All Chapters of 殺し屋は愛に復讐を誓う。: Chapter 81 - Chapter 90

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■81

「その殺し屋は……一体誰なの?」真樹の口から語られたその名前はーーー。「……KENGOだよ」「……っ!?」えっ……。えっ? ボス……?ボスが、真樹の恋人を……? そんなの……信じられない……。「俺の恋人を殺したのは……君のボスだよ、朱里」「ウソ……。ウソよ、そんなの……」絶望する私に、真樹は「だから俺は……殺し屋になったんだ。 君と同じだよ、朱里」と告げた。「……ボスが、あなたの恋人を殺したの?」「そうだ。……だから俺は、君のボスに復讐するために殺し屋になった」そんな……。真樹は、ボスを恨んでるんだ……。「……あなたも、私と同じなのね」同じ境遇の私たちは、似た者同士ということなんだ。……私も真樹も、同類だったんだ。「……朱里、俺は君のボスを許すことが出来ないよ。君と同じで、一生許すことが出来ないと思う。 大切な人を奪われた悲しみは、君も充分に分かってるだろ」「……あなたの言うとおりよ、真樹」「でも俺は、君を愛してる。……愛する人が出来たんだ、俺にも。君という人が」私は……なんて言えばいいのだろうか。 彼を恨んでるのは確かで、そうしたいと思ってた。でも……分からなくなった。なにも言うことは出来ない。「朱里、俺はどうなっても構わない。 だから、千歳を開放してくれないか。千歳は何も悪くないんだ。何も関係ないんだ。 だから……頼む、千歳を開放してやってくれ」「……わかった。開放してあげるわ」 私は真樹からの頼みを受け入れた。 ハルキに連絡をして、千歳をすぐに開放するように伝えた。 ハルキは驚きながらも「ああ、わかった」と了承してくれた。「約速通り、千歳を開放したわ」「ありがとう……朱里」真樹、これであなたは満足なの?「真樹、あなたボスに会いたい?」「え……?」私は真樹を見つめながら、「ボスに会いたいなら、会わせてあげる」と伝えた。「……なぜだ?」真樹は不思議そうに私に問いかける。「ボスに復讐がしたいんでしょ?……だったら、復讐すればいいじゃない」なぜこんなことを言ってしまったのか、私にも分からない。 でも、私がこの男に復讐したいのと同じように、真樹もボスに復讐したいと思っていた。「君のボスだろ? いいのか、君はそれで」「……私もあなたと同じよ。だから、復讐したければすればいいわ。 ボスだってきっと、復讐し
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私にそんなことが出来るわけはない。「あなたはボスをずっと恨んできたんでしょ?……それは私も同じよ。私もずっと、あなたのことを恨んでるから」「……なんとなく、出会った時からそうだと思ってたよ。 千歳から君を紹介された時は気付かなかったけど、君の顔を見た時に、似た顔を見たことがあると思った。……君はきっと、俺が殺した二人の娘なんだろうって勘付いたのは、その後だよ」私は真樹のその言葉に、「さすがレッド・アイね。……正解よ」と答えた。「千歳と付き合ってると聞いた時、君はきっと俺に復讐するために近付いたのだと悟ったよ。……千歳がいながら俺にセフレになろうと言ったのも、すべて俺に近付くためだと確信したんだ」「……やっぱりわかってたのね」レッド・アイなら当然、そうだろうと思ってた。 私の勘は、間違ってなかった。「私、あなたに聞きたいことがあるの」「なんだ?」 「どうして私とのセフレ関係を承諾したの? 私を殺すことなんて、あなたには容易に出来たはずじゃない。簡単に殺せたはずよ、私なんて。……なのにどうして、殺さなかったの?」私が真樹にそう聞いた時、真樹は「……君を愛してしまったからだ」と答える。「え……?」「俺も君が俺に復讐しようとしていることは、わかっていた。だが、それにはあえて気が付かないフリをした。……なぜなら俺は、君を心から愛してしまっていたからだ。 君を愛しているからこそ、君を幸せにするために、気が付かないフリをするべきだと悟ったんだ」どうして……。そんなのレッド・アイらしくない。草原真樹、らしくない。 「……私を愛しているから、子供を産んでほしいって言ったの?」「そうだ。俺は君と君の子供を、幸せにするべきだと感じた。 君にもし拒否されようと、俺は無理矢理にでも君のそばにいると言ったと思う。……これは本心だ。ウソなんかじゃない」どうして……。どうして、私を困らせるようなことを言うの?私にそんなことを言う必要なんてないのに。「……私は、決して幸せになんてなれない。 ううん、幸せになるべきじゃない。 私はこの子を守ることが、きっと出来ない気がするの。私は強くなんてないし、幸せになることを望まれていない」「そんなことない。君は幸せになるべきだ。 大切なものが出来ただろ?」「……大切なもの」真樹は私の手をぎゅっと握りしめると、「君のお
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■83

「……私は、あなたと結婚する気はないわ。なにを言われても……結婚する気はない」「今はまだ結婚するかどうかは、決めなくてもいい。……ただ、君のためじゃなくて、お腹の子のために決めるべきだ」そんな真樹の言うことを、私は聞く気はない。「私……ずっと考えてた。 どうやったら、私は幸せになれるのか。……分からないの、今でも」ただ、私は幸せになるために生きてるわけじゃなかった。 幸せなんて、求めてなかった。「……真樹、私とあなたは敵よ。 だから、私たちは一緒にいるべきじゃない。ましてや、結婚なんて……考えるべきじゃない」そんなの……絶対に無理だと思う。 「俺は……お前のためなら何でもやる覚悟だ。 お前と子供のためなら、俺はなんでもすると誓う」「あなたはレッド・アイでしょ? 私の知っているレッド・アイは、そんな優しい人なんかじゃない。あなたは冷酷で、残酷な人よ。 私は……そんな優しいあなたなんて知らない」真樹と千歳は、まるで正反対。真樹は冷酷な人で、父親は優しい人。 それでも……。「……確かに、俺は冷酷な人間かもしれないな。 殺し屋をやってるんだ。冷酷で当たり前だよ」「私だって冷酷な人間よ。私は千歳みたいに、優しくはない。私の心だって、とっくに腐ってる。……この仕事をしてるんだから、私だって優しくなんてなれない」私には、もはや生きる道が見つからない。「やっぱり俺たちは、似た者同士なんだな」「……そうね。似た者同士ね」だからこそ、私たちは一緒になれない。「私はいつか、あなたに復讐するわ。……必ず」「ああ、その時は……俺を殺せばいい」私ももう、潮時かもしれないわね……。「その時は、覚悟してね」「分かってる」お父さん、お母さん……レッド・アイが今ここにいるの。私の目の前に。復讐したいって思ってたの、ずっと。……なのに、出来ない。それは……私が彼を愛しているからだと思う。「真樹……教えてほしいことがあるの」「ん」「あなたは……どうして今も、ボスを殺さないの?」私はその理由を聞いていない。なぜボスを殺さないのか……。「お前らの前で、殺してやろうと思ったんだ。 お前らの前で、俺はKENGOに復讐してやろうと思って、今まで殺さずにいた」ボスに復讐したい真樹と、真樹に復讐したい私。 私たちは決して交わることはない。「私は……あなたに復
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「朱里、その時まで俺たちは……敵同士だ」「そうね。私とあなたは敵。……まあ永遠のライバルとでも、言っておこうかしら」「永遠のライバルか。悪くない響きだな」真樹はそうやって笑った。✱ ✱ ✱「おい、朱里」「えっ、ハルキ……?」真樹と別れて帰宅した私を待っていたのは、ハルキだった。 (なんでハルキがここにいるの……?)ハルキは私の元へ歩いてくると、いきなり「お前、なんでアイツのこと開放したんだよ。 殺すんじゃなかったのかよ」と問い詰めてくる。「……気が変わったのよ」「あれだけ千歳のこと殺すとか言ってたのに、気が変わった? お前らしくねぇな、朱里」ハルキは私にそう言われた私は、「そんなことないわ」と言葉を返したが「まさか……草原真樹と何か関係があるんじゃないだろうな?」と私を問い詰めてくる。「……だったら何?なんだって言うのよ」「っ……!? お前……アイツがどういう人間かわかってるのかっ!?」ハルキは私の腕をガシッと掴んでくる。「ちょっと……落ち着いてよ、ハルキ」私はハルキから少し離れる。 するとハルキは、「お前、まさかあの男のこと……」と口を開く。「だったらなに……?」「……本当なのか? お前、まさかあの男のこと本気で好きになったとか言わないよな?」「………」私はその質問には、答えられなかった。「おい、朱里。……どうなんだよ」「そうね。 あなたの想像通りよ」ハルキがどうしてこんなに悲しい顔をしているのか、私にはわからない。「お前……アイツが敵だってわかってるのか?」ハルキは珍しく感情的になっている。 こんなに感情的になってるハルキ……初めて見たかもしれない。「わかってるわよ、そんなこと!……でもアイツは、私の子供の父親になる覚悟があるって、そう言ったの」「え……?」 私はハルキに向き合い、「アイツは……真樹は、この子が無事に産まれてくることを、一番に願ってくれてるの。……確かに私は本当にアイツが憎いし、出来るだけ早く復讐をしたいと思ってる。 でもこの子が産まれてきた後で、私はアイツを殺すって決めたの」とハルキに伝えた。「朱里……お前……」「そのために今は、私はこの子のために頑張るしかないと思ってる。……この子を大切に守り抜くことが出来るのは、私だけなんだから」せめてハルキにだけはわかってほしい。 私の気
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■85

「朱里だって、自分に責任を感じてるんだろ? 今回のことで、より一層責任を感じたはずだ」「それは……」ハルキの言うとおりだ。なにも間違ってない。「お前が選んだ生き方を、俺は否定はしない。 朱里が望んだことなら、尚更否定出来るわけはないからな。 それが朱里の望んだ生き方なのなら、俺たちにはそれを見守る権利がある」「ハルキ……優しいね」「俺が優しいのは、お前にだけだ」「え……?」ハルキは私の隣で「お前とこうして過ごす時間は、俺にとってかけがえのないものになってる。 空っぽだった俺の心に火を灯してくれたのは、お前だから」と照れ臭そうに話している。「ねえ……それって、どういう意味……?」「まあつまりは、お前がいないとダメってことよ」「……それって、もしかして告白してるの?私に」私がそう聞くと、ハルキは「まあ……告ってるかな」と正直な反応を見せた。「え……? 本当に告白?」もう一度そう聞いたら、「だから、そうだって言ってるだろ」と返された。ハルキが、私に告白した……?ハルキは恋愛になんて興味がないと思っていた。思えば、ハルキから恋愛の話なんてあまり聞いたこともなかった。好きな人がいるというのも聞いたことがないし、誰かと付き合っているということも、聞いたことがなかったかもしれない。まさかそんなハルキから、告白されるなんて……。「好きなの……?私のこと」「……まあ、好きじゃなきゃ告ってないからな」ハルキってば……あなたって本当に……。「相変わらず?素直じゃないのね」「……うるせぇ。素直じゃなくて悪かったな」ハルキの耳が猿みたいに赤くなっている。 こんなハルキ、見たことないかも……。「ハルキって、意外とかわいいとこあるのね」「はあ? かわいいってなんだよ……」「耳が真っ赤よ。お猿さんみたいにね」「う、うるせぇよ……」こんなハルキを見れる日が来るなんて……。「朱里……俺のこと好きになっていれば、良かったのにな」私はそう言われて、思わず「……本当にね」と答えた。「もし俺がお前なら、俺は迷わず俺を選ぶけどな」「うわっ、自意識過剰」「はあ? 言っとくけど、俺みたいなイイ男、なかなかいねぇと思うけど?」「それ自分で言う?」でもハルキといると、気持ちが楽になるのは確かだ。 気が楽なのは、心を許している証だと思うから。私に
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「ハルキは、私の大切な家族だよ」「家族……そうか」「私はあの時から、ひとりぼっちだった。 でもハルキたちと出会って、私は一人じゃなくなった。一人でいることの寂しさを分かってるからこそ、私にはみんなが必要なの。……ボスに拾われたこの命だもの。大切にしなきゃって思ってる」 ハルキは私の頭をポンポンと撫でると、「それでこそ朱里だな。お前はやっぱり、強くなったな」と笑った。「……ハルキも強いよ」「俺なんて心はボロカスだよ。メンタルもだいぶ弱ってるしな」そう言われて、私は思わず「なんで弱ってるのよ?」と聞いてしまった。「わかるだろ? お前にフラレたからだ」「え……私のせい?」「俺はフラレたんだぞ、お前に。……だってお前は、アイツのことが好きなんだろ?」これは多分……ハルキの嫉妬、なのかな?「あのさ、違ったらごめん。 もしかして……嫉妬してる?」「……ああ、してるよ。  俺だって嫉妬くらいする」もしかして……あの時、ハルキがボスにあんなに怒ったのも……。「ハルキ……もしかしてボスにも、嫉妬してたの……?」「そうだよ。……本当のこと言うと、嫉妬した」「だから、あんなに怒ってくれたんだね。私のために。……あの時、私本当に嬉しかったよ」ハルキは少しだけ照れ臭そうに「そうか」と言うと、「朱里、引き止めて悪かった。俺帰るわ……じゃあな」と、私の前から背を向けて立ち去ってしまった。 「ハルキ……ありがとう」ハルキは誰よりも思いやりのある人だって、私分かってるから。それから私は、身体のことを考えてしばらく殺し屋の任務から離れることになった。妊娠しているこの身体では、まともに動き回ることも出来ないと感じたからだ。つわりもひどくなっているので、これが一番だと自分でも感じた。学校にも妊娠していることを話し、時を見て教師を辞めることも伝えた。学校側は驚きつつも、私のことを受け入れてくれたことがありがたかった。辞めなくても産休という形にすればいいのにとも言われたが、もうこの世界に戻れないと悟った私は、教師という仕事から離れることに決めたのだった。そう……これは、私なりの覚悟だ。 この世界ではもう、私は生きていけない。✱ ✱ ✱そんなある日のことだった。私の家のインターホンが突然鳴った。 玄関を開けると、そこに立っていたのはーーー。「朱里
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■87

「……分かってる。本当にごめんなさい」「でも、朱里の方が傷付いて当然だ。 朱里の大切な人を……兄貴は傷付けたんだ。 そんなの怒って当然だし、恨んで当然だよ」(どうして千歳は……そんなに優しいの……。これ以上、優しくしないでほしいのに)「……あなただって、私を恨んでるでしょ? 私はあなたを騙して、殺そうとしたのよ?……恨まれて当然のことを、私はあなたにした」私のことを殺したいと思えば、それは当然で。私がなにかを言える立場ではない。「俺は……朱里のことを恨んでるわけじゃないよ」「っ……なんで……?」なんで……そんなことを言うの?「俺は……朱里のことが本当に好きだったんだ。だから、君の幸せを一番に考えるべきだと思ったんだ」私はそう言われて、つい「私を殺したいなら、殺してもいいよ。……私だってあなたに、同じことをしたんだから」と言ってしまった。私がそう言うと、千歳は「多分……そうなんだとは思ってた」と答えた。「……わかってるのに、なんで?」「君のことが……大切だから」「え……? いや、だって私は……」私は、千歳のことが分からない。 なんで……そんなことを言うのか分からない。「わかってるよ、俺のことなんて眼中にないこと。……兄貴のことが好きなのも知ってるし、愛してることも知ってる」「じゃあ、なんで……?」千歳は優しいから、私は千歳とは合わない。「君の幸せを……願ってるからだよ」「……あなたは、優しすぎる。私のことなんて、もう気にする必要なんて、ないのに」千歳はそんな私に、「気にしないなんて、出来るわけがないだろ。……愛した人、なんだから」と言って、私のお腹に優しく手を当てた。「だから……元気な子供、産んでほしい」その千歳の表情があまりにも優しすぎて、私は思わず「うん……産むよ」と微笑んだ。 「あ、そうだ。これ……渡したかったんだ」千歳はジャケットのポケットから、あるものを取り出した。「はい、これ。……お守り」「え?これって……」千歳が私に渡したものは、安産祈願のお守りだった。「どうして、これ……?」「それ……兄貴からなんだ」(え……? 真樹……から?)「兄貴、朱里のこと心配してたんだ。きっと一人で産むつもり……なんだろうって」「……真樹が?」どうして……。どうして私のこと、気にかけるの……?「やっぱり……心
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なぜか自然と、笑みが漏れた。「朱里……一つ聞いていいか?」「うん……なに?」千歳は私に真剣な眼差しを向け、「兄貴のこと……本当に、殺すのか?」と聞いてきた。私はその答えを濁すかのように、「どっちだと、思う?」と問いかける。「俺にも……わからない。けど兄貴のしたことは、確かに最低なことだし……朱里が恨むのも、仕方ないと思う。 でもやっぱり俺にとって、兄貴は大切な家族なんだ。本当は……殺してほしくはない」千歳の言うことが、本当は正しいに決まっている。 千歳の気持ちはよく分かるし、私が千歳だったら、きっと同じことを思うと思う。「……あなたの言うことは、私にもわかるわ」「朱里……俺は君を責めるつもりはないんだ。でも……俺は一人になりたくないんだ。 もし、愛した君に裏切られたとしても……家族だけは、失いたくないんだ……」千歳の気持ちが深く伝わってきたことに、間違いはなかった。「千歳……あなたのことは、殺したりはしないわ」「え……?」「本当は……あなたも殺すつもりだった。だからあなたを拉致して、真樹の前で殺してやろうと思ってた。……でも真樹に頼まれて、あなたを殺すのをやめたの」千歳は「どうして……」と私を見つめる。「……私も、人の子ってことよ」人情くらい、私にもある。 私にだって、人の気持ちくらい分かる。私は殺し屋である前に、一人の人間だから。「朱里……もし、子供が産まれたらさ……」   「ん……?」千歳は私の手を握りしめると、「子供……抱かせてくれないか?」と私にお願いしてきた。「……もしかしたら、あなたの子供じゃないかもしれないのに?」私がそう聞くと、千歳は「もしそうじゃなかったとしても、朱里の子供……抱っこしたいよ」と微笑んだ。「……うん、わかった。抱っこ、してあげて」 この子のパパかもしれない人だから、この人も。「嬉しいな。その日が待ち遠しいな」千歳はほんのりと、パパの顔をのぞかせていた。この子の父親は……本当に千歳なのだろうか。産まれてこないと、分からないけど……千歳はきっと、いい父親になると思う。「……千歳はきっと、いい父親になるね」「え?」「あなたは……優しいから」こんな私にも優しくしてくれるなんて、普通ならありえない。 千歳に復讐されてもおかしくはない立場……なのに。「あなたは、優しすぎるわ。……
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「ん……ありがとう、ハルキ」「朱里、一人でなんでもやろうとしなくていいんだぜ? 俺たちがいるんだから、頼るべき所は頼れよ」ハルキが優しくそう言ってくれるから、本当に嬉しかった。仲間ってやっぱり大切だし、いるべきだなと思った。「ボスも……朱里が頑張りすぎること知ってるから、心配してる」「え……?」ハルキは缶コーヒーのプルタブを開けてそれを口にすると「ボスも言ってたから。朱里を一人にはしないって。 これからも朱里は、大切な家族だからって言ってた。 だから、もっと俺たちを頼れよ」と私に向かって話した。「ボスが、そんなことを言ってたの……?」「そうだよ。朱里のこと一番心配してるのは、なんだかんだボスだしな」私はそれを聞いてちょっとホッとしたのか、「そっか」としか言えなかった。 でもその反面嬉しくて、ボスやハルキに支えられていることを改めて知った。「心配すんな。お前なら、大丈夫だって」「……ん、ありがとう」ハルキは「頑張れよ、お前ならちゃんとやれる」と私にエールをくれる。「子供なら、俺たちも一緒に育てていくから。一人で頑張らなくていい」「……うん」私は一人じゃないと思えた。ずっと一人で生きていくことが正しいとさえ、そう思っていたのに。やっぱり一人でなんて無理だし、そう考えると誰かに頼っていくことも、大事なことだと感じた。愛おしいと思える家族が、私にはたくさんいる。ボスがいて、雅人がいて、ハルキがいて……そして大切な子供たちがいる。「朱里、お前は充分に母親になってる。だから、心配しなくてもいいんだぜ。……お前は、もうこの子たちにとっては、大切な一人しかいないママなんだから」ハルキの言葉はいつも、勇気と元気を与えてくれる。「私……程々に頑張るよ」「おう。無理すんなよ」「うん」間もなく私は、出産の時を迎える。 出産した後がとても大変になるけど、私はどんな時も負けない。絶対に負けたくない。アイツと約束、したから。 絶対に死んだりしないと。「じゃあ、俺帰るわ」「うん、今日は来てくれてありがとう」 「おう」ハルキが帰る姿を見つめながら、私も家の方面へと向かう。「早く……会いたいな」この子たちが産まれてきてさえすれば、私はそれでいい。 無事に産まれてきたことを、心から喜びたい。「あなたたちの名前……二人のパパが、付けてくれたか
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□90

「お願いだから、これ以上……私には関わらないで。もういいのよ、私のことなんて。 気にしなくて、いいんだって……」私だってわかってる。二人が思いやりがあることくらい、わかってる。それでも私は、二人と距離を置きたいとさえ思ってしまうの。動かない時計の針を、これ以上動かしたくはない。 ううん、動かしてはダメなの。「言っただろ。それは出来ないって」「……どうして?」私がそう問いかけると、千歳は「君と子供のために、何かしてあげたいと思うのは……父親としての宿命だと思ったんだ。 兄貴も、そう言ってた」と私に話してくれた。「……変な人ね、あなたたちは」だけどその優しさを受け入れていくことも大事なのかもしれないと思った私は、その優しさに甘えることにしてしまったんだ。きっと私は、それを受け入れたことでバチが当たるかもしれない。 それでも、二人の思いを虚しいものになんてさせたくなかった。「子供の名前……考えてきてくれたの?」「ああ。二人で二つずつ、候補を出した。とりあえずだけど」「……ありがとう。参考にさせてもらうね」「ああ」あれからどんどん大きくなるお腹が、現実になった。 つわりがあった頃は、お腹なんて膨らんでもなかったから、全然実感なんてなかったのに。でも今は、ちゃんと赤ちゃんの鼓動も感じるし、生きているってことも感じられる喜びがあった。早く赤ちゃんに会いたいと願ってしまう自分がいて、私はやっぱりつくづく母親なんだと、思い知らされた。私を母親にしてくれたのは、間違いなくこの子たちだ。「朱里……出産の時、俺が立ち会ってやろうか?」ハルキがそう言ってくれたのは、多分私に対する優しさだと思う。「一人じゃ、不安だろ?」「でも……そんなの悪いよ。 ハルキだって、任務で忙しいでしょ?」ハルキが出産に立ち会ってくれると言ってくれるのは、嬉しいけど……申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「一人で出産するなんて、寂しいだろ? 俺で良ければ、立ち会うよ」「ありがとう……気持ちは嬉しい」「立ち会えるように準備はしておく。……いつでも呼べよ、俺のこと」ハルキにそう言ってもらえるだけで嬉しい気持ちになった。 ハルキが私のそばにいてくれるからか、不安が取り除いていく気がした。「ありがとう……ハルキ。本当に、ありがとう」私……頑張るからね。 「朱里、お前
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