悠斗は黙ってエレベーターの扉を閉め、下の階の病室へ戻った。浩平はちょうど、承也に渡す水をコップに注いでいた。ドアが開く音を聞き、振り返った。「ずいぶん早いお戻りだな」悠斗は「はい」と応じ、承也のそばへ歩み寄った。「奥様も上の階へ行かれました。私と同じエレベーターで」それを聞いた浩平は、水の入ったコップを手にしたまま、ベッドのヘッドボードにもたれて書類を読んでいるふりをする男を振り返り、わざと言った。「水野先生と奈奈が鉢合わせたってわけか?」莉奈がすべての記憶を取り戻してから今まで、昨日、承也が彼女を小槌に会わせに連れていったとき以外、彼は莉奈の前に姿を見せていなかった。彼女を刺激しないためだ。だから、彼女が息子に会いに行きたいと聞いても、上の階へ追いかけることはなく、平静を装ってここに留まっていた。悠斗はうなずいた。「はい、神崎様もいらしています」承也は書類を一枚めくった。紙の擦れる音が、浩平にはやけに耳障りだった。彼はどさりと承也のそばへ腰を下ろし、コップを差し出す。ついでに、指の関節が白くなるほど強く握りしめられた承也の手を一瞥し、からかうように言った。「骨まで砕けそうだぞ」だが次の瞬間、承也は浩平の手からコップを取った。浩平は反射的に身を引いた。てっきり水を浴びせられると思ったのだ。ところが承也は何事もなかったように、その水を飲み始めた。浩平は大げさに眉を上げた。「悟ったのか?嫉妬しなくなった?」承也は相手にしなかった。「おお、うちの承也も大人になったな。むやみに嫉妬しなくなったなんて」浩平は、省之介が上の階にいると聞けば、承也は絶対に我慢できないと思っていた。省之介はすでに婚約しているとはいえ、心の狭い承也が黙って耐えられるはずはない。「悠斗」水を飲み終えてコップを置いた承也は、平然とした顔で呼んだ。悠斗が一歩前に出る。「社長、ご命令を」「こいつを外へ放り出せ」……「子供のことは、あまり心配しすぎないで。僕とドクター・キャメロンで小槌の状態はすべて確認している。僕たちも全力を尽くすよ」感情の乏しかった莉奈の瞳に、ようやくかすかな光が宿った。目を赤くしたまま、彼女は言った。「ありがとうだけじゃ足りないのは分かっています。でも、やっぱり言わせてくだ
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