「だから私は、それは都から以前貰った物だと言ったわ。今みたいに購入履歴が残っているわけじゃないから証拠と言えるものはなかったけど、都さんが私に胎児に良いと言って色々渡しているのは家の中の人は知っていたから、疑いを持たせることはできたわ」それに怒ったのは老人。すぐに鳥居家当主を呼びつけ、都を井竜家から追い出したらしい。だが子供が一人だけでは心もとない、と先代当主が譲らなかったため、その時都が身ごもっていた桃子については、出産後に井竜家が引き取ることになったそうだ。「でもこれで、ようやく普通の家庭を築けると安心したわ」そう言う老夫人の表情は、どこか浮かなかった。その理由は優希にも理解できた。鳥居健志の存在。妾を解消したなら、もう子供を作ることもないはずだ。「…私との結婚条件には、私が知らされていないものもあったらしいの」「…都さんが言っていた、鳥居家側の跡取り…」老夫人は頷いた。「もともと私が言っていたのよ。都さんが子供を産んでも、その子を私が育てるなら、それでいいって。……だから、私には言えなかったのね。健志さんだけは私に渡されず、おじいさんの子として鳥居家で育てられることを」都を井竜家から追い出したことで、その条件まで反故にしようとした老人だったが、両家の当主は老夫人の今後を持ち出して譲らなかった。結局老人は、鳥居家に残す子は一人だけだと念を押し、老夫人には告げないまま何度か鳥居家へ赴いたらしい。つまり老人は、長年もう一人の息子の存在を妻に隠していたことになる。老夫人がそれを知った時、自分の知らないところで都と閨を過ごし、誕生を見届け、祝い、父として接していた老人のことが許せなかったのだそうだ。「いつ会っていたのか、私が何をしている時に、彼らは何をしていたのか。想像するだけで怒りがこみ上げてね」「言い出せなかった理由もわかるけど、やっぱりショックだったわね」とぽつりと呟く声に、優希はかける言葉が見つからず、ただ老夫人の手を握った。
Last Updated : 2026-10-02 Read more