All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 181 - Chapter 190

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181話 アラート

「ちょっと……!」私がそう言うと小娘が言う。「その人は良いの、お通しして」言われた男たちは私を怪訝そうに見つめて、仕方なくといった感じで通す。「御爺様、彼女は私を助けてくれた人なんです」小娘がそう言って私を御爺様に紹介する。(そうよ、良い調子だわ。偉いわね、小春)そう思いながら私は御爺様の前に進み出る。「愛沢くるみと申します」そう言うと御爺様は私を一瞥し、言う。「そうか、孫が世話になったな」そう言って小娘を連れて歩き出してしまう。(え? それだけ?)そう思いながら私は追いかける。(ちょっと! 小娘! 何か言いなさいよ!!)そう思っていると、小娘が言う。「御爺様、お時間少しで良いの、小春の為に少し時間を頂戴」小娘がそう言うと御爺様は歩みを止めて言う。「じゃあ、個室を」そう言って片手を上げると、御爺様を囲んでいた数人の男の内の一人が一礼してフロントへ駆け出す。すぐに用意された個室。小さな応接間のような個室に入る。「御爺様、お電話でも言ったけれど、私と遼大さんを結婚させてくれるって言ったでしょう?」一番最初に小娘がそう言って切り出す。御爺様は個室のソファーに座って言う。「小春、座りなさい」そう言われて小娘が座り、私もそれに続こうとすると、御爺様が片眉を上げて聞く。「あなたには言っていないが?」(は? 私は立っていろ、と言うの?)そう思って小娘を見ると、小娘が御爺様に向かって言う。「さっきも言ったけど、くるみさんは私を助けてくれた人なの、御爺様」可愛い孫に言われて落ちない御
last updateLast Updated : 2026-07-04
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182話 三つ揃いのスーツ

「これ……何なんですか……」御爺様がそう聞く小娘に言う。「これは小春、お前に持たせているカードの利用金額が高額だった時のみ、私に知らせが来るようになっている。お前が無駄に買い物をした時などに備えてアラートを設定してあった。それが昨日の夜、私のこれのアラートが鳴ったんだ」御爺様はそう言って私をジロリと睨む。「一体、何を……」小娘がそう言ってハッとする。そしてゆっくりと私を見る。(マズイ、マズい、マズい……!)私は思わず下を向く。「……くるみさん?」私はどう言い訳しようか考える。けれどどんな言い訳もこの場では意味が無い気がした。「小春」御爺様が小娘に声を掛ける。「……はい」小娘が小さな声でそう言う。「お前が遼大くんのお相手に良くない感情を持つのは分かる。その人が遼大くんに相応しくない、良くない人だと思いたい気持ちも分かる。だがな、だからと言って、お前はすぐに人を信用し過ぎる」私の背中には冷や汗が流れ、手先は冷たくなり、厚化粧の下の瘡蓋が痒くなって来る。「そこの、何と言ったかな」御爺様がそう聞く。私は目線だけ少し上げて言う。「愛沢です」御爺様はテーブルの上のスマホを指差し、聞く。「これは君が何かを買った、という事で良いかな?」そう聞かれて私はどう答えるべきなのか、迷う。私が答えないでいるので、今度は御爺様が小娘に聞く。「それとも小春が1000万もの買い物をしたのか?」(自分が買ったと言うのよ!)そう願ったけれど、小娘は言う。「いいえ、御爺様」そう言われて私は小娘を見る。小娘は私を見て、眉間に皺を寄せている。(何なのよ、その目は! ……人を馬鹿にして!)悔しくて私は小娘を睨み返す。御爺様が大きく溜息をつく。「これに関してはこちらでも相応の対応をさせて頂く」そう言って御爺様は立ち上がる。「私はそろそろ会食の時間なんだ、失礼する」そう言って御爺様が私たちに背を向け、足を止める。「小春はどうするんだ?」そう聞かれた小娘が立ち上がる。「私も行きます」そう言って私を見下ろし、小娘は御爺様と一緒に出て行った。個室に一人残された私は、悔しくて奥歯を噛み締める。(金持ちは皆、そう! 人を見下して……今に見てなさい!)◇◇◇「本当に揃いのスーツで行くの?」笑ながらそう聞くと遼大は真面目な顔で言う。「あぁ、行
last updateLast Updated : 2026-07-05
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183話 会談

しばらくの間、遼大と話していると、スッと襖が開く。見ればお店のスタッフさんが三つ指を付いて言う。「お連れ様がいらっしゃいました」襖が更に開かれる。立ち上がろうとする私と遼大に入って来た老齢の紳士が言う。「あぁ、そのままで」微笑み、そう言う老齢の紳士はゆっくりと歩いて来て、私たちの向かい側に腰を下ろす。「乙藤の御爺様、お久しぶりです」遼大がそう言うと老齢の紳士は微笑みながら言う。「あぁ、久方ぶりだな」そしてその紳士は私へと視線を向ける。「紹介します、僕の婚約者の佐伯燈さんです」そう遼大が紹介してくれる。婚約者という言い方にまだ慣れない。本当はそんな仲でも無いのだけど、小春さんを牽制する為に使った言葉がそのまま使われていて、何だか少し騙しているような気分になってしまう。「ここへ来る前に遼大くんから君の紹介状を頂いているよ」紹介状と言われて私は少し笑う。「目を通させて貰ったが……」そう言いながら乙藤氏は目を細める。「本当に君は優秀だな。数々の輝かしい経歴を興味深く読ませて貰ったよ」乙藤氏と一緒に入って来ていた、部下の方だろうか、後ろに控えている男性が乙藤氏にタブレットを差し出す。乙藤氏はそれを受け取り、タブレットに視線を落とす。「EMSOの本部に急に入ったアラートの内容を確認したが」そう言って私と遼大を見た乙藤氏が微笑む。「二人とも無事で本当に良かった」そう言われた遼大が微笑む。「Fプロトコルを発動しなければいけない状況になっていた事に今まで気付けませんでした。組織の腐敗を暴く為に、定期的に視察を行っていかなければ、と思っています」そう言う遼大に乙藤氏が頷く。「まさかの事態だった事は理解している……が、やはり視察は定期的に、徹底的にやった方が良いだろうな」EMSOの本部の人間らしい会話に私は何だか少し安堵する。「まずは食事をしようじゃ無いか」そう乙藤氏が言い、遼大も頷く。「そうですね、僕も燈も空腹です」言われた乙藤氏がふわっと笑い、パンパンと手を叩く。「食事を頼む」◇◇◇運ばれて来た懐石料理たちに舌鼓を打つ。「時に、うちの孫がご迷惑をお掛けしたようだね」乙藤氏がそう言う。遼大が苦笑する。「急に僕たちの前に現れたので驚きました」遼大がそう言うと乙藤氏も苦笑する。「すまなかったね」乙藤氏は優しく微笑み
last updateLast Updated : 2026-07-06
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184話 暴かれる嘘

襖が開く。そこには申し訳無さそうな顔をした小春さんが居た。小春さんは深々と一礼すると小さな声で言う。「失礼します」少し緊張しているんだろうか、声が震えている。小春さんはそのまま乙藤氏の隣に座る。「まずは小春、お前から言いなさい」乙藤氏にそう促されて小春さんが言う。「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」下を向いてそう言う小春さんは、何だか小さく見えた。ふと隣の遼大を見る。遼大は無表情で小春さんを見ている。きっと遼大は今朝の事を根に持っているんだろうと思うと、それも何だか可愛いとすら思えてしまう。「小春は良く分からない女に付き纏われて、その女の口車に乗せられていたんだ」乙藤氏がそう言う。(きっと愛沢くるみの事ね)愛沢くるみなら私の事を悪し様に言い、きっと遼大の事を好きな小春さんに耳触りの良い事を言ったんだろう。じゃなければ、小春さん名義のブラックカードが使われるなんて事、起こり得ないからだ。「つい先刻、ここへ来る前にその女に会った」乙藤氏にそう言われて私は少し驚き、遼大と顔を見合わせる。「会ったんですか?」そう遼大が聞くと乙藤氏がいかにも不機嫌な顔で言う。「あぁ、会った」そう言って乙藤氏が小春さんを見下ろす。「小春が連れていたんだ」そう言われて私は少し笑う。(さすがよ、愛沢くるみ)(千堂彰を失ったその後を、乙藤氏で埋めようとでも思ったのかしら?)乙藤氏の雰囲気から、乙藤氏が愛沢くるみに良い感情を持っていない事が伺える。当然と言えば当然だろう。自分の可愛い孫娘のブラックカードを勝手に使ったんだとしたら、それはそれだけで刑事事件にだって出来る案件だ。小春さんは愛沢くるみの事を知らない。だからこそ、今回は餌食になってしまった。遼大と私が婚約していると聞かされて、嫉妬の感情が先に立ってしまったのだろう。「小春はまだ子供だ、だからこそ世の中の事をもっと知らなければならない」乙藤氏がそう言いながら小春さんを見ている。小春さんは恥ずかしそうに俯いている。「……それでも私のカードを勝手に使うような人だと思わなかったんです」小春さんが小さな声で言う。溜息をついて、遼大がスマホを取り出し、何か操作すると乙藤氏にそれを見せる。私にも見えた画面のそれは、加山良江がバックドアから仕入れた、小春さんのブラックカードの写真だった。それ
last updateLast Updated : 2026-07-07
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185話 もしも……

愛する人を奪った……そう言われて私は思わず笑ってしまう。奪われたのは私の方だ。遼大が少し笑うのを堪えながら言う。「御爺様、タブレットにあるものを読んで頂ければお分かりになると思いますが」遼大はそう言って私に視線を向ける。その瞳には慈しみの光がある。「燈は何もしていません。品行方正に、正しく生きて来ました……確かに生まれの違いはあるかもしれませんが、そこに嫉妬という一番醜いものを持ち込んで、燈を嵌めたのは愛沢くるみの方です」小春さんが乙藤氏に聞く。「どういう事ですか、御爺様」そう聞かれた乙藤氏が目を細める。「お前には刺激が強い」確かに、今まで闘病生活に人生のほとんどを費やして来て、寛解したばかりの生粋のお嬢様である小春さんには私と愛沢くるみの一連の出来事は刺激が強いだろう。遼大がクスっと笑って言う。「簡単に言えば、愛沢くるみは燈に嫉妬して、燈の持っているもの全てを奪おうとしたんだ」そう遼大に言われた小春さんがポカンとしている。「最初は佐伯家のお嬢様としての扱い、そして周囲に居る男たちからの寵愛、そして結婚した燈の結婚相手を奪い、離婚に追い込み、燈から大切なものを奪い、仕事も愛も子供も失わせた」小春さんは理解が追い付かないようで、呆然としている。「でも、くるみさんはあなたが自分の夫を殺したって……」小春さんが呟くように言う。口を開こうとした遼大を制して私は言う。「それに関しても、一枚も二枚も愛沢くるみが噛んでるのよ」大きな溜息をついた乙藤氏がタブレットから視線を上げ、言う。「小春には私から順を追って説明しておく」そう言って私を見て乙藤氏は微笑む。「こんなにプライベートな事情を教えてくれて感謝する」そう言って乙藤氏が頭を下げる。そうされて私は悟る。きっと遼大は今まで私たちが調べたりした全ての事を乙藤氏に送ったのだと。けれど愛沢くるみの危険性を訴える為には、それが一番話が早い。私は今更、隠す事も特になく、最近では颯太の事や子供の事を思い出したりしても、いつも近くに遼大が居てくれるので、取り乱す事も無く、過ごしている。そういう意味では本当に私にとって遼大の存在は大きいのだと実感する。「今回、小春ちゃんを利用して愛沢くるみが近付いて来たのは、彼女が金づるを失った事が大きいです」遼大がそう言うと、乙藤氏が言う。「千堂彰、か」
last updateLast Updated : 2026-07-08
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186話 私だけの

「お前はもう下がりなさい」乙藤氏が小春さんに言う。小春さんは乙藤氏を見上げ、言う。「どうしてですか」そう聞かれた乙藤氏が言う。「ここからは大人同士の話し合いだ。混み入った事情を話さないといけなくなる」乙藤氏にそう言われた小春さんが言う。「私だってもう大人です」そう言って目に涙を溜めている小春さんを見て思う。きっとここに居たいのだ、その理由は遼大だろう。ここで下がってしまえば、自分はまた、蚊帳の外にされるかもしれない。そうなれば詳しい事情も知らずに、知らされずに有耶無耶にされてしまうかもしれないと、思っているのかもしれない。「聞き分けなさい」乙藤氏にそう言われても小春さんはその場に座っている。その様子を見た私は遼大に視線を向ける。遼大も困った顔をし、私を見る。短く溜息をつき、言う。「御爺様」私がそう呼ぶと乙藤氏が私を見る。「タブレットを小春さんに」そう言うと乙藤氏が少し驚く。「だが……」きっと配慮をしてくださっているんだろう。私にも、小春さんにも。しばらくの間、乙藤氏はその場で考え込み、そして私を見て聞く。「良いんだね?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、何も隠す事はありませんから」私がそう言うと乙藤氏は溜息をつき、小春さんに言う。「今からお前は遼大くん、燈さん、そして愛沢とかいう女の歴史を読む事になる。これは極めてプライベートでそして極めて繊細な事情を含んだ話だ。これをお前に読ませるという事は、お前にとってもかなりショックな出来事になる。あの愛沢とかいう女の下劣さ、非情さを目の当たりするんだ。そして自分がどれだけ浅はかだったかが分かるだろう」そう言って乙藤氏が小春さんにタブレットを渡す。受け取った小春さんが乙藤氏の隣でタブレットに視線を落とす。ふと、隣で遼大が小さく溜息をつくのが聞こえた。遼大の醸し出している雰囲気で分かる。遼大は小春さんが好きでは無いんだろう。今までの小春さんに対する態度や言動も、私から見たらかなり冷たかった。遼大が女性に対してあんなに最初から冷たく接する事は珍しい。それでもそれは私にとって少しだけ嬉しく感じる事でもある。遼大が優しく接するのは私だけ、そんなふうに感じてしまうからだ。「愛沢とかいう女は、犯罪者だ。そんな女が野放しになっているとはな」乙藤氏がそう言う。遼大が苦笑する。「今までは証拠が
last updateLast Updated : 2026-07-09
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187話 再編成

見上げた愛沢くるみはつばの大きな帽子を被り、男の俺でも分かる程の厚化粧をしている。レーザー治療の痕跡を隠すように。服装は大胆な胸を見せつけるような服装で、体のラインが強調されている。愛沢くるみは何も聞かずに俺のすぐ横に椅子を引っ張って来て、座る。気分の良い昼時を邪魔されて俺は一気に不機嫌になる。しかも愛沢くるみの全身から、あの甘い香りが漂っている。カフェという食事も出来るところにこんなに強い匂いを纏って来るあたり、愛沢くるみがもう威力の無くなった香水にどれだけ依存していたかが分かる。「何か、用が?」俺はそう聞きながら視線をスマホに戻し、愛沢くるみから少し体を逸らす。「あのね、湊さん。前にお話した件なんんだけど」甘ったるい声でそう言う愛沢くるみに反吐が出そうだった。要は金づるだった千堂彰が当局に拘束され、俺に借金を申し込み、色よい返事が聞けなかったから、乙藤小春という新しい金づるを手に入れようとしたが、阻止され、俺にまた無心しようとしている、そんなところだろう。食事はほぼ終わっているし……そう思い、顔を上げ、店のスタッフに合図する。スタッフが来ると俺が言うよりも前に愛沢くるみが言う。「カフェモカ、ミルクダブル、グランデで」そう言われて俺は面食らう。そして笑みが零れる。(自分が俺にとって邪魔な存在であると、少しでも考えないんだな)スタッフは俺の顔を見ている。俺は笑顔で言う。「ブラックコーヒーを二つとカフェオレをテイクアウトで頼む、ブラックコーヒーはサイズ、トール、それぞれブラックアイとレッドアイで……それからカフェオレもサイズ、トール、ブレベオレにしてくれ」店のスタッフは俺の注文を聞き、最後に確認する。「カフェモカの方はこちらへ?」そう聞かれて俺は少し笑って言う。「そうじゃないかな? 俺はもう出るが」そう言うと愛沢くるみが驚いた顔をしている。俺はそんな愛沢くるみに構わず、立ち上がる。「湊さん!」まるで抗議するかのようにそう言う愛沢くるみに振り返り、俺は言う。「そのカフェモカは俺の奢りだ」そう言って俺は店内へ入り、ほんの少しテイクアウトのコーヒーを待つ。すぐに出来上がったコーヒーを三人分持ち、店内を出る。◇◇◇テラス席に一人残されて私は屈辱に震えていた。(湊が私の話を聞いてもくれなかった……)以前なら湊は私の話に耳を傾け
last updateLast Updated : 2026-07-10
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188話 敵の敵は……

タブレットに表示されている名前は賀神 怜。賀神怜はEMSO本部直轄の病院で心臓血管外科医としてもかなり名を馳せている人物だ。「賀神を……?」遼大がそう聞く。乙藤氏が頷く。「彼ならまず、間違い無いだろう。EMSOの研究員としてだけではなく、日本の医療を支え、底上げしてくれる人物だ」そう言われて私は苦笑する。確かに彼なら間違い無いだろう。賀神怜はEMSO本部直轄の病院をあちこち行き来して、心臓血管外科医として名を馳せている。私と遼大がEMSO本部で仕事をしていた時、何度か会った事はあったけれど、彼自身が心臓血管外科の分野でかなり多忙だった事もあって、ほとんど話す機会もなかった人物だ。「遼大くん、君はEMSOの創始者一族の人間として、本部に居て貰わないといけない事も多い。君自身が日本人だから、日本に拠点を置きたい気持ちも分かるが。だからこその人選なのだ。賀神くんなら日本支局は任せられるだろう」遼大を見る。遼大は少し複雑そうな顔をしている。それを見て思う。(そういえば遼大は賀神怜とはライバルなんだっけ……)いつだったか、私がEMSO本部での仕事にやっと慣れて来た頃に、賀神怜と遼大の会話を聞いた事があった。互いに互いの実力を認め合いつつも、いつもどこかで二人ともが張り合っている、良きライバルという印象の人だ。「それからもう一人」乙藤氏がそう言ってもう一人の人物をタブレットに表示させる。「真壁早妃……?」私が名前を読み上げると、乙藤氏が頷く。「賀神くんはもちろん優秀だが、EMSO日本支局はアジア圏の拠点にしたいと以前から考えていた。だからこそ、もう一人、優秀な人材を本部から呼び寄せている」そう言いながら乙藤氏が遼大を見る。「もちろん、遼大くんがEMSOの最高責任者だ。だから日本支局再編の為に彼らと会って欲しいんだ。結論はそれからで良い」真壁早妃……EMSO本部で何度か会った事がある。けれど言葉を交わした記憶は無い。彼女は研究畑の人間だけれど、社交性がああったように記憶しているけれど……。そこで私の脳裏に過去の嫌な思い出がよみがえる。(そうだ、私、真壁早妃に嫌味を言われた事があったんだっけ……)◇◇◇「座っても良いかしら」優雅にそう言うその女に私は言う。「まずは名乗ったらどう?」そう言いながら
last updateLast Updated : 2026-07-11
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189話 好敵手

「それで? 私に何の用?」そう聞くと真壁早妃が言う。「あなた、佐伯家の家政婦の娘なんでしょう?」そう聞かれてイラっとする。確かに私は佐伯家で家政婦をやっている母が居るけれど。今はもう森崎家の籍に入っていて、家政婦の娘だけど、そうじゃない。「だったら何?」そう聞くと真壁早妃はクスっと笑って言う。「いえね、別にあなたを攻撃したい訳じゃないのよ」そう言いながら真壁早妃は私に渡した書類を私から取り上げる。「これを見せたって事である程度、分かって貰えると思うんだけど」そう言う真壁早妃には何だか、底知れない不気味さがあった。「私はね、自分の実力だけでEMSOに入局して、自分の力だけで今の局長っていう地位に就いたの。だからコネなんかで入って来て、EMSOの実質的なナンバー2を名乗られるのは気に入らないのよ」要は、佐伯燈が目障りだと言いたいんだろう。そして。目の前のこの女はあの高嶺遼大が好きなんだろう。ふふっと笑って言う。「あなた、高嶺遼大が好きなのね?」そう聞くと真壁早妃の顔が一瞬にして真っ赤になる。「そ、それだけが理由な訳じゃないわ」取り繕うようにそう言う真壁早妃に私は笑う。(あの高嶺遼大が好きって事は、かなりの面食いね)だってあの男は、色々な男を見て来た私がこう言うのも悔しいけれど、かなりの良い男だ。ダウンタイム中、暇だった私はEMSOについて少し調べた。EMSOの創始者は高嶺遼大の祖父。高嶺の御爺様はもう既に他界されているけれど、その意志を継ぎ、孫の高嶺遼大がEMSOの最高責任者の地位を継いだのだ。高嶺家と言えば、かなりのお金持ちだ。久遠家や佐伯家よりもずっと良い家柄で、それこそ一般市民では会う事すら叶わない相手。(全く……どうしていつも佐伯燈の周りにはそういう人間が集まって来るのかしら……)「とにかく、実力も伴わないのに、高嶺さんの隣に居るなんて許せないのよ」真壁早妃はそう言うけれど。本当にそうだろうか。私は医療の分野には詳しくない。でも私はちゃんと見たのだ。藤堂何とかっていう偉い人の難しい手術を、通常の半分の時間でこなし、湊にもその存在を認められている佐伯燈を。でもそんな事、どうでも良い。EMSOの内部の人間と繋がりを持てた……しかも相手は佐伯燈を逆恨みしている。こんなに好都合な事は無いわ。「それで、私
last updateLast Updated : 2026-07-12
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190話 裏工作

遼大が私の視界にスッと入り込み、賀神さんから私を隠すようにして言う。「それで、御爺様」遼大はそう言って乙藤氏を見る。乙藤氏が頷く。「賀神くんにはこれからEMSO日本支局へ入って貰うが」そう言って乙藤氏が賀神さんを見る。「EMSOの最高責任者は遼大くんだ。それを忘れるな、賀神怜」そう言って序列を敷く乙藤氏はさすがだと感じる。賀神さんと遼大はライバル関係ではあるけれど、EMSOは遼大の御爺様が創設された組織。その組織の最高責任者が誰なのかを瞬時に諭すのは、その序列が乱れると、EMSO全体が揺るがされてしまう。好敵手としては認めるけれど、誰の命令が、誰の判断が一番大事なのかをこの場で確認させるのはやはり、賀神さんへの牽制もあるだろう。「承知しております」そう言って頭を下げる賀神さんも、ちゃんと遼大への敬意を払っていると感じる。本当に良いライバル関係なのだなと思う。◇◇◇料亭を出る。小春さんが私に頭を下げる。「私、何にも知らなくて……本当にすみませんでした」そう言われて私は言う。「良いのよ」小春さんは私と遼大を見て言う。「私、ちゃんと自立出来るように頑張ります」そう言われて私も遼大も微笑む。「遼大くん」乙藤氏が遼大を呼ぶ。遼大は私を見て少す不安げにする。「呼んでるわ、行って」そう言って遼大を送り出す。EMSO日本支局の再編の話でもあるんだろうと思ったから。遼大は少し寂し気に私を見てから、乙藤氏の元へ行く。「佐伯顧問」呼ばれて振り向く。賀神さんが微笑んで近付く。「こうして話すのは初めてですね」そう言われて私は微笑む。「そうですね」賀神さんはにこやかに言う。「あなたのご活躍はいつも興味深く見ています。あなたが今までこなした数々の奇跡のような手腕は本当にすごい。しかも専門の枠を超えて、ありとあらゆる分野に精通しているでしょう?」そう言われて私は苦笑する。「私はたまたま救急医療をずっと専門にしていたので、専門医よりも扱う症例が多いだけです」そう言うと賀神さんが微笑む。「そうだとしても、あなたの手は神の手だ。医学界の宝ですよ」そう言って賀神さんが私の手を見る。「婚約者と聞いていたんですが、指輪はしてないんですね」そう言われて私は笑う。「あまりゴテゴテしたものは好きじゃないんです」そう言いながら自分の胸元を飾
last updateLast Updated : 2026-07-13
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