All Chapters of 婚姻生活にさようなら、椎名さん: Chapter 491 - Chapter 492

492 Chapters

第491話

集中治療エリアを出た後、承也は莉奈の脇に力なく垂れた手を見た。彼は指先をかすかに動かすと、手を伸ばして彼女の手を握った。莉奈がわずかに身じろぎすると、彼が口を開いた。「最初の三日間、小槌は化学療法を受ける。その間はひどく体力が落ちてしまうから、俺たちは外で待つしかない。次に中に入って会えるのは三日後だ」目を真っ赤にして必死に涙を堪えている彼女を見て、承也はひとつ息をつき、一歩前に出て彼女を腕の中に引き寄せ、強く抱きしめた。「我慢しなくていい」腕の中から、押し殺したような苦しげな泣き声が漏れた。次第にその声は大きくなり、承也は胸の奥が激しく締め付けられるのを感じた。彼は手を上げ、手のひらで彼女の後頭部を包み込み、身をかがめて自分の頬を彼女の髪に寄せた。あの島へ彼女を連れ出し、三日後に戻ってこようかという考えが、一瞬だけ頭をよぎった。だが、莉奈に悔いを残させるわけにはいかない。どんな結果になろうとも、家族三人で一緒に向き合うべきなのだ。「外から一緒に見守ってやろう。俺たちがいるって、あの子にもちゃんと伝わるはずだ。三日後、小槌が目を覚まして一番に見たいのは絶対に君だ。俺と一緒に待つと約束してくれないか。小槌だけじゃない。俺にも君が必要なんだ、奈奈」腕の中にいる莉奈の身体がかすかに強張った。きつく寄せた眉の下から、再び涙が止めどなくあふれ出した。彼女の震えを感じ取った承也は、それ以上何も言わず、ただ彼女をさらに強く抱きしめた。まるで、少しでも手を離せば彼女がふっと消えてしまうのを恐れるかのように。昨夜彼女が眠った後、彼はこっそり莉奈の病室に入っていた。彼女が寝る前に飲んだ薬には睡眠作用があったため、彼が入ってきたことには気づいていなかった。その時、承也は彼女の手首に新しく巻かれたガーゼを見ていたのだ。一昨日の夕方に手当てをしたばかりで、次にガーゼを交換するのは早くても今日の夕方のはずだった。だが、そのガーゼの結び目は不格好で、プロの看護師の手によるものではなかった。おそらく、真央か直哉のどちらかが結んだのだろう。予定より早く、しかも身近な者の手でガーゼが替えられていたことから、莉奈が再び自傷に及んだ可能性は高い。真央と直哉は、看護師に知られて莉奈を刺激することを避け、自分たちで手当てをしたのだろう
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第492話

だからこそ、承也がこれまで一人で黙って背負ってきた辛さを理解していても、それを本人の前で態度に出すことはできなかったのだ。今の承也は、莉奈の前では恥も外聞もかなぐり捨てているが、それ以外の人間に対しては異常なほど体面を気にするし、自尊心も恐ろしく高い男だ。省之介の邸宅を出た後、浩平の車は東安市の薬物研究所へと向かった。以前、承也から椎名千鶴が生前使っていた物品に異常がないか調べるよう頼まれた時、浩平はこの研究所の人間を動かしたのだ。承也に「確実に信頼できる人間だ」と断言できたのは、その相手が結城黎だったからである。黎は研究所で働く薬学博士であり、日常的に薬物を扱っている。承也には「あまりやりすぎるなよ。いつか黎に毒殺されても知らないぞ」とからかわれていた。だが、浩平は微塵も心配していなかった。黎が自分を毒殺するはずがないと確信していたからだ。彼が十九歳になるまで、黎は彼をずっと弟として可愛がってくれていた。二人に血の繋がりはなく、黎は結城家の両親が児童養護施設から引き取った養女だったが、彼女は浩平にとても優しかった。二人は一歳しか離れておらず、浩平が彼女を「姉さん」と呼んだことは一度もなかった。顔を合わせるたびに「黎」と名前で呼び捨てにしていた。彼が無理やり黎を抱いて二人の関係を壊した日から、「姉さん」という呼び方は、彼女を挑発し、からかう時だけに使う言葉へと変わったのだ。エレベーターが到着し、浩平は物思いから意識を戻した。中に入ると、黎のいる研究室のフロアのボタンを押した。ここは外部の人間の立ち入りが禁止されているが、浩平は結城家の実権を握る当主であり、黎の家族でもある。一階の警備員も彼の顔を何度も見ており、彼が現れると恭しく立ち上がり、エレベーターまで案内した。黎はこの二日間、家に帰らず研究室にこもりきりだった。あの日、浩平が元恋人の目の前で彼女を抱こうとしたことに、まだ腹を立てているのだ。そう思うと、浩平は短く笑い声を漏らし、エレベーターを降りた。だが、黎の研究室へ向かう途中で、少し離れた廊下の奥に、白衣姿の黎がスマホで電話をしているのが見えた。その口調は断固としていたが、声がかすかに震えているのが聞き取れた。誰もいない静かな廊下で、黎の声ははっきりと浩平の耳に届いた。「私のほうが悪かった
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