All Chapters of 四度目の結婚 ~不完全なオメガと冷徹な夫の運命~: Chapter 1 - Chapter 10

25 Chapters

第一話「失敗できない結婚」

 父の書斎の扉をノックすると、中から低い声が響いた。「入れ」 扉を開け、重厚な木の香りが鼻をつく書斎へと足を踏み入れた。父ハインリヒは窓際の大きな机に向かって書類に目を通していて、僕が入ってきても顔を上げることはなかった。 壁一面に並んだ本棚には古い書物が整然と並び、重苦しい空気が部屋を満たしている。暖炉の火がパチパチと音を立て、薄暗い部屋の中でわずかな明かりを灯していた。 僕は父の机の前に立ち、返事を待つ。父はペンを走らせ続け、インクの擦れる音だけが静寂を破る。時計の針が進む音が妙に大きく聞こえて、喉の奥が渇いていくのを感じた。立っているだけで足が震え、膝の力が抜けそうになる。 やがて父はペンを置き、ゆっくりと顔を上げた。灰色の瞳が僕を捉え、表情のない顔で僕を見つめる。感情の読めない冷たい視線に、背筋が凍りついた。「結婚が決まった」 父の声は淡々としていた。僕の心臓が跳ね上がり、息が詰まる。「お、お相手は……」 声が震えた。父は書類を僕の方へと押し出し、冷たい眼差しで僕を見下ろす。「レオニード・フェルゼン伯爵だ。先の戦争の英雄で、王の覚えもめでたい。将来、有望な人材だ。二十歳でお前より五歳若いが――お前を妻にしてもいいと言ってくれた唯一の男だ」 唯一の男……そう父に言われて胸が抉られるような痛みが走る。「来週、式を挙げる。今度こそ失敗するな」 父の言葉が胸に突き刺さり、呼吸が苦しくなる。『今度こそ』その言葉の重みが、僕の肩に圧し掛かってくる。 過去三度の結婚に、三回の離縁経験がある。全てが失敗に終わった僕の結婚生活。「はい」 僕は返事をすると頭を下げた。父はもう僕を見ていなかった。再び書類に目を落とし、ペンを走らせ始める。僕の存在など、もうどうでもいいとでも言うように。(まあ、三回も出戻って来たオメガの息子など、どうでもいいんだろうけど)「下がれ」 命令に従い、僕は書斎を後にした。扉を閉めると、足の力が抜けてその場に倒れ込みそうになる。壁に手をつき、なんとか身体を支えた。 廊下を歩きながら、僕は自分の部屋へと向かう。使用人たちが行き交い、僕の姿を見るとすぐに視線を逸らして通り過ぎていく。彼らの冷たい視線が背中に突き刺さり、胸が痛んだ。 四度目の結婚。 僕はもう二十五歳になる。オメガとしては高齢出産で、妊娠できる可能性は
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第二話「毎晩の誘いと拒絶されるエミール」

 結婚式から一週間が過ぎた夜、僕は鏡の前に立って自分の姿を見つめていた。薄い絹でできた夜着が身体に纏わりつき、素肌が透けて見える。 胸の輪郭も、腰の線も、全てが透けている恥ずかしい格好だ。髪を梳かし、首筋に香油を塗る。甘い香りが鼻をつく。 鏡の中の自分は、まるで娼婦のように見えた。頬が紅潮し、瞳は潤んでいる。夜着の下には何も身につけておらず、少し動くだけで肌が露わになる。こんな格好で屋敷の廊下を歩くなど、恥ずかしくて発狂したくなる。 深く息を吸い込み、部屋の扉を開けた。廊下には蝋燭の明かりが灯り、長い影を作っている。足音を忍ばせて歩き始めると、曲がり角の向こうから使用人たちの声が聞こえてきた。「また今夜もあのオメガ、旦那様の部屋に行くのかしら」「あんなハシタナイ恰好で、屋敷内を歩くなんて下品だわ」「見てられないわよね。オメガに恥じらいなんてないのかしら」 ひそひそと囁き合う声が耳に届き、胸が締め付けられた。(そんなこと、わかってる) 恥ずかしいに決まっている。こんな格好で夜ごと夫の部屋を訪ねるなど、羞恥心で気が狂いそうだ。いやらしい格好で屋敷内を歩くオメガとして、僕の奇行は屋敷中に広まっているだろう。使用人たちは皆、僕を嘲笑っている。 それでも、僕には選択肢がない。(これしか方法を知らないし――) レオニードの部屋の前に立ち、手を伸ばしてノックする。コンコンと扉を叩く音が、静かな廊下に響いた。返事はない。もう一度ノックすると、中から低い声が聞こえてきた。「入れ」 扉を開けると、部屋の中には暖炉の火だけが灯っていた。炎が揺れるたびに、影が壁を這う。レオニードは窓辺に立っていて、シャツを脱いでいる途中だった。広い背中に、筋肉の起伏。戦士らしく、傷跡がいくつか残っている。 僕の姿を見て、顔を歪ませる。眉間に皺を寄せ、明らかに不快そうな表情を浮かべた。「またか」 呆れたような、冷たい声だった。「あの……今夜こそ、お願いします」 声が震えた。レオニードは脱いだシャツを椅子に投げ捨て、僕に近づいてくる。大きな身体が近づくたびに、威圧感が増していく。「何度も来ても同じだ。出ていけ」 冷たい声が耳朶を打ち、身体が震えた。レオニードが僕の夜着の襟元を掴み、引っ張った。「っ……!」 身体がよろめき、足が宙に浮く。荒々しく引きずられるように
last updateLast Updated : 2026-01-16
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第三話「ヒート時の決定的な拒絶」

 身体の異変に気づいたのは、夕方のことだった。下腹部が熱く疼き、肌が敏感になっていく。息が荒くなり、身体の奥から甘い熱が湧き上がってきた。鏡を見ると、頬が紅潮していて、瞳が潤んでいた。(ヒートだ) 心臓が高鳴り、期待が胸を満たした。オメガのヒートは、アルファを惹きつける甘い香りを放つ。過去の夫たちも、ヒートの時は僕を抱いてくれた。痛いだけで何も感じなかったが、少なくとも拒絶はされなかった。(今度こそ) 心の中で呟きながら、僕は身体を清めた。浴槽に湯を張り、バラの香りの入浴剤を溶かす。身体を沈め、丁寧に洗っていく。髪も念入りに洗い、柔らかく梳かした。湯から上がると、薄い絹の夜着を纏う。いつもより透ける素材で、身体の線が全て見える。 鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。ヒートの影響で、身体は熱く火照っている。肌は桃色に染まり、瞳は潤んで艶めかしい。首筋からは甘い香りが立ち上り、自分でも分かるほど濃厚だった。(もしかしたら) 期待が膨らんだ。ヒートの匂いなら、レオニードも無視できないかもしれない。アルファは本能的にオメガのヒートに惹かれる。抱いてくれるかもしれない。子どもを授かることができるかもしれない。 部屋を出て、廊下を歩き始めた。使用人たちの視線が突き刺さるが、今は気にならなかった。身体が熱く、頭がぼうっとしている。足元がふらつき、壁に手をついて進んだ。 レオニードの部屋の前に立ち、ノックをする。いつもより強く、何度も叩いた。中から低い声が聞こえてくる。「入れ」 扉を開けると、レオニードは書斎机に向かって書類を読んでいる。蝋燭の明かりが彼の横顔を照らし、鋭い眼光が紙面に注がれていた。僕が入ってきても、顔を上げる気配すらない。「あの……」 声が震えた。身体が熱く、息が荒い。レオニードはペンを動かし続け、僕を無視している。「今夜こそ、お願いします」 懇願するような声を出すと、レオニードの手が止まった。ペンを置き、ゆっくりと顔を上げる。深い紺色の瞳が僕を捉え、何かに気づいたように目を細めた。「……ヒートか」 低い声が響き、心臓が跳ね上がる。レオニードが立ち上がり、こちらに近づいてきた。(来てくれる) 期待が胸を満たした。レオニードは僕の前で立ち止まり、顎を掴んで顔を上げさせた。鋭い視線が僕を見下ろし、冷たさだけが伝わってくる。「勘違
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第四話「真実を知る」

 フリッツが調査結果を持って訪ねてきたのは、三日後の午後のことだった。ノックの音が響き、扉を開けるとフリッツが神妙な面持ちで立っていて、手には厚い書類の束を抱えていた。「坊っちゃん、お調べした件についてご報告に参りました」 フリッツの声は普段より低く、何か重大な内容を含んでいることが伝わってきた。僕は頷き、フリッツを部屋に招き入れた。扉を閉め、応接用の椅子に座るように促す。「ありがとう、フリッツ」 フリッツは椅子に座り、書類を膝の上に置いた。僕も向かいの椅子に腰を下ろし、フリッツの言葉を待った。暖炉の火がパチパチと音を立て、静寂が部屋を満たしている。「まず、フェルゼン家についてですが……」 フリッツは言葉を選ぶように、ゆっくりと話し始めた。「フェルゼン家は、かつて伯爵家でした」 心臓が跳ね上がった。(かつて伯爵家だった――?) つまり、何かの事情で男爵家に転落した。「二十年前、先代のフェルゼン伯爵が突然失脚しました。王宮での権力闘争に巻き込まれ、汚職の疑いをかけられて爵位を剥奪されたのです」 フリッツは書類を開き、古い新聞記事を見せてくれた。そこには「フェルゼン伯爵、汚職で失脚」という見出しが躍っていて、記事には詳しい経緯が書かれていた。「汚職の証拠を提出したのは……」 フリッツは言葉を区切り、僕の顔を見つめた。「ハインリヒ・リヒテンベルク侯爵です」 血の気が引いていくのを感じた。父が、フェルゼン家を転落させた張本人。「父が……」 声が震えた。フリッツは頷き、さらに書類をめくる。「証拠とされた書類は、後に捏造の疑いがあると言われましたが、既に裁判は終わっており、覆ることはありませんでした。フェルゼン伯爵は全ての財産を没収され、男爵位だけを残して失脚しました」 手が震え、膝の上で握りしめた。父が、レオニードの家族を陥れた。捏造された証拠で、罪のない家族を転落させた。「先代のフェルゼン伯爵は、十年前に亡くなりました。当時十歳だったレオニード様が家督を継ぎました」 十歳の彼が父を亡くし、財産を奪われた男爵家として細々と生きることを強いられた。(――そうか。そういうことなら、僕に冷たい態度をとり、夫婦の営みを拒絶する理由になる) 恨まれているんだから。 自分の父親を陥れた家のオメガなど、抱きたいなどと思わない。逆に苦しむ姿
last updateLast Updated : 2026-01-17
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第五話「離婚の申し出」

 真実を知ってから一週間が過ぎた夜、僕は机に向かって離婚届に署名をしていた。ペンを走らせ、自分の名前を書き込む。インクの黒い文字が紙に染み込み、僕の決意を形にしていった。 全ての空欄を埋め終えると、僕は離婚届を封筒に入れて立ち上がった。鏡を見ると、いつもとは違う装いをした自分が映っていた。 透ける夜着ではなく、シャツとズボンを着ている。髪も整え、香油もつけていない。今夜は、誘惑のためにレオニードの部屋に行くのではない。 部屋を出て、廊下を歩き始めた。使用人たちが僕の姿を見て、驚いたような表情を浮かべる。いつもの恥ずかしい格好ではなく、普通の服装をしている僕を見て、何事かと思っているのだろう。 レオニードの部屋の前に立ち、深く息を吸い込んだ。心臓が早鐘を打ち、手が震える。封筒を握りしめ、ノックをした。コンコンという音が静かな廊下に響き、返事を待った。「入れ」 低い声が聞こえ、扉を開けた。部屋の中は薄暗く、暖炉の火だけが揺れている。レオニードは窓辺に立っていて、外の夜空を見つめていた。黒いシャツを着た背中が、炎の光を受けて浮かび上がる。 扉が閉まる音に、レオニードは振り返った。僕の姿を見て、眉をひそめる。「またか」 冷たい声が響き、胸が締め付けられた。僕が来ることを嫌がっている態度に、息苦しくなる。「今日は抱いてほしいとは言いません」 僕は静かに答え、封筒を取り出した。レオニードは訝しげな表情で、僕を見つめている。「これを、お渡しに参りました」 封筒を差し出すと、レオニードは近づいてきて受け取った。中身を確認するように封を開け、書類を取り出す。目を通した瞬間、レオニードの表情が変わった。眉が上がり、瞳が見開かれる。「離婚届……?」 驚きを隠せない声が響く。レオニードは書類を見つめ、そして僕を見た。深い紺色の瞳に、初めて動揺の色が浮かんでいた。「復讐はもう済みましたか?」 僕は静かに問いかけた。レオニードの身体が硬直し、息を呑む気配がした。「何を……」「全て知っています」 僕は一歩前に出て、レオニードの目を見つめた。「フェルゼン家がかつて伯爵家だったこと。僕の父によって陥れられ、男爵家に転落したこと。あなたが戦で功を上げ、僕との結婚で伯爵位を取り戻したこと。全て、調べさせていただきました」 レオニードの顔から血の気が引いていく
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第六話「レオニードの想い」

 扉が閉まり、エミールの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。俺は窓辺に立ったまま、動けなくなっていた。床に散らばった離婚届の破片が、暖炉の光を受けて白く浮かび上がっている。(好きにさせてもらう) エミールの最後の言葉が、耳に残っていた。あの静かな声。諦めたような、それでいて何か決意を秘めたような声だった。(あいつ、何をする気だ) 胸の奥に、得体の知れない不安が広がっていった。今までのエミールとは何かが違っていた。毎晩訪ねてきては拒絶されていた時の、懇願するような眼差しはもうなかった。 代わりにあったのは、冷静な視線と、静かな諦めだった。 俺は破かれた離婚届を拾い上げた。エミールの署名が、破かれた紙に残っている。丁寧な文字で書かれた名前を見つめていると、胸が締め付けられた。(――離婚したいのか) 当然だとは、頭では理解している。俺はエミールを拒絶し続けてきた。抱くことも、優しくすることもしてこなかった。毎晩訪ねてくるエミールを、冷たく追い返してきたんだ。 エミールに全て調べられるとは思わなかった。 俺は机の前に座り、頭を抱えた。(四度目の結婚だから) 三度も離婚を経験しているエミールなら、簡単には離婚を切り出してこないとどこかで思っていた。 社交界での評判も悪く、次の結婚相手を見つけるのは困難だと分かっているはずだった。だから、エミールは離婚を言い出さないと思っていた。 なのに、結婚して一ヶ月も経たないうちに離婚届を突きつけられた。 立ち上がり、ベルを鳴らした。しばらくして、執事のヴィルヘルムが部屋に入ってきた。「旦那様、お呼びでしょうか」「ヴィルヘルム、エミールの動向を逐一報告しろ」 俺の命令に、ヴィルヘルムは僅かに眉を上げた。「エミール様の、ですか」「そうだ。誰と会うのか、どこに行くのか、何をしているのか。全て報告しろ」 ヴィルヘルムは僅かに眉を上げたが、すぐに頷いた。「承知いたしました」「屋敷内での行動も、外出の予定も、全て把握しておけ」「かしこまりました」 ヴィルヘルムは一礼して、部屋を出て行った。扉が閉まり、再び静寂が戻ってくる。 俺は窓辺に戻り、外の夜空を見上げた。月が雲に隠れ、星だけが瞬いている。冷たい風が窓を叩き、木々を揺らしていた。(抱かれたくて、毎晩通ってきていたんじゃないのか) 困惑が胸を満
last updateLast Updated : 2026-01-18
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第七話「仮面舞踏会」

 あれから、僕はいくつかのパーティに参加した。社交界で開かれる華やかな舞踏会に、一人で足を運んだ。 煌びやかなシャンデリアの下、美しいドレスを纏った人々が笑い合い、踊り、会話を楽しんでいる。僕もその輪の中に入ろうとするが、誰も声をかけてくれなかった。 視線が僕に向けられると、すぐに逸らされる。ひそひそと囁き合う声が聞こえ、蔑むような笑いが耳に届いた。噂は相変わらず消えることなく、むしろ四度目の結婚という事実が新たな話題を提供していた。「エミール・フェルゼンだって」「フェルゼン伯爵の妻になっても、結局何も変わらないのね」「夫が可哀想よ。あんな淫乱なオメガを妻にして」 聞こえてくる言葉に、胸が痛んだ。壁際に立ち、グラスを握りしめる。 ただ遠くから見られ、嘲笑されるだけ。 パーティが終わると、一人で馬車に乗って屋敷に帰った。窓の外には暗い夜景が流れ、冷たい風が馬車を揺らした。何の収穫もなかった。誰とも話すことができず、誰にも相手にされなかった。(誰でもいいと思っているのに) 僕は相手を選ぶつもりなどなかった。子どもを授けてくれる相手なら、選り好みはしない。それなのに、相手たちは僕だけを拒絶する。 屋敷に戻ると、既に深夜になっていた。使用人たちは皆寝静まり、廊下には明かりがほとんどなかった。蝋燭の灯りだけが、薄暗い道を照らしている。 自分の部屋へと向かう途中、レオニードの部屋の前を通った。扉の隙間から明かりが漏れていて、人の気配がした。まだ起きているのだろうか。足を止めると、中から紙をめくる音が聞こえてきた。(まだ、仕事をしているのか……) 手を伸ばしかけて、止めた。(もう、近づく権利さえもない) 心の中で呟き、手を下ろした。もう僕たちの関係は終わっている。 部屋の前を通り過ぎ、自室へと向かった。扉を開け、中に入る。ベッドへと歩き、身体に力が入らずそのまま倒れ込んだ。柔らかいシーツが頬に触れ、枕が顔を包み込んだ。 天井を見上げた。暖炉の火が揺れ、影が天井を這っている。寝静まった屋敷は静かで、空っぽの心をさらに空虚にしていった。(女性には、武器がある) 丸みを帯びた身体、豊満な胸。女性のオメガは、胸元が大きく開いたドレスを身に纏い、甘い声で男に迫れば、一晩の相手などすぐに見つかるだろう。 僕にはアルファ男性の性欲を掻き立てるものを持
last updateLast Updated : 2026-01-19
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第八話「初めて触れられる夜」

 馬車が屋敷の前で止まり、レオニードは無言のまま降りた。僕の腕を掴み、引きずるように屋敷の中へと連れて行く。使用人たちが驚いた表情で見ているが、レオニードは気にも留めずに廊下を進んだ。 僕たちの夫婦の寝室へと向かっていく。レオニードは扉を開けて、「入れ」と僕を中へと引き入れる。扉が閉まる音が響き、鍵がかけられた。「そんなにしたいのか」 低い声が響き、レオニードが僕に近づいてきた。鋭い眼光が僕を捉えている。「答えろ」 迫るような声に、僕は頷いた。「したいです」 レオニードは僕の腕を掴んでベッドへと投げ出された。柔らかいシーツに沈み込むと、レオニードが覆い被さってきて、重い身体が僕を圧迫した。「っ……」 唇が塞がれた。荒々しいキスだった。 歯が唇に当たり、舌が口の中に侵入してくる。容赦なく口内を蹂躙され、息ができなくなった。必死にレオニードの肩を掴み、空気を求める。 キスが離れると、レオニードは僕のシャツのボタンを乱暴に外していく。布が引き裂かれる音がして、胸が露わになる。冷たい空気が肌に触れ、鳥肌が立った。 ズボンも脱がされ、下着まで引き下ろされる。全裸にされた僕の身体を、レオニードは見下ろした。値踏みするような視線に、恥ずかしさが込み上げてきて、視線を逸らした。「足を開け」 命令に従い、僕は足を開いた。レオニードが膝の間に手を入れ、さらに大きく広げさせる。秘部が露わになり、恥ずかしさで顔が熱くなった。 レオニードの指が、秘部に触れた。入口をなぞられ、身体がビクリと跳ねる。「ん……っ」 声が漏れた。レオニードの指が、ゆっくりと中に入ってくる。一本の指が中を探るように動き、内壁を撫でていった。「あっ……ああ」 自分の声とは思えない、甘い声が寝室に響き渡った。今まで、こんな声を出したことがない。恥ずかしさで口を手で覆おうとすると、レオニードが手首を掴んで阻止された。「聞かせろ」 低い声で命令され、手の力を抜いた。レオニードの指が動くたびに、甘い声が漏れ続ける。 ふと、レオニードの顔を見上げた。真剣な表情で僕の身体を見つめ、指の動きに集中している。黒髪が額にかかり、鋭い眼光が僕の秘部を捉えていた。大きな手が僕の太腿に添えられ、もう一方の手が器用に中を探っている。(こんな顔、初めて見る) いつもの冷たい表情とは違う、熱を帯びた
last updateLast Updated : 2026-01-20
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第九話「指だけの日々」

 あの日から、俺は定期的に夫婦の寝室を訪ねるようになった。一日おきに夜遅くに扉をノックする。返事を待たずに中に入ると、エミールは既にベッドに横たわっていて、俺を見上げる琥珀色の瞳が揺れていた。 言葉を交わさずに、ただ黙ってベッドに近づく。エミールは俺が入ってくるなり、自分で服を脱ぎ始め、白い肌が露わになっていった。 俺はエミールの足の間に座り、膝を開かせた。秘部が月明かりに照らされ、既に僅かに濡れているのが分かる。(期待していたのか?) 俺が触れる前から、身体が準備をしている。 指を一本、中に入れる。温かく、柔らかい感触が指を包み込んだ。エミールの身体が小さく震え、甘い吐息が漏れる。「んっ……」 指を動かすと、すぐに愛液が溢れてきた。一本の指だけで、ぐっちょりと濡れていく。俺が二本目の指を入れると、中がうねるように動き始めた。欲しいと言わんばかりに、指に吸い付いてくる。「ああっ……んっ」 エミールの甘い声が寝室に響き渡った。頬を紅潮させ、瞳を潤ませ、唇を噛みしめている。その姿が、たまらなく色っぽい。 俺は指を動かし続けた。中を探るように、内壁を撫でていく。エミールの反応を見ながら、気持ちいい場所を探す。奥の一点を擦ると、エミールの身体が大きく跳ねた。「あっ、そこっ……!」 甘い声が大きくなり、腰が浮き上がる。俺は同じ場所を何度も擦り、エミールを追い込んでいった。指に絡みつく内壁、溢れ続ける愛液、甘い声。全てが俺の理性を削っていく。(中がうねって指が持っていかれそうだ) 指で触れているだけで、俺の身体も熱くなっていく。ズボンの中が窮屈になり、息が荒くなる。(理性が保てない。これ以上は) エミールの中に、自分のものを入れたくなる。指ではなく、滾る熱杭で貫きたかった。奥まで突いて、熱を注ぎ込みたい。 エミールの声が高くなり、身体が弓なりに反った。「くっ……あああっ!」 絶頂を迎えるエミールの身体が、激しく痙攣した。中が指を強く締め付け、さらに愛液が溢れ出てくる。シーツが濡れ、甘い香りが部屋中に広がった。 痙攣が収まるのを見届けると、俺は指を引き抜いた。エミールの愛液で濡れた指を見つめ、急いで立ち上がる。「ゆっくり休め」 短く告げて、寝室を後にした。扉を閉め、廊下を早足で進む。甘い匂いが鼻に残り、脳内がくらくらする。エミールの匂
last updateLast Updated : 2026-01-21
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第十話「レオニードの誤解」

 いつもの夜が訪れる。仕事を終えて、寝る準備を整えると夫婦の寝室へと向かう。 エミールはベッドに座っていて、膝を抱えている。いつもなら俺が部屋に足を踏み入れた時点で、服を脱ぎ始めるのに、今夜は全く動かなかった。 月明かりが窓から差し込み、エミールの横顔を照らしている。「エミール」 名前を呼ぶと、エミールは顔を上げた。琥珀色の瞳が俺を見つめ、何か決意したような表情を浮かべていた。「今夜は……」 エミールは小さく息を吸い込み、静かに告げた。「無理しなくていいです。指がほしいわけじゃないので」 その言葉に、俺の身体が硬直した。拒否された。「何を言っている」 声が低くなった。エミールは俯き、膝を抱える腕に力を込めている。「もう、来なくていいです」「お前、何を……」 苛立ちが込み上げてきた。今まで毎回受け入れていたのに、突然拒否するとはどういうつもりだ。(あの仮面パーティのような場所に、また行くつもりなのか)「何なんだ! お前は――」 声を荒げると、エミールの身体が震えた。顔を上げ、涙で濡れた瞳が俺を見つめる。「僕は……」 声が震えている。意を決したように目に力が入ると、俺を真っ直ぐに見つめてきた。「僕は子どもがほしいだけなんだ!」 その言葉に、俺の思考が止まった。(――子ども?)「ただ……ただ自分の子を抱きたいだけなのに!」 エミールの声が部屋に響き渡り、涙が頬を伝った。「もう二十五歳で、身体は枯れる一方だ!」 感情が溢れ出し、エミールは声を震わせながら続ける。「歴史的にみても、初産での最高齢は二十八歳だ! もうあとがない! あと三年しかないのに、あなたは指だけで終わらせる!」 顔を覆って泣き始めた。嗚咽が漏れ、肩が震えている。「離婚してくれない……抱いてくれない……だから外で作るしかないのに……僕は外に出るのを禁止されてる」 言葉が途切れ途切れになり、涙が止まらなくなっている。(子どもが、欲しかっただけ) 今まで「したい」と言っていたのは、オメガの本能に忠実だからだと思っていた。性に奔放で、抱かれることを求めているのだと。 違った。エミールが欲しかったのは、子どもだった。自分の子を抱きたい。育てたい。ただそれだけの、純粋な願いからの行動だった。「僕を憎んでいるのは知ってる……」 エミールは顔を覆ったまま
last updateLast Updated : 2026-01-22
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