Semua Bab いつかの一枚のために: Bab 71 - Bab 80

120 Bab

第71話

幸い、不穏な動きをしていた犯人たちは先日逮捕されて、移動の心配もなくなっていた。「こっちでの滞在は家においで。子供たちも連れてくればいい。」と、上機嫌だった。涼禾が東都に通い始めたある日、中京市にいた涼禾に安西から相談したい事が出来たと連絡が入った。彼女の相談とは、ある客からの依頼についてだった。「昨日わざわざお店を訪ねてくださった方なのですけど。ちょっとお受けするか判断できなくて保留にさせていただいたんです。」「難しい依頼ですか?」「いえ、依頼自体は、娘さんのピアノの演奏会用のドレスを、というもので問題はないのですが。」「では何が問題なのですか。」「それが…。依頼に来てくださったのが瀬川果奈さんとそのお義姉様なんです。」「瀬川果奈さん?ドレスだったら果奈さんの方がずっと姪御さんに合う素敵なものが出来るのでは?」「そう思われますよね。それに、果奈さんといえば……。」安西は少し言葉を詰まらせた。「隼翔さんのことですよね。それについては、こちらがびっくりするくらいあっさりと認めてくださったんですけど。」隼翔は、少し前からの不穏な動きに果奈が関与していないと推測できた時に、周囲より先に涼禾との事を伝えた。果奈は既に何かを察していたらしく、「おめでとうございます。私のことはご心配なく。もうちゃんと心の整理は出来ていますわ。一足先にお知らせくださった御心遣い、感謝致します。私、心からお二人のお幸せをお祈り致しますわ。」と言ったそうだ。その報告を聞いて健人は、「そんなにあっさり認められると、こっちが振られたような気になるね。」と言い、颯太は、「隼翔さんは単純に安心してたみたいだよ。果奈さんてカッコいいね。僕は見直しちゃったよ。」と言っていた。本当の果奈の心の中は分からないが、それなりに複雑なものがあっただろう。それを、周囲に気を遣わせないように振る舞える彼女は強い人だと涼禾は思った。それらを簡単に安西に説明して、「なので、変な意図はないと思います。依頼の様子をもう少し詳しく教えていただけますか。」安西によると、一昨日、店にドレスのオーダーメイドを依頼したいので翌日に訪ねたいとの連絡が入った。店としては、既に予約でいっぱいなので受けるのは難しいと一度は断った。しかし、娘さんがパーティーで涼禾の着ていたドレスがとても気に入って、
Baca selengkapnya

第72話

「聡美は、私から見ても本当によく頑張っている可愛い姪なんです。何とかお願いできませんでしょうか。もしお許しいただけるなら、私からも直接デザイナーさんにお願いに参ります。」とまで言われて、安西も相談してみますと折れるしかなかった。そして一晩考えて、涼禾に相談しようと決心したということだった。涼禾は、先日会った聡美の姿を思い浮かべていた。陽亮と夏蓮が通っている音楽教室で、教室出身のピアノ奏者として2週連続で演奏を披露した。彼女はプロではないが、幾つかのコンテストで優勝した人気の演奏者だった。陽亮によると、「こころにしみ入る音。」という評価で、家族はあまりの大人びた表現に微笑ましく思ったが、夏蓮の「おねえさんさんのやさしい気持ちがかんじられる。」という評価には大いに興味を惹かれた。2回目の演奏の日、涼禾と佐和子の二人で子供たちに付き添い、鑑賞した。 聡美は、色が白く華奢な姿だった。が、幼さが残る可愛らしい顔立ちと、強い意思が感じられる生き生きとした瞳が印象的な少女だった。演奏も、二人が評したように、聴く者の心の惹きつける澄んだ音色を奏でていた。あの少女の衣装を自分が任せてもらえる、と思うと涼禾の心は大きく動いた。「安西さん、わがまま言って申し訳ありませんが、何とか引き受けることはできませんか?」「そうですねぇ。」と暫く考えた後、「演奏会はゴールデンウィークの終わり頃なので、一ヶ月近く先です。生地やデザインにも因りますが、裁断、縫製自体は2週間あれば何とか。後はデザインとパターンづくりと材料調達がどのぐらいでできるかですね。」「10日前後でそれを仕上げれば後はお願いできますか?」「そこまでお願いできれば、何とか遣り繰りしてみます。」「あと、もう一つお願いがあるのですが。」「何でしょう。」「パターンを沢辺さんにお願いすることは可能でしょうか。」「沢辺…ですか?彼女はあの件で辞職しましたが…。」「ええ、実質的な損害はなかったので、個人的な事情での退職という形にしたと聞いています。」「その通りです。犯人たちの自供に基づいて事情聴取は受けました。が、結局、犯行は思いとどまったので、こちらから情状酌量を申し出て、罪には問われませんでした。」「お店の他のメンバーにはどの程度事情が伝わっているのですか?」「多分、ほとんど伝わってい
Baca selengkapnya

第73話

最初、涼禾の顔を見た聡美の母の亜沙美は驚いた。「あなたは、安藤涼禾さん?どうして…?」「ご挨拶が遅れました。私がご指名いただいたデザイナーです。」「まぁ!あなたがご自身でデザインなさってたなんて!素敵だったわよ、あのドレス。」「ありがとうございます。この度は、娘さんの衣装をお任せくださると聞いて、嬉しくて。先日、私の子供たちの通う音楽教室で娘さんの演奏を聴かせていただいて、とても感動しました。私でよろしければ是非受けさせてください。」「えっ?子供さん?確かこの間江崎社長とご婚約なさったとか。」「ええ、少し事情がありまして…。」「あっ、ごめんなさい。余計な詮索はしないわ。娘のドレスの件、よろしくお願いします。」打ち合わせでは、当日の演奏会についての詳細と演奏曲と聡美の希望するイメージなどを聞き取り、数日中にデザイン画を届ける約束をして屋敷を出た。涼禾は、「瀬川社長のご自宅って豪華でしたねぇ。」外に出るなり思わず安西に呟いた。安西は、「確かに。涼禾さん、一緒に頑張りましょうね。」と、まだ少し気後れしている涼禾を励ました。安西はこの依頼について、始めの頃はあまり乗り気ではなかった。制作期間や依頼者について不安が多かったからだ。しかし涼禾が興味を示し、沢辺を連れ戻す提案までしてくれたことで気が変わった。沢辺の実力や人柄は気に入っていたものの、江崎家と安藤家への遠慮から引き留めることはできなかった。それが残念で今だに気になっていた。そんな時、涼禾はすぐに自ら動き、説得して連れ戻してくれた。安西は涼禾に感謝し、この依頼を成功させるようしっかりサポートすることにした。翌日、涼禾は一旦中京市に帰った。そして健人に事情を話して協力を願った。健人も始めは難色を示した。「果奈さんへの疑いは消えたとはいえ、瀬川グループの関係者への疑いは消えていないんだよ。関わらない方がいいんじゃないか?」「そうかもしれない。でも、どうしてもあの子の為に私ができることをしてあげたいの。」「理由を聞かせてくれるかい?」「それは……。」「言いにくいこと?」涼禾は首を横に振った。「まだ、自分でもはっきり分からないの。」「新しく何かを思い出したの?」今度は小さく首を縦に振った。「誰かに相談した?」「まだ。怖くて。今度こそ周りの人たちにとんでもない迷惑
Baca selengkapnya

第74話

佐伯の何度目かの声掛けに、時間を確認してみると既に5時半を回っていた。「あっ!佐伯さんすみませんでした。長い時間付き合わせてしまって。今日はもう終わりにします。」と、会社の建物に戻ろうとしていると、「やっと見つけた。」颯太の声が聞こえた。「颯太兄さん?どうして?」「健人から連絡があったんだよ。涼禾がまだ戻ってこないけど、今は手が離せなくて迎えに行けないって。」「すみません、つい夢中になっちゃって。今戻ろうとしてたところなの。」「そう、どうだった?イメージ浮かんできた?」「ええ、幾つか候補は見つかったわ。でも、私が使ってしまってもいいのか判断できないのもあったの。」「ん?どれかな?」カートの中を覗き込む颯太に、涼禾が気になった生地と幾つかの素材を指し示した。素材については、「問題ない。」と即答した颯太だったが、生地を見て少し驚いた表情を見せた。「よくこんなの見つけたね。これ、数年前に試作品で作ったんだけど、中々使いこなせなくてお蔵入りしてたんだよ。」「どんな点が?」「この生地の地模様に使ってるのがちょっと特殊な糸でね。光の具合で色が変わって模様が浮き上がったり見えなくなったりするんで、着る場やデザインが難しくて。これは……、蛍光灯では分からないけどブラックライトを当てるとブルーの模様が浮かぶんだったかな。他にも斜めからのスポットライトでシルバーに輝いたり、回転する光で虹色に光ったりするのもあるんだ。面白いんだけど、使いづらいよね。」「面白い!でも今回は時間が足りないかな。他のにします。」颯太の説明が楽しくて、ついまた時間がたってしまって、さらに1時間ほどした頃、「涼禾、兄さん、いつまでやってんの?」健人までやってきた。佐伯を先に返して三人であれこれと話しながらゆっくりと健人の執務室に戻る頃には、涼禾の頭の中には既に数点のデザインが浮かび上がっていた。涼禾は、子供たちの教室に付き添ったりしながら、あと二日ほどかけて三枚のデザイン画を描き上げた。そして前回訪問から四日目に、安西と共に再び瀬川邸を訪ねた。瀬川邸の応接室で待っていると、「こんにちは、ようこそおいでくださいました。」聡美と、彼女に寄り添うように果奈が部屋に入って来た。「お邪魔しています。この度は、ご依頼ありがとうございます。」涼禾と安西は立ち上がり、二人
Baca selengkapnya

第75話

想像以上の期待をかけられていることに驚いて緊張する涼禾と安西に、「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。」と果奈が微笑みながら話を続けた。「今回の演奏会はお伝えしましたように、学園のイベントの一つなのです。複数の出演者の内の一人として演奏するだけですから。」「そうなんですけど。私にとっては大切な機会の一つです!」「それはわかっているわよ。」二人の気安そうなやり取りを見ていると、緊張もほぐれてきて涼禾が徐にデザイン画を差し出した。「気に入っていただけたらいいのですが。」「あら、ありがとう、早速見せていただくわ。」「おばさまずるい!私のドレスよ!」 並んで仲良く見始めた二人は、一枚めくるごとに瞳を輝かせて嬉しそうな笑顔を見せた。「素敵よ、安藤さん!私ではどうしても『可愛い姪』という気持ちが出てしまって幼さが抜けなかったのね。」「ほんとに素敵。でも、私に似合うかな。」「一応、聡美さんが演奏されていた姿を思い浮かべながら、演奏される予定の曲も聞いてみて描いたつもりです。」「そう言えば、母から聞きました。陽亮くんと夏蓮ちゃんのママなのですね。」「ええ、二人ともあなたのことが大好きで、家で楽しそうに話してくれました。」「嬉しいです。そう言えば夏蓮ちゃんて………。?」突然戸惑った表情になった聡美を見て、その場の全員が不思議そうに彼女を見た。「夏蓮が何か……?」涼禾の問いかけに、聡美は軽く首を横に振りながら、「いえ、夏蓮ちゃんてかわいいな〜って。陽亮くんとはまた少し違う感じですよね。」「そうですね。双子ではありますが、それぞれの個性がありますね。」「えっと、デザインですが、家族で相談して遅くとも明後日の午前中にはお返事する、と言うことで間に合いますか。」果奈が話を戻すと、安西が、「大丈夫です。」と、しっかりと返事をした。その後、もう少し雑談をして瀬川邸を後にした。夕方になり、聡美の母の亜沙美が家に帰るなり聡美が待ちかねたように出迎えて、「お母様、おかえりなさい。夕食までにお時間あります?」「あら、ごきげんね。少しなら大丈夫よ。」と亜沙美は笑顔で答えた。亜沙美が着替えを終えリビングに姿を見せると、三枚の絵を嬉しそうに見ていた聡美が、「お母様見て、」と、早速デザイン画を差し出してきた。「どんな感じかしら。」亜沙美が興
Baca selengkapnya

第76話

「わがままかもしれないけど、全部欲しいの。」「全部?さすがにそれは間に合わないと思うわ。」「勿論!今回着るのは一着だけだから間に合わせるのは一着でいいの。でも、後の2着も着て演奏してみたい曲があるの。」「曲?ドレスに合う曲があるって?今まで練習してきた曲のどれかかしら。」「………。」聡美は俯いて、言おうかどうしようか暫く迷った末に、「私、自分で創った曲があるの。小さい頃からピアノが大好きで、ピアニストになりたいって思ってた。でも、つい頑張りすぎてしまうと、すぐに熱が出たり苦しくなったりで中々上手くなれなくて。そんな時、私が元気になれるお薬を創ってくれる人が見つかったって話があったの。覚えてる?」亜沙美は当時を思い出し暗い表情になった。「ええ、もう十年になるかしらね。でも、その方たちが事故で亡くなってしまって。それがどうしたの?」「その時、嬉しくてお母様と一緒にその方たちにお手紙を書いたでしょ。」「そうだったわね。聡美が文字を書いて、私がピアノを弾いているあなたのイラストを添えたのだったかしら。」「そう、それ。そのお手紙を書いた後、お父様が私の体はいつかみんなと同じように元気になれるよって言ってくださったの。だから、焦らないで今できることを頑張っていこうねって。その頃からかな。少しずつ心に浮かんだ音を書き留めて、曲を創ってきたの。いつか自分で書いた曲を演奏できるピアニストになりたいって思って。」「そうだったの。初めて聞くわ。で、その曲は誰かに披露したの?」「いいえ、まだ。手直しが必要な部分もあるし、私の体は相変わらずだし。まだ誰かに聞いて貰おうとも思ってなかった。だけど、あの美しいドレスを着ていろんな人達に私の曲を聴いて貰えたら幸せだろうなぁ、って。」亜沙美は、聡美が今まで勉強もピアノも自分なりに頑張ってきた姿をずっとそばで見守ってきた。しかし、体調が不安定なこともあり、自分から積極的に何かしたいと言い出すことはほとんどなかった。その娘が今、自分の夢を話してくれた。亜沙美は嬉しくて思わず聡美を抱きしめ、「すごいわ、聡美!お母様に任せて。あなたの夢を叶えてあげる!」娘に約束をした。亜沙美はその夜、聡美の希望を是非実現させてあげたい、と夫の聡に相談した。彼は、「僕も応援してあげたいとは思うよ。でも、聡美は高等部に入ったばかりだ。
Baca selengkapnya

第77話

「隼翔さん、すみません。新居のことも大切なのですが、亮と住んでいた家のことが気になって仕方ないんです。今回はそちらを優先してもいいですか。」「式は秋になるから、まだ余裕はあるけど…。何がそんなに気になるの?」「実は…。」涼禾は少し前に思い出した手紙に関する事を話して、両親が亡くなる直前に手掛けていた薬が聡美と関係あるらしいと思うこと。それから、5年前にその事で何か動きがあったのではと思う事を伝えた。「5年前のことは入江たちの犯行だけじゃなかった、と思うの?」「ええ。そう言えば、彼女たちのことはもう解決したんですか?」「ううん…。実は、ほとんどは調査も済んで犯行は確定したんだけど、幾つか自供と調査結果が食い違っていてね。」「例えば?」「話しても大丈夫?辛くない?」「大丈夫です。辛くなったらすぐに言います。」「わかった。実は君を呼び出して、その…閉じ込めてた場所なんだけど、東都だったって言うんだ。その時君はすでに怪我をしていて一人で中京市まで行ける状態では無かったらしい。」「でも、私が今の両親に助けてもらったのは中京市の北の山の中だったわ。」「そうなんだよね。そこがよく分からない。それに……。」「それに?」「君の怪我の状態が、彼女たちの供述と合わない。」「…?」「彼女たちはまだ連れ去って来たばかりで、強い打撲や掠り傷だったと言うが、実際は切り傷なんかもあったらしい。」「………。」「そして、服装が違う。」「服装!?」「君は園田に店に呼び出されたから、通勤用の私服だったと言っているらしい。でも、発見時は事務職の制服のようだった。君の私服でそんなのは無かったと思う。それから、」「まだあるの?」「これで最後。中京市側の協力者が誰だか分からない。園田は瀬川グループの社長秘書室の人物だと思っていたらしい。でもそんな人物は存在しなかった。内容が内容だけに個人の携帯で連絡し合っていたらしいが、調べてみたら闇番号だった。全く関係ない人物が契約して売ったもので既に解約されていたらしい。」 「………。やっぱり、犯人は一組だけじゃなかった、ということ……?」「何か心当たりがあるの?」「はっきりとは思い出せないのだけれど、体の自由を奪われてて、デザイン画を渡せと言われていた気がしたり、書類を渡せと言われていた気もするし、混乱してどちらか分からなく
Baca selengkapnya

第78話

隼翔が示す部屋に入ってみると、淡いベージュのカーテンが掛かっていて、ワインレッドのカバーで覆われたベッド、濃い茶色の木目模様の机や本棚が置かれていた。そして壁には何枚かの絵が飾られていた。隼翔が一番小さい絵を指さして、「これは“四季彩”の冬の作品の一つだね。」と、懐かしそうに見た。涼禾もその絵を見て、「可愛い。こんな作品を描いていたのね。」と言った後、その右隣の絵を見た。「これは…どこかしら。」そこには白い砂浜のある海辺の景色が描かれていた。穏やかな波が打ち寄せる水際や遠くに見える灯台、砂浜から少し陸の方に入った所に建つ赤い屋根の可愛い家。実在するかも分からない温かみのあるその景色を見ていると、とても懐かしい気持ちが浮かんで来た。「これも君が描いた作品だと聞いたよ。」「そうなんですね。」風景画はそれ一枚だけで、後は全てデザイン画のようだった。特に気になるものがなかったので、本棚の方を見てみるとそこにも小さな額に入った絵が何枚か立てかけてあった。「この辺りは大学の頃に描いたものの気がする。もっと前のは…。」と呟きながら辺りを見回していると、隼翔が尋ねてきた。「絵に何かあるの?」「多分だけど、母が亡くなる直前に、私と亮に同じ道を選んだら絵を見てって言った気がするんです。」「同じ道?」「ええ、両親と同じ道、当時は薬剤師を目指すことになったら、っていう意味かと思ったのだけど、私は既にデザインを学ぼうと決めていたので諦めたんです。でも亮は母が何を伝えたかったのか知りたい、と言っていたから今の道を選んだのだと思います。」「で、何か分かったのかな。」「さぁ、亮からは何も聞いてないですね。」結局その日は特に気になるものは見つからなかった。2時間ほどその部屋で過ごした後、二人は江崎家へと帰って行った。その後も2回部屋を訪れたものの、結局何も分からないままだった。5月の始めになり、無事聡美のドレスが仕上がった。早速アトリエへ試着に訪れた聡美は、トルソーに飾られたドレスを見るなり、「素敵…。」と呟いて暫く見惚れていた。一緒に付き添って来ていた母の亜沙美が、「見てばかりでいないで早く着て見せて。」と急かしてようやくスタッフと共に試着をしに行った。着替え終えて戻ってきた聡美を見て、今度は亜沙美の方が言葉を失って見惚れてしまった
Baca selengkapnya

第79話

学園の演奏会当日、この日は学園生徒と保護者、その他関係者や招待客のみに入場が許可されていた。涼禾たちは関係者として招待をされていた。午前中は小学部と中学部の演奏発表である。お昼休憩を挟んで、午後の一番目に聡美の演奏が始まる。周囲を新緑の木々に囲まれた屋外舞台の上に、木製の台と共に立派なピアノが設置された。そして慎重に調律が施され準備が整った。木々の間からは柔らかな光が差し込み、自然の照明演出も期待できそうだ。時間通りに午後の部が始まった。司会者の紹介を受け聡美が登場すると、会場は大きな拍手と共に”ほぉ〜“という感嘆のため息で包まれた。聡美はライトグリーンのドレスを着て、髪を高い位置で一つに纏め白のリボンで飾っていた。ほんのりピンク色の頬と艶のある薄赤の唇は、とても健康的で若々しい美しさを感じさせた。静かに演奏が始まり、いつにも増して優雅で力強い音が流れ始めた。2曲目は明るくポップな曲で楽しみ、3曲目は雄大な曲で、いよいよ最後の盛り上がりの時、一際明るい日差しが全身で演奏する聡美に降り注いだ。すると、グリーンの衣装にキラキラ光る銀色のリーフ模様が浮かび上がり、幻想的な世界を創りあげた。観客は息をのんで演奏に聴き入った。演奏が終わった時、会場は一瞬静寂に包まれたが、その後大きな歓声と拍手が響き渡った。「瀬川さんてすごいピアノ奏者なんですね。」「そうですね、ちょっと上手な高校生、とか思っていた自分が恥ずかしいです。」安西と沢辺の感想を聞いて涼禾も、「ビデオ撮ってて大正解でしたね。」と感動の余韻に浸っていた。前回聞いた時も感動したが、今日は更に力強さが加わり圧巻の演奏だった。三人はこのステージに自分たちの作品が彩りを添えられた事を誇りに感じていた。しかし、このステージを全く違った目で見ていた人達がいた。「やはり浅野夫妻はあの薬を完成させていたのか。」「いや、後を継いだのは息子の方のはず。娘が接触しているだけではまだ分からない。」「情報を瀬川グループに渡したのかもしれない。」「だとしたら大変だ。何とか情報を集めなければ。」演奏を終えた聡美は舞台袖で、興奮と疲労から放心状態で座っていた。「聡美!大丈夫?医務室で休ませてもらおうか?」友人の村田倫子が心配そうに声をかけた。彼女にとって、いつもはおとなしく儚げなこの友人は、ピア
Baca selengkapnya

第80話

この日の演奏会で飛び抜けて一番の高評価を得たのは聡美だった。演奏は勿論、衣装も素晴らしく、特に最期の光の演出は偶然とはいえ多くの人達に感動を与えたのだった。聡美の衣装の評判のおかげで、アトリエ『AYAKA』はますます多くの依頼が殺到した。「涼禾さん、このままではみんな体が持ちません。人を増やせるように社長に進言してもらえませんか。」「そうね、まだ開店間もないのに断ってばかりもいけないし。兄さんたちに相談してみるわ。」涼禾は中京市に帰るとすぐに、会社へ寄ってみた。すると、会社のあちこちでみんな大忙しの様子だった。まずは健人の所に行ってみると、「やあ、涼禾おかえり。」と、ぐったりしながら書類を見ていた健人が声をかけてくれた。「兄さん、会社の中が更に慌ただしくなってる気がするのだけど。何かあったの?」「何かじゃないよ、お前のせいでもあるんだからね。」「え?私何かした?」「やっぱり自覚なしか。この間の瀬川のお嬢様の件だよ。あの演奏会の映像がネットで大評判でさ。最後にリーフ柄が光っただろう、あれは何だって問い合わせがいっぱい来ちゃって。あれ、今回は使わない予定じゃなかった?」「あぁ、あれ。何か楽しくなって一枚入れてたら選ばれてしまって。でも中々の出来だったでしょ。」「確かに。でもイベントの影響も残ってる上にだからちょっと厳しい。」「ごめんなさい。それで、アトリエも大変なことになってて人を増やせないかって相談されたのだけど。」「そうだなぁ。いきなり正社員を増やすのはちょっと難しいかなぁ。こっちの服飾部門で手伝えないか検討してみるよ。」「ありがとう。よろしくお願いします。私は家に帰って差し入れを用意してくるわ。」「それは嬉しいね。颯太兄さんも大変だと思うからそっちの分もね。」 「わかりました。じゃあね。」涼禾が会社からすぐに家に帰ると、お昼前になっていた。「ただいま。」「「ママ〜、おかえり〜!」」「二人とも、今日は絵画教室の日じゃなかった?」「ママがかえってくるってきいたからおやすみしたの。」「ママ、ちょっとおそかった…。」「ごめんなさい。二人ともお出かけしてると思っていたから、健人おじさんとお話してから帰ってきたの。」「そうなんだ。」「おじさんたち、いそがしいの?」「そうね、とっても忙しそうね。だから、おやつやご飯を持
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
678910
...
12
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status