跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する의 모든 챕터: 챕터 161 - 챕터 170

209 챕터

161話 喀血

僕はくるみ姉さんにその薬の用途をわざと聞かなかった。だって怖かったから……自分がくるみ姉さんに利用されている事は分かってはいたけれど、自分が何に関わっているのかまでは知りたくなかったのだ。それでも嫌でも耳に入って来る情報。くるみ姉さんが狙っていた久遠先生の奥様である燈先生の流産。僕は薬剤師だから直接、関わった事は無かったけれど、それでも久遠先生と結婚する前までの燈先生の武勇伝はたくさん聞いていた。素晴らしく優秀で、優しく慈悲深い先生が居ると。自分の身を顧みず、ERでその身を削って医療に従事している、素晴らしい医師だと聞いていた。僕が盗み出したその薬が、もしかしたらその先生の流産を誘発したかもしれない、なんて考えたくなかった。だから知らない振りを今までして来たのだ。燈先生が聖カトリーナに戻って来た時は驚いた。こんなに美人で聡明な医師に、くるみ姉さんが敵う筈無いと思った。EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)なんていう世界最高峰の研究機関の人間で、天才医師と呼ばれていたのが燈先生。僕は最初、燈先生が久遠先生の奥様だったなんて、思い付きもしなかった。それを知ったのはつい最近だった。そうやって自分ではシャットアウトしていても入って来る情報を、僕は頭の中で無意識につなぎ合わせていた。繋がって行く情報の一つ一つに戦慄しながら、僕はそれでも知らない振りをした。だからなのか、最近はくるみ姉さんもイライラしている事が増えて、僕にもきつく当たる事が増えたのだ。「お前、何か五年前に心当たりがあるのかよ?」そう新田さんに聞かれて僕は狼狽える。答えるべきか、黙っておくべきか。さっき、僕に優しい言葉をかけてくれた新田さんを信じて見たくなった僕は言ってみる事にした。
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162話 勘が告げるもの

「それにしても、どうしてその新田豊が波多野優斗を連れ去ったんだ?」湊が首を傾げる。「二人に共通するもの……」そう言いながら考える。末期がん患者の新田豊、愛沢くるみの実弟であり薬剤師の波多野優斗。監視カメラに映る二人は、とても知り合いのようには見えなかった。その時になって初めて出会った、という感じ……。それなのに波多野優斗は切羽詰まっていたとはいえ、新田豊の車に乗ったのだ。「もう少し新田豊について調べないといけないな」そう言って遼大がまたどこかに電話をかける。「……あぁ、新田豊だ。聖カトリーナで緩和ケアを受けている……車のナンバーは……」遼大がそう言って誰かと話している。「燈」呼ばれて湊を見る。「ん?」聞くと湊は私に言う。「波多野優斗がラインプロスを持ち出したのは、くるみになかば脅迫されての事だろうと思う」そう言われて私は頷く。「あのやり取りを見る感じ、そうでしょうね」愛沢くるみは実弟である波多野優斗から搾取し続けていた。どういう理由で、何を根拠にそうなっているかは分からない。愛沢くるみと波多野優斗の姓が違う事も何か関係するのだろう。湊が腕を組む。「だとしても、だ。俺はそんな波多野優斗が薬学部に進む為の学費を出してしまった」そう言われてさっきの会話を思い出す。湊からお金を引っ張り、それを波多野優斗の学費にしたと、波多野優斗には伝えていたけれど、本当にそうだろうか……そんな疑問が私の中に浮かぶ。「湊から借りたっていう、そのお金、波多野優斗の学費に本当に充てられていたと思う?」そう私が聞くと湊が驚いた顔で私を見る。「そうか……俺から600万借りたとしても、それを本当に学費に充てたかどうかはくるみにしか分からないのか」どういう計算で学費を計上しているのかは分からない。けれど波多野優斗が薬剤師になれたのだから、学費はちゃんと払ったのだろう。けれどその内訳は愛沢くるみにしか分からないのだ。「私にはもっと気にある事もあるのよ」私がそう言うと湊が聞く。「気になる事?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、愛沢くるみは五年前、私と同じ時期に妊娠し、その後、おそらくはラインプロスを自ら飲んで堕胎している」そこから先の話を言うのは憚られた。けれど可能性の一つとして湊には言っておいた方が良いだろう。「あの当時、湊は愛沢くるみのお腹の中
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163話 緊急コール

「新田豊について分かったぞ」電話を切った遼大が微笑む。「新田豊は愛沢くるみと ――」そう言われて私は言う。「愛人関係だった」そう言うと遼大が頷く。「そうだ」遼大は私の腰に手を当てて言う。「愛沢くるみと新田豊は少なくとも五年前には付き合いがあった筈だ」遼大がそう言うと湊が聞く。「どうして分かった?」そう聞かれて遼大が微笑んで、スマホの画面を見せて来る。そこに表示されていたのは一枚の写真。愛沢くるみと……若い男が二人で写っている。さっきの監視カメラに映っていた男のように見える。ガラの悪さが良く似ていた。けれど見た目は健康そうで監視カメラで見た男とは少し違って見えたのは、新田豊が現状、末期の癌だからだろう。「新田豊?」そう聞くと遼大が頷く。「あぁ、そうだ」その写真を見てピンと来る。「加山良江ね」そう言うと遼大が頷く。「あぁ、愛沢くるみのスマホを探って貰った。入っていた写真の中に新田豊が居た」遼大はそこで少し笑って言う。「それから面白い事が起こってるよ」そう言って笑う遼大に聞く。「何が起きてるっていうの?」そう聞くと遼大が言う。「愛沢くるみに新田豊から電話がかかって来ている、それもついさっきの話だ」波多野優斗が愛沢くるみの実弟で、そして新田豊と愛沢くるみはかつて関係を持っていた……。そんな波多野優斗が緩和ケアの為に聖カトリーナに来ていた新田豊と出会うなんて、何て言う皮肉だろうか。符合して行く事実……。「五年前、愛沢くるみのお腹の中に居た子供の父親は新田豊でしょうね」私がそう言うと、遼大が頷く。「まぁ、十中八九、そうだろうな」ふと湊を見る。湊は眉を顰め、嫌悪感がその顔に出ている。愛沢くるみの節操の無さに嫌悪感があるのか、それとも騙されていたとはいえ、自分に対する嫌悪感なのか、私には分からない。そしてかつて私の夫だった湊とその当時から関係を持っていたという事と、並行して色々な男とも付き合っていただろう愛沢くるみに舌を巻く。(やるわね、愛沢くるみ)私は湊に聞く。「私が湊と離婚した後、愛沢くるみとも付き合いは続いていたんでしょう?」そう聞くと湊が苦笑する。「確かに付き合い自体は続いていたが、燈が居た時のような付き合いでは無かったよ」そう力無く言う湊は、きっと後悔しているんだろうと思った。「どの程度
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164話 大喀血

三人で小走りにERへ走る。ERでは医師が不足していて、湊が呼ばれる事も以前からあった話だ。ERへ駆け込むと少し離れた場所で看護師が言う。「久遠先生! こちらへ!」そう言われて呼ばれた方を見る。そこには血まみれの男性が一人、そしてその男性に寄り添うように何かを持って、その男性の傍に居るもう一人の男性。見た瞬間にそれが誰なのか、分かった。新田豊と波多野優斗だ。新田豊は口から大量の血を吐いたのだろう、口周りも服も血まみれだった。そして一緒に居たであろう波多野優斗もそんな新田豊の対処をしようとしたんだろう、真っ赤に染まったタオルを持って立ちすくんでいた。「新田豊さん、聖カトリーナで緩和ケアを受けている患者さんです」看護師がそう言う。三人ともが顔を見合わせて、そこへ走る。「助けてください……新田さんが……新田さんが……」波多野優斗が半分泣きながらそう言う。私は渡された手袋を付けて、言う。「新田さーん! 分かりますかー?」声を掛けながら意識レベルを確認する。「病院です、聖カトリーナに来てますよー」そう言いながら私は脈を計る。「新田豊さん、中心型扁平上皮肺がん、ステージⅣ、現在、当病院で緩和ケアを受けています」看護師がそう言う。私の向かい側に立っている遼大も新田豊の状態を診ている。「大喀血ね」私がそう言うと遼大が頷く。「間違いないな」私は看護師に指示を出す。「吸引最大、酸素リザーバーで10リットル」私がそう言うと遼大が言う。「気管支鏡、準備! 溢れて来る血を抜くぞ」私は渡されたカテーテルを新田豊の喉に差し込む。「新田さん! 新田さん!」叫ぶ波多野優斗を湊が押さえている。「大丈夫だ、君も燈先生は知っているだろう?」私は波多野優斗に視線を向け、微笑んで言う。「大丈夫よ、絶対に救うわ」そう言って隣に居る湊に言う。「湊、術室準備、輸血パックの確保をお願い」◇◇◇目の前で的確に処置されて行く新田さんを見ながら僕は思っていた……医師は本当にすごいのだと。ほんの数十分前まで新田さんは僕と普通に話していた。多少、具合が悪そうに見えたけれど、目の前でビールをガブガブ飲む姿に少し安心していたのもあると思う。新田さんは僕にくるみ姉さんに一泡吹かせないかと提案して来た。僕は迷った。今までくるみ姉さんに逆らうなんて考えた事も無かったか
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165話 阿吽の呼吸

術室にカタカタと運ばれる新田豊を尻目に私は術着に着替え、素早く手を洗い、無菌手袋を装着する。術室に入るとピーピーと高い警告音が鳴っている。「血圧64の38、心拍数142、酸素飽和度82」看護師がそう言う。「自発呼吸停止、急速導入します!」麻酔科医がそう言う。けれどモニターの心拍数が上がらない。「上がって来ません」看護師のその言葉に私はすかさず返す。「新田さんは緩和ケアで日常的にオピオイドを高用量、服用しているわ。受容体が飽和状態である可能性が高い。フェンタニルを追加、吸入麻酔薬の濃度を上げて!」慌てる麻酔科医に言う。「急いで! 低酸素脳症を起こすわよ!」新田豊の身体から力が抜けて行くのが分かる。モニターの波形が緩やかになる。それを見ながら私は手術で使う機械を確認する。「導入完了、自発呼吸停止、完全弛緩確認」そう言われて私は頷き、言う。「挿管するわ」遼大が新田豊の口を開けさせ、固定してくれる。挿管チューブが入って行く。「挿管完了、チューブ位置固定」◇◇◇モニターに映る赤一色の世界。気管支の奥から心臓の鼓動に合わせるように血の波が溢れて来る。「吸引、最大」そう言いながら気管支鏡を覗く。遼大が私のすぐ横で生理食塩水を使い、レンズを洗浄してくれる。「位置は?」遼大にそう聞かれて私は言う。「気管分岐部の手前……右側……腫瘍が右気管支動脈を完全に侵食してるわね」モニターに映された赤黒く盛り上がった腫瘍……まるでカリフラワーのようだ。そのカリフラワー型の肉芽の裂け目から血が噴き出すのが一瞬、見えた。「見えたわ」そう言って瞬時に判断する。「焼くしかないわね」そう言うと遼大が頷く。「了解」こんなふうに遼大と阿吽の呼吸で手術をするのは久しぶりだった。前回、藤堂氏の手術をした時は、パートナーは湊だったから。その時は湊が必死に私に付いて来ているのが分かった。遼大はいつも私をサポートしてくれる。何も言わずに私が進めていても、ちゃんと先回りして機械出しや、ハプニングの対応もしてくれる。本当に安心して手術に集中出来て、私は遼大と組むのが好きだった。「一気に行くわ」私がそう言うと遼大が請け負う。「了解」そう言って私と呼吸を合わせてくれる。ジッという短い肉の焼ける音がする。モニターを見る。モニター上の腫瘍の一部が白く変色する
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166話 氷解

共犯者……そう言われて僕は笑う。「確かにそうですね……」そう言うと久遠先生が言う。「話してくれないか? 君が知っている事を」言われて僕は話し出す。自分が知っている全ての事を。◇◇◇手術室の扉が開く。出て来た新田さんは管に繋がれているけれど、ちゃんと生きている。「燈!」久遠先生が駆け寄る。出て来た燈先生は見知らぬ男性と微笑み合い、久遠先生に向き合う。「手術は成功よ、腫瘍は焼き切ったわ」燈先生がそう言う。隣に居るのは……あぁ、そうか。EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)の責任者の高嶺遼大さんだ。新田さんの朗報を聞き、僕は安堵する。久遠先生が僕を振り返る。「優斗」呼ばれて僕は三人の前に立つ。「手術の間、優斗から話を聞いていた。優斗から全てを聞いたよ」久遠先生がそう言う。「私たちにも聞かせてくれる?」燈先生にそう言われて僕は頷く。◇◇◇3000万……新田豊から要求された額だ。そんなお金どこにあるって言うのよ!!私はスマホを操作して、自分の口座にあるお金を確認する。そもそも私は自分が稼いだお金を湯水のように使っているから、貯金なんて雀の涙程度だ。今まではそれでも森崎の家のお金を使えたから、何とかなっていたし、何か物が欲しいなら湊に強請れば買って貰えたし、金づるという意味では千堂彰だって居た。けれど千堂彰にはもう何度も連絡を入れているのに、何の返信も無い。こんな事は初めてだった。確か前に電話した時は、千堂彰が牛耳っているEMSOっていう施設で警告音が鳴っていて、対応に忙しいと言われた。その後から千堂彰からは連絡が途絶えている。一条クリニックで受けたレーザー治療のせいで、かさぶたが剥がれかけた私の顔はドス黒く引き攣り、外に出ることも叶わない。鏡に映る醜い自分の顔に発狂しそうになりながら、私は震える指でスマホの画面を何度もタップする。頼みの綱だった優斗は新田豊に捕まり、加山良江とも連絡がつかない。孤立無援の暗闇に取り残された私が、喉をかき鳴らすようにして最後に縋りついたのは、あの人だった。スマホを耳に押し当て、震える声で呼ぶ。「あ、お母さん?」◇◇◇愛沢くるみが波多野優斗を搾取していた事、湊がそんな波多野優斗の学費の半分を出していた事、そして五年前の愛沢くるみのお腹の中に宿った父親は新田豊であった事、波多野優斗は姉で
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167話 身柄確保

湊がカンファレンスルームに戻って来る。「今、呼んだからすぐに来るだろう」そう言いながら難しい顔をする湊に私は聞く。「何かあった?」聞くと湊が苦笑する。「あぁ、くるみから電話があったよ」そう言う湊の手には一台のスマホ。湊はそのスマホを波多野優斗に渡す。「君のだ」波多野優斗はそのスマホを手に取り、確認するように操作する。「で、愛沢くるみは何て?」遼大が聞く。湊が嘲るように笑って言う。「金の無心だったよ」そう言われて私は聞く。「金の無心?」湊が溜息をつく。「あぁ、いつものように、ごめんなさい、訳は言えないのって言って俺に理由を聞かせない手だな」愛沢くるみが金の無心……そう思っていると、波多野優斗が言う。「多分、それは新田さんがくるみ姉さんにたかったせいです」そう言われてその場に居る全員が波多野優斗を見る。「愛沢くるみにたかった?」遼大が聞くと波多野優斗が頷く。「はい、僕を返してほしかったら3000万用意しろって電話してました」そう言われて笑う。「なるほどね」そこで遼大が少し考える。「という事は愛沢くるみは新田豊と優斗くんが一緒に居る事を知っている、という事だな」私は波多野優斗に聞く。「その3000万は新田豊が独り占め?」そう聞くと波多野優斗が首を振る。「違います。新田さんは僕がくるみ姉さんに搾取されてる事を知って、くるみ姉さんに一泡吹かせてやろうって僕に提案してくれたんです」つまりはその3000万は波多野優斗が愛沢くるみの搾取や支配から逃れる為の軍資金という訳だ。「なかなかやるわね、新田豊」私がそう言って笑うと、遼大も笑う。「で、湊くんは何て返事をしたんだ?」湊は苦笑して言う。「急患が入ったからまた後でと言って、切ったよ」賢い選択だと思った。カンファレスルームの扉がノックされる。「はい」返事をしたのは湊だ。失礼しますと言いながら入って来たのは加山良江だった。◇◇◇『くるみちゃん、どうしたの?』電話の向こうでお母さんがそう聞く。「何だか色々と雲行きが怪しいのよ」そう言って私はPCへと向かう。PCを立ち上げながら、椅子に座る。『雲行きが怪しいって、どういう事?』お母さんの声がヒソヒソしているという事は仕事中なんだろう。「お母さん、優斗に連絡取れた?」そう聞くとお母さんが少し笑って
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168話 カンファレンス

加山良江は遼大が渡したノートPCを持って入って来る。「お待たせ致しました」そう言って私たちの居るテーブルまで来て一礼する。「来てくれてありがとう、一通り、説明するわね」そう言って私が話を促すと、波多野優斗が言う。「僕は波多野優斗と申します。愛沢くるみの弟です」そこから話を聞きながら加山良江が時系列を整理する。それを見ながら考える。事の発端はやはり、私と湊が結婚した事だろう。「始まりは私と湊が結婚した事ね」私がそう言うと湊が頷く。「そうだろうな、おそらく愛沢くるみは俺との結婚を目論んでいたところはあったからな」そう言われて湊を見る。「それはその当時から感じていた事?」そう聞くと湊が苦笑する。「あぁ、当時はまぁ、家同士の結婚という体で話は進んでいたけど、俺としても燈と結婚する事に関しては前向きだったから」確かにあの当時。私と湊の結婚は表向き、家同士が決めた、という事にしていた。その方が話を進めやすかったからだ。「燈と湊くんが結婚して、思ったよりも上手くいっているのを見た愛沢くるみが一計を案じた……」遼大がそう言う。「それでも愛沢くるみは颯太と結婚しているのよね」私がそう言うと今度は加山良江が言う。「愛沢くるみは燈お嬢様と湊坊ちゃんが結婚した事で焦ったのでは無いでしょうか」そう言われて加山良江に聞く。「焦った?」加山良江が頷く。「はい、久遠家に入ろうにも、自分は久遠家の奥様や旦那様に良い顔をされていない。家同士の取り決めで結婚が決まっている家同士は良好な関係で、更に言えば、燈お嬢様は森崎家とも良好な関係を築いている、そうなれば自分が入り込む場所が無くなってしまいます」加山良江は少し考え更に言う。「家政婦の娘という、いち使用人の立場で、そこから脱却する為には、それ相応な相手が必要です。幼馴染という立場で言えば、学生の頃からお付き合いがあり、相手の状況も分かっていて……自分に多少なりとも恋心を持っていた颯太様を一旦、キープする……」そう言われて改めて愛沢くるみのモンスター加減を実感する。「愛沢くるみには愛情は無いのかしらね……」私がそう呟くと、遼大が笑う。「そんな感情よりも、貧しい事や人に使われる事の方が愛沢くるみには我慢ならないんだろうな」そこで波多野優斗が言う。「うちはそういう意味では機能不全家庭だったん
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169話 電話

スマホを手にしていた遼大がふと、笑う。「どうしたの?」そう聞くと遼大が言う。「千堂彰の身柄確保のニュースが出た」そう言って画面を私に見せる。EMSO日本支局所属、倫理審査委員委員長・千堂彰 薬事法違反の疑いで当局へ身柄確保「もう引き渡したの?」そう聞くと遼大が笑う。「あぁ、俺たちが居なくなってからものの数時間で、精神が崩壊し始めていたらしいからな」あれだけ傲慢に振る舞って、マッドサイエンティストと化していた千堂彰が、全ての悪事を暴かれ、精神が崩壊する……それもものの数時間でだ。「あの無音の空間が相当、堪えたのね」そう言うと遼大が鼻で笑う。「あの程度で、な」あの時の遼大を思い出すと、本当に胸が痛む。自身の弟の殺人に、千堂彰が一枚噛んでいたのだから。「ニュースが流れたという事は、愛沢くるみもこれを知ったという事だな」湊がそう言う。強力なパトロンの一人だっただろう、千堂彰が当局に拘束されたというニュースはすなわち、愛沢くるみが頼りにしている金づるも、薬も、愛欲の女王ももう手に入らないという事だ。「さて、どう出るか……」遼大がそう言って笑う。しかも今は新田豊に強請られ、搾取していた弟まで失っている。「発狂モノね」私がそう言うと、急に湊のスマホが鳴る。湊はスマホを見て笑う。「愛沢くるみだよ」そう言いながら湊は口に人差し指を立てて、スマホをテーブルに置き、タップする。スピーカーにしたようだ。「はい」そう湊が言うと電話の向こうで愛沢くるみがほぼ泣いているかのような声で言う。『湊さん……どうしよう……』その声は相手が愛沢くるみでは無かったら、本当に心配してしまうような声だ。「どうした?」湊がそう聞くと愛沢くるみが鼻をすすりながら言う。『私、脅されてるの……』私は遼大と顔を見合わせる。(そう来るのね、愛沢くるみ)「脅されてる?」そう聞く湊は口元が笑っている。『私、ある人から4000万用意しろって言われてて……』それを聞いて一瞬、吹き出しそうになる。「4000万!?」大袈裟に驚く湊にも、笑い出しそうになって必死で堪える。「何でそんな大金……」湊がそう言うと、愛沢くるみは言う。『そんなお金、用意出来ないの……』シクシクと泣く愛沢くるみに舌を巻く。新田豊から要求された額は3000万だ。それに1000万上
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170話 目覚め

電話を切って溜息をつく湊に何だか哀れみさえ感じる。今までならきっと湊は多少の違和感があっても愛沢くるみに言われたら、波多野優斗の学費の件と同様、全額は出さなくても、半額くらいは工面したのかもしれない。千堂彰が当局に引き渡され、愛沢くるみの供給源では無くなってしまった今、一番の太いパイプは湊だろう。いやもしかしたら、他にも居るかもしれない。愛欲の女王については、千堂彰が供給源ではあったものの、お金だけで言えば、他にもパイプがある可能性だってある……。「ねぇ加山さん」私が声を掛けると加山良江が聞く。「はい、燈お嬢様」私は今、自分が考えた事を言ってみる。「千堂彰が当局に身柄を拘束されて、優斗くんがここに居る今、愛沢くるみの一番太いパイプは湊だと思うんだけど、愛沢くるみは他にもお金を引っ張って来る人間が居るのかしら」そう聞くと加山良江が目の前のPCを見ながら言う。「バックドアから入って来る情報を見る限り、湊坊ちゃん以外には居なさそうですね」そう言われて考える。そうであるならば、今頃、愛沢くるみは金策を考えるのに必死?もし自分が愛沢くるみなら?要求された金額が用意出来ない、相手は自分と関係を持っていた過去の男……居場所が分かるなら直談判しに……そう思ってハッとする。「愛沢くるみは新田豊の居場所を知っているの?」私が波多野優斗に向かって聞くと、波多野優斗は首を傾げる。「さぁ、どうでしょう……僕には何とも」私がそう言った事で、遼大が言う。「そうか、金が用意出来ないなら、直談判しに行く可能性もある訳か」そう言われて頷く。「えぇ、そうなると大喀血を起こした現場だもの、血だらけでしょう?」湊が言う。「俺が部下に言って片付けさせても良いが……」私は少し考えて言う。「優斗くんも焦って一緒に救急車に乗って来て、新田豊の居た場所はそのままになっているのよね?」そう言うと波多野優斗が頷く。「言われてみればそうですね」片付けさせる……そう思いながら言う。「まずは鍵だけでもかけておけば、入る事は出来ないでしょう? 中が見られなければ、何が起きたのかを愛沢くるみが知る事も無い……」隣で遼大が言う。「そうだな、まずは新田豊の居た場所に愛沢くるみが入る事の無いように、こちらの動きを知られないようにしないといけないな」そう言って遼大が少し笑い、
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