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第二話「毎晩の誘いと拒絶されるエミール」

ผู้เขียน: ひなた翠
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-16 14:17:25

 結婚式から一週間が過ぎた夜、僕は鏡の前に立って自分の姿を見つめていた。薄い絹でできた夜着が身体に纏わりつき、素肌が透けて見える。

 胸の輪郭も、腰の線も、全てが透けている恥ずかしい格好だ。髪を梳かし、首筋に香油を塗る。甘い香りが鼻をつく。

 鏡の中の自分は、まるで娼婦のように見えた。頬が紅潮し、瞳は潤んでいる。夜着の下には何も身につけておらず、少し動くだけで肌が露わになる。こんな格好で屋敷の廊下を歩くなど、恥ずかしくて発狂したくなる。

 深く息を吸い込み、部屋の扉を開けた。廊下には蝋燭の明かりが灯り、長い影を作っている。足音を忍ばせて歩き始めると、曲がり角の向こうから使用人たちの声が聞こえてきた。

「また今夜もあのオメガ、旦那様の部屋に行くのかしら」

「あんなハシタナイ恰好で、屋敷内を歩くなんて下品だわ」

「見てられないわよね。オメガに恥じらいなんてないのかしら」

 ひそひそと囁き合う声が耳に届き、胸が締め付けられた。

(そんなこと、わかってる)

 恥ずかしいに決まっている。こんな格好で夜ごと夫の部屋を訪ねるなど、羞恥心で気が狂いそうだ。いやらしい格好で屋敷内を歩くオメガとして、僕の奇行は屋敷中に広まっているだろう。使用人たちは皆、僕を嘲笑っている。

 それでも、僕には選択肢がない。

(これしか方法を知らないし――)

 レオニードの部屋の前に立ち、手を伸ばしてノックする。コンコンと扉を叩く音が、静かな廊下に響いた。返事はない。もう一度ノックすると、中から低い声が聞こえてきた。

「入れ」

 扉を開けると、部屋の中には暖炉の火だけが灯っていた。炎が揺れるたびに、影が壁を這う。レオニードは窓辺に立っていて、シャツを脱いでいる途中だった。広い背中に、筋肉の起伏。戦士らしく、傷跡がいくつか残っている。

 僕の姿を見て、顔を歪ませる。眉間に皺を寄せ、明らかに不快そうな表情を浮かべた。

「またか」

 呆れたような、冷たい声だった。

「あの……今夜こそ、お願いします」

 声が震えた。レオニードは脱いだシャツを椅子に投げ捨て、僕に近づいてくる。大きな身体が近づくたびに、威圧感が増していく。

「何度も来ても同じだ。出ていけ」

 冷たい声が耳朶を打ち、身体が震えた。レオニードが僕の夜着の襟元を掴み、引っ張った。

「っ……!」

 身体がよろめき、足が宙に浮く。荒々しく引きずられるように廊下へと押し出され、勢いあまって石の床に倒れ込んだ。手のひらが床に叩きつけられ、鋭い痛みが走る。膝も打ち、身体中が痛んだ。

 何かが顔に投げつけられ、視界が遮られる。レオニードのガウンだった。黒い布が僕の身体を覆い、バニラと木の香りが鼻をつく。

「さっさと部屋に戻れ」

 上から冷たく見下ろす声が響き、扉が閉まる音がした。バタンという大きな音が廊下に響き渡り、僕は床に倒れたまま動けなかった。

 曲がり角から、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

「ほら、やっぱり追い返されたわ」

「追い返されるに決まってるじゃない」

「恥ずかしくないのかしら? 普通、一回拒絶されればわかるのにね」

「オメガのくせに、みっともない」

 使用人たちの嘲笑が耳に突き刺さり、涙が溢れそうになった。ガウンを握りしめ、身体を起こす。膝が痛み、手のひらが擦り剥けている。夜着は乱れ、肌が露わになっていた。

 ガウンを身体に巻きつけ、よろよろと立ち上がる。使用人たちは僕の姿を見て、また笑いながら立ち去っていった。背中に視線が突き刺さり、胸が苦しくなる。

(恥ずかしいに決まってる)

 心の中で呟きながら、自分の部屋へと向かった。足を引きずるように歩き、扉を開けて中に入る。扉を閉め、鍵をかけると、その場に崩れ落ちた。

 床に座り込み、膝を抱える。涙が溢れてきて、止まらなくなった。顔を膝に埋め、声を殺して泣いた。

 拒絶されている。

(それでも、行かなければいけないんだ)

 結婚式の夜、僕は自分の部屋で夫が訪ねてくるのを待っていた。ベッドに座り、時計の針が進む音を聞きながら、じっと待ち続けた。九時を過ぎ、十時を過ぎ、十一時になっても誰も来なかった。結局、その日は来てくれなかった。

 翌朝、僕は意を決してレオニードの部屋を訪ねた。来てくれないのなら、僕から行くしかない。

ノックをして、中に入るとレオニードは書類を読んでいて、僕の姿を見ても顔を上げなかった。

(僕の父上と一緒だ)

 目も合わせてくれない。

「あの……昨夜は……」

 言葉を続けようとすると、レオニードは書類から目を離さずに言った。

「用がないなら出ていけ」

 冷たい声に、胸が締め付けられた。

「でも、夫婦なのに……」

「夫婦?」

 レオニードは初めて顔を上げ、冷たい瞳で僕を見つめた。

「お前を抱く気はない。勘違いするな」

 はっきりと拒絶の言葉を突きつけられ、息が止まりそうになった。

「出ていけ」

 レオニードの命令に、僕は部屋を出るしかなかった。扉が背後で閉まり、廊下に一人取り残される。

 それから毎晩、僕はレオニードの部屋を訪ねている。メイドが用意してくれた、素肌の透ける夜着を纏って。色香を漂わせ、甘い香油を身につける。

 使用人たちの冷たい視線を浴びながら、彼の部屋の扉を叩き続けていた。

 床に座り込んだまま、僕は手のひらを見つめた。擦り剥けた肌から、少し血が滲んでいる。痛みが鈍く響き、身体中が疲れ果てていた。

(年齢的にも、もうラストチャンスなんだ)

 僕は二十五歳。

 妊娠できる可能性は日に日に低くなっていく。医学の書物に書いてあった記録では、初産の最高齢は二十八歳。つまり、僕にはあと三年しか残されていない。今回の結婚が失敗すれば、もう次と思う。

 父にも「今度こそ失敗するな」と言われている。失敗すれば、僕には何の価値もなくなる。

 子どもが産めなくなったオメガなど、父にとったら不必要なゴミと一緒だ。今はまだ政治的に利用価値が残されているから、必死に四人目となる結婚相手を見つけてくれた。

(子どもがほしい。自分の子を抱きたい)

 それが僕の唯一の願い。温かい家族がほしい。愛する存在がほしい。

 レオニードが僕を愛していないのはわかっている。冷たい眼差し、拒絶の言葉。どれを取っても、好意があるとは思えない。

 それでも、子どもさえ授かることができれば、僕には生きる意味ができる。

 立ち上がり、ベッドへと向かった。身体を横たえ、天井を見つめる。暖炉の火が揺れ、影が天井を這っている。

(明日も、また行こう。明後日も、その次も)

 諦めるわけにはいかない。

 自分に言い聞かせるように、心の中で繰り返した。涙は乾き、ただ虚無感だけが残る。窓の外では風が吹き、木々が揺れる音が聞こえていた。

(いつか、きっと――)

 そう願いながら、僕は目を閉じた。長い、長い夜が、静かに過ぎていく。

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