All Chapters of 白月光は妹?私が死んでから元夫は泣いて後悔しました: Chapter 201 - Chapter 210

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201話 新しい事実

「私はもうあなたから罰を受けたわ。妻として、女として、自分がとても惨めに思えるほど苦しんだ。子供だって失った。それなのにまだ私を苦しめようとする。その原因は何なの?本当におば様のことだけなの?」暁春からの返事はない。「もしそうなら、はっきり言うわ。おば様が、私を自由にしてくれたの。私はもう孤独じゃない。孤独を誤魔化すためにあなたに縋って、あなたの手の上であなたの愛を欲しがっていた私は、もういないのよ」-(孤独を誤魔化すため…)優希の言葉が頭を殴りつけた。それはつまり、優希は心の全てを暁春に渡していたわけではないということ。ただ寂しい心を差し出して、暁春に慰めてもらっていただけ。そこに愛はあったのか。(彼女は、俺を愛していなかった)優希の孤独感につけ込んだのは確かだ。自分だけが、優希が安心して傍にいられる存在だと思わせた。そうやって手に入れた初恋の女性。暁春は彼女への愛を認められずにいながらも、向けられる温かい愛に夢中だった。だから復讐のための結婚と言いつつ、四年という長い時間、優希との生活を壊せなかった。しかしそこにあったのは暁春が求めているような情熱的な愛ではなく、孤独を埋めてくれる相手に流されて生まれた情だったのだ。自分が愛している人には同じだけ愛されたいもの。そもそも自分が優希に愛されていた過去が無かったと思うと、暁春は世界が崩壊したように感じた。「あなたは有美ちゃんのことを愛しているんでしょう?なら、憎い女に付きまとっていないで、それこそずっと一緒にいれば良いじゃない」電話口では優希の声が続いている。しかし今の暁春は、全身の血の気が引いて、座っていることも辛かった。-(まただんまりなのね…)以前、老夫人が愚痴をこぼしていたことがある。「おじいさんも暁春も、都合が悪くなるとすぐだんまり!」
last updateLast Updated : 2026-09-20
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202話 それでも諦められない

電話を切っても、怒りで激しく打つ鼓動は収まらない。優希はキッチンに行って水を一気に飲み干した。昔から好きだったという話は、暁春と交際が始まる前に言われていた。だがそれは優希を手懐けるための嘘だったはずだ。それを今改めて真実だと言われて嬉しかったか?(ちっとも嬉しくないわ)優希が死を選ぶ前なら、もしかしたらすぐに暁春の胸に飛び込んでいっただろう。だが今は鳥肌が立つほどの拒否感に包まれている。二度と暁春の手を取りたくない。「あら!!ゆうちゃん、どうしたの!?顔が真っ青よ!?」優希がキッチンに両手をついて俯いていると、老夫人たちが帰ってきた。子供たちをベビーシッターにお願いした老夫人は、心配そうな顔で駆け寄ると、優しく優希の背中をさする。老夫人の顔を見て、ようやく優希の体から力が抜けた。「……なんでもないです。暁春と電話をしたら、少し気持ち悪くなっただけです」老夫人には、なんとなく言えなかった。口に出すのも抵抗があったからだ。優希の言葉に「そう…」と納得していない声を出すも、老夫人はそれ以上聞いてこなかった。そしてすぐに笑うと、優希の耳元に顔を寄せる。「おじいさんがね、暁春を連れ戻しに来るそうよ」それは今の優希にとって、飛び跳ねたいほど嬉しいニュースだった。暁春のことは美緒たちに伝えていたが、暁春がおもちゃで接触を図ろうとしていることを受け、本格的に動いてくれるのだろう。(これで静かになるわね…)優希は小さく息を吐いた。-暁春は暗い部屋の中で、酒の入ったグラスを手に、ソファに座って壁を見ている。ソファの前に置かれたローテーブルには、酒の空き瓶が何本も転がっており、彼が長い時間こうしているのがわかる。ぼんやりと眺める壁の向こうは、優希たちが生活している部屋。この部屋に引っ越してから、暁春
last updateLast Updated : 2026-09-21
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203話 有美の嘘

校長との話を終え、マンションへ帰ってきた暁春は、マンション前の公園で遊ぶ陽たちに気づいた。 老夫人とベビーシッターも近くにいる。 思わず足を止め、楽しそうに遊ぶ二人を眺めた。 優希に似た女の子と暁春に似た陽。 見ているうちに、自然と口元が緩むのがわかった。 するとベビーシッターと話していた老夫人が暁春に気づき、近づいて来る。 連れ去りを警戒しているのか、ベビーシッターが急いで子供たちを連れて距離を取った。 子供たちが遠ざかっていくのを残念に思い、未練がましくその姿を目で追う。 「何をしているの?子供たちが不安がるから立ち去りなさい」 そう言って睨みつけてくる老夫人。 それには答えず、暁春は「あの女の子の名前は?」と聞いた。 「……言わないわ。ゆうちゃんはあなたを、あの女の子の父親だと認めていないもの」 暁春の態度に眉をひそめた老夫人は、軽く鼻を鳴らす。 しかし暁春が勢いよく顔を向けると、少し驚いた顔をした。 「父親だと認めていないとはどういう意味ですか?」 自分以外に父親の可能性がある男がいるというのか。 腹の中で、ヘドロのような重く汚い嫉妬心が瞬時に沸き起こる。 老夫人は冷たい目を向け、ため息をつきながら頭を振った。 「変な誤解で暴走されるのは迷惑だから言っておくけど、生物学上は、父親ではあるわ」 第三者から父親であると言われ、暁春の気分はすぐに浮上した。 「でもそれだけよ。種を提供しただけの、精子バンクみたいなものよ。父親としては認めていないわ」 「…どういう意味です?」 「子供の死を望むような人を、その子の親と認めたくないのよ」 覚えのない話に、暁春は眉をひそめた。 しかし思い返せば、優希も以前、それと似たことを言っていた気がする。 誓って、暁春は優希に堕胎を望んだことも、子供の死を願ったこともない。 妊娠を知った時に驚いたものの、不思議なほどすんなりと受け入れられた。 そのうち子供が産まれた後のことも想像するようになり、当時は認めなかったが、たしかに心が浮き足立つ感覚を覚えていた。 「俺は子供の死を望んだことはありません」 「あなたのゆうちゃんが、楽しそうに話してくれたわよ」 老夫人が皮肉っぽく強調した「ゆうちゃん」が誰を指すのか、暁春には
last updateLast Updated : 2026-09-23
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204話 逮捕状

次の日、暁春はけたたましいベルの音でソファから飛び起きた。このマンションは、オートロックこそ最新のものを導入していたが、呼び鈴はいまだ古いままで、錆びたベルを何度も叩くような耳障りな音を立てる。暁春は重たい頭に響くベルの音に顔をしかめ、のろのろと玄関へ向かう。ドアスコープを覗き、予想していた人物の姿に思わず舌打ちした。「もう昼だというのに、まだ寝ていたのか」玄関ドアを開けて現れた顔はいつも通り仏頂面で、聞こえる声も冷ややかだ。老人はそう言うと、暁春を押しのけて部屋に足を踏み入れた。「……仕事の件は、昨日報告したじゃないですか」自分の声すら頭を叩き、視界が揺れる。眉間に力を入れてようやく絞り出した声は、酒に焼けて掠れていた。老人から連絡があった時、彼が直接来る可能性は考えていた。彼が愛する妻に会える口実を逃すはずがないからだ。しかし老人の顔に浮かれた様子はない。それどころか、いつもよりピリついているようにも感じられた。すぐに何かが起こったと察した暁春は、こめかみを揉んでいた手を止めて表情を引き締めた。「お前に逮捕状が出ている。すぐに国へ帰れ」老人が携帯を差し出して言う。画面には、暁春に殺人未遂容疑で逮捕状が出されたというニュース記事が表示されていた。「逮捕状?なんの件で?」暁春には、心当たりがいくつもあった。大企業の社長として広い人脈を持つ暁春だが、実はその繋がりは表の世界だけに限らない。裏の世界にも人脈があり、表沙汰にできない手段を取ることもあった。だが、今回の逮捕状がどの件に関するものなのかはわからない。記事を読んでいくうちに、暁春の顔は険しくなっていく。暁春を告発したのは鳥居安忠。有美の父親であり、優希を狙ったタンクローリー事件の指示役でもある男だ。だがどうやら、二年前に優希が運転する車に追突した車の運転手でもあったようだ。
last updateLast Updated : 2026-09-24
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205話 思惑

「…この男は闇金から多額の借金をしていました。ちょうど彼を探していた知り合いがいたので、竹田に指定の場所で引き渡すよう指示しました」「引渡し…?」「そういう話でした」老人の意味深なおうむ返しに、暁春は表情を変えずに返す。引渡し相手の意図も目的も察していた。しかしそれについて、相手と直接的な言葉を交わしていないので「そういう」ことになる。仄暗い思惑が渦巻く世界では、余計な言葉を残さないことも処世術の一つだった。「引き渡しは指定された場所に車で行くだけ。竹田が車を降りたら完了でした」その後、債権者は借金を回収するため、偽装死の工作を行ったようだ。しかし受け取った保険金では足らず、結局は臓器まで売られたらしい。「ただ、片脚については、逃げようとした際に失ったようですね」少なくとも、暁春の認識では、安忠の訴えは半分が事実で、半分は事実と異なっていた。安忠はその後しばらくは鳥居家の監視の下、大人しくしていたそうだが、やがてタンクローリーでの襲撃を指示した。「三滝有美が関与していたことを考えると、彼女から優希のことを聞き、あの時の事故相手だと気づいたのでしょう」しかし実行役の供述によって逮捕され、二年間服役した。どうやら鳥居家としても、昔から素行の悪い安忠には手を焼いていたようで、逮捕後も積極的に助けようとはしなかったとのことだ。「…最近、その安忠が井竜グループ本社へ顔を出した。桃子が呼んだらしい」暁春の説明を聞くと、老人が淡々と言った。声に感情は読み取れないが、暁春には老人が密かに苛立っているのがわかった。「竹田は鳥居安忠に顔を見られています。今回竹田を見かけたことで、あの時の俺の関与にも気づいたのかもしれませんね」「かもしれん」暁春は、この逮捕状の裏には鳥居家の思惑も絡んでいると見ていた。二日酔いで痛む頭に顔をしかめながら、無言で携帯を操作し、井竜グループの株価を確認する。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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206話 夫婦の再会

陽が生まれる少し前に、都は後妻になるつもりで、老夫人がいなくなった本邸に押しかけてきた。老人は無関心を貫き、受け入れることも、追い返すこともしていなかったはずだ。「…ああ」暁春の問いに低い声で答える老人。明らかに、いまだに都を受け入れていない様子だ。それなのになぜ都を追い出さないのか。「あの女は逆上すると何をしでかすかわからん」珍しく、老人が言葉を続けた。暁春へ話しているのか迷うような小さな声だが、暁春は老人の意図を理解した。もし追い出された都が老夫人に何か危害を加えようとした時、物理的に離れている老人ができる防衛策は限られてくる。おそらく彼は、愛する妻に万が一にも危害が及ぶことを恐れ、都を自分の目の届く場所に置いているのだろう。老人の不器用な愛を理解すると同時に、自分と優希を考えて複雑な心境になった。その後は暁春と老人の間に会話はなく、コートを羽織った暁春は老人に目配せすると無言で玄関を出る。扉を施錠しているときにちらりと隣の玄関を見るも、子供の声一つ聞こえなかった。しばらく優希たちと離れることに胸はざわつく。しかしそれを老人に悟らせまいと、すぐに視線を逸らした。「おじいさん?」マンションのエントランスを出たところで、老夫人の声が聞こえた。弾かれたようにそちらに顔を向けると、老夫人と手を繋ぐ女の子と、その後ろにベビーシッターと手を繋いで歩く陽の姿が見えた。公園から帰るところなのだろうか。「こんなに早く来るとは思いませんでしたよ」老夫人は老人に笑いかける。本邸を出ていった頃の、老夫婦の険悪な空気は薄らいでいるようだ。「うむ」老人は一言返しただけだが、その声に隠しきれない喜びが出ている。老夫婦が二、三言話しているのを横に聞きながら、暁春は老夫人の後ろに隠れた女の子から目を離せなかった。まさに幼い優希そのものの女
last updateLast Updated : 2026-09-27
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207話 妙案、そして会見

そして都がさらに目を見開いたのは、女の子の傍らにいる同じ年頃の男の子。驚くことに、その顔立ちには暁春の面影が色濃く表れている。暁春はこの男の子に会いに行ったと言うのか?どこの馬の骨が産んだ?有美以外に子を産むような女がいたと言うのか?英二と桃子は井竜家の姓をもっているとはいえ、老人から警戒されている。肝心の暁春は昔から都に懐かず、鳥居家に友好的ではない。そんな状況で、もし井竜家の跡取りを他の女が産んでいたなら、井竜家と鳥居家の繋がりはますます薄くなってしまう。強い危機感に、都は瞬きを忘れて画面の男の子をじっと睨みつける。やがて大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、頭を巡らせ始めた。(暁春には逮捕状が出ている。これで暁春が次期当主となるのは難しくなるわ…)井竜家の分家から跡取りを取るということも考えられるが、当主の直系が跡を継いだ方が良いに決まっている。「直系…そうよね…」ある一つの妙案に都は目を輝かせると、すぐに桃子に連絡をした。-暁春が国へ帰ったと聞いた時、優希の顔には自然と笑みが溢れた。だが逮捕状のことを聞くと、すぐに顔が曇る。「逮捕状?それは子供たちに影響があるでしょうか…?」「この国にいれば、とりあえず影響は少ないと思うわ」老夫人にはそう言われたが、優希は不安が消えず、寝る前にベッドで少しSNSを確認した。(もしかして、脱税とか……?)
そんなことを考えながらネットを開く。その瞬間目に飛び込んできた「殺人未遂」という文字。一気に優希の全身に緊張が走り、ベッドに座り直した。(鳥居安忠…?)聞き覚えのない名前だった。しかし記事によれば、暁春を訴えているその男は、以前自分の車に追突してきた運転手らしい。(暁春は何のために…)事情は分からないが、暴力団まで関わ
last updateLast Updated : 2026-09-28
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208話 妾

以前老夫人から、英二と桃子は都が産んだことは聞いていたが、今のように都が勝手に公表していいものではないのではないか。優希は都の目的を図りかね、首を捻る。「……あの、それはどういう意味でしょうか?」おずおずと記者の一人が質問する。それにも都は表情を変えない。「そのままの意味ですよ。彼の父親だった、二代前の社長である井竜英二は、私が産みました。そして現副社長の桃子も、私と井竜会長の間に生まれた子です」再び動揺が広がっていく。都の話では、もともと彼女が老人の婚約者だったのだそうだ。井竜家の先代当主も「嫁としてふさわしい」と都を気に入っていたらしい。「…ですが結局、今の奥様と結婚してしまった…」都は悲しそうに目を伏せた。被害者とも見える姿は狙っているのだろうか。健志も「母さん……」と気遣うように都を呼ぶと、ハンカチを差し出した。「そこで先代は、悲しむ私に、彼の子供を産むようにと提案してきました。奥様は体が弱く、元気な後継ぎを期待できないから、と。要は妾になることを打診されたのです」それが、以前老夫人が話してくれた結婚の条件に関係する部分なのだろう。今より家の存続や血筋が重視されていた時代だ。まして井竜家ほどの旧家ともなれば、跡継ぎに対する考えも現代とは違ったのだろう。それでも優希は、そんな提案をした先代当主もどうかしている、と思った。「しかし私は彼を愛していたので、妾となることを選びました。奥様は結局、跡継ぎを産むことができず、それで私が英二と桃子を産んだのです」「……それと、井竜の今後というお話は、どのように繋がるのでしょうか?」別の記者が冷静に聞いた。優希も気になった。「初婚が妾では、私が他の家にまともに嫁ぐことは難しいと憂いた父が、一つのお願いをしました。鳥居家にも跡取りが必要だから、井竜家側の子供とは別に、鳥居家に残す子供も作ってくれと。弟は他家へ婿養子に出すつもりだったため、父は鳥居家
last updateLast Updated : 2026-09-29
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209話 老夫婦の過去

お昼過ぎ、子供たちがお昼寝をし始めた時になって、ようやく老夫人が部屋から出てきた。そわそわと心配していた優希は、思わず挙動不審になってしまう。「…おばあさん、あの」「私は大丈夫よ」意を決して声をかける優希に、老夫人は明るく笑う。それがいつも通りの笑顔だったので安心したが、あまりにも普段と変わらないことが、かえって不安にもなった。「…気になるわよね。いいわ、こっちに座って」優希の不安を感じ取ったのか、苦笑いを浮かべた老夫人は椅子に腰かけた。優希は急いでリラックス効果のあるハーブティーを差し出す。「前にゆうちゃんに話したと思うけど、英二と桃子は都さんが産んだ子よ。それは真実ね」受け取ったハーブティーをぼんやりと眺め、老夫人は静かに話し出す。都はもともと自分が老人の婚約者だと言っていたが、正確には、子供の頃から婚約者だったのは老夫人なのだそうだ。当時、井竜家は医療に力を入れており、医者を多く輩出する三滝家との縁談が決まった。都も候補の一人だったが、最終的に選ばれたのは老夫人だった。「おじいさんとの初顔合わせは五歳の時でね、私、彼の涼しい目に一目惚れしたのよ」そう、はにかむ老夫人は可愛らしく、優希はその時の老夫人を見ているように感じた。しかし十六歳になった時に老夫人は病気を患い、心臓を悪くしてしまった。妊娠することは不可能ではないが、出産の負荷に耐えられないと医師が判断したため「跡継ぎは産めない嫁はいらない」と先代当主が一方的に婚約を破棄したのだそうだ。「…先代当主は人でなしだと言われていませんでしたか?」眉をひそめた優希は思わず口にした。老夫人は「当時はそういう時代だったのよ」と言うが、都を気に入っていたという先代当主なら、むしろ嬉々として婚約破棄を告げたのではないかとさえ思えた。それを告げられた時の老夫人の心境を考えると、優希の胸も締め付けられる。「私との婚約を破棄した後
last updateLast Updated : 2026-09-30
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210話 死産の過去

当時を思い出しているのか、老夫人の顔が柔らかくなる。しかしすぐに暗くなった。「…都さんもおめでとうって喜んでくれた。胎児に良いからって、高価なお茶をくれたの」老夫婦の初々しい純愛に顔を緩めていた優希も、続いた都の話に胸がひやりとした。「私も嬉しくて、貰う度に大切に飲んでいたわ。元気な赤ちゃんに育って欲しかったからね」妊娠は順調だと思われた。しかし妊娠八ヶ月の時、突然激しい腹痛を感じて病院へ運ばれた。「胎盤が剥がれ始めていたの。放っておけば私も赤ちゃんも危ないから、予定日より早いけど産むことになったわ」老人に手を握られながら、激しい陣痛の中懸命にいきんだ。その時頭にあったのは、我が子に会いたい、ただそれだけ。だが何度いきんでも、胎児はなかなか降りてこない。もともと心臓に不安があった老夫人の体力も徐々に落ちていく。とうとう意識が途切れ途切れになり、産婆にもう一踏ん張りと言われた瞬間、老夫人の視界は暗転した。「そして次に目が覚めた時、全て終わっていたわ」静かな老夫人とは対照的に、優希は緊張で唾を飲み込む。老夫人が完全に気を失った後、母子ともに危険だということで緊急帝王切開になったそうだ。しかし結果は死産。そして大量の出血が止まらず、やむなく子宮を摘出することにもなった。「私は二度と自分の子供を抱けなくなったの」「そんな…」そしてそれは、都が老人と子供を作ることが決定した瞬間でもある。「おじいさんは都さんのところに行く前、必ず私に教えてくれたわ。そして宣言通り一晩中そこにいることはなく、数時間で帰って来てくれた」老夫人にとってせめてもの救いは、都が数回の閨で妊娠したことだった。「少なくとも妊娠中は、夜に彼女の元へ行ってもらわなくて済むもの。でも私も都さんの妊娠は祝福したわ。…おめでたいことだからね」だから老夫人も
last updateLast Updated : 2026-09-30
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