All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 141 - Chapter 150

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141話 接触

「藤堂先生」俺が部屋に入ると、そこには堤氏が既に居た。「あぁ、久遠先生」藤堂氏はそう言って少し微笑む。「見ての通り、報告を聞いていたところだ」そう言われて堤氏を見る。堤氏は俺に頭を下げ、そして微笑む。俺は藤堂氏の居るベッドに近付き、改めて頭を下げる。「本日はお力を貸して頂き、本当にありがとうございました」一礼すると、藤堂氏が言う。「いや、頭を上げてくれ、久遠先生」そう言われて俺は藤堂氏を見る。藤堂氏は堤氏を見て頷く。堤氏はそれに応えるように頷き、言う。「こちらとしても千堂彰には少々、困っていたところなんですよ、久遠先生」堤氏にそう言われて俺は聞く。「困っていた、というと?」俺がそう聞くと堤氏が苦笑する。「千堂彰は最近、厚生労働省の人間にコンタクトを取り始めていたんです」そう言って堤氏が俺に一枚の紙を差し出す。受け取り、それに目を通す。そこには厚生労働省の役人の名前が数名分、載っていた。「そちらに記載のある役人たちは、つい最近、千堂彰とコンタクトを取った者です」まだ数名、いや、もう数名か。「千堂彰に接触した者たちは、何を持ち掛けられたんですか?」そう聞くと堤氏が藤堂氏を見る。藤堂氏が堤氏に頷いて見せ、堤氏が言う。「認可ですよ」そう言われて俺は驚く。「……それは、あのベンゾジアゼピン系物質で作られたものを、という事ですか?」そう聞くと堤氏が頷く。「そうです」乾いた笑いが込み上げる。不意に扉がノックされる。「はい」藤堂氏が返事をすると扉が開いて、高嶺さんと燈が入って来る。俺は口元を覆い、込み上げて来る吐き気を抑える。◇◇◇藤堂氏の居る特別室に入ると、そこには湊が居た。湊は顔色が悪く、口元を覆っている。「ご挨拶に伺いました、藤堂先生」遼大がそう言う。私は湊が気になり、聞く。「大丈夫?」そう聞くと湊は苦笑する。「あぁ」一体、何を話していたんだろうと思っていると、湊が私に手に持っていた紙を渡す。遼大と共にその紙に目を通す。「これは?」遼大がそう聞くと、湊と一緒に居た男性が言う。「千堂彰が接触を図った厚生労働省の人間のリストです」その紙には数名の人間の名が記されている。私が顔を上げると、その男性が微笑み、言う。「私は厚生労働省の堤と申します」そう言って私に握手を求める。それに応え、握手する。「佐
last updateLast Updated : 2026-06-10
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142話 隔離

早い段階で、湊は愛欲の女王に晒され、その脳を支配されて来た。幸運だったのはその量が比較的、少なかった事だ。 私と結婚していた時は、その雛形であるアロマを炊かれていたけれど、そのアロマはそれ程、強くは無かったのだろう。 香水として愛沢くるみがその身にまとい、更にサロン・ド・オーキッドの中で愛欲の女王が蔓延した。サロン・ド・オーキッドの外でもその香水を愛用しているのは愛沢くるみくらいだったのが、不幸中の幸いだった。 「違法賭博場、そして売春が横行しているサロンがあるんですよ」 湊がそう言う。堤氏が少し微笑む。 「サロン・ド・オーキッド、ですよね」 そう言われて私たち全員が堤氏を見る。 「違法賭博、売春斡旋……噂は聞いていますし、今、内偵させていたところだったんです」 内偵……つまりは国が既に危険を察知し、秘密裏に動いていたという事だ。 「ベンゾジアゼピン系物質を主成分としたその香水も脅威だが、この、EMSO日本支局の地下階に漏出しているレプリトール・ディザスターとやらも、厄介だな」 遼大から渡されたタブレットを見て、藤堂氏が言う。「えぇ、私のこのタブレットに千堂彰が残した全記録が転送されていますが、このレプリトール・ディザスターの方が愛欲の女王やレプリトールよりも何十倍も危険です」遼大がそう言う。「そのレプリトール・ディザスターっていうのは、千堂彰が開発したっていう新薬の事か?」湊がそう聞くと遼大が頷く。「そうだ」そう言って遼大は藤堂氏からタブレットを受け取り、湊へ渡す。そこには千堂彰が残したという地下階での記録が記されている。「燈は見たのか?」そう聞かれて頷く。「えぇ、さっき遼大に見せて貰ったわ」湊はタブレットに記されている記録を見ながら、言葉を失っている。「不幸中の幸いたしては、この害薬が外には漏れていないという事です」遼大が藤堂氏にそう言う。藤堂氏もそれを聞いて頷く。「まだ実験段階にあったというのが、幸いだったな」既に何人かの犠牲が出てしまっている事は、厳然とした事実ではあるけれど。それは千堂彰がその新薬によって人が死ぬという事を理解して使ったのだから、全ての非は千堂彰にある。「それで、千堂は?」そう聞かれた遼大がクスッと笑う。「事情聴取をしなければいけないので、秘匿施設に入れてあります」そう言って遼大は堤
last updateLast Updated : 2026-06-11
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143話 聴取

「それで?」藤堂氏の居る特別室を出て、廊下を歩きながら聞く。私にそう聞かれた遼大が少し笑う。「千堂彰?」そう聞き返されて頷く。「えぇ」遼大は腕まくりをしながら言う。「これからその秘匿施設に行って、話を聞くよ」遼大がそう言うと、湊が言う。「俺は……千堂理の方の検査を優先したいんだが」そう言う湊の顔は何だか辛そうだ。「それはそれで良いけど、湊、大丈夫?」そう聞くと湊が頷く。「あぁ、さっきは動揺して情けない姿を見せてすまない」そう言われて私は微笑む。「仕方ないわ、あなたは最初の被害者と言っても良いんだもの」遼大も湊を見て微笑む。「あぁ、くれぐれも無理はしないでくれ。トラウマは誰にでもあるからな」◇◇◇湊と別れ、私は遼大と共に遼大のいう秘匿施設に向かった。秘匿施設は聖カトリーナから少し離れた場所にあり、外側からは一体、何の建物なのか、全く分からない造りになっている。「こんな所、あるのね」私がそう言うと遼大が笑う。「まぁ、高嶺の家は表向きはそれ程、大きくないと思われているけどね」大きな真っ黒の門が自動で開く。車がその門を潜り抜ける。大きくない訳は無い。あのEMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)なんていう組織の創設者の一族なのだから。世界各国に支局がたくさんあって、営利目的では無いというだけで、これが一般企業だったら、世界的に展開をしている一大企業だ。今更ながらブラックカードを持っている事にも頷ける。車を降り、建物の中に入る。中には何人かの男性が立っていて、皆、遼大に向かって頭を下げる。遼大が一つのドアの前に来て、ドアを開けて言う。「中へどうぞ」そう言われて私は中に入る。中は小さな小部屋で、大きな壁一面がガラス張りになっている。そのガラスの向こうに男性が一人、項垂れるようにして椅子に座っている。「彼は千堂彰の部下の百田という男だ。俺たちが閉じ込められていた地下階のコントロール室の責任者だそうだ」遼大がそう言いながら私に並ぶ。「彼の手元にはEMSO日本支局の地下階での記録を全消去するボタンがあった」私はそう言われて遼大を見る。「でもあなたの端末には……」私がそう言うと遼大が頷く。「そう。百田はその記録を消せなかったんだ」そう言われて改めてガラス張りの向こうに居る男性を見る。項垂れていて、おそらくは自分のやっ
last updateLast Updated : 2026-06-12
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144話 狂気

ついさっき、泣き付きの電話が来たと思ったら、また俺のスマホが鳴っている。(また愛沢くるみか……)俺はその名を見て辟易する。本当に美への執着がすごいんだなと改めて思う。適正にレーザー治療はした。ちゃんとダウンタイムを正しく過ごせば、あのシミは確実に消える。一条クリニックの俺の個人オフィスで、俺は鳴り続けるスマホを見ながら微笑む。それでも俺が渡したグランドクィーンをその肌に塗り込めば塗り込む程、メラノ・リベレーターが作用してメラニン色素が濃くなる。レーザー治療の傷が治り切らないうちにそのグランドクィーンを塗り込めば、それは大惨事になるだろうなと、分かっていながら、俺はそれを伝えない。愛沢くるみの美への執着は相当なものだ。詳しく見た訳では無いが、パッと見ただけで、かなり体を弄っているだろう。目元の二重、鼻筋を通すシリコン、豊胸に脂肪吸引……それも劇的に変化させるのではなく、少しずつ変化をして行くのだから、それは成長に伴って起こった事だと誤認させる事は可能だろう。俺が美容整形外科でなければ、誰にも気付かれる事無く、愛沢くるみは今も自分の求める美へ向かいながら、おそらくはその身を整形地獄に堕として行く事にはなっただろうが。スマホには別の連絡も入っている。遼大からは無事に施設の掃除が終わり、佐伯燈を含めて無事だと聞いている。そして大事な証人である千堂理という人物について、報告を受けたばかりだ。ベンゾジアゼピン系物質の影響により、表情筋が弛緩し、麻痺、その顔の筋肉は垂れ下がっているという。もしかしたら俺にも手を借りる事があるかもしれないと、遼大から言われている。「ベンゾ・マスクか……」俺はPCを叩き、送られて来た論文に目を通す。皮肉な事にこの論文を書いた人物が、その脅威にさらされ、自らがベンゾ・マスクにされてしまった事は、本当に悲劇だ。鳴り続けるスマホに辟易して、俺はスマホを操作し、愛沢くるみからの着信をサイレントに設定する。(悪いが今は、アンタに構っている暇は無いんだ)そう思いながら論文を読みふける。◇◇◇ある程度、百田から事情を聞いた私たちは、別の小部屋に入る。目の前のガラス張りの向こうには ――千堂彰が居た。「確認しないといけないのは」遼大がそう言って私を見る。「千堂彰がレプリトールを持ち出した事と、愛欲の女王、及び、絶望の
last updateLast Updated : 2026-06-13
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145話 駆け引き

千堂彰はそのボトルをほんのひと時、凝視し、その顔色を変える。彼は一体、何を想像したんだろうか。「こ、こ、こんなもの、飲める訳が無いだろう?」千堂彰はそう言って、怯えた目で遼大を見ている。遼大はクスっと笑って言う。「どうしてです? ただの水ですよ?」遼大はそう言って千堂彰に顔を近付ける。「何かが混ぜられていると? そうお考えですか? あなたがしたように?」愛欲の女王はベンゾジアゼピン系物質と、合成オキシトシン誘導体が混ぜられている。その強い香りに紛れて。あの百合の強い香りに隠れて、体に悪影響の出るものを違法に混ぜて、相手を支配するのに使った。更に言えば、その表情までもを奪った。ラベルが無いというだけでこれだけのプレッシャーを相手に与える事が出来る遼大に私は感心した。千堂彰は遼大に見下ろされて、力無く椅子に座る。遼大は壁に寄り掛かり言う。「私もあなたのように狡猾で残忍であれば良かったんですけどね」腕を組んだ遼大が千堂彰を見て言う。「自白剤でも混ぜて、あなたに飲ませれば、手間が省ける」視線を下ろしていた千堂彰が遼大を見る。「ですが、あなたの自白も証言も、公的に必要なものなのでね。違法な手は使えないんですよ」そう言って遼大は少し笑う。「残念です、非情に残念だ」そう言う遼大の目には怒りも混ざっている。憤りを感じるのは皆、そうだろう。こんな相手にもきちんと法の裁きを受けさせないといけないのだから。千堂彰がふっと笑う。「何が違法な手は使えない、だ。私をこんな場所へ入れておきながら」そう言い捨てる千堂彰に遼大が更に笑う。「あなたよりはマシですけどね。それに」遼大は胸元から何かを取り出す。「これは公的機関が認めた、特別措置なんですよ」そう言って折り畳まれている紙を取り出し、千堂彰に投げる。千堂彰がその紙を広げ、中に書かれている事を読む。「そこにあなたが今、置かれている状況が書かれているでしょう? そういう事です」私が遼大を見上げると、遼大は少し微笑み、言う。「千堂彰、あなたは今、まだ逮捕された訳じゃない。そこに書かれている通り、あなたは公的機関から危険人物としてマークされている。一国家から危険人物としてマークされるという事は、それだけあなたを自由にはしておけない、という事です」そこで遼大はまた笑い、言う。「あなたを拘束する為なら
last updateLast Updated : 2026-06-14
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146話 人生に二度だけの……

千堂彰は遼大に聞かれた事に淡々と答えて行く。レプリトールを入手し、愛沢くるみに流した事、サロン・ド・オーキッドへ愛欲の女王を流した事、そしてレプリトールを元にして、絶望の王を開発した事。「で、どうしてレプリトールを?」そう聞く遼大に千堂彰が言う。「レプリトールは与えた相手を虚無へ向かわせる。面白いように皆、やる気をなくして行った。私は自分のライバルたちにそれを使ったんだ」そう言い、千堂彰自身がどうやってEMSOの倫理審査委員の委員長にまで登り詰めたのかを話す。「その過程で愛欲の女王のひな型に辿り着いた。相手を自分の思うように、自分へ依存させ、盲目的に信じるように、更にその中で快楽の欲望を掻き立て、それに溺れるようなものが出来上がれば、ギャンブルやセックスに溺れる人間たちを面白いように自分の思う通りに動かす事が出来る、と思ったんだが」千堂彰はそう言って少し笑う。「愛欲の女王はその名の通り、人間の愛欲にしか、効果を発揮しなかった」チャリ、と千堂彰の手錠が鳴る。「だから絶望の王を作ったのか」遼大がそう聞くと、千堂彰が手錠を鳴らしながら言う。「あぁ、そうだ。絶望の王はもっと上手く開発出来れば、この世の全ての人間を私の思い通りに動かす事が出来る筈だった」何処まで行ってもこの男は周囲の人間を、果ては全ての人間を自分の思い通りに動かそうとしていたのだ。「それで、その実験を自身の息子に?」私がそう聞くと千堂彰が私を見る。「佐伯燈……あなたの事は愛沢くるみから聞いているよ」そう言ってニヤッと笑った千堂彰に悪寒が走る。「愛沢くるみはアンタの事が大嫌いみたいだな。何でも持っていて、愛沢くるみが欲しいもの全てを奪って行くクソ女だって、愛沢くるみが良く話してくれたよ」愛沢くるみの欲しいものを全て奪って行く……そう聞かされ、私は笑う。奪われたのは私の方なのに。「千堂」遼大が千堂彰を呼ぶ。千堂彰はニヤニヤしながら私を見ている。そうやって私にダメージを与えたいのだと手に取るように分かる。「千堂、俺を見ろ」遼大がそう言っても尚、千堂彰は私を見てニヤニヤしている。私は苛ついている遼大の腕に触れ、千堂彰を真っ直ぐ見ながら言う。「愛沢くるみに嫌われている事なんて、百も承知よ。本人は私がそれに気付いている事を知らないようだけれどね。そして私も奇遇な事に愛沢くる
last updateLast Updated : 2026-06-15
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147話 正当な怒り

愛沢くるみはやはり、私を排除したあの日、ご機嫌だったのかと思うと、それが何だか可笑しくなって来る。「話せ」遼大はそう言い、千堂彰に先を促す。「愛沢くるみは七年前、自分の夫である森崎颯太を事故へ追い込んだと言っていた」事故へ追い込む……自身がサロン・ド・オーキッドで売春をしている事を告げたと、以前、加山良江の日記を読んで知っているけれど。「あの娼婦はずっと自分の夫の前では淑女を演じていたんだ。清楚な淑女だと思っていた自分の妻が売春していたなんて聞いたら、普通の男なら動揺するだろう?」千堂彰は口元を歪め、楽しそうに話す。「そこへ追い込む為に、その事前準備も怠らなかったと、楽しそうに話していたよ」(事前準備……?)私は遼大を見上げる。遼大は苦虫を噛み潰したような顔をしている。「事前準備って?」私がそう聞くと千堂彰は嬉々として話す。「散財さ。森崎の家の経済が回らなくなるまで、色々な物を買い漁って散財したそうだ。あの家の夫人と結託して、色々なものを買い漁り、散財を繰り返す……まぁ、私もそのおこぼれを多少は享受したがね。その残債を稼ぎ出す為に、家の主人やあの娼婦の夫がやらなければならない事は?」千堂彰にそう問われて私は言う。「お金を稼ぐ為の無理な労働ね」チャリ、と手錠を鳴らし、千堂彰が私を指差す。「ご名答」つまりは事前準備として愛沢くるみは、その当時、愛沢くるみに良いように唆されていた森崎のおば様を使い、散財を繰り返し、夫である颯太を過労に追い込んでいた……。「そんな状態で車に乗り、運転中に掛かって来た愛する妻からの電話に出て、思いもしなかった事を告げられたらどうなる?」千堂彰はクッ、クッ、クッと笑い出す。「急ハンドルや急ブレーキでドカン、だ。しかも自分の夫がどの道を使って移動するかまでを、あの娼婦は完全に把握していたそうだ」颯太が事故を起こしたのは高速道路……街中を走るよりもその危険度はグッと上がる……そんな事まで計算に入れて、愛沢くるみは颯太に電話したのだ。「最高じゃないか! 全てを計算づくでやり遂げる! その歪んだ精神性はもはや美しくもある」千堂彰がそう言って笑う。遼大が急に立ち上がり、座っていた椅子を蹴り飛ばす。「おやおや、ご機嫌を損ねたかな?」千堂彰はそう言ってニヤニヤする。腸が煮えくり返る。私は立ち上がり、壁に向か
last updateLast Updated : 2026-06-16
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148話 実弟

これで言質は取れた。私たちが求めていた証言。千堂彰自身がレプリトールを違法に流し、更に愛欲の女王を作り、それを広め、レプリトールを元に絶望の王を開発した。その過程で自らの息子をベンゾジアゼピン系物質で汚染した事、絶望の王によって何人かの命が弄ばれた事。愛沢くるみが千堂彰に武勇伝のように吹聴した内容も言質がとれた。七年前の颯太の事故のカラクリや、私へのレプリトールの無断使用……なんて、大した事では無いような気さえする程のおぞましい経歴だ。壁を向いていた遼大が振り返る。その顔は厳しいままだけれど、怒りは抑えているように見える。遼大はそのまま片手を上げる。「撮ったな?」誰に向かって言っているのか、分からなかったけれど、天井の小さなスピーカーから声がする。「はい、全て漏れなく」そう言う声がして、今までの会話全てが記録されていたのだと知る。途端に千堂彰がガチャンと手錠を鳴らして言う。「違法だ!! 違法監禁だ!!」そう言う千堂彰に遼大が笑って言う。「誰が貴様を合法的に裁くと?」遼大がそう言ったのを聞いて驚く。遼大は冷たい表情のまま、言う。「貴様は易々と法を超えた。そんな奴を相手にどうして我々が合法的に対処しなければならないんだ?」千堂彰はそれを聞いて、理解が出来ないのか、ポカンとする。「遼大……」私が心配になってそう言うと、遼大は私を見て微笑み、頷く。そうされて私はそれが遼大のブラフなのだと分かる。「そうね、私も同感だわ」私が表情を滑り落とし、そう言うと千堂彰は急に慌て出す。「お前ら……私に一体、何をするつもりだ……」遼大は両手を広げて言う。「ここは秘匿施設だ。それも俺の息のかかった施設……この意味、分かるよな?」そう言って遼大はさっき、千堂彰に投げ渡した紙を指差す。「公的機関も貴様を危険人物だと認定している……国家に対して危険だと判断された人物が一人、この世から跡形もなく消えても、誰も何も言わないさ」目に見えて分かる程に、千堂彰はガタガタと震え、力無く椅子に座る。「どうするのが貴様にとって一番、屈辱的か……」遼大がそう言いながら千堂彰に近付く。「貴様自身が開発した絶望の王はまだEMSO日本支局の地下階を汚染しているんだったな」遼大にそう言われて、千堂彰が遼大を見る。「脳内のセロトニンやドーパミン受容体を強制的にシャット
last updateLast Updated : 2026-06-17
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149話 沈殿

そう聞かされた千堂彰の顔が見る見るうちに青くなって行く。「森崎颯太が弟……?」遼大は千堂彰から離れて、蹴り飛ばした椅子を元に戻す。「あぁ、そうだ。貴様は今、俺の弟の殺人に関与したと認めた事になる」遼大は椅子に座ると、不敵に笑い、千堂彰を見ている。その体から滲み出るオーラに圧倒される。(こんな激しい一面があったのね……)「だとしても! こんなふうに尋問するなんて!」そう言う千堂彰に遼大は笑う。「さっきも言っただろう? 貴様は易々と法を超えたんだ。自身の渡した薬品で何が起きるのかちゃんと分かっていた……その罪は大きい」不意に遼大は私の肩に触れる。「燈、もう良い。行こう」そう言って立ち上がる。私が立ち上がると千堂彰が言う。「待て! 私をここに置いて行くのか!」遼大は私を出るように促し、自分もその部屋を出る。「ごゆっくり」そう言って扉を閉める。扉を閉めた途端に、中の音が聞こえなくなる。「完全、防音?」そう聞くと遼大が頷く。「あぁ」そう言って部屋を振り返る。私は遼大に聞く。「千堂彰はどうするの?」そう聞くと遼大が苦笑する。「2,3日、お仕置きするだけだ。ちゃんと受け渡すよ」私は遼大の背中に触れる。「大丈夫?」そう聞くと遼大が大きく息をついて言う。「あぁ、大丈夫だ」そう言って私を引き寄せて抱き締める。「燈が居れば、ね」私はそう言う遼大の頭を撫でる。◇◇◇施設の外に出るともう夜のとばりが降りていた。「こんな時間なのね」私がそう言うと遼大が少し疲れたように笑う。「そうだな」私はそんな遼大が心配で、言う。「今日のところは帰りましょう? ホテルに帰って、寝るのよ」遼大も頷く。「そうだな」車に乗り込むと、施設の中から人が出て来て、遼大に何かを渡す。「ん、ありがとう。引き続き、頼む」遼大はそう言ってドアを閉める。「それは?」そう聞くと遼大はUSBメモリを私に見せながら言う。「証言さ」座席に体を預け、息をつく。遼大が手を伸ばして来て私の肩を抱く。どんなに悔しかっただろうか。千堂彰が絶望の王のひな型を渡さなければ、もしかしたら、颯太は生きていたかもしれないのだ。でもそれは今更、言っても何も変わらない。だからこそ、千堂彰には報いを受けさせないといけない。◇◇◇長い検査が終わり、俺は検査結果を
last updateLast Updated : 2026-06-17
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150話 休息と疑心暗鬼と

長い一日だった。朝からEMSO日本支局の視察に行き、そこで千堂彰に会い、監禁されているであろう千堂理を探し……。地下階へ行き、閉じ込められ、そこから脱出し……遂には千堂彰を追い詰め、尋問した。本当に長い一日だった。ホテルに戻り、シャワーを浴び、一息つく頃には、もう体も頭もクタクタだった。急な空腹を覚える。そう言えば食事もまともにしていない。何か食べないと、そう思っていると部屋のチャイムが鳴る。ドアスコープから覗く。遼大がそこに立っていて、手を振っている。そんな遼大に微笑み、私はドアを開ける。「どうしたの?」そう聞くと遼大は手に何かを持っている。「食事」そう言われて私は微笑む。(この人は本当に掴みどころが無いわ)そう思って笑う。遼大は私の部屋のカードキーだって持っている筈なのに、私に部屋を開けさせることが楽しいのか、何なのか。遼大は部屋に入って来て、テーブルにそれを置くと言う。「ホテルのフロントに言っても良かったけどさ、こういう時はジャンクが良いかなって」そう言われて私はそんな遼大に寄り添う。遼大は笑って私の肩を抱き、ソファーに座ると言う。「疲れたよな」私は遼大に寄り掛かり、息をつく。「遼大も、でしょ?」そう言うと遼大もクスっと笑って頷く。「そうだな」遼大だって疲れている筈だ。一緒に視察に行き、千堂理を背負って梯子を上り切り、私を救い出し、更に倒れた私を介抱し、処置までやってのけたのだから。遼大の買って来てくれたジャンクフードを食べながら、何も話さずに過ごす時間。何も話さなくても気まずい雰囲気になる事も無い、そんな関係性が本当に心地良い。スマホに連絡が入っている音がする。遼大がスマホに手を伸ばしているのを、止める。「ん?」聞かれて私は言う。「今日はもう良いわ。一回、休み」そう言うと遼大が笑う。「それもそうだな」食事を終え、私の部屋のシャワールームで一緒にシャワーを浴び、バスローブを着ると、もう眠くなってしまった。遼大も眠そうにしている。「燈、おいで」遼大はそう言ってベッドに横になり、私を誘う。遼大の腕の中に飛び込むように横になり、遼大を見上げる。遼大は優しく私を見下ろして聞く。「ん?」私はそんな遼大に手を伸ばして、遼大の頬に触れる。「本当にあなたはスーパーマンみたいだわ」そう言うと遼大が笑う。「スーパー
last updateLast Updated : 2026-06-18
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