All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 171 - Chapter 180

209 Chapters

171話 再会

そう聞かれて私は頷く。「えぇ、あなたの癌は焼きました」そう言うと、新田豊の瞳から涙が落ちる。「……死ぬんだって……俺、もう死ぬって……そう、思って……」泣きながらそう言う新田豊に私は微笑む。「とりあえず、今のところは死なないですね」私がそう言うと私の後ろで鼻をすすって泣いている人がもう一人居た。「新田さん……」波多野優斗がそう言う。新田豊の視線が波多野優斗を捉える。「優斗……」私は身を引いて、優斗くんを前に出す。優斗くんは泣きながら新田豊の手を握る。「良かったです……本当に良かった……僕、新田さんが血を吐いたのを見て……どうしようって……」新田豊は鼻をすすって言う。「心配かけた、悪かったな」そう言って新田豊が私を見る。「佐伯先生が治してくれたんだ、だから大丈夫……ですよね?」そう聞かれて私はクスっと笑う。「えぇ、大丈夫です」遼大が私に寄り添い、微笑む。こういう瞬間、本当に医師をやっていて良かったと思う。もちろん経過観察は必要だけれど。「燈先生、ありがとうございました」波多野優斗がそう言って私に頭を下げる。何だかいつの間にか波多野優斗と新田豊の間には絆が生まれていたようだ。波多野優斗の搾取されるだけだった人生に、初めて手を差し伸べてくれたのが新田豊だとするならば、それは頷ける話だ。「あかり……先生?」そう言った新田豊が私をまた見る。(そういえば新田豊は私の事を知らないのよね)そう思い言う。「私の名は佐伯燈です、聞き覚えが?」そう聞くと新田豊が苦笑する。「えぇ、知人から良く聞かされてました」“知人”……それは愛沢くるみの事だろう。「燈先生はくるみ姉さんの事も、今までの事もご存知だよ」波多野優斗がそう言う。新田豊が苦笑したまま何かを話そうとして顔を歪める。「今はまだ手術したばかりなの、だからまずは回復する方が先よ」私はそう言って湊を見る。「湊、ちょっと良い?」そう言って私はその場を離れる。遼大も一緒に付いて来る。少し離れた場所で言う。「聖カトリーナには愛沢くるみが来る可能性があるわ。だから出来れば新田豊を隔離した方が良いと思うの」そう言うと湊が頷く。「そうだな。最近は俺を訪ねて来る事も減ったが……いかんせん、金の事があるからな」そう言われて頷く。「えぇ、万が一にも新田豊が入院しているなんて
last updateLast Updated : 2026-06-28
Read more

172話 二人の女

乙藤小春は私と遼大を驚いて見ている。「……婚約者?」随分とショックを受けたような表情でそう呟くと、急にキッと強い眼差しで私を睨む。私はそん彼女に苦笑して遼大を見上げる。「遼大さん、私がちゃんと病気を治して、元気になったら、デートしてくれるって言ったじゃない!」いくつくらいの子なんだろうか、まだ幼く見えるけれど、もしかしたら闘病のせいで少し実年齢と精神年齢に多少の差があるかもしれない。闘病している子には良くある事だ。遼大は少し笑って言う。「デートはしただろう? 小春の行きたい所にもちゃんと行ったじゃないか」遼大は変わらず私の肩を抱いたまま言う。こうして見ると遼大も隅に置けないんだなと思う。患者さんが異性だった場合、自分を救ってくれた医師に恋をし、その恋を成就させる為に頑張る話は良く聞くし、そのまま患者さんと付き合う人もいれば、きちんと線を引く人も居る。大抵の場合は、やはり患者さんとはお付き合いは出来ないと判断する場合はほとんどだけれど。乙藤小春は私と遼大を見て、涙を瞳に溜めている。(可哀想だけれど、こういうやり方は良くないのよね……)何だか目の前の女性のやり方が“愛沢くるみのやり方”のように見えて、私は何だか落ち着かない。悪意があるとは思えないし、自分を過剰に可憐に見せようとか、そんな計算があるとは思えないけれど、どうしても人前で涙を流すような、そんな女性を見てしまうと警戒してしまう癖がついたようだ。「小春、前にもちゃんと言ったけど、俺は小春をそういう対象としては見てないよ。小春が俺に助けて貰ったっていう恩を感じているのは分かるけど、それは恋や愛じゃない。もしそれを恋や愛だと言うなら、俺の今の幸せを願って欲しいな」そう言って遼大は私に歩き出すよう、促す。「行こう」私は遼大と共に歩き出しながら、遼大を見上げる。「良いの?」そう聞くと遼大は苦笑して言う。「良いんだよ」歩き出した私たちの背中に向かって乙藤小春が言う。「御爺様が聞いたら、こんな事、許さないんだから!」(御爺様? 許さない? 何の事?)そう思いながら遼大を見上げる。「何の話?」そう聞くと遼大が苦笑したまま言う。「ホテルに戻ったら話すよ」◇◇◇ホテルに到着して車を降りる。「燈ちゃん!」そう声を掛けられ、振り向く。そこに居たのは愛沢くるみ。大きなつばの帽子
last updateLast Updated : 2026-06-29
Read more

173話 交わる悪意

私は微笑んだまま、言う。「じゃあ私に出来る事は何も無いわ。警察が手出し出来ない事に、私が何か出来るとは思えないもの」そう言うと愛沢くるみはポロポロと涙を零しながら言う。「どうしてそんなに冷たいの……お金が要るのよ……」そう言われても一ミリも同情出来ない。同情なんてする訳が無いのに。私は盛大に溜息をついて言う。「あのね、愛沢さん」私がそう言った事で驚いた愛沢くるみは目を見開いて私を見る。「私とあなたは他人なの。五年前にあなたが私に言った事を忘れたの? あんな言葉を私に向かって浴びせておいて、今更、困ったから助けろ? それ、本気なの?」私はそう言い捨てて、遼大を見上げる。「行きましょう」そう言うと遼大は少し私に微笑んで、私の肩を抱く。「行こう」そう言ってホテルに入る。◇◇◇ホテルの部屋に入って、息をつく。「どうして愛沢くるみは私の泊っているホテルを知っているのかしら」そう言うと遼大が少し考える。「誰かに聞いたんだろうな……燈の家の人間か……もしくは後を付けたか」まぁ、愛沢くるみなら何をしてもおかしくない。それ程までに追い詰められているんだろう。「それにしても私にお金の無心に来るくらいだから、相当困っているのね」そう言うと遼大がソファーに座って言う。「燈がいまだに何も知らない、自分にも優しいままだと思ってるんだろ」そう言い捨てるように言い、遼大は私に手を差し出す。「おいで」そう言われて私は遼大の横に座る。遼大はそんな私を抱き寄せて息をつく。「何か今日は会いに来る人間が多かったな」そう言いながら笑う遼大に聞く。「それで?」そう聞くと遼大が微笑んで言う。「小春な」遼大に寄り掛かると遼大はそんな私の肩を撫でながら言う。「さっき言ったように小春は難病を抱えてたんだ」遼大の話によれば、遼大がEMSOで仕事を始めてすぐの頃、難病に指定されている病気の研究の為に派遣された病院で出会ったそうだ。「俺と出会った頃はまだ小春は高校生だったよ」そう言われて多感な時期に闘病をしていたんだなと思う。それなら命を助けてくれた医師に恋心を持つのも頷ける。「俺が開発に携わった薬の治験を申し出てくれてね」遼大はそう言いながら遠い目をする。「それが功を奏して、小春の病状は躍進的に快方へ進んだんだ」そう言って遼大が私を見る。「それ
last updateLast Updated : 2026-06-29
Read more

174話 値踏み

「小春の御爺様は研究者だったけれど、そのうちに事業の方が上手く行ってね」遼大がそう話し出す。「乙藤家の事業がかなり上振れして、その分をEMSOの出資に回してくれてたんだ」事業が上手く行く事と研究が進む事、その両方が乙藤家の協力の元、回っていた。「小春の御爺様は小春の病気を治す事に心血を注いでいたからね。可愛い孫の病気なんだ、それは当然の事だろうと思うよ。俺の祖父も小春の事を可愛がっていたからね」御爺様同士の付き合いがある中で、遼大が治験段階とはいえ、その薬の開発に関わっていたとしたら、それは御爺様同士、もしかしたら本人の了承を得ずに縁を結ぶ約束をしていてもおかしくないし、それを御爺様から聞かされればあの乙藤小春が遼大と付き合える、婚約出来ると思い込んでも仕方ないかもしれない。「それでもあなたの御爺様からお話は無かったの?」そう聞くと遼大が笑う。「俺の祖父は研究一辺倒の人間だったからね。そういう事は俺には話して来なかったよ」そう言って遼大は私の肩を抱き、私を見下ろす。「じゃあ実際には、どういう話になっていたのか、誰にも分からないのね?」そう聞くと遼大が苦笑する。「だな。俺の祖父はもう亡くなっているし、小春の御爺様はお元気だって聞いているけれど、もう会ってないしな」私は少し考える。「小春さんとは会っていなかったの?」そう聞くと遼大が頷く。「会ってないよ。時々、見掛ける事はあっても、話はしてない」命の恩人のように感じている医師を遠くからただ見ているだけ、なんて事、あるんだろうか。年が違い過ぎる? それとも他に何かがあったんだろうか。「小春はずっとEMSO本部のある海外での暮らしが長いからね。そういう意味では日本人離れはしているかもしれないな」そう言いながら遼大はふと、何かを思い出したように言う。「そういえば」そう言いながら自身のスマホを取り出す。「何か連絡来てたけど、見てないな」そう言う遼大に笑う。「見なきゃダメじゃない」そう言うと遼大が苦笑する。「今までずっと、何かと忙しかったからな」言われてみれば確かにそうだ。愛沢くるみ、湊、加山良江、千堂彰、新田豊に波多野優斗……全てが今になってやっとそれぞれが結びついて、現段階で一応の落ち着きを見せている。スマホを見ていた遼大が笑う。「……そうか、どうして急に小春がこっちへ
last updateLast Updated : 2026-06-30
Read more

175話 誘導

「遼大と一緒に居たあの女性……彼女は誰なんですか?」そう聞かれて私はマスクの下でニヤッと笑う。「彼女は佐伯燈よ、私の幼馴染なの」そう言ってマスクを外し、サングラスをかけ、アイスラテを飲む。「元は聖カトリーナっていう病院で救急救命医をやってた人なの。ちょっとした事情があって、国内を出て、海外へ逃げたのよ」そう言うと乙藤小春が聞く。「逃げた?」私は口元を引き締めながら言う。「えぇ、彼女、その当時に結婚していた旦那さんの子を流産したの。それで離婚になってしまって。離婚すると同時に海外へ逃げたの」そう言うと乙藤小春が聞く。「離婚した旦那さんが酷い人だった、とかですか?」そう聞かれて私は内心、イラっとする。(どうして育ちの良い女はこういうふうに考えるの!)(今の話の状況なら、佐伯燈に非があるって、そう言う捉え方になるでしょ?)私は口元を歪めながら言う。「元旦那さんは良い人よ。佐伯燈が離婚した元旦那さんも幼馴染なの」そう言うと乙藤小春は何かを考えるように黙り込む。(そうよ。考えなさい……自分の恋敵を自分の都合の良いように歪めるのよ)しばらくの沈黙。私は耐えられずに言う。「佐伯燈は私から何もかもを奪ったのよ……」そう言うと乙藤小春が私を見る。「何もかもを……?」そう聞かれて私は少し悲し気に微笑む。「そうなの、佐伯燈が結婚した人と私、付き合ってたの……でも家の事情でね。政略的に結婚をしなければいけなかったの……泣く泣く私たちは別れたわ。私はその後、別の人と結婚をしたけれど、その人が事故に遭ってね……その事故で運ばれたのが聖カトリーナだった……佐伯燈が救急救命医をやっている病院よ」乙藤小春は私の言葉に聞き入っている。「助かる筈だったのよ……なのに医療過誤が起きてしまった……佐伯燈のせいで私は夫を失ったの……」そう言ってハンカチを取り出し、口元に当てる。本当は違う、けれどそんな事はどうでも良い。世間的には佐伯燈が医療過誤を起こし、聖カトリーナを辞めた事は周知の事だからだ。何をどう調べても七年前の“事実”はそうなのだから。「その後、病院を辞めはしたけれど、佐伯燈は身籠ったわ。けれど天の采配なんでしょうね、流産してしまった……そして離婚届と共に彼女は海外へ逃げたのよ」目の前の小娘はわなわなと震えている。「そんな酷い人だったなんて
last updateLast Updated : 2026-06-30
Read more

176話 出来る男

(乙藤小春……何だか聞き覚えのあるような、無いような……)そう思いながら俺は加山良江に言う。「情報、ありがとう。燈たちにも伝えておく」そう言って俺は燈に連絡を入れる。◇◇◇「動きがあったな」遼大はそう言って笑う。私のスマホに来た湊からの連絡。そこには愛沢くるみのスマホの連絡先に新しいものが追加された、というメッセージだった。「愛沢くるみと小春さんが接触したって事よね?」私がそう言うと遼大が言う。「おそらく、このホテルの下で会ったんだろう」確かに私はこのホテルの下で愛沢くるみと話した。それを小春さんが見ていた。という事なんだろう。わざわざ小春さんが私たちを追いかけて来た、という事でもありそうだ。「どういう経緯であれ、二人が出会って、しかも連絡先を交換しているという事は、警戒しておいた方が良いだろうな」そう言いながら遼大はスマホを手に取り、連絡を入れ始める。「乙藤の御爺様に?」そう聞くと遼大が苦笑する。「あぁ、一応、念の為にね。自分の孫可愛さに目が眩むような人では無いが、釘は刺しておいた方が良い」そう言いながらスマホを操作する遼大はブツブツと何かを言っている。「ん?」聞くと遼大が笑う。「この際だから、燈の経歴書も一緒に送っておこうかなって」そう言われて私は笑う。「経歴書?」そう聞きながら何だか面接のようだと思う。「じゃあ、乙藤の御爺様にお会いする時はスーツを着ないといけないわね」そう言うと遼大が笑う。「じゃあ、揃いのスーツで行こうか」◇◇◇「御爺様、待って!」目の前の小娘の様子が少しおかしい。「どうしたの?」そう聞くと乙藤小春が言う。「事情は分かったから、何もしないで待っていなさいって……」そう言いながら落ち込んで下を向く小娘を見ながら軽く舌打ちする。もしかしたらあの高嶺遼大の事だ。先回りして事情を説明しているかもしれない。デキる男というのはこういう時、厄介だ。メソメソしている小娘を宥めるように言う。「御爺様がそう言うなら仕方ないわ。今は御爺様がご到着されるのを待ちましょう」そう言いながら私は次の手を考える。そこで閃く。「ねぇ、あなた、今、カードは持っている?」◇◇◇乙藤という苗字に聞き覚えがあった俺は、燈に連絡を入れた後、少し調べてみる事にした。「乙藤……乙藤……」PCを動かしながら
last updateLast Updated : 2026-07-01
Read more

177話 1000万の

「カード、ですか?」私にそう聞かれた純真無垢なお嬢様は自らカードを取り出して見せてくれる。思った通り、限度額の無い、ブラックカードだ。「ありますけど……」そう言うお嬢様に私は言う。「それを使って、少しオシャレをしましょう? 御爺様に会う時に少しでも良いものを着ていた方が良いわ……それに高嶺さんにも気に入って貰わないといけないもの。私が選んであげる」目の前の小娘の顔が少し晴れる。「はい」◇◇◇小娘を連れてブティックに入る。「そうね……やっぱり小春ちゃんの可憐さを引き立たせるものが良いわ」そう言いながら私は適当に目に付いたワンピースを差し出す。「これなんて、どう? ヒラヒラしていて、可憐よ?」小娘が私からそのワンピースを受け取り、近付いて来たスタッフに言う。「試着は出来るかしら」その言い方を見て、私は思う。(やっぱり良い所のお嬢様はみんな、傲慢なのね……スタッフを何とも思ってないのよね……)試着室に入る小娘に向かって言う。「バッグ、預かるわ」そう言うと小娘は何の警戒も無く、私にバッグを渡して来る。カーテンが閉まった直後、私はその場をさっと移動する。スマホを取り出し、適当にイルミのバッグやアクセサリーを数点、選び、乙藤小春の持っているカードを切る。私が買ったのはイルミのバッグ3個とアクセサリーを5つ。約1000万のお買い物だ。それを後で売り払えば、ほぼ同額が返って来る。私はそのまま彼女の持っているブラックカードの番号をスマホで撮影し、セキュリティーコードも一緒に撮影しておく。(どうせブラックカードを持つようなお嬢様なんだから、少しぐらいこっちに還元しても良いのよ)私はブラックカードを元に戻し、さっとまた試着室の近くへ戻る。◇◇◇翌朝、目が覚めると遼大がもう起きていた。「おはよう」そう言われて私は眠気に負けて、遼大の胸に顔を埋める。「……おはよう」そう言うと遼大はクスクス笑いながら私を抱き締める。(今日は遼大の方が起きるのが早いせいで、遼大の寝顔を見れなかったわ……)そう思いながら遼大の腕の中でまどろむ。遼大はスマホを見ている。「何か進展が?」そう聞くと遼大が言う。「あぁ、乙藤の御爺様が空港に到着するみたいだよ」そう言われて私は眠い目を擦る。「今日の朝のうちにご到着?」そう聞くと遼大が私の頭を撫でながら
last updateLast Updated : 2026-07-01
Read more

178話 朝食で

送られて来た詳細を見る。まず目に入って来たのは写真だ。「ブラックカード……?」俺はそう呟き、数枚撮られている写真を良く見る。「……そうか、なるほどな」カードの名義人はKOHARU OTOFUJIとなっている。そしてカードの番号と、裏側に印字されているセキュリティー番号も写真に写っている。つまり。愛沢くるみはこのブラックカードを使って、金を引き出すつもりなんだろう。つい昨日、出会った女性のブラックカードの情報を抜き取り、それを使って買い物をする……。まるで詐欺師のような手口だ。いや、詐欺師ならまだ良い、これはただの窃盗だ。俺は溜息をつき、これをどうしようか、考えながら加山良江に聞く。「この情報は二人にも?」そう聞くと加山良江が頷く。「はい、高嶺様と燈お嬢様にも送ってあります」それならそれで、俺としてはこの事実を知っているという事だけで充分だろう。「ありがとう、加山さん」そう言うと加山良江が少し微笑み言う。「仕事なので」そうだ、これは加山良江の燈に対する贖罪と言う名の仕事でもある。ピコンとスマホが鳴る。見ればそこには燈からのメッセージが来ている。~今日のお昼に乙藤氏に会う予定よ~それを見て微笑む。さすがは高嶺さんだ。手を回すのが早い。今日は何だか気分よく朝食を食べられそうだ。◇◇◇起き出してシャワーを浴び、朝食を食べに階上のレストランへ向かった。ビュッフェ形式の朝食。「燈、俺にもそれ」遼大がそう言って私が掴んでいるクロワッサンを指す。遼大のお皿にクロワッサンを置く。まだ朝が早いせいもあって、人はまばらだ。遼大と向かい合い、座ると、遼大が言う。「コーヒー飲むだろ?」そう聞かれて私は頷く。「うん、飲みたい」そう言うと遼大が立ち上がり、微笑む。私はそんな遼大を見送りながら、レストランから見える景色を眺めていた。「あなた……」そんな声が聞こえて私は声の主を見る。そこに居たのは乙藤小春だ。乙藤小春もまた、このホテルに泊まっているのか、朝食を食べに来たようだった。(まぁ、偶然では無いでしょうけどね)そう思いながら私はコーヒーを取りに行った遼大を見る。遼大はコーヒーを入れていて、気付いていない。乙藤小春は私をキッと睨み、ツカツカと私の方へ歩いて来る。(何を言われるのかしら、私)そう思いながらもその状況を楽しんで
last updateLast Updated : 2026-07-02
Read more

179話 医師として

「良いの?」そう聞くと遼大は苦笑する。「良いんだよ」歩き去る乙藤小春の背中を見る。「何で俺が小春の婚約者って事になってるのか、ちゃんと乙藤の御爺様に聞かないとな」遼大はそこで一呼吸おいて、言う。「それに、愛沢くるみの事もあるしな」そう言われて今朝、加山良江から送られて来た情報の事を思い出す。「そうね」送られて来たのは2枚の写真と、愛沢くるみの1000万円の買い物の履歴だった。送られて来た写真にはブラックカードのカード番号とセキュリティーコードが写っていて、名義は乙藤小春。乙藤小春がカードを切ったのでは無いだろう。愛沢くるみがイルミに固執しているのは知っている。そしてその履歴に載っていたのはそのイルミのバッグやアクセサリーの数々だった。愛沢くるみが乙藤小春のカードを使って決済をし、更にもっと利用しようと、番号とセキュリティーコードを盗み出した、というところだろうか。「新田豊からの要求額でも引き出すのかしら」私がそう言うと遼大が笑う。「有り得ない話では無いだろうな。1000万もの買い物をして、それが露呈しないかどうか、小春自身がそれに気付くかどうか、試しているのもあるんだろうな」本当に愛沢くるみには舌を巻く。千堂彰というスポンサーを失って、湊からの援助も期待出来ない今、愛沢くるみにとっては乙藤小春は格好の獲物なんだろう。◇◇◇お部屋に向かって早足で歩きながら私は考える。今はショックを受けている場合じゃない。昨日、遼大さんから紹介された佐伯燈という女性。スラッとした美人、遼大さんの隣がとても似合っていた。くるみさんから聞いた話の印象とは少し違っていたけれど、怒っている私に何の弁明もせずに遼大さんに直接言えば良いと言った、あの冷たさはくるみさんの言っていた感じとマッチする気がする。遼大さんがここに泊まっていると聞いた私は同じホテルに泊まる事にして、部屋を取った。昨日はくるみさんと夕食を一緒に食べて、別れた。まさか翌朝のビュッフェで会うとは思っていなかったから、驚いた。二人で向かい合い、流れるように自然に会話を交わしている二人……。私がどんな思いで病魔と闘っていたか、あの人には分からないだろう。私にとって遼大さんだけが希望の光だった。だから御爺様に将来は遼大さんのお嫁さんになりたいと言ったのだ。御爺様はうんうんと頷いてくれて
last updateLast Updated : 2026-07-02
Read more

180話 コネクション

「あ、そうだ。一つ聞きたいんだけど」私がそう言うと新田豊が私を見る。「はい、燈先生」新田豊は私を見て聞く。「愛沢くるみはあなたの病気の事を知っているの?」そう聞くと新田豊が苦笑する。「知りませんよ。俺の事にはほぼ興味無いですからね、あの女」確かに、そうかもしれない。興味が少しでもあって、最近会ったりしていたら、新田豊の痩せ方を見ればそれが異常だと分かる筈だ。遼大が少し笑って言う。「新田さんの事務所、俺の方で少し掃除させておきました。大喀血の跡を放置すると良くないと思ったんで」そう言われて新田豊が遼大を見て言う。「お気遣い、ありがとうございます」私は遼大に感心する。(そんな事にも気を回せるのね)愛沢くるみが新田豊の病状を知らないのは有利だ。現状、愛沢くるみは新田豊がどこに居て、波多野優斗とどう過ごしているか、分からないのだから。◇◇◇「高嶺遼大と御爺様がお昼に懐石料理を……」くるみさんに電話して助けを求め、会う事になったホテルのラウンジでくるみさんがそう言って何かを考え込んでいる。「どうしたら良いですか? このままだとあの佐伯燈さんに遼大を盗られちゃう……」そう言うとくるみさんは少し笑って言う。「安心して。御爺様はもう日本へ?」そう聞かれて私はスマホをチェックする。「えぇ、もう日本へ到着して、今は、移動中です」時計を見る。もうお昼まではそんなに時間が無い。「御爺様のお泊りになるホテルは分かる?」そう聞かれて私は頷く。「このホテルに来る筈です」私がそう言うとくるみさんがクスっと笑う。「じゃあ、このまま御爺様がご到着されるのを待ちましょう。懐石に行くまでに一度お会いして、お話をしておけば良いわ」◇◇◇(普通なら泊まるホテルに先にチェックインをする筈よ)小娘の話を聞きながら私は考える。昨日、私が使ったイルミの決済について、この小娘は気付いてもいない。だとするならば、お金の管理自体は甘い筈だ。昨日のイルミの決済分でおおよそ1000万。あと2000万は引っ張らないといけない。じゃないと新田豊に支払いが出来ないからだ。正直、優斗がどうなろうとどうでも良かった。けれどあの子の知っている事自体に価値がある。私との関係や私の指示した内容、それが世に出てしまったら、それこそ私は終わってしまう。千堂彰が当局に捕まった話だっ
last updateLast Updated : 2026-07-03
Read more
PREV
1
...
161718192021
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status