All Chapters of 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました: Chapter 181 - Chapter 190

194 Chapters

181話 決意

「今のところ、症状が出たのは1回だけだから、もう少し様子を見ると言っていたわ。」綾子は声をひそめて話す。時差の関係で綾子のところは夜なのか、テレビ電話に映る背後が暗い。優希が凛に母乳をあげている時、突然綾子から電話がかかってきた。もちろん優希は喜んでテレビ電話にして凛を見せたが、綾子の様子が少しおかしかったのだ。話を聞くと、綾子は有美と暁春に陽を任せておくことに、不安を感じているようだった。その内容は、有美と暁春の喧嘩や、暁春が陽に優希との繋がりを求めているなど、耳を疑うような話ばかり。しかしそれよりも気になるのは、陽のことだ。有美の出産前からどうにも気になっていた子供。どうか幸せに、と願っていた子供の家庭環境が良くないと聞き、優希の胸はざわつき、落ち着かない気持ちになった。「ただ、私はもう、あの二人の傍に陽を置いておくのは危険だと思うの。有美はそもそも陽にそれほど興味も愛情もないわ。暁春君は、父親としてはいいけれど、陽に優希との繋がりを求めているようだから、陽本人を愛している訳じゃないかもしれない。どちらにしても、有美が彼に執着しているから、暁春君の傍には置けないわ」「それなら三滝家で保護することも難しいわね…」綾子と老夫人の会話を聞いた瞬間、優希の口は反射的に動いた。「それなら、私が育てます」途端に静まる綾子たち。優希自身も驚いていた。しかし、撤回する気は起きない。もう一度「私が、陽君を育てます」と言った。「優希、あなたも凛ちゃんを産んだばかりでしょう?無茶よ!」綾子が慌てる声に、優希は頷く。「ええ。でも、陽君のことは、なんだかすごく気になるの。あの二人が大切にしないなら、私が凛と一緒に育てます」取り戻す。優希の胸には、なぜだかその思いが強く浮かんでいた。「…本気なの?」老夫人が険しい顔で聞いてきた。優希はゆっくり
last updateLast Updated : 2026-08-28
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182話 計画開始

「茜ちゃんのメイク技術って、本当にすごいわね」優希は鏡の中の見慣れない自分に、思わず感嘆の声が漏れた。今回は、誰に似せるというメイクではなく、単純に老けメイクというものをしてもらった。血色を落として皺を描き、輪郭にたるみを加える。手にはシミも描き込み、爪は少し汚した。白髪混じりのウィッグを被れば、疲れが滲む老女が現れた。それでも、どこか綾子に似て見えるのが不思議だった。「それじゃあ、頑張って!」病院の裏に車を止め、元気に親指を立てる茜に、清掃員の制服を着た優希も笑って返しながら、裏口から病院に入る。(まぁ、本当に誰かわからないわね…)廊下の壁に掛けられた鏡を通り過ぎる時、横目で確認した姿は、普段の優希とはまるで別人で、改めて茜の腕の良さを実感した。看護師ではなく清掃員に変装した理由は、まだ実務経験のない優希では、特別病棟で働けるような看護師らしい振る舞いができず、怪しまれる可能性があった。それに引き換え、掃除の仕事なら優希にも経験があり、比較的年齢の高い女性がいても不自然ではない。前もって綾子に言われた場所まで来ると、掃除用具がたくさん乗ったカートが置かれている。これだろうか、と近寄っていくと、影から綾子が出てきた。「優希」辺りを警戒した様子で、声を抑えている。優希はカートを押し、綾子に合わせてゆっくりと歩き出した。「時間がないわ。陽が入院してから、暁春君は離れたがらないの。美緒さんがなんとか呼び出してくれたんだけど、すぐに戻ってきそうな雰囲気だそうよ。その前に陽を外に運び出さなければいけないわ」暁春が陽の傍にいては、すり替えはできない。だから彼が不在の間に容態が急変し、戻ってきた時にはすでに死亡している状況を作る。問題は、陽につけられたボディガードだった。異変があればすぐに暁春へ報告させているそうだ。だから、連絡を受けた彼が病院へ戻るまでの約30分で、ボディガードにも悟られず
last updateLast Updated : 2026-08-29
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183話 風

「あ…暁春君。早かったわね、美緒さんの用事は終わったの?」後ろで綾子の戸惑った声が聞こえる。「終わりました。それより、陽はどうしていますか?」暁春の革靴の音が廊下に響き、そのたびに優希の鼓動は痛いほどになる。気づけば足は止まり、不自然に廊下の真ん中に立ち尽くしてしまった。しかし幸いなことに、暁春は優希に気づいた様子はない。綾子も暁春の気が優希に逸れないよう、積極的に陽の話を続けている。(どうしよう…)このままでは陽を連れ出すことができない。悩んだ末に、とりあえず処置室に入っておこうと思い、足を動かした。足音を立てないよう、息まで殺して進む。その時、廊下を風が抜けた。どこかの窓でも開いているのか、柔らかな風が頬を撫でる。(あ、気持ちいい)ほんの一瞬、張り詰めていた体から力が抜けた。この時優希は、先ほどまで話し声が響いていた廊下が、静かになっていることに気づかなかった。「待て」処置室の扉にかけた手が、突然横から伸びてきた手に掴まれる。優希は飛び出しそうになる悲鳴をなんとか飲み込んだが、動くことができなくなった。暁春の指が、ぎりりと手首に食い込んでいる。「暁春君!?」綾子の焦った声が遠くで聞こえる。しかし一番大きく聞こえるのは、自分の心臓の音と、暁春の荒い息。優希は俯いたまま、身を固くする。「お前は誰だ?なぜこの匂いがする?」(匂い…?)優希は意味が分からず、眉をひそめる。するとまたいっそう、暁春の指が食い込み、優希は息をのむ。「顔を上げろ」緊張が滲む声が頭上に響いた。優希は唇を噛んだ。素人ながら、茜のメイクの腕は超一流だということを、優希は身をもって知っている。だが所詮メイクだ。こんな間近で見ら
last updateLast Updated : 2026-08-30
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184話 脱出?

しばらく廊下の慌ただしい音を聞いていると、リネン室の扉が開く音がして、優希の体が一気に緊張する。誰が来たのかは知らないが、何もせずに隠れているところを見られては、それこそ不審者となってしまう。そう思い、急いで掃除用具を手に取り、掃除しているフリをする。手は動かしつつ、耳は近付いてくる足音に集中させる。そしてその足音の主が誰なのか気づいた時、優希の背中に冷たい汗が噴き出した。「匂いがする…」暁春がリネン室に入ってきたのだ。ぶつぶつと呟く声が恐ろしく感じ、優希は箒を持つ腕をただ動かした。「暁春君!陽が!」追いかけてきたのか、綾子もリネン室に飛び込んできた。しかしすぐに状況を察して言葉を無くしたようだ。「ひっ……!」いくら祈っても足音は止まらず、とうとう背後から両肩を掴まれ、強引に体の向きを変えられた。血走った暁春の目が、優希を凝視している。よく見ると、目の下には濃いクマができていた。「目…」暁春はそう呟くと、今度は優希の顔を包み、目元を撫でた。皺だらけの顔には目もくれず、その視線はただ優希の瞳に注がれている。咄嗟に優希は目を瞑り、顔を下げた。するとふわりと暁春の匂いが強くなる。なんと彼は優希の頭を抱きしめ、顔を埋めているようだ。「ひぃ…!!」それを理解した瞬間、優希の全身には鳥肌が立ち、思わず渾身の力で暁春の体を押してしまった。よろけた暁春は優希が落とした箒に足を取られ、体のバランスを崩してしまう。その後大きな音がして、優希が目を開けた時には、暁春は床に倒れていた。頭を手で押さえているところを見ると、転倒した時にぶつかったのかもしれない。苦悶の表情を浮かべた暁春は、何度か起き上がろうとしたものの、力が抜けたように再び床へ沈んだ。そして薄く開けた目で優希を見ると、そのままゆっくりと目を閉じた。優希は全身の血が引いた
last updateLast Updated : 2026-08-31
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185話 希望から絶望へ

弾かれたように顔をあげた優希は、驚きで目を見開いた。「おじいさん…」そこには老人の姿があった。少しやつれたように見える。「どうしてここに…?」「ばあさんから連絡があった。優希の体はまだ回復していないし、暁春が予想外の行動をとる可能性があるからフォローをしろと」老人の話を聞き、清掃員の制服や名札まで用意できた理由を理解した。裏で老人が手を回してくれていたのだろう。そして老夫人が老人と連絡をとっていることに、安心もしたのだった。「家を出てから、今回が初めての連絡だった」しかし考えが顔に出ていたのだろうか、老人は苦々しく言った。優希は少し気まずくなり、目を逸らす。「……さぁ、もう行け。飛行機は、儂の知り合いのプライベートジェットを用意してある」それでもその言葉に急いで立ち上がり、礼を言って近くに停められている車に走り出す。車の中では、いつもより控えめに手を振る茜の姿があった。「優希」しかし老人に呼び止められ、振り向いた。呼び止めた本人は何か言いたげな表情をしているが、口に出すのを躊躇しているようである。「…おばあさんなら、向こうで元気に過ごしていますよ」なんとなく察した優希は、ふふ、と笑うとそう言った。(おじいさんが気にするのは、おばあさんのことくらいよね)「……そうか」優希の言葉を聞いた老人は、小さく頷きながらそれだけを言う。元気であることへの安心と、寂しさがあるのかもしれない。それ以上はお互い何も言わず、優希は軽く頭を下げると、車に走った。「無事に戻って来られてよかったー!」そう言って運転席から顔を出した茜は、優希の腕に抱かれた陽を見ると目を輝かせた。可愛い、とはしゃぐ茜に苦笑いを浮かべつつ、優希は立ち去る老人の背中に目を向ける。以前は傍に寄り添う老夫人がいたが、今は一人
last updateLast Updated : 2026-09-02
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186話 絶望

黒いスーツを着た暁春はふらふらと自宅の玄関ポーチを上がっていく。手には小さな壺。今日は陽の葬式だった。押しかけて来た鳥居家の人間は一人も葬式会場に通さず、井竜家の数人と三滝家の数人だけの小さな葬式。陽の死を医師から説明された時、暁春は信じられずに陽に会いたいと言った。しかし医師は「感染性のある疾患を否定できないため、安全が確認できるまではご遺体に触れていただけません」と言うのだ。結局暁春は、最後に陽を抱くこともできず、火葬されて骨になった今、ようやく腕に抱けたのである。縋るように探した例の清掃員も、初めから存在しないかのように記録がなく、監視カメラにも姿は映ってなかった。リネン室にいたはずの綾子でさえ、「あなたが何もないリネン室の奥へふらふら歩いていくから、不気味だった」と言うのだ。だがそれ以上に、優希と同じ目をしたあの清掃員が存在しないと知り、深い絶望を感じた。虚な目で家に入ると、有美がリビングのソファに座り、携帯を弄っている。「あ、おかえりなさい。私もお葬式に参加させないなんて酷いじゃない。母親だよ?」花や星で飾った爪が、携帯の画面を行き来するのを無表情で眺めていた暁春は、静かに骨壷をダイニングテーブルに置くと、有美の腕を掴み上げてソファから引き摺り下ろした。「出て行け」有美は悲鳴をあげて尻餅をついた。しかし暁春の言葉に驚愕の表情になる。「陽はもういない。お前がここに留まる理由も無くなった。出て行け」「ちょっと待ってよ!また子供を作ればいいじゃない!わかってる?私が産んだ子供だけが、お姉さんの子供になるんだよ!?」有美は暁春の腕を掴み、そう言った。しかし暁春は首を振る。「いらない。お前の子供はいらない。俺の子供はあの子だけだった」「でも!!」「ゆうちゃん」なおも諦めずに腕を揺さぶる有美に、暁春は静かな目を向けた。
last updateLast Updated : 2026-09-03
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187話 2年後

「……黙りなさい。それより桃子、最近請求書を却下されてるけど、井竜内部はどんな様子なの?」桃子のヒステリックな声に、都は顔をしかめてイライラとした目を向ける。「監査が入ったのよ。父さんが暁春を会社に呼んで、書類のチェックを手伝わせてるの。」「株の買い占めはどんな状況?」「そんな状況だから、今は大きく動けないわ」都は眉根をキツく寄せた。陽が死んで井竜家とのパイプが無くなり、有美も暁春に拒絶されている以上、彼女にパイプ役は期待できない。(もう少しだったのに……)鳥居家が井竜家を飲み込む好機が来たと思っていたのに。都の野望は鳥居家の繁栄。そして愛する男性を奪い返すこと。都は煙草を一本手に取り、火をつける。「有美ちゃんには、三滝家の株集めを続けてもらいましょう。桃子は井竜グループの株を買い占めるチャンスを作りなさい」「わかったわ」真面目な表情で頷く桃子。健志と英二は他人事のような顔をしてグラスを揺すっている。それを横目に睨みつけ、都は咥えた煙草を苛立たしげに噛んだ。(もっと井竜家を揺さぶれるような何かを探さないといけないわ)世間がもっと嫌悪するような何かが。-「行ってきます。凛、陽、いい子にしていてね」優希は二人の我が子の頬にキスをして、託児所を出た。窓から手を振る姿が見え、頬を緩める。優希の擬装死から2年が経った。陽の病気が悪化することもなく、子供たち二人は今では悪戯っ子となっている。普段は二人を託児所に預け、その間に優希は看護学校へ通っている。老夫人は家のことを手伝い、優希が間に合わない時には子供たちのお迎えにも行ってくれた。そんな周囲の助けを借りながら育児と学業を両立し、先日からは提携する病院での実習も始まっている。着替え
last updateLast Updated : 2026-09-04
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188話 希望

陽を失くした暁春は、生きる気力を失ったと言っても過言ではないほど無気力な日々を送っていた。定期的に美代子や美緒がきて料理や掃除をしてくれているものの、一日何も食べないこともザラで、冷蔵庫には常に消費されない食べ物でいっぱいだった。暁春は仰向けになり、微動だにしない。いつもと同じ天井、窓から見える同じ景色。恐ろしい夢を見て飛び起きれば安堵し、幸せな夢を見ればずっと夢の中で暮らしたいと泣き暮らして、ただゆっくりと近づいてくる死を待っていた。その時、テーブルに置いたパソコンが軽快な音を鳴らす。社長を退いた今でも、時折書類の確認を依頼されることがあった。おそらく老人なりに、孫に役割を残したいのだろう。桃子は未だ社長代理のままではあるが、鳥居コーポレーションへの過度な優遇が監査で引っかかり、再度承認権は会長である老人に戻っている。鳥居家がそれで諦めるとは思えないが、今の暁春にとってはどうでもいいことだった。ため息をついた暁春は、重たい体を動かしてパソコンを開く。メールの内容は医療部門の投資先についてのようだ。井竜グループの主力産業は、医療部門と不動産。最近は有能な人物が集まる医学校や病院への投資を検討していた。医療部門の部長が、その投資先をリストアップしたため、確認してほしいというものだった。投資するから生き返らせてくれ、なんて言葉を飲み込んで、リストを開く。リストには各学校や病院の基本情報のほか、ホームページのリンクやパンフレットのファイルがまとめられていた。暁春がいくつ目かのファイルを確認していると、ある写真の部分でページをスクロールする手が止まった。体を乗り出して画面を凝視する。「……ありえない…」それまで無表情でパソコンを眺めていた目は大きく見開き、呟いた声は掠れていた。暁春が見ているのは北欧にある看護学校のパンフレット。実習も手厚いと紹介するページには、ある実習生が採血をしてい
last updateLast Updated : 2026-09-05
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189話 見窄らしい

洗面所に駆け込んだ暁春は髭を剃り、念入りにシャワーを浴びる。髪を切りに行く時間も惜しく、伸びた髪は軽くまとめて結ぶ。ふと洗面台の鏡に写る自分の姿が目に止まった。頬が痩け、窪んだ目。筋肉が落ちて二回り細くなった腕。浮いた肋骨。(これでは驚かせてしまう)見窄らしさを通り越して痛々しい自分の姿に、暁春は眉をひそめた。急いで服を着てキッチンへ向かうと、冷蔵庫の中の食べ物を適当に取って食べ出す。しかし久しぶりの食事を胃が受け付けず、すぐにトイレに駆け込んで吐き戻してしまう。それでも強引に胃に収めた。その後何とかお皿一つ分を平らげ、車の鍵を手にする。暁春が家の外に出るのは実に一年ぶりだった。長い間家に引きこもっていた体は、春の柔らかい陽光すら刺激に感じ、眩しさに目を細める。これから確認することは、彼らの死の再確認になるかもしれない。だが暁春は希望を持っていた。(俺が見間違うはずがない…)だって……。暁春は頭を振る。その先を認めるのはまだ怖かった。暁春は自ら病院の検査担当に骨壷を渡し、その足で空港に向かった。そして空港のVIPフロアの中で、できるだけ見栄えが良くなる服を揃える。以前は何も考えずに選んだ服も彼の体に映え、着こなせていた。しかし先ほど行ったブティックでは、何を着ても服に着られて見え、店員の取り繕いきれていない愛想笑いが彼を惨めにさせた。久しぶりの行動は激しい運動をした時のように暁春の体力を削り、疲れを感じた暁春はラウンジの椅子に座る。「暁春?」その時、聞き覚えのある声が耳に届き、暁春は眉をひそめた。少し離れたところで、有美が驚愕した表情で暁春を見ている。「…何の用だ」「……今から旅行に行くのよ。それよりどうしたの?その姿」有美は追い出された後、宣言通り何度かあの家に押しか
last updateLast Updated : 2026-09-06
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190話

そして数時間のフライトを終え、あのパンフレットの学校がある国にやってきた。空港を出ると、早々にパンフレットの学校に向かうべく、タクシーに乗り込む。流れる街の景色を見ていると、親子連れが多く目に入る。その中でも、一人で子供を連れている母親たちを無意識に目で追ってしまう。この国は福祉制度に力を入れており、特に母子家庭では手厚い支援が受けられるのだそうだ。(…俺が離婚を拒否したから、ここに来たんだな)暁春は優希が死を偽装した理由を何となく理解している。彼女は「あの夜」すでに暁春と離婚をしたがっていた。しかし暁春が離婚を拒否したために、国内で死を偽装して姿を消すしかなかったのだろう。(俺と離れるために…)その事実に、胸の奥を強く抉られるような痛みを覚えた。学校には、資金援助の件で視察に訪れることは前もって伝えていた。そのため暁春が身分証明書を見せると、問題なく学校内に入れた。校内を歩きながら、校長が学校の説明をしているが、暁春は自分の姿が変ではないかが気になってしょうがない。優希と会うのだから、少しでも良く見せたいのだ。「…少し休憩しましょうか?」暁春が遅れ始めたことに気づいた校長は気遣うように言った。しかし暁春は早く優希の姿を見たかったため、首を振る。「いや、大丈夫だ。それより、実習も手厚くしていると聞いた。その現場を見たいのだが」息が切れて話すのも苦しいが、それを悟られぬよう、拳を握る。「こちらへ」とにこやかに案内された病院は、学校と同じ敷地内にあった。この街で一番大きな病院らしく、とても立派な建物だった。「学生は各科をローテーションして実習を行なっています。」「この国は社会人の看護資格取得も支援していると聞いた。実際、社会人から入学した学生は何人くらいいる?」あくまでも視察なのだから、聞くべきことはきちんと聞く。しかしその中に私欲も含まれていた。
last updateLast Updated : 2026-09-07
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