All Chapters of 私の代役を愛したことを一生後悔すればいい: Chapter 311 - Chapter 320

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第311話

「彼女が、全部私のせいだって言ったのよ?」話しているうちに、莉亜の目が赤くなった。「でもあの日、私が彼女たちのために、あまり責めないでってあなたに願ったじゃない?じゃないと、あちらは多額の賠償金を払わなきゃいけなくなるから」莉亜がまだ恐怖に震えているのを感じ、朔也は急いでベッドの端に腰掛け、彼女の手を握った。「あの娘がああ言ったのは、そもそも根性の無い奴だからだ。母親を障害者にしたのは父親だろう。だが彼女は自分の父親に立ち向かえないだけだ。それに彼女の母親をクビにしたのは俺だ。君は彼女たちのためにいろいろ話してあげたのに、それすら覚えちゃいないな……」ルナは、まだきちんとした価値観を持っていないのだ。何かの問題に直面すると、すべてを自分より弱者に転嫁する。莉亜なら手を出しやすいと思ったからこそ、彼女は迷わずこの復讐計画を実行したのだ。朔也の慰めによって、莉亜は次第に落ち着きを取り戻した。「私のせいじゃないってわかってるけど、それでもやっぱり少し悲しいわ」「そんな取るに足らない人間のために悲しむ必要はない」朔也は優しく彼女をなだめた。莉亜は一つの疑問を口にした。「私、どれくらい気を失ってたの?」「半日くらいだ……昼に裁判が終わって、今はもう夕方だよ」それを聞いた莉亜はうなずいた。また何日も気を失ったのかと思っていた。しかし今、朔也は彼女をじっと見つめ、我慢できず思わずこう言った。「莉亜、退院したら、俺と付き合ってほしい」その言葉には全く躊躇がなかった。直接彼女から承諾を求める口調だった。莉亜は驚いて彼を見つめ、なぜこのタイミングでその話を持ち出すのか理解できなかった。朔也は静かに語り始めた。「今回、君が失踪したと気づいた時、俺はすっごく慌てたよ。この数日間、俺がどんな気持ちで過ごしてきたか、君には想像もつかないだろう。君をどうやって見つけようか、そればかり考えていた。だが、人を増やして調査すればするほど、君の居場所はわからなくなっていった……家の防犯カメラを調べて、誰が何をしたかはわかっても、川の下流を捜索しても何も見つからなかった」数日間、朔也は気が狂いそうだった。「今日、法廷で君を見た時、心に誓ったんだ。君が正式に潤との関係を清算したら、必ずちゃんともう一回告白しようって」ところが
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第312話

だが、莉亜はそれでも彼をそこまで追い詰めなかった。この結果だけで、莉亜はもう十分満足していた。「これでいいわ。少し残してやれば、あいつがまた私を煩わせることもないでしょ」悪意というものは、ほんの一瞬で生まれるものだ。莉亜は以前のことを思い出した。潤が包丁を持って自分を追いかけてきたあの日のことを。思い出すだけで体が強張るほどだ。そんな男には、とても関われるものじゃない。これ以上、関わりたくもなかった。莉亜の態度に、朔也は理解を示した。「俺もそれが最善だと思う。だから君の今の財産はもう整理しておいた。明細もあるんだけど、今見てみる?」莉亜は少し考えてから頷いた。「見てみようかな。今、自分がどれだけのお金を持っているのか知りたいし」その言葉に、朔也は思わず笑い出した。目の前の女性が、こんなにも愛らしく思えた。すると、彼はタブレットを取り出し、莉亜の現在の財産明細を見せた。莉亜は最初、実は見るのが怖かった。自分がもう億万長者の仲間になったかもしれないとは思っていたが、具体的にどれほどの財産があるのか、あまりはっきりとは分かっていなかったのだ。ずらりと詳しく記録されている明細書には、自分の口座に書かれた数字の後ろに一体いくつの0がついているのかを見て、彼女は一瞬信じられないほどだった……莉亜は自分の頬を両手で包み込み、興奮した声を上げた。「これ、本当に私のものになっていいの?」まるで、両親が残してくれたすべての遺産が、一気に自分の手に戻ってきたかのようだった。「やっと……お父さんとお母さんの期待を裏切らずに済んだみたい。ちゃんと、全部取り戻せたんだ」そう言いながら、莉亜の目からは涙が静かにこぼれ落ちた。彼女は顔を覆い、今の自分の姿を朔也に見られたくなかった。朔也は胸が締め付けられる思いで、彼女に近づき、そっと彼女を抱きしめた。「もういいよ、喜ぶべき時に泣くもんじゃない。いい知らせを教えてあげる。潤が浮気したのは確定された、今や財産の4分の1しか残っていないから、会社の株式も大幅に減ったよ」彼の手元にある資産はまったく足りず、会社には多くの問題が存在しており、潤にはそれを処理する術がない。元々は莉亜と裁判をして、彼女に一円も渡さず、彼女の財産を独り占めするつもりだったから、派手に散財して美琴に
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第313話

それに、朔也は莉亜を連れて、ある療養に向いているリゾートまで行った。このことについて、朔也は莉亜にこう説明した。「君の体はまだ完全に本調子に戻っていない。しばらくはここにいたほうがいい。それに、おそらく近いうちに潤が手下を連れて俺のところに来るだろう。俺の家の周りは安全じゃない」莉亜は頷いて理解を示した。「そこまで詳しく説明してくれなくてもいいのよ。今の私は体が弱っているから、あなたが言ったことなら何でも聞くわ。今はただ病気をしっかり治したいだけ。戻ったら、玲衣と相談して、もう少し近い場所に家を買おうと思っているの。それから、もう新しくプロジェクトを始められないか検討しようかと……」莉亜は真剣に、自分の輝かしい未来を描いていた。朔也は、自分にはいくつか住んでいない物件を持っており、莉亜をそこに住まわせることもできると言いかけた。しかし、今頃潤が家族に連絡を取り、焦ってあちこちで彼らの行方を探しているであろうことを考えると……朔也はひとまずその言葉を飲み込み、口に出さなかった。それに、このリゾートも朔也が特に厳選した場所だった。ほとんどが高齢者のいる施設で、噂話に興味津々な若者はおらず、通りすがりの人間が二人の情報をネットに流す心配もなかった。リゾートの環境は静かだった。ここにいる多くの人は年寄りであるため、面倒な揉め事も一切なかった。莉亜の肺炎はほぼ治っていたが、体力は落ちており、今は風に当たることもできなかった。朔也は思い切って彼女に付き添ってここに滞在することにした。自分の行動も慎重に隠しながら、うっかり莉亜がここにいる事をバレないようにと注意を払っていた。ここのお年寄りたちは皆、莉亜のことをとても可愛がっていたが、なぜか二人を夫婦だと思い込んでいた。特に、莉亜の隣の部屋の人がそうだった。「莉亜さん、今日はご主人さん、どうして来ないの?」隣の部屋の老婦人が莉亜に尋ねた。莉亜はにこにこと笑って答えた。「今日はお仕事に行ってるんです……でも、彼は私の夫じゃありませんよ」潤との関係を清算したばかりの彼女に、夫なんているはずもなかった。しかし、莉亜の説明は老婦人の耳には届かなかったようだ。老婦人は耳が遠く、自分の耳を指さして莉亜に聞き返した。「何だって? よく聞こえないわ!」だが、莉
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第314話

その言葉を聞いて、莉亜は朔也に対して完全に呆れた。ただ単に、毎日付き添ってくれているのだから、気をつかって一言かけてやろうと思っただけだ。それがまさか彼には、まったく違う意味に受け取られるとは。「正直言って、毎日ここに付き添わなくていいよ。仕事に専念してもいいの」莉亜はベッドに上がり、温かい布団の中に潜り込むと、その顔は自然と笑顔になった。朔也は彼女の心地よさそうな様子を見て、思わず口調が柔らかくなった。「君がここでゆっくりしている間、毎日そばにいてやりたいんだ。だが、会社の方にもどうしても片付けなければならないことがあってな……それに君の持っている財産のことも、ここ数日で清算の最終段階に入っている。細かい手続きが多くて、全部俺が処理してやらないといけないんだ」莉亜は意外そうだった。「もう何日も経ってるのに、もうすべて終わったと思ってたわ」「まあ、そうも言えるな……だが、君が思うほど簡単な話じゃない」朔也はそう言いながら、そっと眉間を揉みほぐし、そのままベッドの端に腰を下ろした。彼は莉亜の手を取った。指先でそっと彼女の手のひらを撫でる。その柔らかな感触が、彼の心も温かくした。「外で対処しなきゃならんことがもうすこし少なければ、俺たち二人で誰も知らない場所に行って、こんな風に暮らすのも悪くないな」朔也が突然口にした感傷的な言葉に、莉亜はぱちぱちと瞬きをした。「何を馬鹿なこと言ってるの?私はそんな辺鄙な場所になんて行きたくないわ」これからは仕事にプロジェクトに精を出すつもりだし、安定した後にはまた海外へ行ってエドワードにも会わなければならない。毎日忙しくて仕方ないのに、朔也とのんびり平和に過ごすなんてできるはずがない。莉亜がそう言うと、朔也は笑った。「ちょっと言っただけだ。そんなに慌てて否定しなくてもいいだろう。この間、君をこうやって守ることができて、実はもうそういう日々を味わったようなものだ」それは確かにそうだった。莉亜はぱちぱちと瞬きをした。「じゃあ、楽しかった?」「楽しくないわけがないだろう」特に今、莉亜と潤のことがついに解決したのを思うと、特に嬉しい。莉亜と朔也は、ひとまずこのリゾートで暫く泊るつもりだ。ただし、ここには一つ欠点があった。リゾートでの生活リズムが、高齢者のペー
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第315話

くらくらする莉亜は朔也の胸に倒れ込んだ。気を失う前に最後に思ったのは、さっき他人に「体が不自由」なんて言われたばかりなのに、今度は目の前で倒れてみせたら、ますますその憶測を確定的にしてしまうだろうな、ということだった。莉亜が再び目を覚ましたのは、もう昼近くだった。自分のベッドの隣で待っていた男の姿を見て、莉亜は腹が立って仕方なかった。「全部あなたが無理やりご飯を食べに連れて行こうとするからよ。お腹空いてないって言ったのに……」比べてみれば、莉亜は朝食を食べる時間を減らし、もう少し寝たいと思っていた。朔也は笑いながら言った。「どうして起きたばかりでそんなに怒るんだ?彼らが何を言おうと勝手に言わせておけばいい。君は別に体が不自由なわけじゃない。治ったら、彼らだって祝ってくれるさ」「今安静にしていなかったら、本当に一発殴ってやりたいわ」結局からかっているじゃないか!莉亜は膨れっ面で彼を睨みつけた。「明日から、私を食事に連れて行くのも、皆の前で食べさせるのも禁止よ」「じゃあ、君はここで、何をするつもりなんだ?」朔也が突然身を乗り出して、真剣な表情で莉亜に尋ねた。莉亜は一瞬、どう返事すればいいか分からなくなった。自分に何かすることがあるだろうか?せいぜい、しっかり治療を受けて体を回復させ、ついでにこれからどうやってプロジェクトを進めるかを考えるくらいだ。時々、親友の玲衣に電話をしたり、他の病室のおじいちゃんおばあちゃんとおしゃべりをしたり、下に降りて花や樹木を眺めたり……それ以外に、莉亜には自分に何かやるべきことがあるとは到底思えなかった。彼女は指を一本一本折りながら、それを数え上げた。朔也は最後まで聞くと、にこにことしながら彼女を見つめた。「俺は毎日ここで君に付き添っているんだ。一緒に楽しめることの一つや二つ、予定に入れてくれてもいいんじゃないか?」莉亜は不機嫌そうに言い返した。「私たち二人で何ができるっていうの?あなたは毎日仕事に行かなきゃいけないかもしれないし、ずっとここにいるわけでもないでしょう」そう言っているうちに、莉亜は突然、二人の距離が縮まっていることに気づいた。顔を上げると、朔也の顔が目の前に迫っていた。彼は手で莉亜の手首を掴み、ゆっくりと上へと動かしていた。指が莉亜の腕に
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第316話

唇と舌が絡み合う中、莉亜は無意識に小さく鼻にかかった色っぽい声を漏らした。それを聞いた朔也の動きが、一瞬止まった。莉亜は下唇を噛んだ。自分はそんなことをするべきではなかった、朔也に尻軽女だと思われたのではないか……彼女はそっと自分の口を押さえ、もうこれ以上声を出さないようにした。だが次の瞬間、朔也は彼女の口を押さえていた手をどかした。「我慢しなくていい」彼は彼女の耳元で低く名前を呼びかけた。「莉亜」その言葉は、まるで魔法の呪文のように、彼女を誘い、甘くさせる。莉亜はいつの間にか朔也の動きに合わせて興奮してきたが、朔也にまた注意された。「でも、あまり大きな声も出すなよ、いい子だ」莉亜はたまらず身をよじった。自分が彼に騙されているような気がした。「わざと私をからかってるんじゃないでしょうね……」さっき自分が声を出さなかった時は、彼はずっと声をだせと催促していた。今度は声を出したら、注意しろだなんて。「隣にはお年寄りたちがいるんだ。まさか彼らを起こしたいのか?」朔也は低く笑いながら、彼女を自分の胸に抱き寄せた。「逃げるな」彼の言葉が莉亜の耳に届いだ。彼女は反論しようと思ったが、欲望が徐々に彼女を飲み込んでいった。彼女は一言もまともに口に出さず、ただ彼をより強く抱きしめた。やがて朔也が優しく甘やかすように促した。「莉亜、後ろを向いて」莉亜は元々恥ずかしかったが、窓の外の月明かりを見やると、室内が薄暗いことに気付いた。彼には何も見えていないはずだ。そう思うと莉亜はすこし安心し、また彼の動きに合わせた。最後には、彼女は指一本動かせなくなった。「莉亜……」そんなに愛おしそうに朔也に呼ばれても、不快感はなく、むしろ彼女をさらに刺激した。彼女は小さく懇願し、もうこれ以上はやめてほしいと言った。「莉亜、もう少しだけ我慢して」室内の音はとても小さかったが、リゾートの廊下を時折スタッフが通り過ぎる音が、さらに莉亜を刺激した。暗闇の中で、すべての感覚がひときわ鮮明になる。朔也の動きがさらに激しくなり、声も一段と低くなったのを察して、莉亜は振り返って彼にキスをした。最後に彼女は朔也に抱えられて、部屋のバスルームへシャワーを浴びに行った。「すまん、疲れさせたな」朔也はそう言
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第317話

莉亜は自分の眉間を揉みほぐした。まったく、無茶な男だ。そう思っていると、突然電話が鳴った。ちょうど玲衣からだった。親友の名前を見て、莉亜は急いで電話に出ると、体を起こしてベッドヘッドにもたれかかった。「どうしたの?玲衣、朝っぱらから電話なんて?」電話の向こうの玲衣は、元気いっぱいの声だった。「用がなきゃ、あなたを気にかけちゃいけないの?今日出張で、飛行機を降りたばかりなのよ。あなたが療養のリゾートで早寝早起きしてるはずだと思って、ちょっと電話してみたのよ……」二人の会話はいつも気軽で楽しい。莉亜も冗談で返した。「風間大弁護士先生はどうしていつもそんなに忙しいの?いつになったら引退して、私にセレブ生活を暮らせるの?」「私の方こそ、あなたにセレブ生活に連れて行ってほしいわよ。あなたが超金持ちになったって聞いたわよ!」二人で冗談を言い合い、莉亜が顔を上げると、部屋のドアが開かれた。朔也が戻ってきたのだった。彼はトレーを運んできた。どうやら莉亜の朝食を取りに行っていたらしい。戻ってくると、莉亜がベッドヘッドにもたれて電話をしているのが目に入り、眉を軽くつりあげた。その後、彼はベッドのそばに歩み寄り、二人だけに聞こえる声で莉亜に言った。「どうやら昨日の運動はまだ足りなかったようだな?」玲衣には聞こえないと分かっていても、莉亜は慌てて携帯を押さえた。「何を言ってるの!」そう言って、足を上げて彼を蹴った。しかし朔也は笑っていた。「朝っぱらから電話とは、また風間さんかな?」莉亜は頷き、急いで電話の向こうの玲衣にまた少し説明した。「でも、あなたはもうそのクズ男と別れたし、朔也さんとの関係もちゃんと決めたらどう?次はあなたたちの良い知らせが聞きたいわ」莉亜が電話を切る時、玲衣がそう言ったのを耳にした。玲衣はもう何度も催促していたが、莉亜はなかなか決心がつかなかった……彼女と朔也の関係は、まだそこまでに進展していないようだ。少なくとも莉亜の目には、そう映っていた。このことに関して、彼女は実は焦っていなかった。電話を切ったばかりなのに、朔也がまた近づいてきて、莉亜に早く朝食を食べるよう促した。ついでに、さっき玲衣と何を話していたのかも尋ねてきた。莉亜はぱちぱちと瞬きをし、まずは朔也をからかっ
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第318話

ちょうどその頃、リゾートでは毎週一回の交流会が開催されることになっていた。その日、朔也がいない隙に、莉亜はこっそりとスタッフに彼も今回の交流会に参加すると伝えた。朔也が戻ってきた時、莉亜は何事もなかったかのような顔をして、ここ数日でリゾートで交流会が開かれること、そして朔也と一緒に見に行きたいと話を持ちかけた。ここで泊って以来、朔也が莉亜の頼みを断ったことは一度もなかった。今回も同じことだった。翌日の夕方、リゾートは交流会の準備で忙しなく動き始めた。ここに泊っているのはほとんどがお年寄りで、重い病気を患っている者は基本的にいない。ただ体調が万全ではなく、普段から誰かの介助が必要であり、子供たちが仕事で忙しいために、ここに預けられているのだ。そのため、毎週の交流会には、一部のお年寄りが自分の子供たちを招待し、皆で集まって楽しむ場にもなっていた。交流会自体は、基本的には大学のイベントと大差なかった。各自が自分で出し物を申し込み、舞台でそれを披露するという形だ。ほとんどの人たちは年を取ってはいるものの、精神状態がよく、中には芝居を披露する者もいた。やがて進行役担当しているスタッフがこう言った。「それでは、相馬さんにご登場いただきましょう……」全ての視線が朔也に集中した。朔也は一瞬、驚いた顔をした。「俺か?」しかし、隣にいた莉亜に背中を押された。「行ってきなさいよ、あなたが何を披露するのか見てみたいの」莉亜はこっそりと笑みを浮かべていた。朔也は周りの人々も自分を見ているのを感じ、何かを悟り、仕方なさそうに莉亜を一瞥した。しかし、もうこんな状況になってしまった以上、行かないわけにはいかない。彼は軽く咳払いし、ステージに上がった。莉亜は朔也が慌てふためく様子を見てやろうと待ち構えていた。二人が知り合って以来、実は莉亜は朔也という人物についてあまり詳しく知らなかった。普段の趣味や関心事さえも知らず、今回こっそりとスタッフに彼も参加すると勝手に言ったのは、不意を突かれた彼の様子を見たかったからでもあるが、実際に朔也に何か芸を披露させるとしたら、一体何をするのか知りたかったからでもあった。リゾートで過ごすこの日々こそ、実は二人が最も密接に触れ合っている時間だった。莉亜は今は心が穏やかで、いつの間にか乙
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第319話

彼が低く響く声で歌うと、大人の男の魅力が一層引き立った。それに、歌いながら朔也がマイクを手に、直接莉亜の前に歩み寄った。彼はその中でも特に情熱的で切ない歌詞の部分を、莉亜の前で歌いあげた。莉亜は目の前の彼を見つめ、胸に複雑な感情が込み上げた。自分が誰かの一番愛する人間になったなんて、考えたこともなかった。幼い頃から潤を知っていたが、彼が最初に追いかけてきた時、そんな錯覚を与えてきたことがある。しかし後にあれはただシャボン玉に過ぎなかったのだと気づいた。潤は彼女を愛してなどいなかった。もっとはっきり言えば、彼は誰も愛したことがなかったのだろう。そうでなければ、たった三年海外にいただけで、どうして潤が他の女と関係を持つなどということがあり得ないだろう。たとえ美琴と一緒になることを決めても、なぜ莉亜の両親が残した資産を理由に別れを許さなかったのか。だからこそ、朔也が自分の前で愛の歌を歌いあげるのを見て、莉亜の涙は溢れ落ちた。彼女は自分の顔を覆った。周りの人々は莉亜がただ照れているだけだと思い、思わず熱烈な拍手を送ってきた。莉亜だけが知っていた。今、彼女の頭の中にあるのは、かつて潤が自分を追いかけてきた記憶だけだった。あの時、彼女は思った。この男がこれほど自分を熱く愛してくれているのなら、彼とはもう二度と別れなど訪れないのではないかと。しかし結果は、莉亜の期待を完璧に裏切った。朔也が彼女の前に現れ、自分と一緒になりたいと言った時も、莉亜はまだ誰かが自分にそうしてくれることを信じることができなかった。莉亜はとっくに恋愛なんて信じていなかったのだ。今、朔也が彼女の前にいて、彼を見つめながらも、莉亜の心には不思議な期待が湧き上がっていた。もしかしたら、今回は本当に違うのかもしれない……朔也が歌い終わって、舞台上に戻ろうとした時、途中で一人のお年寄りに引き止められた。一人のおじいさんだった。おじいさんはにこにこと朔也に言った。「あんた、奥さんは体が不自由なんだろ?だったら離婚しなさいよ。うちの娘はかなりいいんだよ!」そのおじいさんはそう言いながら、朔也をじっと見つめた。実は先日、朔也が莉亜を連れて食堂に来た時から、彼はこの若者を観察していたのだ。自分の娘はもう三十歳近いのにまだ嫁
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第320話

「お嬢ちゃん、大丈夫だったの?」「そうよ、私たちてっきり君は……」「でも、それならよかったわ。体が問題なくてよかったよ……」周りの言葉に、莉亜は少々気まずそうに鼻の先をすこし触った。「すみません、おじいさん、おばあさん。数日前は本当に体が弱っていて、朝も起きられなかったんです。それで夫が無理やり食堂に連れて行って食事をさせようとしたもので、皆さんを驚かせてしまいました」さっきの老人が言った言葉は、莉亜はすべて聞こえていた。しかし、大勢の前で彼と同じようにみっともない真似はしたくなかった。あの人は本当に自分が体が不自由だと思い込み、自分が朔也の足手まといになっていると考えたからこそ、ああいう態度を取ったのだろう。莉亜が彼の言ったことを気にする必要はない。彼女はそう言いながら、朔也の腕を取った。「ねえ、あなたのせいよ。皆の前でご飯を食べさせないでって言ったのに、それでもやるんだから」朔也は彼女がそう言うのを聞いて、心の中で興奮した。「分かったよ。もう二度としない。だが、皆さんに誤解させて、申し訳ありません」これは交流会における、ただの小さな出来事に過ぎなかった。しかし夜、病室に戻ると、莉亜は突然朔也にベッドの上に押さえつけられた。さっきの交流会で莉亜が独占欲に満ちた言葉を口にしたとき、朔也の心臓は興奮でドキドキしていた。二人が知り合って以来、莉亜が初めて自分に対するその想いをはっきりと示したのだ。あのおじいさんの言葉が彼女を刺激したのかもしれない。二人は最近、同じ部屋で暮らして、何度も親密な接触があったが、莉亜の態度は一向に緩まなかった。それが朔也にも不安を抱かせていた。莉亜は本当に自分のことを好きではないから、なかなか関係をはっきりさせようとしないのではないか?朔也はそっと身をかがめ、莉亜の耳に軽く口づけた。そしてゆっくりと頬、鼻先へと移り、最後に彼女の唇に落ちた。「今日、君がああ言ってくれて、とても嬉しかった」朔也が自らその話題を切り出した。莉亜は目を見開いて彼を見つめた。「どうして急にそんなことを言うの?」「……ただ、君に伝えたかっただけだ」これ以上言えば、また莉亜が怒り出すことを知っていたので、朔也は潔くその話題を切り上げ、彼女の唇を塞いだ。莉亜の手も
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