幸子はスープだけでなく、綾のために簡単な料理まで作ってくれた。湊はいつの間にか向かいに座り、取り皿を用意してあげた。「海斗が急にお腹を酷く痛がって、それで病院に駆けつけたんだ」綾は「うん」と頷いた。「別に何もなかった?」彼女は湊のことは見ずに、料理を口に運んだ。「特に何も見つからなくて、病院に着く頃にはもうすっかり良くなってたんだ」湊の声は穏やかで、この光景はなんとも奇妙だった。食卓で向かい合う夫婦。夫が愛人との子供を心配し、妻がそれを穏やかに聞いている、実に和やかな一場面だ。「さっきお前からの着信とメッセージに気づいたんだ。海斗を驚かせないように、スマホをマナーモードにしてて」「湊、説明なんていいのよ。みんなが無事ならそれで十分」綾は微笑んでみせた。幸子の料理は本当に美味しい。離婚したら、絶対に幸子の雇用権を勝ち取ろう。湊は、一心不乱に食事を味わう綾を見つめた。彼女は昔と変わらず、思いやりがあって優しい。しかし、湊の心には言葉にできない違和感がよぎっていた。目の前にいる綾は、まるで抜け殻だけがそこにいるかのようだ。綾は寝る前に隆から風邪薬をもらったが、夜中になってやっぱり熱が出てしまった。体は火照ってとても熱く、頭の上には石が乗っているかのよう。足元はまるで雲の上を歩いているみたいで、歩くとふらふらする。綾は朦朧としながら服を着て、剛に電話をかけた。剛は綾を最寄りの公立病院へ連れて行った。医師は入院して点滴を受けるように勧めた。家に帰ると湊にうつしてしまうかもしれないと思い、綾は入院手続きをすることにした。一人で、病室のベッドに横たわっていた。頭がひどく痛む。隣のベッドには、付き添いのいない老婦人がいた。顔を布団にうずめ、どこが痛いのか、くぐもったうめき声をあげている。綾は老婦人を可哀想に思い、声をかけた。「あの、お水が飲みたかったら声をかけてくださいね」「ごめんねぇ。お水を一杯もらえないかな」と、老婦人はため息まじりに言った。綾はベッドに両手をついて起き上がると、マスクを着け、手を洗ってから、老婦人のために水を注いであげた。「起きるの手伝いましょうか?」「ありがとうねぇ」老婦人は布団から顔を出し、土気色の顔をのぞかせた。「お水をちょうだい」綾は動かなか
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