Semua Bab 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Bab 201 - Bab 208

208 Bab

201話 冷徹

愛沢くるみが通されていた部屋は、ホテルのバックヤードにある、小さな小部屋だ。そこには監視カメラがついている。その監視カメラの名像を見られる部屋に入る。いわゆる警備室だ。一流ホテルの警備室なんて普通の人間なら絶対に入れない場所。そんな場所に案内される遼大は、本当に一体、何者なんだろうと思いながら、警備室の中の一角に案内される。総支配人は私たちに椅子を勧め、タブレットを持って来て、監視カメラの映像を見せてくれた。 小さなバックヤードの小部屋に入れられた愛沢くるみはテーブルと椅子しか無い部屋に通され、椅子に座っている。見た感じ、それ程、不安に駆られる様子も無い。 「本当に厚顔無恥なのか、肝が据わっているのか」 遼大がそう言って笑う。 「こちら側で把握しているのは、当ホテルにお泊り頂いている真壁様のお部屋での窃盗、及び、居座りでございます」 総支配人にそう言われて私は聞く。 「窃盗?」 そう聞くと総支配人が頷く。 「はい、真壁様より、ご指摘がございました」 そう言いながら総支配人は手元のスマホを操作する。 「報告によれば、当該人物は真壁様の腕時計一点、ブレスレット二点、ネックレス二点、ピアス一点、それ以外にも真壁様に無断でルームサービスをお頼みになりまして、高級シャンパン一本、アペタイザーをお召し上がりになっています」 総支配人はそう言いながら眼鏡をクイっと上げる。 「ルームサービスだけでも総額30万ほどです」 そう言われて私は遼大と顔を見合わせる。 「……払えない額では無さそうね」 私がそう言うと。遼大が笑う。 「そうだな」 私たちはこんなコソ泥程度の罪で愛沢くるみを警察に突き出す気は無かった。愛沢くるみはもっと他に大きな罪をいくつも犯しているだから。 「総支配人、ここは彼女自身にお金を払わせて手打ちに出来ませんか」 そう遼大が聞くと総支配人は微笑む。 「高嶺様がそう仰るのなら。こちらとしては大ごとにしたくは無いですからね」 それはそうだろう。こんな高級ホテルで窃盗騒ぎなんて、ホテルの評判に関わって来る。 「真壁さんとは僕たちが話をつけましょう」 遼大がそう言うと総支配人は微笑んで言う。 「はい、ではよろしくお願い致します」 そう言って頭を下げる総支配人に遼大が聞く。 「それで真壁さんは?」 総支配人が言う。 「別の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-24
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202話 愚か者

真壁早妃の部屋を出る。遼大は私を抱き寄せて、私たちが泊まっている部屋へ向かう。部屋に入って扉を閉めると、遼大が大きく一つ、息をつく。「……全く」そう言って私を見る。「あの女はいつも揉め事を起こすな」遼大があの女と言っているのは、もちろん愛沢くるみの事だけれど。「森崎家には帰らないのかしらね」私がそう言うと遼大が笑う。「森崎の家の居心地もそれ程、良くはないだろう。望美さんが家を出ていて、父さんもほぼ家には居ないらしいからな」愛沢くるみは今まで自分をちやほやしてくれる人間を常に傍に置いて来た。だから今の誰にも相手にされない状況は相当堪えているだろう。「ダウンタイムもそろそろ終わる頃だと思うけれど、ずっと家の中で過ごしていた訳じゃないから、経過は散々かもしれないわね」そう言うと遼大が微笑む。「そうなったらまた一条クリニックに行くんだろうから、そこは和輝に任せよう」◇◇◇EMSOの再編という大きな人事が起こっている間、俺は千堂理と共に千堂理の治療計画を立てていた。愛欲の女王に長い間、晒され、ベンゾ・マスクになった千堂理のリブートに関する事を互いの意見や知識を交えて、話して行くのは彼自身が研究していた分野でもあったお陰でかなりスムーズに話が進んだ。俺にとってはEMSOの再編の方は当然だが、首を突っ込む問題では無い。燈は藤堂氏の手術の為に聖カトリーナに来たに過ぎないのだから。一日の仕事を終え、屋敷に戻る。加山良江から愛沢くるみの動きを聞き、高嶺さんからも報告のメッセージを貰っている。愛沢くるみはコソ泥のような事をし、ホテルから摘まみ出されたという。俺は自室に戻り、一日分の報告を聞き、苦笑する。本当に懲りないんだな、愛沢くるみは。俺が密かに心の中に持ち続けていた、燈への思いは今はもう話しても無駄な事になってしまっている。それだけ俺は酷い事をしたし、燈にも酷い事を言って来た。だからこそ、俺は贖罪のつもりで、愛沢くるみを追い詰める道を選んだのだ。証拠は着々と集まって来ている。「湊様」呼ばれて俺はその時になって初めて部屋に加山良江が入って来ている事に気付く。「加山さん、どうしました?」そう聞くと加山良江が俺にスマホを差し出す。そこに表示されているのは愛沢くるみからのメッセージだ。~そろそろ謹慎が明ける頃合いなんじゃない?~それを読
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-25
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203話 襲来

「さっさと支払うんだ」そう言われても私は今、手持ちのお金が無い。泣く泣く切ったカードは限度額ギリギリになってしまった。裏口から追い出されるようにホテルを出される。何で私がこんな目に遭わなくちゃいけない訳?確かに私はちょっと図々しかったかもしれないけれど。別に盗んだ訳じゃないし、ホテルの高級なお部屋のサービスを少し使っただけなのに。私はホテルの裏路地を歩きながら、ここ数日の動きについて考えていた。優斗は? 新田豊からの連絡は途絶えている。3000万もの大金を要求しておきながら、だ。夜はまだ遅いとは言えないような時間帯、私は思い切って新田豊に直談判しに向かう事にした。新田豊だって私に会えば、気が変わるかもしれないし、上手く言いくるめれば、優斗だって戻って来るわ。電話をかけても繋がらない新田豊も優斗も、今、どこに居るのか分からないけれど、記憶を頼りに新田豊が住処として使っていた事務所へ行ってみる事にした。◇◇◇事務所は閉まっている……微かに消毒薬の匂いがする。この匂い……知ってるわ。何だっけ……どこかで嗅いだ事のある匂い。……そうだわ、病院よ。病院の消毒薬の匂いだわ。閉まっている事務所は真っ暗で誰も居ない。人の気配も無いから誰も居ないようだ。全く……一体、どこに居るっていうのよ!事務所を後にした私はそのビルの階段を降りようとした。「あ、アンタ」急に声を掛けられて振り向く。そこに居たのは小汚い男。「何?」そう聞くとその男が聞く。「アンタ、その事務所の人の知り合いかい?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、そうよ」そう言うとその男が私に言う。「この間、運ばれて行ったけど、大丈夫なのかい?」そう聞かれて私は少し驚く。「運ばれて行った……?」思わず聞き返すと、その男はハッとして気まずそうに笑う。「あぁ、知らないなら良いんだ」そう言って私の前から姿を消そうとしたその男を捕まえる。「運ばれて行ったってどういう事?」◇◇◇翌朝、目覚めると目の前に遼大の寝顔。遼大は私を抱き寄せて眠っていて、寝息を立てている。時計を見る。そろそろ起きなくてはいけない。今日は朝からEMSO日本支局に行って、再編の為の話し合いをする予定なのだ。「遼大」声を掛けると遼大が“うーん”と言いながら私を抱きくるむ。「ホラ、起きないと」起き出してラフな格
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-26
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204話 メッセージ

どう答えるべきか。一瞬迷う。だが目の前の愛沢くるみには確証があるように見える。「新田豊……悪いが俺の担当じゃなきゃ分からないな」そう慎重に言うと、愛沢くるみは俺に更に近付き、声を潜めて言う。「新田豊は私を脅して来ている人よ、前に話した私に大金を要求して来ている人なの」愛沢くるみが近付いて来た瞬間に、あの甘い匂いがふわっとまとわりつく。だがもうその脅威は排除されている事を俺は知っている。だからなのか、まだ愛欲の女王を見に着けている愛沢くるみの往生際の悪さが目立つ。(まぁ、仕方ないよな、愛沢くるみは愛欲の女王がすり替えられているなんて知らないんだから)「その新田豊とかいう人物が聖カトリーナに来ているとしても、俺はその情報をくるみには教えられないよ」そう言うと愛沢くるみは俺を甘えるように見上げて言う。「聖カトリーナに来ているかだけでも良いの、調べてくれない?」以前までの俺なら、こうしてお願いをされたら、教えていたかもしれないと思うと、ゾッとする。俺は愛沢くるみから体を離して言う。「医師には守秘義務があるんだよ、仮にその人物が来ていたとしてもそれを無関係の人物に教える事は出来ない」一歩、後ろにわざと下がり、距離を置く。「それから、病院に来るのに香水は止めておいた方が良い」そう言って俺は愛沢くるみをその場に置き去りにして、背を向け歩き出す。愛沢くるみが俺の後を追って来る。俺は足を止め、振り返り言う。「くるみ、前にも言ったが、ここはくるみが自由に歩き回れる場所じゃないんだ。俺に付いて来るのも今後は止めてくれ」そう言って歩き出しながら慎重に考える。角をいくつか曲がり、足を止める。くるみが付いて来ていないか、確認の為だ。どうやらくるみは俺を追うのを止めたようだった。スマホを取り出し、一応、念の為、燈と高嶺さんには報告しておいた方が良いだろう。特別室へ入る為の警備を少し見直すべきだろう。あの愛沢くるみだ、聖カトリーナにもしかしたら他にも伝手がある可能性だってある。新田豊は手術が成功したとはいえ、まだ自由に歩き回れる程、回復した訳じゃないし、新田豊の付き添いは波多野優斗、愛沢くるみの実弟だ。俺は少しだけ遠回りをしながら、特別室がある病棟へ向かう。愛沢くるみが聖カトリーナに来ている事を波多野優斗に伝える為に。◇◇◇再編の話は順調に進んだ。賀神さんは
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-27
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205話 ブラフ

俺は特別室がある病棟へ入り、入口を警備している人間に言う。「何食わぬ顔をして入り込もうとする者が来るかもしれないから、出入りは慎重に確認してくれ」俺がそう言うと警備の人間が頷く。「かしこまりました、久遠理事」俺はそう指示を出して、特別病棟へ入る。愛沢くるみなら他にも協力者が居て、正面からは入らないかもしれない。そんな予測を立てながら俺は新田豊の居る病室へ入る。病室に入ると新田豊が一人だった。「久遠先生」新田豊が微笑む。俺は周囲を見回して言う。「波多野優斗は?」そう聞くと新田豊が言う。「さっき、売店へ行きましたよ、喉が渇いたからって」そう言われて俺は少し慌てる。「今、聖カトリーナに愛沢くるみが来ている。鉢合わせたらまずい」そう言うと新田豊も少し慌てたように言う。「どうしましょうか」そう言われて俺は聞く。「新田さん、あなたのスマホは?」そう聞くと新田豊が俺にサイドボードを指す。「そこに」◇◇◇スマホが不意に鳴る。見ればメッセージだった。~緊急事態発生、愛沢くるみが聖カトリーナに居る~それを見て僕は辺りを窺う。聖カトリーナは広いし、人も多い。僕は柱の陰に身を隠す。(良く見ろ……ここに居る人たちの中に姉さんが居る……)幸運なのは僕は今、新田さんに借りた服を着ている事だ。普段の僕の服じゃない。それだけでもかなり印象は変わる筈だ。柱に寄り掛かり、僕はスマホを見る振りをしながら周囲を窺う。十数メートル先、派手な服の女性……見覚えがある。大きなつばの帽子を被っているその女性は、紛れもなくくるみ姉さんだ。くるみ姉さんはスマホを見ながら真っ直ぐに正面入り口に向かっている。その様子を見ながら僕は改めて、自分たちがくるみ姉さんに狙われているのだと実感する。ずっと怖かったくるみ姉さん。僕を縛り付け、あんなに良い服を着ているにも関わらず、僕から搾取し続けた人。もう僕はくるみ姉さんには縛られない。くるみ姉さんが向かう方向とは反対方向へと歩き出す。◇◇◇新田豊からのメッセージにはこう書かれていた。~俺を心配して病院にまで来てくれたのか?~~泣けるね、お前に心配されるような身体じゃねぇから心配すんなよ~~お前の事は離れた場所から見てるよ、何をしてるのか、どこへ行こうが、俺には分かる~~それで、金の準備は出来たのかよ?~~優斗を連れて
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-28
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206話 孤独

歩きながら高嶺さんと話す。「地下階のレプリトールディザスターについてはサンプルとか、ありますか?」そう聞くと高嶺さんが言う。「サンプルは無いが、千堂彰の残したデータがある。変異や変質をしていないかの確認は必要だろうが、地下階は今、完全に封鎖してあるから、おそらくは変異や変質はないものとして、データを解析して貰えばそれで良い」そう言いながら高嶺さんに付いて歩く。こうして仕事の話をしながら高嶺さんと歩く事が出来るなんて、夢のようだ。私は開発局の局長だけれど、創始者一族であり、最高責任者である高嶺さんと組んで仕事をする事は無かったし、高嶺さん自体が高根の花だったのだ。それがこんなに近くで話しながら歩けるような仲になれるなんて、本当に幸運だ。そんな事を考えていたら、分析室へ着いてしまった。「こっちの端末にデータは送ってある。確認してくれ」そう言って高嶺さんは振り返り、後から歩いて来る賀神さんと佐伯燈を待っているようだった。「地下階のサンプルはどうやって採取を?」高嶺さんを引き留めたくて、そう聞く。高嶺さんはチラッと私を見て言う。「そうだな、地下階のサンプルは……」高嶺さんがそう言った直後、合流した佐伯燈が言う。「地下階のサンプルなら、私たちが脱出するのに使ったダクトから採取した方が安全だと思うわ」(私と高嶺さんの会話に無断で入って来ないでよ!)そう思いながらも“脱出”という言葉が引っ掛かる。「脱出、ですか?」そう聞くと賀神さんが溜息をつく。「先に情報を送って貰っただろう? 確認していないのか?」眼鏡をクイっと上げながら賀神さんはそう言って眉をしかめる。「お二人は地下階に監禁されていた千堂彰の息子の千堂理氏を救出する為に、地下階から旧施設のダクトを使って、地上階まで上って来たんだ」(地下階からダクトを使って……?)賀神さんは呆れたように私を見て、言う。「敷地の西にある旧施設の跡地に、廃液メンテナンスの為のシャフトがあるんだ。そこからお二人は千堂理氏を背負って脱出された」そう言って賀神さんは高嶺さんと佐伯燈を見る。佐伯燈が笑う。「千堂理を背負ったのは遼大よ」本当に腹が立つ。こんなオフィシャルな場所でも高嶺さんを“遼大”と呼ぶなんて。高嶺さんはそんな佐伯燈の腰を抱き、優しい眼差しで佐伯燈を見下ろして微笑む。「燈には大事なケー
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-29
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207話 現実

千堂彰が残したというデータを見る。レプリトールディザスターのひな型はレプリトールという薬物。資料によれば、国内未承認の中枢神経抑制剤で、主にヨーロッパで治験的に使われたけれど、強い依存性と精神破壊作用が認められた為に開発が中止された、いわゆる“呪われた薬”。前頭前野の血流が低下、セロトニン、ドーパミンの過剰抑制、偏桃体に作用する報告例もある……。そんな薬物をひな型にし、更に変質させて作り上げたというレプリトールディザスターは構造式がもっと複雑だった。複雑な構造式データを前に私はどこから手を付けて良いのか、分からない。だってこんな構造式、見た事も無い。私の背後に誰かの人影が落ちる。気になって振り向くとそこには佐伯燈が、私と同じようにレプリトールディザスターの構造式を見て腕を組んでいる。(あなたに分かる訳が無いのよ、考えるフリしても無駄だわ。私だって分からないのに)そう思いながら私は画面を眺める。不意に背後で声がする。「そっか……そうよね……」そう言ったのは背後に居た佐伯燈。「ちょっと良い?」そう言って私の前に身体を入れて、目の前のキーボードを叩き始める。「ちょっと! 勝手に何を……」そう言いながら画面を見ると、構造式がバラバラに解体されて行く。「ここに……こうして、配列を組み替えて……」佐伯燈は迷いなく呟きながら、滑らかな指つきで次々とコードと構造式を打ち込んでいく。私がどれだけ考えても解けなかった悪魔のパズルが、彼女の手によって魔法のように鮮やかに解体されていく。「ここまでなら、私にも解析出来たけれど」佐伯燈はそう言うと、大きなメインモニターにその美しい分析経過をパッと表示させ、キーボードからすっと体を離した。「あぁ、なるほど」賀神さんがそう言って顎に手を当て、考える。大きな画面に表示された分析経過を見ながら高嶺さんが微笑む。「さすがは燈だな」私には手も足も出なかった構造式をいともたやすく分解し、分析した佐伯燈。「これ、送って貰えるか、真壁さん」高嶺さんにそう言われて私は慌ててその分析経過をタブレットへ送る。(そうよ、そうだわ……佐伯燈はこのレプリトールディザスターの構造式をきっと前もって知ってたのよ)(だからいつ分析が始まっても、人より先にある程度のところまでは解析出来ていたのよ)(きっと、そうだわ……)そう思わ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-30
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208話 才能

一旦、解析の方は真壁早妃に任せる事にして、私と遼大は分析室を後にした。「さっき、何話してた?」不意に遼大にそう聞かれて私は聞く。「さっき?」そう聞くと遼大が言う。「賀神と」そう言われて私は笑う。「賀神さんが今、抱えている症例の話をしていたの。天才心臓外科医として、抱えている案件は多いから、色々とアドバイスが欲しいって言われて」そう言うと遼大は私を見て言う。「天才同士、アドバイスが欲しいって感じか」そう言う遼大が何だか拗ねているように見えて、可愛く思いながらも、私はそんな遼大の腕に触れる。「ただ単に症例の話をしただけよ、他には何も話してない」遼大はそんな私の手を握り、手を繋ぐと歩きながら言う。「分かってる」目の前の高嶺遼大は贔屓目無しに見ても、相当な良い男だ。容姿も整っているし、背も高くて、EMSOという巨大な組織を牽引して行けるだけのリーダーシップだってあるし、何よりも研究者、そして医師として、優れている。そんな彼がこんなふうに焼きもちをやいてくれるなんて、嬉しいけれど、もどかしい。私が愛しているのは遼大だけだという事を分かって貰う為には何をしたら良いんだろう。EMSO日本支局内に新たに作った特別室。ここは遼大がこちらへ来ている間、使う為に作られた部屋だった。その特別室に入り、遼大が言う。「愛沢くるみが和輝のところへ行くらしい」そう言われて私は笑う。「まぁ、そうでしょうね」私と遼大の前に現れた愛沢くるみは以前にも増して、目元の化粧が濃かった。きっとそれはレーザー治療後のダウンタイム中だったという事もあっただろうけれど、聞くところによれば、一条和輝は愛沢くるみに“特別な”クリームを処方したそうだ。その特別なクリームの作用もあっただろう。私たちと一条和輝が繋がっているという事を知らない愛沢くるみが滑稽だった。そして七年前、五年前の私に対しては愛沢くるみは同じように思っていただろう。何も知らずに陥れられて行く事の理不尽さ、全てをコントロールしている側の優越感。今や誰も愛沢くるみの味方は居ない。「しばらくの間、愛沢くるみの事は和輝に任せようと思うんだが、燈はどう思う?」遼大は特別室の中の一番大きなデスクに座り、そう聞く。「そうね、それが良いわ」私はそう言って遼大に近付く。遼大は私を抱き寄せて抱き締める。私の髪に顔を
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-31
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