綾は少しずつ口をつけ、飲み干すとリュックから紙とペンを取り出した。サラサラとペンを走らせる。健吾が黙って見つめる中、白紙の上には眼鏡をかけた男のリアルなスケッチが、次第にはっきりと浮かび上がっていった。「暗くて細かいところまでは見えなかったけど、だいたいこんな顔だった」変質者がズボンを下ろした瞬間、綾が受けたショックは相当なものだった。男は爽やかで、知的な雰囲気をまとっており、とても変質者には見えなかったのだ。今思い出しても、背筋が寒くなる。健吾はそのスケッチを丁寧に四つ折りにした。「これは俺が警察に届けて調べさせる。お前はもう何も気にすんな。あんな奴のこと、さっさと忘れろ」綾は口をへの字に曲げた。「気持ち悪いもん、言われなくても忘れるよ」スケッチを描き終えて気持ちが落ち着くと、綾は部屋の様子が昼間と違うことに気づいた。昼に来た時は必要最低限の家具しかなく、モデルルームのようにすっきりしていた。だが今は、優しい色合いの絵画が二枚飾られ、ダイニングテーブルにはピンクの花が活けられている。ソファーの前も床のままだったのに、今はふんわりとしたカーペットが敷かれていた。それだけではない。玄関の壁には猫の形をした可愛らしいフックが新しく取り付けられており、綾のリュックがちょこんと掛けられていた。「健吾くん、図書館に来てくれなかったのって……もしかして部屋の準備をしてくれてたの?」「一応、俺は大家だからな。家賃を取る以上、快適に過ごしてもらわないと」綾は微笑んだ。「ありがとう」健吾は薄く笑った。「お風呂に入っておいで。バスタブもきれいにしてあるから」綾は小さく頷き、部屋に戻って着替えを持ってきた。バスルームはピカピカに掃除され、タイルが反射して光っている。壁の収納スペースには、高級ブランドのアメニティが新品のまま並んでいた。洗面台にはヘアゴムやヘアピン、それに数種類のヘアブラシまで揃えられている。綾の胸に温かい風が吹き抜け、思わずクスリと笑ってしまった。本当によく気が回る人だ。気配り上手な健吾に感心していた綾だが、トイレの箱の中に新品のナプキンを見つけて息を呑んだ。ここまで気遣いができるなんて、恐ろしい人。敵じゃなくて友達で本当によかった。お風呂から上がると、洗面所にはドライヤーが見
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