All Chapters of いつかの一枚のために: Chapter 61 - Chapter 70

120 Chapters

第61話

「おばさま、先日はありがとうございました。その上、今日はこんなに沢山のおみやげまで。本当にありがとうございます。」 「「ありがとう〜。」」 「あら、もう着いたの?最近出来た鉄道最速便てホントにすごいわね。喜んでもらえたようで良かったわ。あら、今何かメールが届いたみたい、ちょっと待ってて。」 一旦切れたあと、少ししてかかってきた時は、 「もしもし、かわいい動画をありがとう!」 と、嬉しそうな声が返ってきた。 続いて健人の携帯には倫太郎と隼翔から自分にも動画を送れと催促のメッセージが入った。 江崎家からの温かい心遣いが安藤家の皆の心も温めてくれた。 夜になり、颯太も一緒に今回の合同作業期間の様子の報告と、これからについて話をした。 「涼禾に動画を送ってきたり、音楽教室で何組かの親子に探らせたりしたのは、その入江さんとその仲間たちという可能性が高いってことだね。やっと相手が見えてきたね。」 「そうだね。仲間のもう1人は秘書室の園田さん。彼女は涼禾がいた時同じプロジェクトのメンバーだったそうだ。」 「あとは、瀬川側にいる誰か。果奈さんのアシスタントか、兄の瀬川社長の秘書室の誰か辺りだと思う。」 隼翔か江崎グループかの関係での相手はようやく見当をつける事が出来た。証拠を見つけて告発するか、これ以上関わってこないよう対策をするのか検討していくことにした。 イベントまで約二カ月、仕事に加えて涼禾にはもう一つ準備するものがあった。 それはイベントのパーティーで隼翔と着る衣装だ。両家はそこで二人の婚約を発表するつもりだった。それに相応しい衣装を涼禾自身がデザインしたいと申し出た。 ようやく昔の感覚が戻ってきた気がしてきたので、復帰第一作を自分たちで身につけたいと考えたのだ。 涼禾の気持ちを聞いて家族も賛成した。 そこで、例の物件を実際にアトリエにしてそこで製作することにした。そこで働くスタッフは一般に募集し、代表は『安藤』の関係者が務めるのだ。 いざスタッフを募集してみると、応募してきた中に2名ほど違和感を感じる人がいた。 人を雇って調べてみると、その内の1人が江崎グループの入江の知人だとわかった。 「これはもう確定だね。」 結果を聞いた健人が言った。颯太も、 「いわゆるスパイって奴?」 「今度は何をするつもりだろう。」 隼
Read more

第62話

「そうね、顔も彫りが深くて素敵よ。きっとよくお似合いになると思うわ。」「へぇー、会ってみたいなあ。でも確かお揃いの色のドレスも作っていますよね。もしかしてご夫婦とか?」「いいえ、まだご結婚はされていなかったと思うけど。」「と言うことは婚約者?」「さぁ、どうだったかしらね。随分興味津々ね。」「それは…、イケメンのことは気になりますよ。ところで、このスーツとドレスのデザインって安西さんがされたのですか?」「………。残念ながら私ではないのよ。知り合いのデザイナーの人が考えたものよ。」「そうですか。素敵ですね。」安西は、予想していたとはいえ少し残念な気持ちになった。沢辺がスパイかもしれないとは聞いていたが、今の所実力もあり、よく働く好ましい人材だと思っていたのだ。しかし、沢辺に気づかれるわけにはいかない。何事もなかったように、「おしゃべりはそこまでにして、しっかり仕事をしなさい。」と作業に集中させた。この報告を聞いた隼翔は、早速颯太たちとオンラインで相談した。「やっぱりそうだったんだ。今度は何をするつもりだろう。」「よくあるのは製作過程で失敗を装ってだめにするとか。」「デザインを盗んでコピーを作って恥をかかせるとか。」「仕上がった服に細工をしたりわざと汚したりするとか。」「どれもありそうだね。」「どれも腹が立つよ。」「仕方ない。もう一着、別のところで作ることにしよう。」このアトリエは、当分の間涼禾の作品を作るという計画を諦め、相手の出方を見る為の場所にすることにした。ゆっくり製作をしていたスーツとドレスは、ひと月ほどして仮縫いが完成した。ここまでは問題なく進んだので、相手方の動きを促すために一つ仕掛けて見ることにした。安西がスタッフを集めて真剣な表情で説明を始めた。「今から話すことはまだ公表されていないことなので、皆さんには決して口外しないようにお願いします。」何だろうと興味津々の者や、気を引き締めるかのような真剣な表情の者など、スタッフたちの反応は様々だった。「先日仮縫いが出来たスーツとドレスですが、3週間後に行われる江崎グループと安藤との合同イベントのパーティーで使用されます。着用されるのは江崎グループの社長の隼翔氏と安藤の令嬢の涼禾さんで、その場でお二人のご婚約が発表される予定です。」「「「ええ〜っ?!」」」「「
Read more

第63話

翌日、予定通りの時間に現れた隼翔は、噂通りの長身でスタイルも良く、何よりも顔が素晴らしく整っていた。そして、やはり噂通りの冷淡な表情だった。出迎えたスタッフは緊張した面持ちで対応し、安西とも軽く挨拶をしただけですぐに更衣室へと入っていった。暫くして、涼禾が店に到着した。同じく緊張した表情で出迎えたスタッフは、涼禾を見るなり想像以上の美しさに目を奪われ一層緊張が増していった。しかし、涼禾が隼翔と違い穏やかな笑顔を浮かべながら「皆様、今日はよろしくお願いします。楽しみにしていましたので、試着出来るのがとても嬉しいです。」と丁寧に挨拶をしたので、ほっとして緊張もほぐれ、和やかに案内していった。既に着替え終えた隼翔が、待合室で待っていると、「安藤様の準備ができました。」と声がかかった。隼翔は素早く立ち上がると入り口の方に向かい、涼禾が入ってくるのを待った。間もなくスタッフに手を取られ入って来た涼禾を眩しげに見つめた後、満面の笑顔で手を差し出し涼禾を迎えた。「綺麗だよ、涼禾。パーティーが待ち遠しい。」「ありがとう、隼翔さん。あなたもとても素敵よ。」美しく着飾った美男美女の仲睦まじい様子に、そばで立ち合っていた一同は感嘆のため息を漏らした。特に、来たときとは別人のような隼翔の甘やかな微笑みには女性のみならず一同が見惚れてしまった。一方で、その衣装を自分たちが創り上げるのだという誇らしさに満ちていた。 沢辺もまた、その一人だった。しかし、自身に課せられた役割を思うと、途端にずしりと重いものが心にのしかかった。沢辺は小さい頃からかわいい洋服が大好きだった。「お母さん、今度のお誕生日にはピンクのワンピースが欲しいの。」「いいわよ。今年は仕事も忙しくないし、世界に一つだけのかわいいのを作ってあげる。」彼女の母は服飾メーカーで縫製の仕事をしていた。なので娘のために心を込めて彼女の望む服を縫ってくれた。とはいえ、さほど裕福ではなかったため、高価なドレスなどは手が出ない。せいぜい誕生日やお正月などに着る、少しおしゃれな服を作る程度だった。彼女は成長するにつれ、自分も相手に喜んでもらえるような服が作れるようになりたい、と思うようになった。専門学校で勉強する傍ら、メーカーのデザイン室でアルバイトをして実践的な経験も積んでいった。卒業後、友人と共同で小
Read more

第64話

忙しい日々の中、ショーの準備は順調に進み、いよいよ仕上げの3日間となった。課題のバッグの色は残念ながら間に合わなかったが、ヒールは要望通りの物を仕上げる事が出来た。ファッションショーのチームはお互いの仕事を持ち寄り最終の仕上げに入った。今回も涼禾の近くには加藤が待機していた。作業二日目、涼禾のチームも社内の作業部屋で最終確認を終えた。いよいよ明日は本番の会場で当日と同じようにリハーサルが行われる。午後に会場までの搬入作業を終えれば今日の仕事は終了だ。「ここは2時半に搬送スタッフが来る予定だから、それまでに昼食を済ませて高橋さんと川端さんは私と待機していて。安藤さんと沢村さんと兵藤さんと加藤さんは昼食後すぐに移動して会場で荷物を受け取ってね。出荷用と受け取り用のリストも照合しておくように。」「「「はい。」」」早速リストの照合を終えたところに、加藤がメンバーに声をかけた。「すみません!こちらに箱が残っているようなんですけど確認お願いできますか!」「えっ?全部揃っていたはずだけど。」皆が箱の方に行くのと反対に加藤はリストの方に向かい、リストを見ながら、「あっ!」と声を挙げた。皆が加藤の方を見ると、「すみません!指にインクが付いていて紙を汚してしまいました!」と、両方の紙にうっすら黒のインクが付いているのを見せた。田辺が、「構わないわよ。控えのメモみたいなものだから。それより、この箱、試作品や予備の作品ばかりみたいだから持っていかない物だと思うわ。」「そうでしたか。お騒がせしてすみませんでした。」「慎重なのはいいことよ。じゃ、皆さんこの後もよろしくお願いします!」「「「はい!」」」涼禾たちが会場で荷物の到着を待っていると、搬入スタッフが沢山の段ボール箱を運んできた。手分けして確認していると兵藤が、「ねぇ、このアクセサリーの箱一つ足りないみたいなんだけど。」と言い出した。搬送スタッフのリーダーがリストと照合しながら、「いえ、僕たちが預かったリストには確かに5箱とあるので間違いないはずです。」「そんなはずないわ!アクセサリーは6箱よ。」と手元のリストを見せた。「そんなこと言われても…。」困惑するリーダーに、加藤が「ちょっと見せていただけますか?」と言ってリストを受け取ると、紙の裏を確認し、「これは偽物です。」と断
Read more

第65話

涼禾も加藤と一緒に探していたところ、物陰から手が伸びてきて口元を押さえられた。そして腕を捕まれて箱のすき間に引き込まれた。何とか逃げようともがいたが力が入らなくなり、意識もなくなっていった。気がついた時、手足を縛られ口にはテープが貼られていた。辺りを見回すと暗くて狭い物置のような場所で周りは箱で囲まれていた。加藤とはぐれてどれくらいの時間が経ったのだろう。上着のポケットに入れていた携帯はなくなっていた。しかし指輪に仕込んだ発信器は無事のようだ。周囲に押し当てているうちにようやくスイッチが入った。ホッとして助けを待っていると、入り口のドアが開いて人が入ってきた。その人物たちが涼禾のそばまで来ると、そのうちの一人が顎を掴んで顔を覗き込んだ。「やっぱり、あなた浅野香子でしょう?てっきり5年前に死んだと思ってたのに。しぶとい女ね。あんな目に遭ったのに懲りずにまた隼翔さんに纏わりついて。」「ううっ、ううっ!」「5年前もそうだった。入社したばかりのくせに彼とすぐに親しそうにして。おまけにいきなり新ブランドのチーフデザイナーなんて図々しい!」女は憎々しげに言いながら、涼禾の脇腹を蹴りつけた。涼禾はあまりの痛みに一瞬息ができなくなった。が、腹を庇うように体を丸めて何とか耐えた。「あの時だってあなたに反感を持ってた人は結構いたのよ。だからあなたからデザインを奪ってついでに傷物にして追い払おうって計画だった。なのにいつの間にか監禁場所からいなくなって見つからなかった。きっと逃げてる途中で事故にでも遭って死んだんだろうって思っていたのに。」と言いながら今度は足を強く踏みつけてきた。「まさか別人の振りして戻ってくるなんてね。でも今度こそ終わりよ。あなたは会社に反感を持った暴漢に襲われて死ぬの。今頃社長室に脅迫メッセージが届いている頃よ。ドレスだって既にボロボロになっているわ。あなたなんかに隼翔さんは似合わない!恨むんなら自分の図々しさを恨むがいいわ。」女は後にいた二人の男に目で合図をした。男の一人が頷いて、手に持っていた棒を振り上げて涼禾の頭を目掛けて振り下ろそうとした。涼禾は 強く目を瞑って、来るだろう痛みを覚悟をした。が、一向にその衝撃も痛みも襲ってこない。それどころか、「誰よ!離しなさいよ!痛いじゃない!邪魔よ!」さっきまで得意気に話していた女
Read more

第66話

「涼禾、すまない。また君を傷つけてしまった。」涼禾は軽く首を横に振って穏やかに微笑んだ。「大丈夫。ねぇ、犯人は捕まった?解決しそう?」隼翔は複雑な顔で「ほとんどね。主犯はうちの入江と園田だ。あとは彼女たちに雇われた奴ら。アトリエの沢辺については保留。でも、中京市での協力者はよく分からない。」「そう……。ところで隼翔さん、ここにいて大丈夫なの?」「僕がここにいるのは当然だろう。もう誰の目も気にすることはないんだし。」「でも、明日リハーサルなんじゃ………。」「大丈夫だよ。健人くんや斉藤たちに任せておけば問題ない。涼禾は安心してゆっくり休んで。」「ありがとう。私は大丈夫よ。明後日のパーティーにも出席出来るわ。だから、準備は私の分もお願いしたいの。」「………。」隼翔は不満そうな顔で手を離そうとしない。「大丈夫だから。」再度涼禾に促され、渋々立ち上がったもののやはり手を離そうとしない。「明後日には私たちの婚約を発表するのよ。準備の仕上げに私が隼翔さんを独占しちゃったら皆さんに申し訳ないわ。」困ったような涼禾の顔を見て、隼翔もようやく諦めて手を離した。「わかったよ。誰にも涼禾を非難させたりしない。行ってくるからゆっくり休んでいて。」隼翔が病室から出ていくのと入れ替わりに美沙が入って来た。「涼禾さん、大変だったわね。痛みは?」「おばさま、ありがとうございます。もうほとんどありません。」「そう?お薬が効いているのね。でもまだ安静にしていてね。打撲で済んだとはいえ酷い傷だったそうよ。」「はい。」「ところで涼禾さん、明後日の衣装なのだけれど……。」「はい、もう自宅から届いていると思いますけれど。」「ええ、そうなんだけど、こちらのアトリエで作ってもらったのも届いたのよ。」「えっ?こちらのはおそらく無事には届かないだろうって…。」「それがね。」美沙は今日の午前中、安西が自宅に衣装を届けに来て、昨夜からの出来事を報告していった話を始めた。安西の話によると、昨日の夜、今日届ける衣装の最終確認をした後自身の執務室に戻った。雑務を片付けていると、血の気を失った顔色で目を真っ赤に腫らした沢辺が入って来た。彼女は入ってくるなり床に跪き、泣きながら話し始めた。「安西代表、申し訳ありませんでした!」嗚咽で支えながらも、このアトリエに就職した経
Read more

第67話

「話はわかりました。この件は江崎グループと安藤のイベントへの評価にも影響を与えかねません。どう対処するかは私が江崎家に報告してから決めます。あなたは私が連絡するまで自宅で謹慎していなさい。」もう一度深く礼をした後、沢辺は帰っていった。安西は衣装の無事を確認し、健人に事の次第を報告した。健人から江崎家に連絡し、翌日の午前中、美沙に安西への対応を任せたのだった。何も聞かされていなかった涼禾は驚きながら聞いていた。「私も若い頃にデザインの勉強をしたことがあるの。でも、それを仕事として続けられるほどの才能も情熱も無かったわ。出来上がった衣装はとっても素敵だった。デザインもだけど、優秀なスタッフたちが丁寧に仕上げてくれたのが伝わってきたの。沢辺さんていう方のことも憎めなくて。涼禾さん、どう思う?」「私も仮縫いで見せていただいた時、同じような事を感じました。是非完成したものが見たいです。」「そう?じゃあちょっと待ってて。」美沙はにっこり笑うと廊下にいる人物に声をかけた。「お願いします!」声をかけるなり数人がかりで4体のトルソーを運び込んできた。そしてそれぞれに掛けられた布を取ると、二組のとても華やかな衣装が現れた。一組は紺地のグラデーションの生地で、肩の淡い色から徐々に濃くなる色に合わせて刺しゅうとビーズがあしらわれシンプルな形ながら華やかさが感じられるドレスと、濃いめの紺地に袖口と襟元にお揃いの刺しゅうとビーズがあしらわれたスーツだった。そして二組目は先日試着した衣装の完成したものだった。仮縫いの時より更に細部に至るまで丁寧に仕立てられた素晴らしい仕上がりだった。「素敵……。」涼禾はどちらも素晴らしくて暫く見惚れてしまった。「どうかしら?」美沙に声を掛けられ少し考えた後、「どちらもとても素敵です。でも今回はグレーにしようかと思います。新しいアトリエの最初の大作ですから。予定通りの場でお披露目したいと思います。大丈夫でしょうか。」「もちろんよ!アクセサリーも小物もヘアメイクも全部私に任せてちょうだい!」「いえ、そこまでは……。」「だめ…かしら?私、娘が出来るのが嬉しくて仕方ないの。子供たちのお誕生日の時も佐和子さんがとっても羨ましかったのよ。ねぇ…。」華やかな美人の美沙に上目遣いでお願いされては、涼禾もとても断れずに、「では、母に
Read more

第68話

驚く加藤に、涼禾は微笑みながら答えた。「今回のことはある程度予想できていました。だから、前もっていろいろ対策もしていましたよね。」加藤は真剣に頷いた。「私自身も、今回こそは多少傷つこうが絶対に犯人を捕まえてやる、って覚悟していました。だから、捕まったって気づいた時も落ち着いて行動できました。それは、必ず加藤さんたちが助けてくださるって信じていたから。でも、あまり早く助かってしまうと、また中途半端に誤魔化されてしまいそうで心配だったんです。そういう意味で、盗聴もタイミングも完璧でした!さすが加藤さん!って。」そう言うと、涼禾は明るく笑った。加藤が戸惑った様子で涼禾を見ていると、「ごめんなさい。わが家ではみんなでよく言い合っているんですよ。」そこまで言うと、涼禾は真剣な顔になり、「本当にありがとうございました。」と頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。加藤はようやく表情を和らげ、「お役に立ててよかったです。」と、いつものように答えた。事件に関わった作業員や男達はその日のうちに逮捕され、その自供から行方不明の箱も見つかった。その後無事にリハーサルの準備を終えたのは日付けが変わる少し前だった。隼翔は病室で涼禾を見守りながら夜を過ごし、早朝に自宅に戻って行った。涼禾は朝食を終え、スマホで昨日の件がニュースになっていないか検索してみた。警察や救急車を呼んでそれなりの騒ぎになったので、報道されたかもと思ったのだ。が、全くどこにもそんな記事は見つからなかった。江崎グループの広報が素早く対応した為、メディアには一切出なかったのだ。安心して少し休もうと横になっていると、勢いよくドアが開き、「涼禾!大丈夫?」「「ママー!」」と言う声と共に佐和子と双子が入って来た。突然の賑やかな訪問者に、驚いて起き上がって入り口を見た涼禾は、「お母さん、陽亮、夏蓮、どうして?」と声をかけた。「どうしてって!昨日の夕方あなたが怪我をしたって聞いて心配で!予定を早めて朝一番でこちらに来たのよ。」「心配かけてごめんなさい。怪我は大したことないのよ。犯人も捕まって5年前のことも認めたらしいの。」「そのようね。でもまだ詳しいことは分からないみたいよ。それより、痛みは?本当に明日大丈夫なの?」「ええ、痛み止めは必要だけど大丈夫よ。」「そう?昨日の夜に美沙さんか
Read more

第69話

涼禾は、本来ならば両親は既にいない。出産も子育ても、そして結婚も全てを自分だけでしなければならなかった。それなのに、佐和子も徹も実の親のように喜び、支えてくれる。改めて今の家族への感謝の気持ちが込み上げてきた。少し目がが潤んできた涼禾を見て、陽亮と夏蓮は心配そうに手を握ってきた。「ママ、どうしたの?」「けが、いたいの?」「大丈夫よ。そうじゃないのよ。ただ嬉しかっただけ。「二人とも、今日はパパのお家でママと一緒にいてくれる?」「いいよ!ママといっしょにいる〜。」「パパは?」「パパは今日はとっても大切なお仕事があるの。でも夜には帰ってきて一緒にいられるわよ。」「「やったー。たのしみ〜。」」涼禾はお昼前には退院して佐和子と子供たちと一緒に江崎家へ向かった。江崎家で昼食後、美沙は笑顔で子供部屋に案内した。「やっとこの部屋に迎えられて嬉しいわ。」中を見ると、広々とした部屋に可愛らしい布団が整えられたベッドが二つ。壁に沿って置かれた棚には絵本やおもちゃやぬいぐるみがいっぱい並んでいた。「「うわ〜、すごーい!」」子供たちは大喜びで棚の方へ駆け出してそれぞれ気になるものを見に行った。「こんなに……。ありがとうございます。」「気に入ってもらえたかしら。」「もちろんです。」「涼禾さんには客間を用意してあるのだけれど、どうする?」「せっかくですけれど、私もこの部屋を使わせてもらっていいですか。」「そうなの?隼翔の部屋でもいいのよ。」いたずらっぽく笑う美沙の言葉に、みるみる顔が赤くなって俯いてしまった涼禾を見て、佐和子は、「さすがにそれはね。うちの娘をからかわないで。」と笑いながら答えた。その後、美沙と佐和子は仲良く出掛けて行った。涼禾と子供たちは部屋で絵本を読んだり、お昼寝をしたりと、ゆっくりと過ごすことができた。夕食を終えた頃、隼翔と倫太郎が帰ってきた。帰宅を知らされた涼禾と子供たちは玄関まで迎えに出た。車のドアが開いて倫太郎の姿が見えると、二人は駆け寄って「おじいちゃん、おかえりなさい!」「おじゃましています!」と元気に挨拶をした。「た…」倫太郎が返事をする前に、反対のドアから急いで降りてきた隼翔が二人に駆け寄り、「ただいまー!パパだよ!陽亮、夏蓮、いらっしゃい!」と満面の笑顔で二人を抱き上げた。二人は、
Read more

第70話

パーティーでは、今日の説明会やショーの感想を語り合う人々や、この機会に人脈づくりをする人々、食事やお酒を楽しむ人々などそれぞれが思い思いに楽しんでいた。そんな中、何処ででも話題に上がったのは隼翔と涼禾のことだった。「江崎社長のお隣の女性ってどなた?初めてお見かけする気がするのだけれど。」「確か安藤家の娘さんだと思うわ。」「美男美女でお似合いねぇ。」「ほんとに。それに江崎社長のあんなに優しげな笑顔、初めてね。」「クールな表情も素敵だったけど、やっぱり笑顔の方がずっと素敵ね。」 また別のところでは、二人の身につけているアクセサリーや小物なども注目を浴びていた。さらに、二人のドレスとスーツについて、デザイナーは誰だろうとか、お店は何処だろうとか多くの人々が興味を持って語り合った。隼翔と涼禾は、招待客たちに挨拶をして回りながら、いろいろな質問に丁寧に答えた。が、デザイナーと二人の関係についてだけは曖昧な答えに留めた。「それはまた後ほど。」と。パーティーも無事終了の時を迎え、倫太郎が感謝の意を伝える挨拶をし、最後に、「最後になりましたが、私事ではありますが、一つ皆様にお伝えしたい件がございます。この度、我が江崎家の長男隼翔と安藤家の長女涼禾が婚約を致しました事をご報告申し上げます。今後ともよろしくお願い致します。』と発表した。会場内は、『やはりそうだったか。』と温かい拍手に包まれた。今回のイベントは予想以上の盛況となり、様々な面で大きな成果をもたらした。『安藤』では、新素材に興味を示した各社が、商品の共同開発を申し出たり、素材を大量に注文したりと様々な取り引きを求めて来たため、徹と颯太と健人は連日多忙を極めた。江崎グループもまた、新商品の仕入れ希望が多数入る上に、オーダーメイドの靴やバッグの問い合わせや依頼も多数寄せられ、倫太郎や隼翔のみならず果奈も大忙しの日々を送ることとなった。アトリエ『AYAKA』もまた大きな注目を浴び、次々と問い合わせや注文が殺到し、あっと言う間に予約でいっぱいとなった。もともとこの店は、涼禾たちの衣装を仕上げた後、安西を中心に『安藤』の業務拡大の為のアンテナショップ的な役割を予定していた。安藤家ではこの事態に、 「『AYAKA』はすごいことになってるね。」「ほんとに。これじゃあ予定通りに戻すのは大変じゃ
Read more
PREV
1
...
56789
...
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status