All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 151 - Chapter 160

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151話 導き出すもの

ドアをノックする。「はい」短い返事。俺がドアを開けると、加山良江が立ち上がる。「あぁ、そのままで」俺がそう言っても加山良江は立ち上がり、俺に深々と一礼する。俺は加山良江が居るデスク前に立ち、加山良江に言う。「今日は助かった」そう言うと加山良江が微笑む。「燈お嬢様も高嶺さんもご無事だったと聞きました……本当に良かったです」加山良江がそう言って椅子に座る。「GPSの事をすっかり忘れていたよ」俺が苦笑しながらそう言うと、加山良江が言う。「万が一の事を想定して、高嶺さんが自分たちのGPS情報を追うように、と私に」そう言われて改めて、高嶺遼大が有能である事を実感する。「本当に、あの人は……」そう言って笑う俺に加山良江が言う。「湊坊ちゃん」呼ばれて加山良江を見る。「何だ?」そう聞くと加山良江が言う。「愛沢くるみに仕掛けたPCとスマホのバックドアから情報が絶え間なく入って来ているんですが」そう言いながら加山良江がカタカタとPCのキーボードを叩く。「五年前と七年前にフォーカスして探してみたんです」そう言って加山良江はPCの画面に何かを表示する。「まずは七年前」そう言って加山良江が俺に画面を見るよう、促す。俺はPCの画面を見る為に加山良江の椅子側へ移動し、画面を見る。「愛沢くるみはかなり前から千堂彰と繋がっていました……もう10年は付き合いがあるようです」画面には愛沢くるみと千堂彰のメッセージのやり取りが抽出されている。「10年か……」俺がそう呟くと加山良江がワード検索を掛ける。“レプリトール” “事故” “車”抽出されたメッセージを開く。~渡されたものは車のエアコンに吹き付ければ良いんですよね?~~そうだよ、何回かに分けて、エアコンの奥に吹き付けるんだ~~本当に事故が起こるなんて、千堂先生、天才だわ~~この後はレプリトールの出番!~そこまで読んで俺は疑問が浮かぶ。「何だ? 渡されたもの……?」そう言って加山良江を見る。「何か、分かるか?」そう聞くと加山良江が少し考える。「あの当時、愛沢くるみは千堂彰と二人きりで会う事が多かったんです。誰も部屋に入れなかったんです。だから何の事かは……」そこまで言って加山良江がハッとする。「ちょっと待ってください」加山良江はそう言って検索ワードを変える。“新薬”
last updateLast Updated : 2026-06-18
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152話 改心

千堂彰の自白を聞いていると、本当に腹が立って、仕方なかった。加山良江は冷静に千堂彰の自白を淡々と文字に起こしている。高嶺さんが言う。『脳内のセロトニンやドーパミン受容体を強制的にシャットダウン、脳が処理出来る限界を超えた“恐怖”や“死への渇望”、そして“圧倒的な自己否定感”が神経回路に直接流し込まれ、作用する。これを吸い込めばその途端に、激しい過換気症候群やパニックを起こし、強い精神的負荷から、ショック死も有り得る、だったな?』それを聞いて、衝撃で口元を押さえる。脳内のセロトニンやドーパミン受容体を強制的にシャットダウン……限界を超えた恐怖や死への渇望、圧倒的な自己否定感が直接流し込まれ……激しい過換気症候群やパニックを起こし……颯太が万が一にも車内でそんな状態であったなら。事故を起こすのも頷ける。『白状したらどうだ?』そう聞く高嶺さんの声に千堂彰が自白する。『そうだ……七年前の森崎颯太の事故の日、私は手を貸した』そうか……あの事故は……!ヨタヨタと後退り、俺は壁に寄り掛かる。血の気が引く。そもそも事故自体が仕掛けられていたのだ。それも颯太の死を利用して、燈を追い落とす為だけに。なのに俺はそんな事にも気付かず、ずっと燈を責め続けた……。最悪だ、俺は何て事をしていたんだ……。「湊坊ちゃん、大丈夫ですか?」いつになく冷静に加山良江がそう聞く。「あぁ、ちょっと気分が悪いだけだ……」そう言いながらも吐き気を催す。「しっかりしてください」加山良江はそう言いながらもPCの画面から目を離さない。「私たちは燈お嬢様に償っても償い切れない程の罪を犯したんです。少しでも償えるよう、後悔などは後回しですよ」そう言いながらカタカタとPCのキーボードを叩く加山良江は、俺が知っている加山良江では無かった。加山良江の言う通りだ。自分の感情や後悔など、そんなものは後回しで良い。俺は自分を立て直す。まず、俺がやらなければならない事、それは……。◇◇◇部屋が暗くなる。(もう夜なのね……)そう思いながら私はグランドクイーンを塗った自分の顔を見る。どうしても黒ずんでいるようにしか見えない。(本当にこれで大丈夫なの? 私の白い肌は戻って来るの?)部屋の灯りを付け、照らされた自分の顔。醜く汚いシミの跡……。私はそのシミから目を背け、ガウン
last updateLast Updated : 2026-06-19
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153話 慈愛

翌朝、私は遼大の腕の中で目を覚ました。スヤスヤと眠る遼大を見て、私は微笑む。こんなふうに遼大の寝顔を見る事も、一緒に過ごすうちにこれが普通の、当たり前の事になって行くんだろうと思うと、何だか不思議な感覚だ。昨日一日の遼大の活躍は本当にすごかった。何に対しても対策をとっている遼大のその感覚の鋭さと見識の広さは、私でも計り知れない。遼大の髪に触れる。柔らかい癖っ毛……額にかかるその髪を指で梳く。不意に私のその手を遼大が掴んで私を自分の腕の中へと引き込む。温かい遼大の体温を感じながら安堵する。◇◇◇起き出して、支度をしている時、遼大はスマホを見ながら難しい顔をしている。「どうしたの?」そう聞くと遼大は苦笑しながら言う。「うん……百田、居ただろう?」そう言われて私は昨日の秘匿施設で千堂彰の前に百田という男に話を聞いた事を思い出す。「えぇ、それが?」そう聞くと遼大が言う。「昨日、事情聴取をした後、秘匿施設から出して、保護の為にこのホテルの一室に入って貰ったんだけど、その百田がPCを要求しているらしいんだ」そう言われて私は支度の手を止める。「PCを?」聞き返すと遼大が頷く。「あぁ、一応、百田の言い分としては愛欲の女王と絶望の王の開発を間近で見て来たから、特効薬を作れるかもしれないって事なんだが」そう言って言い淀む遼大を見て察する。「PCを渡してしまったら、遠隔操作で記録を消される可能性もあるものね」そう言うと遼大が頷く。「あぁ、そうなんだ。昨日の聴取の感じだと、まぁ、俺たちに反意は無さそうだったけど……実際の腹の中までは分からないからな」百田の言う特効薬……それはとても魅力的な提案だ。けれど腹の中が分からない以上はリスクは負えない。「このホテルに居るって言った?」私がそう聞くと遼大が私を見て、一瞬で微笑む。「あぁ、居る」◇◇◇ドアチャイムを鳴らす。すぐに部屋から百田が顔を出す。「おはようございます、百田さん」遼大がそう言うと百田が苦笑している。「おはようございます」百田は体を下げて、私たちが中に入れるよう、身を引く。中に入る。狭い一室。ベッドと小さなテーブルと椅子しか無い部屋。「PCが欲しいと聞きました」あくまで紳士的に遼大がそう言う。百田はそんな遼大の様子に何かを察したのか、言う。「私も昨日一晩、考えました」
last updateLast Updated : 2026-06-19
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154話 お友達

部屋を出て私は遼大と共に廊下を歩く。「まだ朝飯、食べてないな」そう言って遼大が私の肩を抱く。「うん、そうね」そう言うと遼大が言う。「上のビュッフェで朝飯、食べよう」そう言われてエレベーターで上階へ行く。◇◇◇朝食を食べていると、遼大が言う。「湊くんから連絡来てたよ」そう言われて聞く。「何て?」遼大はサラダをモリモリ食べながら言う。「昨日、俺が送った千堂彰の証言を聞いたらしい。それで自分に出来る事をまずやるってさ」自分に出来る事……千堂彰の開発した毒でベンゾ・マスクになってしまった千堂理の治療計画の事だろうか。「何をするのかしら」私がそう言うと遼大が少し考える。「何だろうな……千堂理に関する事か、愛沢くるみの事か……」それでも昨日の千堂彰の証言を聞いたというのなら、その怒りと衝撃はかなりのものだっただろう。私も驚いたのだから。七年前の颯太の事故に千堂彰が既に関わっていたというのは、本当に想定外だった。千堂彰と愛沢くるみの付き合いがどれ程の長さなのかは分からない。けれど七年前には確実にあの二人は結託していたのだ。「百田の事を湊くんに話さないとな」遼大がそう言う。「本当に特効薬なんて出来る思う?」そう聞くと遼大が少し考える。「まぁ……不可能では無いだろうな。俺も愛欲の女王の解毒薬を調合出来たから」確かに遼大は愛欲の女王に晒されていた湊や、加山良江を自身の作った解毒薬で実際に解毒はした。「あなたの作った解毒薬では千堂理は治せないのよね」そう言うと遼大が苦笑する。「そうだな、俺が作ったのは中和するもので、根治出来るものでは無いから」百田の言った言葉が脳裏によみがえる。「千堂彰の研究を見ていたから、特効薬が作れるかもしれない……けれどその特効薬がどこまで千堂理を救えるのか未知数だ」遼大はそう言って難しい顔をする。「遼大の言う通りね。本当に未知数だわ」◇◇◇俺は朝から聖カトリーナに向かっていた。千堂理の治療計画を練る為と、もう一つ。今回の愛沢くるみの協力者の一人、波多野優斗から証言を得る為だ。波多野優斗は俺が燈を救い出しに行く時に、部下に命じて、捕らえてあった。聖カトリーナの別室に。そこへ行き、愛沢くるみに協力したという証言を取らなければいけない。聖カトリーナに入る。俺の個人オフィスに入り、ジャケットを脱ぎ
last updateLast Updated : 2026-06-20
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155話 逃亡

(は? お友達?)そう思い聞く。「友達って誰?」そう聞くと電話の向こうで何やら声がして、別の男が電話口に出る。『くるみちゃん』その声を聞いて血の気が引く。「優斗……?」(波多野優斗が何故、新田豊と一緒に居るの?)全身の血の気が引き、手が冷たくなって行く。『優斗くん? っていうの? コイツ、聖カトリーナの病室の窓から出て来たんだけどさ』新田豊が嬉々として話す。『面白そうだから手助けしたんだよ……名前聞いたら波多野優斗だっていうじゃん』手足が冷たくなって行く。『お前が随分前に俺と会ってる時に、お前の口からそんな名前出て来た事、あっただろ?』鼓動が早くなる。『だから話聞いたらさ、お前に電話しろって言うからさ。ビンゴだなって思ってな』私は震える声で言う。「優斗を解放して」それだけ言うと、電話の向こうで新田豊が言う。『やっぱり、何か訳アリなんだろ? お前がそんなに慌ててるって事は、コイツ、金になるよな?』私はほとんど叫ぶように言う。「優斗に何もしないで!! 手を出したらただじゃ置かないわよ!!」◇◇◇朝食を終え、部屋に戻った時、私のスマホが鳴る。「湊からだわ」私はそう言って遼大に微笑み、スピーカーボタンをタップして電話に出る。「はい」電話の向こうが騒がしい。『燈、朝早くに悪い。拘束していた波多野優斗が逃亡した』スピーカーからそう聞こえる声は焦っている。「波多野優斗を拘束していたの?」そう聞くと湊が言う。『あぁ、昨日、EMSOへ行く前に部下に捕えさせて、拘束していたんだが』湊は外に居るんだろうか、ゴーッという風の音が入る。『拘束するのに使っていた聖カトリーナの部屋から逃亡した。窓から逃げたみたいだ』そう言われて私は遼大と顔を見合わせる。「分かった、とりあえず、聖カトリーナに向かうわ」◇◇◇電話を切った私は部屋の中をウロウロ歩きながら考える。どうしたら良いの……。優斗がよりにもよって新田に捕まるなんて。優斗が逃げた……ううん、違うわ……優斗は私の元へ向かっていた筈よ、そういう子だもの。私はスマホを出して、千堂彰に電話をかける。昨日、千堂彰に拒否られてから、千堂彰からは何の連絡もない。今までだったらあんなふうに私を扱う事なんて絶対に無かったのに。でも千堂彰は電話に出なかった。(大事な時に……! 使
last updateLast Updated : 2026-06-20
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156話 二人の関係

「波多野優斗の荷物はどこに?」遼大がそう聞くと、湊が言う。「ここにある」部屋の外に居た部下の人が大きめのバッグを持って入って来る。遼大はそれを受け取ると、おもむろに中を探り始める。部屋のテーブルの上に波多野優斗の荷物が並べられて行く。着て来た上着だろうか、丸まったシャツ勉強の為なのか、薬事に関する本、数冊タオル、財布、スマホ、聖カトリーナのIDカード、そして大学ノート一冊遼大はスマホを手に取ると、操作し始める。湊は大学ノートを手に取ってパラパラとめくる。私は財布を手に取って、中身を確認する。財布の中身はごくごく普通のもののように見えた。現金はそれほど持っていない、本人確認の為の身分証明書、キャッシュカード一枚……一枚?薬剤師で、それなりの収入もあった筈なのに、キャッシュカードが一枚……。現金主義なのか、それとも堅実なのか。現金主義の割には所持している現金が少ない気もするけれど。財布の中に入っている身分証明書を確認する為に身分証明書を出した時、財布の中から数枚の領収書がハラハラと落ちる。落ちた領収書を拾い上げる。チラッと見えた領収書の発行者の名前……サロン・ド・オーキッドサロン・ド・オーキッド……?そう思って拾い上げたその領収書を見る。但し書きには施術代と書かれているけれど、波多野優斗がサロン・ド・オーキッドに行っていたなんて、全然知らなかった。波多野優斗と愛沢くるみの出会いがサロン・ド・オーキッドだったというなら、頷ける話だけれど。「……そういう事か」遼大が言う。遼大を見る。遼大は私と湊を見て、少し笑って見せる。「何? どうしたの?」そう聞くと遼大が言う。「波多野優斗と愛沢くるみの関係性が分かった」◇◇◇僕は今、ガラの悪い男に捕まっている。小汚い部屋……どこかの事務所のような場所に連れて来られて、座らされている。「アンタさぁ、くるみの何なんだよ」見た目、僕よりも少し年上だろうか。派手なシャツを着て、靴のかかとを踏んでいるせいで歩く度にスタン、スタンと足音が大きい。僕は聖カトリーナで薬剤師をしている。今日、急にスーツ姿の男が来て、僕を連れて聖カトリーナの別室に入れた。不安で不安で仕方なかった。何で僕がこんなふうに拘束されるのか、意味が分からなかった。その時、部屋の外に居た、僕をこの別室に連れて来た男が誰かと何かを話し
last updateLast Updated : 2026-06-21
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157話 ガスライティング

「え? 波多野優斗と愛沢くるみが姉弟?」私がそう聞き返すと、遼大が頷く。「あぁ」そう言って遼大は波多野優斗のスマホの画面を私たち二人に見せる。そこに表示されていたのは波多野優斗と愛沢くるみの個人的なやり取りだ。~優斗、元気? 聖カトリーナで怪しまれないように、大人しく薬剤師やってなさいよ~~姉さん、僕は元気だよ。聖カトリーナでは上手く立ち回ってて、目立ちもしてないから大丈夫~最新のメッセージがこんな形で終わっている。日付はほんの一週間くらい前だ。遼大はスマホをスクロールして、目ぼしいところを見せてくれる。~優斗、アンタ、美容薬にも詳しいんでしょ? 最近、色々と話題の美容液代わりに使えるっていう処方薬、何とかならないの?~~僕が薬剤庫から処方薬を盗むなんて無理なんだよ。全部、記録されてるんだから~~そんなふうに断りを入れるなんて、アンタも偉くなったわね。誰がアンタの学費、出したと思ってるのよ~~学費を出したって言っても、僕が姉さんから借金する形だろう? ちゃんと毎月、給料全部渡してるだろ~ログを読むだけで、二人の関係性が分かる。愛沢くるみは現状、実の弟の波多野優斗からも搾取をしているのだ。「愛沢くるみが波多野優斗の学費を出した……」湊が呟く。「何か引っかかる?」そう聞くと湊が少し考える。「うん……なんて言うか……そうか!」湊は何かを思い付いたのか、自身のスマホを操作する。「かなり前だけど、愛沢くるみから金を借りられないかっていう“おねだり”があったんだ」愛沢くるみのお願いを“おねだり”と言う湊は、その当時の事を相当、悔やんでいるんだろうと思えるような口ぶりだ。「……あぁ、あった」そう言ってクラウドから引っ張り出して来たメッセージを私たちに見せてくれる。~湊さんにお願いがあるの。こんな事、湊さんにしかお願い出来なくて~そんな書き出しで始まる文章には、下手に出て何とか湊のご機嫌を取りつつ、お金を引き出せないかという魂胆が見え見えだった。「それで? 貸したのか?」そう遼大が聞く。湊は苦笑して言う。「この頃は颯太とくるみが良い感じで付き合っていたっていうのもあってね。何に使うのか聞いたけど、明確な答えが無くて、それならと、半分なら出すって言ったんだ」半分出す……それでも薬剤師になる為の学費だ。それなりの額だっただろ
last updateLast Updated : 2026-06-21
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158話 教唆

「くるみの弟!?」新田豊が驚く。それはそうだろう。きっと姉さんは誰にも僕の存在を明かさないのだから。「でも、お前、波多野って……」そう言われて僕は笑う。「僕が波多野姓なのは、僕が要らない子だからです」自分でそう言って胸が痛む。そう、僕は愛沢姓を名乗れない。小さい頃に外に出されたからだ。くるみ姉さんとは父親が違うせいで、僕は愛沢姓を名乗れなかった。そして僕が母さんのお腹に宿った時から僕は要らない子だった。母さんは家政婦としての仕事があったから、妊娠してしまうとその仕事も出来なくなる時期が出来てしまう。そうなると父親の居ない家庭だった愛沢家としては死活問題だった。僕が生まれた時、母さんは仕事を休めなくて、僕を産んですぐに波多野の家に差し出した。波多野は愛沢家の遠縁だ。波多野の家も裕福とは程遠く、僕は幼い頃からほぼ一人で自分の身の回りの事をし、最低限の学習をして来た。そんな僕でも頭だけは良かったから、治安の悪い高校でも優秀な成績を収めていた僕に、薬学部への編入を打診があった時は嬉しかった。高校生の頃からアルバイトをしながら家計を支えていた僕にも光が見えた瞬間だったから。それでも学費の問題があった。薬学部は学費が高い。波多野の家は当然、そんなお金は無かった。波多野の家の養母が愛沢家にその事を愚痴交じりに話した事で、僕はその時になって初めて生母と姉に会ったのだ。姉さんは綺麗な服を着て、面倒くさそうに僕を見ていた。そして言ったのだ。「アンタのせいでどれだけ私たちが苦労したと思ってるのよ、恩返しの為に働いてその分を返すって言うなら分かるけど、学費? そんなものどこから出るのよ」そう言われて僕は自分の人生を諦めかけた。けれど姉さんがその時、少し考えた後、言ったのだ。「学費は私が私の良い人から引っ張って来るわ……その代わり、アンタは死ぬ気で勉強して、ストレートで卒業しなさい。その後は私と母さんに恩返しするのよ」それからずっと僕は搾取される人生を送っている。稼いだお金は全部、姉さんに渡し、僕は最低限の生活しかしていない。自分の欲しいものを買う為に、睡眠時間を削ってアルバイトをして、何とかやっている状態なのだ。「ふーん、良く分かんねぇけど、まぁ良いわ」新田豊はそう言って、立ち上がるとスタン、スタンと足音を大きく立てながら歩き、事務所のような場所にあった
last updateLast Updated : 2026-06-22
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159話 聞き覚え

新田豊に言われた事に驚く。(そんな事、考えた事も無かった……)新田豊はそんな僕を見て、笑う。「考えた事も無かったって顔だな」そう言われて僕は苦笑する。「仰る通り、考えた事も無かったです……」そうだ、何で僕は抜け出す事を考えなかったんだろう。そう言われて初めてそんな考えに出会った気がした。僕を取り巻く環境はすごく狭い。普段、職場の人とは極力、話さないようしている。それはやはりくるみ姉さんにそう命じられているからだ。友達も作らず、職場でも誰とも話さない。大学時代にはそんな僕を皆、変わり者だと言った。「搾取されてる人間は分かるんだよ。自分の意志が無いからな」そう言われて僕はまた苦笑する。新田豊の言う通りかもしれない。「くるみの言うなりになって来たんだろ?」新田豊はそう言いながら、ビールを飲む。「お前、スマホは?」そう聞かれて僕は言う。「スマホは職場に置いて来ちゃいました」新田豊は少し笑って言う。「じゃあ、抜け出す為の一歩かもしれないな」◇◇◇湊と遼大と共にその別室を出て、廊下を歩く。「どこへ行ったのか、一旦、確認の為に監視カメラを確認した方が良いだろうな」遼大がそう言う。「そうね、見られるなら確認した方が良いわね」私がそう言うと湊が言う。「監視カメラの管理をしているセキュリティー管理棟へ行こう」聖カトリーナの敷地内にある管理棟。病院の建物とは別の建物だ。入り口で湊がIDカードを提示し、中に入る。「久遠先生」そう言って管理者が出て来る。「今日は何の御用で?」そう聞かれた湊が言う。「病棟の北側の道路に面しているところを映しているものはあるか?」湊に聞かれた管理者が言う。「北側……道路に面しているところ……」そう言いながらPCのキーボードを叩く。「お時間は?」聞かれた湊が腕時計を見ながら言う。「つい30分ほど前だ」管理者がPCを操作し、言う。「これですね」そう言って画面に映し出された画像。画面の奥の方で、窓が開く。そしてそこから一人の青年が出て来る。「波多野優斗だな」遼大がそう言う。波多野優斗はそのままキョロキョロとして病院の北側の道路を見る。そこへ派手な車が通りかかる。「ん? これは誰だ?」派手な車の運転手が顔を出して、波多野優斗に声を掛けている。ガラの悪そうな男だ。波多野優斗はその男と
last updateLast Updated : 2026-06-22
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160話 ステージⅣ

管理者がPCのキーボードを叩きながら呟く。「新田豊……新田豊……」そして何かを見つけ出したのか言う。「あ、あった……ありましたね」そう言って管理者が見せてくれた映像。そこに映されていたのは派手な外見、ガラの悪い男。「ほんの数日前にこの新田豊が聖カトリーナに来てたんですよ。看護師の女性にしつこく言い寄っていましてね。警備員が呼ばれてうちが対応しました」画像に映っている新田豊という男……少し痩せているだろうか。「どうしてこの新田豊はうちに?」湊がそう聞く。管理者が苦笑する。「それに関しては病棟の方で調べて貰わないと」そう言われて三人で顔を見合せる。セキュリティー管理棟を出て、病棟の方へ向かう。「新田豊は何で聖カトリーナに出入りしていたのかしら」私がそう言うと湊が笑う。「まぁ、看護師にちょっかいかけて、追い出されていたって事だからな、それ程、深刻な状態ではないだろうが」私は監視カメラの映像を見た時の違和感を思い出す。(何だろう……あの痩せ方……不摂生しているようだけれど……)私が考え込んでいるのを見た遼大が聞く。「何か気掛りか?」そう聞かれて私は言う。「えぇ、あの新田豊の痩せ方が少し気にかかるの……」遼大は歩きながら言う。「確かに少し気になったな」病棟へ入り、データの管理室へ向かう。湊が自身のIDをかざし、データ管理室に入る。湊は管理室の中のPCの前に座ると操作し始める。「……あったぞ」そう言って湊が見せてくれた新田豊の電子カルテに
last updateLast Updated : 2026-06-23
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