け会社に仕事を任せることが多い。しかし今回、私が芳也の会社「サクシード・ソリューションズ」にもチャンスがもらえるようにした。芳也の知識や仕事を私は認めていたし、コードシステムにも利益をもたらすと信じていた。しかし、会社が大きくなるにつれて、彼は部下に仕事を丸投げすることが多くなっていた。だから、私がフォローしていても、この仕事はうまくいかなかったのかもしれない。そんなことを考えつつフロアに入ると、多くの社員が一斉に私を見た。視線を向けてくるスタッフたちの中には、書類を抱えたまま動きを止めている人もいて、少しだけ緊張感が走る。だが、芹那の姿を見ると、彼
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STORY 33

エレベーターがなかなか来ないのを確認し、急いでいるため、二人で三階上のフロアへ階段を駆け上がる。ヒールが階段にカツカツと響き、息を整える暇もないまま、社長室の前にたどり着いた。白く光るプレートに「代表取締役社長 小林誠二郎」の文字が刻まれているのを見て、私は一瞬だけ緊張で手が止まりそうになる。扉の前で立ち止まり、私たちは顔を見合わせて頷きあった。芹那の眉はしっかりと結ばれ、決意がその表情から見て取れる。私も静かに深呼吸をして気持ちを整える。「失礼します」芹那がそう言いながら扉を開ける。私もその背後から、少し身を縮めるようにして部屋の中へと足を踏み入れた。社長室は重厚なデスクと、高級感のある革張りのソファが配置された広々とした空間だった。床には厚い絨毯が敷かれ、窓からはビル群が一望できる。その場の空気はぴんと張り詰めており、言葉を選ばなければならない雰囲気が漂っている。「芳也……」まさか――。抗議ぐらいはした可能性を考えていたが、この場にいるとはまったく思っていなかった。社長室のソファに腰かけている彼と、隣に並ぶ美咲さん。まるで堂々とした来賓のような態度で座っていた。芹那の後ろにいたためか、そして社長との会話に集中していたからか、私の存在にはまだ気づいていないようだった。ここから静かに退室すべきか、それとも立ち会うべきか――その判断に迷った時だった。「沙織?」先に私に気づいたのは美咲さんだった。半信半疑のようにその名を口にした彼女は、驚きに目を見開いたまま固まっている。もう私に「さん」付けすることもやめたらしい。「え?」芳也もその声に釣られるように私の方へと視線を向け、目を見開いた。彼が何かを言おうとした瞬間、小林社長が芹那の方に向き直り、静かながらも圧を感じる声で口を開いた。「今、佐橋社長から話を聞いた。一度の失敗でこの話をなかったことにするなんて、君は何を考えているんだ?」その言葉に、芹那は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、社長をまっすぐに見据えた。「今は取引先の選考中です。一度の失敗とおっしゃいますが、選考から落ちただけです。社長にもご報告したはずですが」穏やかながらもはっきりとした口調で、芹那は言い切った。その場の空気が一段と張りつめる中、いきなり美咲さんが彼女の前に立ちはだか
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STORY 34

デレデレと美咲さんに応じる小林社長をこの地位に就かせた人間も、ある意味では連帯責任だな。そんなことをぼんやりと考えていると、芹那の大きなため息が聞こえた。「ねえ、この人たちバカなの? 父が偉かろうが、そんなの関係ないでしょう」サバサバとした性格の芹那だからこそ、男性社員が多いこの会社でも、今の地位に最年少で就いている。地位や名誉にすがったり、女を武器にしたりするタイプの人間が大嫌いなのだ。そんな芹那が、はっきりと言い切る姿に、つい私も笑ってしまった。「それより沙織!! あんたがどうしてここにいるのよ!!」芹那の言葉に、美咲さんは顔を真っ赤に染めながらも、その怒りの矛先ははっきりと私に向いているようだった。どう答えるべきか思案していた、その時だった。「沙織は、俺に謝りにここまで来たんだよな」「は?」思わず、その言葉が口をついて零れ落ちた。この人は、一体どんな思考回路をしているのだろう。ここまで愚かな考えに至るなんて、もはや病気なのではないかとすら思ってしまう。「電話に出られなかったのは、スマホを落としたのか?」そう言いながら、こちらに歩いてくると、私の両肩にそっと手を置いてきた。「そんなわけないでしょう」ありったけの力でその手を振り払って、睨みつける。「私たちはもう、何の関係もないの。あなたに会いに来たわけじゃない」きっぱりと、そして静かに言い放つと、芳也はにやりと笑った。その表情に、ゾッとするような嫌悪感が湧き上がる。過去、彼と知り合ったあの頃の彼は、一体どこへ消えてしまったのだろう。こんなにも愚かで、自分中心な考え方をするような人だったのか?いや、私が本質を見極められなかっただけで、あの頃だって彼は、ノートを借りにきたり、食事を一緒にしたりと、自分にメリットがあることしかしていなかったように思えてくる。もしかすると、あれもすべて計算だったのか?あの頃の自分の見る目のなさに、もはや笑うしかない。「後で話は聞いてやる。今は大切な話中だから」どこまでも、私がいつまでも自分に盲目的に尽くすと信じて疑わない。その思い込みは、今までの私の態度がそうさせてしまったのかもしれない。——しかし。もう、それも終わりだ。「ねえ、芳也! この女、きっと小林社長にも色目を使いに来たのよ。お金がある人に媚びを売って生きてるんだから!」言いたい
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STORY 35

「どうする? 沙織」芹那が、私の意思を確認するように静かに問いかけてくる。ここで陸翔兄さまに連絡して、小林社長を即座に辞任させることもできる。あるいは、このまま芳也の会社を排除してしまうという手もある。でも……小林社長には、まだ何か黒い部分が隠れていそうだ。すべてを明るみに出してから、然るべき形で辞任させるべきかもしれない。そう考えていると、小林社長が私たちのほうへ言葉を投げつけてきた。「とりあえず、このまま次のプレゼンの場には、サクシード・ソリューションズを入れておけ。社長命令だ」芹那が私にチラリと目配せをしてきた。いったんはここで従っておこう、そう判断し、私は小さく頷いた。「……わかりました」そう返答すると、美咲さんが勝ち誇ったように、私たちを見下ろすような視線を向けてきた。「沙織、どうせどこかの男に媚びを売って、この会社に潜り込んだんでしょうけど、私たちの邪魔をしたら、タダでは済まさないから!」その言葉に、小林社長が満足げな笑みを浮かべ、美咲さんを見てニヤニヤしている。「昼食に行こうか」美咲さんの手を握りながら、小林社長はそう言って、彼女を伴い部屋を出て行った。静まり返る会議室に残された私たち。芳也もそのまま出て行くかと思ったが、なぜか立ち止まり、こちらを見たまま口を開いた。「沙織、この会社が俺の取引先だって、知ってたのか?」「知ってたら何?」私があっさりと返すと、芳也は少し顔をしかめて、さらに続けた。「俺の仕事のために、何かやろうとしたのか? お前には“仕事に関わるな”って、ちゃんと伝えたよな?」「……ねえ、あなたさぁ」その言葉に、芹那がついに堪忍袋の緒を切ったように声を荒げる。けれど私は、軽く手を上げて彼女を制した。「私は、あなたを助けようなんて一度も思ってない。それに、勝手に“仕事ができない”って決めつけたのはあなたでしょう。私は“できない”なんて、一言も言ったことなかったわよ」大学時代、私のノートを頼りにしていたような人が、今になって私を見下すようになるなんて。その思いをぶつけるように伝えると、芳也は大きくため息をついた。「まあいい。お前には何もできないさ。所詮、雇われのお前たちは、社長の言うことに従うしかないんだからな」そう言い放ち、芹那にも視線を投げたあと、芳也は私にじわじわと歩み寄ってきた。
last updateآخر تحديث : 2026-01-26
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STORY 36

重厚感のある鉄製の大きな門の前でタクシーを降り、その堂々たる門構えを見上げた。 久しぶりに訪れる実家。その中の家は門越しには見えず、姿こそ見えないが、記憶の中の豪邸は確かにそこにある。自分の実家でありながら、その存在感に思わず圧倒されてしまう。門の脇に設置されたインターホンを押すと、家政婦さんの声が聞こえ、すぐに迎えに出てきてくれた。 私は深く一礼し、案内されるままに玄関をくぐり、広い廊下を通ってリビングへ向かう。その途中、パタパタと軽い足音が響いたかと思うと、声が聞こえた。「沙織!」見ると、母が走ってくる姿が目に入った。 おっとりとして、品のあるお嬢様育ちの母が走るなんて、あまり見たことがない。 その姿に驚きつつも、思わず笑みがこぼれた。「ただいま」私はそう言って、自然と笑顔を返していた。久しぶりに入るリビングは、四年前とは少し雰囲気が変わっていた。 以前の華やかな装飾は控えめになり、今はブラウンとホワイトを基調とした、落ち着いた空間へと様変わりしている。 けれど、あの自動演奏のグランドピアノは変わらずそこにあり、ふと昔、ここでよく弾いていたことを思い出した。大きな窓の外には、手入れの行き届いた庭が広がり、その先にはライトアップされたプールが静かに水面を揺らしている。 空間の美しさと、変わらない温もりに、少しだけ心がほぐれていくのを感じた。ダイニングテーブルに座ると、母がお茶を用意してくれた。 湯気の立つカップに手を伸ばそうとしたその時――「沙織!!」突然、力強い声が響いて、リビングの扉が開いた。 仕事から帰ってきたばかりの父が、私の名前を叫びながら部屋に入ってきた。数年ぶりに再会する私に、嬉しさを隠しきれず、顔を綻ばせながらも駆け寄ってくる。 けれど――このあと話すことを思うと、その笑顔がどんな表情に変わってしまうのか、不安が胸に広がる。案の定、今までの経緯をひと通り話し終えたとき、父の表情は明らかに変わっていた。 眉をひそめ、拳を握りしめ、顔に怒りの色が浮かんでいる。「ふざけるな!!!」やっぱり、こうなる。 父の怒鳴り声に、私はそう思わずにはいられなかった。 怒りを抑えきれない父の声。そして隣では、母が今にも泣きそうな顔をしている。「本当よ、どうしてもっと早く戻ってこなかったの……」母が絞り出すように
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STORY 37

小さく頷きながら、プロジェクトの進行状況について父に説明する。現在、アプリを制作する企業の選定が進んでおり、その中で芳也の会社がほぼ内定している状態だということも、包み隠さず伝えた。「本当は、神田グループ傘下のKDCが、アプリ開発を担当するべきだったのかもしれない。でも私が、芹那や元社長にお願いして、外部企業である芳也の会社も選考に入れてもらったの。……もちろん、その時点では仕事の面で問題はないと判断していたから」「……お前がいた時は、ってことだろ?」父にはすっかり見抜かれていて、私は思わず苦笑いを浮かべ、静かに頷いた。「ただ、今、KDCはアメリカの大型案件も抱えていて忙しいの」「なるほどな」「だから、すぐに急いでこの案件に着手するのは難しいし、もう一方の候補企業はどう見ても実力不足。だから今後、企業の再選定も含めて進めていきたいと思ってる」そう伝えると、父は無言でスマートフォンを取り出し、そのままどこかに電話をかけ始めた。「お前、知っていたのか?」そう言いながら電話越しに語りかける父の声には、いつもの柔らかさはない。「この案件の責任はすべて一任する。コードシステムとKDCに行け。あと、コードシステムの社長についても、至急対処しろ」一体、誰と話しているのだろう。父の周りには、優秀な部下や信頼できる幹部が揃っている。その誰かに、具体的な指示を出しているのだろうか。申し訳ない気持ちもある。でも、これはビジネスだ。神田グループとして関わる以上、より良い商品を提供する責任がある。利益を生み出すためなら、父の判断は常に正しい――私はそれを何度も目の当たりにしてきた。「は!? なに……?」電話の向こうから、驚いたような声が聞こえた直後、父がジロリと私を睨むように見た。「ああ。こっちの案件には、阿部を代わりに入らせる。お前なら同時進行くらいできるだろう? それくらい、やって見せろ」最後のその言い方は、まるで脅しか罰のようにも聞こえて、私は電話の相手に思わず同情してしまう。「お父さん……今、誰と話してたの?」恐る恐る、チラリと父の表情を窺いながら問いかけると、父は冷たい視線をこちらに向けた。「沙織……お前、セキュリティの甘いマンションに住んでいるそうだな」「え……?」低く怒りを含んだその声音に、私は一瞬で察する。その情報を父に伝
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STORY 38

「沙織、危ない場所はダメよ。もし芳也くんや、あの相手の女性が来たりしたらどうするの!」母が心配そうに声を荒げる。「大丈夫だよ、そこまではしないでしょう」そう答えつつも、内心では少しだけ不安がよぎる。私のことだから大丈夫――そう信じてくれている母に、必要以上に心配をかけたくなかった。そのやり取りを見ながら、父は再びどこかへ電話をかけているようだった。口数は少ないが、電話の向こうにしっかりと指示を出している様子で、視線だけはこちらに時折向けてくる。そのあとは、久しぶりに両親と食事をし、ほんのひとときではあるけれど、笑い合える時間を過ごした。緊張が続いていた日々の中で、心からホッとするような時間だった。そして、私の住むマンションまで車で送ってもらう。どうしても様子を見たいと言い出した母も一緒に来て、エントランスの前で立ち止まり、あれこれと心配を口にした。「やっぱり……こんな場所、危ないんじゃないの?」「大丈夫だよ、お母さん。今すぐ入居できたのがここだったし、治安だってそんなに悪くない。ちゃんとオートロックもあるし、防犯カメラだってついてるの。見た目は地味かもしれないけど、中もきれいだし、いいマンションだよ」できるだけ明るく言いながら、母の不安を取り除こうとした。「お母さん、またすぐに帰るから。今度、一緒においしいランチでも食べに行こうね」そう声をかけると、母はまだ名残惜しそうな表情を浮かべながらも、小さく頷いた。「ええ……何かあったら、すぐに連絡するのよ。いい? どんな小さなことでもいいから」「うん、ありがとう」そうして車を降り、手を振りながらマンションへと戻った。それにしても――父はさっき、誰に何を頼んだのだろうか。さっきの電話、やっぱり陸翔兄さまだったのだろうか。仕事で彼と再び関わることになるのかもしれない。そう考えると、複雑な気持ちが渦巻く。過去の恋に区切りをつけるためにも、彼とは距離を置こうと決めていた。でも……もし彼がプロジェクトに関わってくれるなら、それは心強いことでもある。自分の中で、感情が整理しきれない。頭の中がぐちゃぐちゃのまま、私はシャワーを浴び、体を温めてベッドに入った。けれど――目を閉じても、なかなか眠りは訪れてくれなかった。翌日、陸翔兄さまが会社に姿を見せることはなかった。ただ、その代
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STORY 39

仕事の進展でもあったのかと思い、私は仕事モードのまま問いかけた。すると、陸翔兄さまが電話の向こうで、小さく息を吐いたのがわかった。『社長から、沙織の住まいを探すように言われた』……やっぱり、そうなったか。そんな気はしていた。母があれほど無理やり私の家までついてきたのも、きっと私の住まいを確認するためだったのだろう。そして、私に直接言うよりも、陸翔兄さまに頼む方が早い。そこまで含めて、すべて想像通りだった。『もう、準備はできているから……』陸翔兄さまが何かを続けて話しているのは分かった。けれど――。私は、マンションの前に立つ“その人物”を視界に捉えた瞬間、頭が真っ白になった。手から、スマホが滑り落ちる。「……沙織」「……芳也……どうして、ここがわかったの……?」『沙織! 沙織!!』落ちたスマホから、私を呼ぶ陸翔兄さまの声が聞こえている。けれど、拾うことができなかった。芳也の目が――どこか、狂気じみているように見えたからだ。『沙織! 沙織!』何度も名前を呼ぶ声が聞こえているのに、私はただ、芳也と向き合うことしかできなかった。逃げたいのに、体が言うことをきかない。「戻ってくるんだ、沙織……」芳也が、一歩、こちらに近づく。私は反射的に、一歩後ずさった。背後には、もう自分のマンションしかない。ここを調べ、待ち伏せをしていたという事実が、じわじわと恐怖として胸に広がる。――刺激しちゃいけない。そう思いながら、私は必死に距離を保とうとした。「……何を言ってるの? もう、終わったでしょう」ようやく、絞り出すように声を出す。けれど、芳也はまったく聞く耳を持たなかった。「どうして、あの会社にいたんだ?俺のために、何かしようとしたのか?」その言葉に、私は思わず目を見開いた。――何を、言っているの?浮気をして、姑と愛人と一緒になって私を追い詰め、手まであげた人間が。それでもなお、私が自分のために何かをすると思い込んでいる。「……違う。違うに決まってるでしょう」その答えが、芳也の望んだものではなかったのだろう。彼は苛立ったように舌打ちをして、言葉を続けた。「そうだよな。たまたまあんな大手の会社に入れたとしても、俺たちの仕事に関われるわけないよな」「何しに来たの?私を罵るために、わざわざ来たの?」私は必死に
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STORY 40

「もういい。わかったよ。美咲に嫉妬してたんだよな? ……抱いてやるよ」その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。「……いや……!」次の瞬間、私は玄関に押し倒され、芳也が覆いかぶさってくる。ずっと一緒に過ごしてきたはずなのに、今の彼は、もはやまったく知らない人間のようで――恐怖で声が出なかった。強引に胸元を開かれ、そこに唇が触れる。ポロポロと、止めることもできず涙が零れ落ちた。「やめて!! 嫌!!」必死に逃げようと、目を閉じて抵抗した、その時だった。急に、身体にかかっていた重みが消える。同時に、何かが床に倒れる鈍い音が響いた。声も出ず、ただ涙を流すだけの私の視界に映ったのは――床に倒れ、意識を失っている芳也と、拳を強く握りしめ、血がにじむほど力を込めながら、大きく何度も息をしている陸翔兄さまの姿だった。「……お前、この間もいたな……」芳也は唸るように呟き、口元の血を拭いながら、ふらつきつつ立ち上がる。それを、陸翔兄さまは鋭い視線で見下ろしていた。「こんなことをして……死にたいのか?」陸翔兄さまの口から放たれた、あまりにも冷たい言葉に、私も思わず息を飲む。「はあ? これは夫婦の問題だ。他人が口を出すな」吐き捨てるように言いながら、芳也は私に視線を向け、口元に不気味な笑みを浮かべた。「沙織。この男が、新しい金づるか?俺より金を持ってるわけじゃないだろ?この男の倍、出してやるから戻ってこいよ」その下品な言葉に、背筋がぞわりと粟立つ。芳也が言葉を発するたびに、嫌悪感が増していく。「俺と彼女は――お前が想像するような、低俗な関係じゃない」陸翔兄さまは芳也の胸ぐらを掴み、低く、しかしはっきりと言い放った。「お前と一緒にするな!」そのまま、力強く芳也を突き飛ばす。激高した芳也は、怒りに歪んだ表情で、陸翔兄さまに殴りかかろうとした。――ダメ!!!陸翔兄さまが、これ以上私のために手を上げることも、ましてや怪我をするなんて――そう考えただけで、胸が締めつけられる。どうにかしなければ――そう思った、その瞬間。黒いスーツに身を包んだ数人の男たちが、部屋に駆け込んできた。神田グループのボディーガードたちだ。「遅くなりました」彼らは陸翔兄さまに一礼すると、背後から芳也の両腕を一気に拘束した。「離せ! 
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