All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 261 - Chapter 269

269 Chapters

261話 小爆弾

遼大が指示を出したEMSO日本支局の人間が聖カトリーナに集結する。「持って来たか?」遼大がそう聞くと遼大の部下のうちの一人が頷く。「EMSOの方で保管、管理していたものをお持ちしました」そう言ってたくさんの機材と荷物を運び込み始める。「これは?」湊がそう聞くと遼大が少し笑う。「陽圧式防護服だよ」遼大はそう言って、湊に更に湊に言う。「湊くんはこのまま聖カトリーナに来ている患者さんたちを外に誘導してくれ。中には俺たちが入る」遼大はそう言って私を見て微笑む。「高嶺さん!」そんな声がして振り向くと、EMSOから加山良江と真壁早妃も来ていたようで、遼大を呼んだのは真壁早妃だった。真壁早妃は遼大の部下の人たちの中から抜け出て、私たちのところまで小走りでやって来る。「バイオハザードだと聞きました……」純粋に心配しているのだろうけれど、遼大を見上げる真壁早妃の瞳に何だか少しだけモヤッとする。見上げている真壁早妃に遼大が表情を変えずに言う。「あぁ、だから防護服を持って来て貰ったが」そう言って遼大は私を見下ろして微笑み、言う。「燈と一緒に入るから大丈夫だ」遼大はそう言って私の頭をポンと撫でて、視線を上げる。「賀神! お前も来るだろう?」視線の先に居た賀神さんは、遼大にそう聞かれニヤッと笑って言う。「当然です」そう言いながら賀神さんは早くも防護服に手を掛けている。「まずは、何が起きているのか、何が原因かを特定しなきゃいけない」遼大はそう言って部下の人たちに言う。「聖カトリーナを封鎖。症状を出ている者を隔離。ロビーを空けるんだ」部下の人たちが遼大の一声で一斉に動き出す。「さぁ、燈、行こうか」遼大はそう言って防護服を手に取る。「えぇ、そうね」◇◇◇防護服を着てERに入る。中はさながら戦場のような状態だった。吐気を訴える人、体中に発疹の出ている者、それを看護する看護師と医師たち。「私はEMSOの責任者、高嶺だ。今からトリアージを開始する。医師も看護師も、自覚症状のある者は患者として扱う。自覚症状の無い者は防護服を着るように」そう言って私たち三人はERの中心部へ行く。その場に看護に当たっていた医師たちと看護師が集まる。「まずは何が起きているのか、教えてくれ」遼大がそう言うと、医師の一人が言う。「私が把握している限り、今、蔓
last updateLast Updated : 2026-09-09
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262話 空のボトル

「という事は防護服を着ていなければ、誰しもが漏れる事無く感染している、という事か」賀神さんがそう言う。「あぁ、おそらくそうだろうな」遼大がそう言う。「細菌か、ウィルスか……」遼大はそう呟いて、医師に聞く。「血液検査は?」そう聞かれた医師が言う。「この患者さんの血液は既に検査に回してあります」遼大がERの時計を見上げる。「じゃあ、そろそろ結果が出ている頃合いだな」そう言って遼大は私を見て聞く。「任せても良いか?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、もちろん」遼大は賀神さんを見て言う。「燈のサポートを」そう言って遼大が歩き出す。「原因が分からなければ、手の出しようが無いですね……」賀神さんのそんな声が聞こえていた筈なのに、私は、全く違う事を考えていた。さっきから自分の足元に転がっている空のボトル。それが気になって仕方ない。(大丈夫よ、私は防護服を着ているし、手元も手袋をしている……)そう言い聞かせて私は足元に転がっている空のボトルに手を伸ばす。「佐伯顧問?」賀神さんにそう聞かれて私は一旦、手を止めて、賀神さんを見る。「これ、気になって」私がそう言って指差すと、賀神さんもその空のボトルを見る。「確かに」賀神さんは私が拾おうとするのを制して、手を伸ばす。「待て!!」そんな声が響き渡り、賀神さんが動きを止める。声は隣のベッドからだった。隣のベッドで息を切らしている一人の男性。頸部から胸部に掛けて、酷い紅斑が出ている。賀神さんは眉間に皺を寄せてその男性に聞く。「何か知っているのか?」そう聞くとその男性は息を切らしながら言う。「俺は……騙された、んだ……」私も賀神さんも顔を見合わせて頷き合い、その男性に向き合う。「騙された?」賀神さんがそう聞くとその男性が頷く。「聖カトリーナの……ERに行って、そのボトルの蓋を開けて……転がすだけで良いって……」そう言いながらその男性は天井を仰ぐ。「大金が貰えるって話、だった……」つまり、これは誰かが仕掛けたバイオハザードだという事……そしてそれはおそらく千堂弘の仕業だろう。私は足元に転がっているボトルを見て、言う。「見たところ、中身は入っていないように見えるけれど、何か入っていた?」そうその男性に聞くとその男性が言う。「俺が、手にした時は……中に、透明な液体が入
last updateLast Updated : 2026-09-09
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263話 収束

「レプリトールが元凶だというのなら……」遼大が私を見る。私は頷いて言う。「自然に症状も落ち着くはずだわ」そう言ってER全体を見回す。「でも、この状態は良くないわね」そう言って溜息をつく。「万が一にもレプリトールに過剰に反応する人が出ないとも限らない」そう言って私は遼大を見る。「そうだな、ハイドレーションを開始しよう」遼大は賀神さんに言う。「賀神、ハイドレーションに使う輸液の準備を頼む」そう言われた賀神さんが頷いて、歩き出す。「燈と俺は今この現場のトリアージだ」◇◇◇大型の換気システムが起動し、ER全体の淀んだ空気が浄化される。「外に居る者にあのボトルを渡して解析させよう」遼大が言う。「そうね、詳しい分析結果を見たいわ」あれだけ混乱していたER全体が私と遼大の指示で整然としていく。賀神さんが輸液の準備を進め、順番にハイドレーションを進めて行く。ERが落ち着きを取り戻し、症状の出ていた患者さんや医師、看護師たちもその症状が落ち着きを見せ始める。私と遼大は顔を見合わせて、空気の状態を確認する。正常値まで戻っているのを確認し、防護服のマスクを外す。収束は意外と早かったように思う。だからこそ。この混乱の意図が見えて来る。「千堂弘の目的は……」遼大がそう言う。私もそんな遼大に頷き、言う。「大量の患者を出す事だけでなく、これは時間稼ぎね」私も遼大も、そして賀神さんも。三人ともが医師だ。今はEMSOという組織に属してはいるけれど、その根本は医師、つまりは傷病者を放ってはおけないという事を、千堂弘は利用した。ERへ湊が入って来る。「大丈夫か?」湊にそう聞かれて私も遼大も頷く。「問題無い。大丈夫だ」遼大がそう言う。「原因は?」湊にそう聞かれて私は言う。「ER内に持ち込まれた毒物よ」そう言うと湊が信じられない物を見るように言う。「毒物?」聞かれて私は遼大を見る。遼大が言う。「燈が発見したんだ。揮発性の未承認有機化合物のようだ」そう言うと湊が呟く。「未承認有機化合物……」そこでハッとする。「レプリトールか……?」そう聞かれて頷く。「えぇ、私に使われたものと、また型が違うようだけれどね」遼大が防護服を脱ぎながら言う。「元凶になった物質については分析に回したよ」◇◇◇目の前の検体は良く眠ってい
last updateLast Updated : 2026-09-10
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264話 次の手

藤堂氏の特別室に入る。ベッドの上の藤堂氏は難しい顔をして私たちを迎える。「待っていたよ」そう言ってほんの少しその場の空気が柔らくなる。「それで……千堂の方は?」そう聞かれて私たちは言う。「千堂弘はベイサイド・パイロットプラントに居るようです。そこへ愛沢くるみを検体として運び込みました」私がそう言うと藤堂氏が呟く。「検体として……」私が遼大を見ると、遼大が頷く。「千堂弘は千堂彰の作った新薬の完成をどうやら目論んでいるようなんです」そう言いながら遼大はタブレットを藤堂氏に差し出す。そこには千堂家の捜索で手に入った情報が整理されている。私も藤堂氏の病室に来るまでに一通り、目を通したものだ。そこで千堂弘の目的が見えて来た。千堂弘の目的は異母兄・千堂彰の作った悪魔の新薬であるレプリトール・ディザスターの完成と、人体に及ぶそのメカニズムの解明にあるようだった。「メカニズムの解明か……」そう言いながら藤堂氏が苦笑する。「根っからの研究者、という訳か」そう言われてしまえばそうなのだけれど。「ですが、彼の使っているのは未承認薬です。それは人体実験などして良い代物ではない」遼大が強くそう言う。「藤堂氏の方から圧力はかけられませんか?」遼大がそう聞くと藤堂氏が頷く。「私の方からも動いてみよう。それから」そう言って藤堂氏が控えていた藤堂夫人の方を見る。藤堂夫人は頷いて、私たちに何かを差し出す。「これは?」遼大がそう聞くと藤堂氏が言う。「私の持っている人脈を簡単にリスト化したものだ。この中の誰であっても、声をかけてあるから、自由に使いなさい」そう言われて私は遼大と顔を見合わせて微笑む。「ありがとうございます」そう言って頭を下げると、藤堂氏が言う。「君たちは私の命の恩人だ。特に佐伯燈先生には大変、世話になったと聞いている」そう言って微笑む藤堂氏に聞く。「誰からそんな事を?」そう聞くと藤堂氏が笑う。「さっき、駆け込んで来た久遠先生だよ」◇◇◇薬品を調剤する。軽く煙が上がるが、これは正しい反応だから心配はいらない。匂いがしてもダメだし、即効性を高める為には揮発性の方がずっと良い。それはさっきの聖カトリーナの小爆弾でも証明された。鼻歌を歌いながら、僕は薬品を調剤する。どこへこれを持って行かせようか。今、聖カトリーナには高
last updateLast Updated : 2026-09-10
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265話 急襲

藤堂氏の病室を後にして、手にした書類を見ながら遼大と歩く。これで公的な機関とのパイプが繋がった。あとは千堂弘の居るであろう、ベイサイド・パイロットプラントに突入するだけの、理由を立てるだけだ。「千堂家の所持していた爆発物が理由として立てられるわよね?」私がそう聞くと遼大が頷く。「そうだな、爆発があったという事自体、本来あってはならない事だからな」遼大は真っ直ぐと前を見つめ、歩いている。「早く行かないと愛沢くるみが危ないかしら……」私が思った事をそのまま口に出すと、遼大が笑う。「どうだろうな……正直なところ、それはどうか分からない」遼大は苦笑しながらそう言う。「千堂弘は愛沢くるみの事を検体と呼んでいる。そう呼ぶという事は愛沢くるみの体に何か実験をしたいのだろうが、さっきも俺たちが突き止めたように、千堂弘の目的はメカニズムの解明なんだ」確かにそうだ。けれど。「でもそれが対外的な口実って可能性もあるわよね?」私がそう言うと遼大が少し考える。「そういう可能性もゼロじゃないが。愛沢くるみが長年、愛欲の女王を使って来て、ずっとそれにさらされて来た千堂理のような、劇的な症状も無く過ごせているのは、体質のお陰かもしれないという可能性については、俺たちでも考え付かなかった事だ」言われてみればそうだ。私たちはベンゾジアゼピン系物質の事すら知らなかったのだから。「そこはさすがは千堂といったところだが。俺たちとは見ている世界が違うんだ」確かにそうだ。千堂弘はメカニズムの解明なんて言っているけれど、それは結局のところ、自身の疑問の解消にある。「それに」そう言って遼大が私を見る。「愛沢くるみなら生き延びるさ」そう言われて私もクスッと笑う。「それもそうね」今まで愛沢くるみは私たちには信じられないような手を使って、様々な場面を生き延びて来た人間だ。人を操り、取り入って自分の為に動かして来た狡猾な人間だ。千堂弘とも実は上手くやってるかもしれない。◇◇◇ERに戻ると湊を筆頭にERは落ち着きを取り戻し、症状の出ていた人たちもそれぞれに回復を始めていた。「アイツに話を聞かなきゃな」遼大の視線が一人の男性に留まる。「えぇ、そうね」私は遼大と頷き合い、その男性の元へ行く。その男性は私にボトルに触れるなと言った人だ。私たちが近付くとその男性は気まずそ
last updateLast Updated : 2026-09-11
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266話 惨状

「支局の状況は?」遼大がそう聞くと加山良江が言う。『こちらは大変混乱しております……一体、何が起きているのか……』加山良江の困惑する声が、現場の混乱を物語っている。「一旦、落ち着いてくれ。加山さんには何が見えている?」遼大が優しい声でそう聞く。『先ほどまで私はEMSOの会議室で、真壁早妃さんと一緒にベイサイド・パイロットプラントについて調べておりました。その後、しばらくしてEMSOの正面玄関で騒ぎが起こり始めて、それを収める為に先に真壁さんが私よりも先に正面玄関へ……』私の横で賀神さんが別の誰かと通話で話している。「それで?」遼大が先を促す。『それで、私、真壁さんが戻って来ないので見に行ったんです。そうしたらEMSOの正面玄関で人が倒れていて……その中に真壁さんも居て……』(人が倒れて……しかも、真壁早妃も……)『真壁さんが私を見て、近付くなとそう怒鳴って……』加山良江がそう言う。さっきのERでのバイオハザードではすぐに人が倒れるなんて事は無かった筈だ。「毒性が上がっている……?」私がそう呟くと遼大が頷く。「可能性は高いな」私は遼大と通話している加山良江に聞く。「倒れたっていう人は何人で、どんな状態に見えた?」加山良江が震える声で答える。『私が見た時には倒れていた人は真壁さんを含めて三人ほどでした……私から見た感じでは呼吸が苦しそうに見えました……』呼吸が苦しそう……そう言われて私はありとあらゆる可能性について考える。「高嶺」誰かと話していた賀神さんが言う。「EMSOの正面玄関は封鎖が完了した。入る前の段階で陽圧式防護服を」そう言われて私たちは頷く。一体、千堂弘は何を考えているんだろうか。こんな事をしたら取り返しがつかないというのに。それ程までに自分がやっている研究の邪魔をされたくないのだろうか。(それとも私たちで遊んでいる……?)次から次へと仕掛けて来るバイオハザードに私たちは踊らされているような気になって来る。(とにかく、今はEMSOの人たちを救わないと)そう思い直す。◇◇◇EMSOの正面玄関前、私たちが到着する頃には正面玄関前に私たちが防護服を着るスペースが設けられ、整然としていた。さすがの統制の取れ方だと思った。車を降りて、すぐに私たちは防護服に身を包む。防護服を着ながら私は真壁早妃の事が気
last updateLast Updated : 2026-09-11
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267話 レプリトール・ヴェノム

「弘様、EMSOでの爆弾投下が完了致しました」そう言われて僕は微笑む。「そうか、ご苦労」そう言ってベッドの上でスヤスヤ眠る眠り姫を見ながら、早く起こすべきか否かを考える。移動の為に無理やり眠らせたのだ、これで無理やり覚醒させれば、検体に何か、異常が起こるかもしれない。それは避けなければならない。「仕方ない……待つか……」だが、まだ楽しみはある。EMSOだ。聖カトリーナのバイオハザードは思ったよりも早く収束した。それは極めて毒性の低いものを使ったからだが。今回は違う。今回ばかりは少々、毒性を強めた。眠り姫がいつ、眠りから醒めるか分からないせいもあったが。お手並みを拝見しようじゃ無いか。◇◇◇すぐに真壁早妃の採血をし、検査に回す。その間にも出来る事はあった。まずは。「高濃度酸素の吸入と、ステロイドのネブライザー吸入ね」私がそう言うと遼大が頷く。「そうだな、それが一番手っ取り早い」遼大、私、そして賀神さんの三人で高濃度酸素の吸入と、ステロイドのネブライザー吸入をすぐさま開始する。私のすぐそばに居た真壁早妃には喀血が見られる。つまりは。「真壁さんには止血剤と気道浮腫を抑えるためのアドレナリン、それから気道確保の為に挿管セットも必要だわ」そう私が言うと、遼大が大きな声で言う。「止血剤、アドレナリン、挿管セットだ!」正面玄関前で待機していた遼大の部下の人たちがサッと動く。一方で、今回のバイオハザードの元凶となったボトルの回収と処理が、遼大の部下の人たちの手で行われている。「気を付けてね、揮発性で毒性も上がってるわ」私がそう言うと遼大の部下の人が防護服の下で頷く。◇◇◇高濃度の酸素の吸入とステロイドの吸入によって、呼吸を乱していた人たちの症状が落ち着きを見せる。同時にEMSO内の換気システムを作動させ、封鎖されていた正面玄関の内部の空気が換気によって数値が落ちて行く。真壁早妃には挿管が必要だと判断した。何故なら採血をした後、意識を失ったからだ。自発呼吸はしている。だから呼吸を補助する為の機材を入れ、繋いだ。私のすぐ横でその様子を見ていた賀神さんが言う。「私のせいです……」後悔の滲む声でそう言う賀神さんに聞く。「何故?」そう聞くと賀神さんが悔しそうに言う。「私が真壁くんにEMSOを任せると、そう言ったんです……」
last updateLast Updated : 2026-09-12
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268話 天才と呼ばれる人

「レプリトール・ヴェノム?」そう聞くと遼大も賀神さんも互いの顔を見合わせて苦笑する。「レプリトールの変異体の一種だよ」遼大がそう言う。「有名なの?」聞くと今度は賀神さんが言う。「私と高嶺の二人で研究した事があったんです。まだ若かりし頃に」(なるほど、だから二人とも知っているのね)私はそう思い、聞く。「それで? レプリトール・ヴェノムの方は、解毒出来そうなの?」そう聞くと二人ともが頷く。「まだ若かった頃は無理だったが、今は出来るよ」遼大がそう言って賀神さんに言う。「じゃあ、始めよう」そう言って遼大は私を見て言う。「ラボの方に行って、解毒の為の薬品を調合して来るよ。燈はここで患者たちを頼む」そう言われて私は頷く。「分かったわ」二人は微笑み合い、そしてEMSOの正面玄関から更に奥のラボへ入って行く。◇◇◇聖カトリーナのバイオハザードの状況が落ち着き、俺はEMSOに向かった燈たちに連絡を取った。EMSOに戻っていた真壁早妃が今回、ばら撒かれた毒に巻き込まれていた事を聞く。「それで真壁さんは?」そう聞くと燈が言う。『今は高濃度の酸素吸入とステロイドの吸入に加えて、真壁さんは喀血があったから止血剤と挿管をしたわ』電話の向こうで燈が冷静にそう言う。そんな燈の声を聞いて苦笑する。(本当に燈はいつも冷静だな)思えば燈はERに居た時も、どんな状況であっても、冷静だった。慌てて手元を狂わせるなんて事は絶対に無かったし、そういう意味では本物のプロフェッショナルなんだろう。天才とはこういう人の事を言うんだろうなと思う。「毒の分析は?」俺はEMSOに向かいながらそう聞く。『構造式を見ただけで、賀神さんも遼大もその毒が何の毒なのか、分かったのよ』燈にそう言われて俺は驚く。「構造式を見ただけで?」そう聞くと燈が電話の向こうで笑う。『えぇ、そうなの。若かりし頃に研究した事があったって』何だか燈の声が明るくて、緊迫した状況であるのに、燈は少しも慌てずにリラックスすらしている。これも賀神さんや高嶺さんとの信頼があるからなんだろう。「俺も今、EMSOに向かってるよ」そう言うと燈がクスッと笑う。『助かるわ。遼大も賀神さんも解毒の為の薬品の調合にラボに行っているから』◇◇◇俺がEMSOに到着した時には、迅速な対応のお陰か、現場と
last updateLast Updated : 2026-09-13
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269話 元凶

点滴をミキシングされた患者さんたちの症状が改善していく。一番症状の酷かった真壁早妃も点滴に遼大と賀神さんが調合した解毒の為の薬品をミキシングすると、症状が劇的に改善する。「これなら抜管しても大丈夫そうだな」遼大がそう言う。「えぇ、そうね」私がそう答えたすぐ横で賀神さんがホッとしたように微笑んでいる。賀神さんは真壁早妃がレプリトール・ヴェノムで倒れて喀血した時に、責任を感じていたから、きっと自分の手で解毒の為の薬品を調合出来て、ホッとしているだろうなと思った。様子を見ながら真壁早妃の抜管をする。管を抜いて、呼吸音を確認する。呼吸音に異常は無さそうだった。「大丈夫そうね」私がそう言って微笑むと、賀神さんも微笑む。「そうですね」遼大を見ると遼大は少し頷いて、私の腰を抱く。◇◇◇「弘様」呼ばれて僕は部下を見る。「何だ?」聞くと、部下が視線を落として言う。「EMSOでのヴェノムが沈静化されたようです」そう言われて腕時計を見る。「……早かったな」そう言うと部下が下を向いたまま言う。「どうやら高嶺遼大と賀神怜が、学生時代にレプリトールヴェノムの研究をしていた事があったそうでして……」僕に先んじてヴェノムの研究をしているとは。さすがは天才の部類の人間たちだ。僕は少し笑いながら部下に言う。「足止めをしようと思ったが、思ったように進まないものだな……人生とはままならないものだ」そう言って笑う。そして僕は目の前の検体を見る。検査結果は実に興味深いものだった。「この検体から変異レセプタータンパクをどう、取り出すか……」そう呟きながら頭の中で抽出プログラムを組み立てる。多少、手荒な方法だが、時間が無い。どうせ検体だ、後がどうなってもそれは僕の知るところでは無い。「抽出プログラムを開始する。支度をしろ」◇◇◇「支局内は落ち着いたな」遼大がそう言って見回す。ベッドに居る人たちのほとんどが回復し、残すは真壁早妃一人だけだった。それもかなり回復していて、ついさっき、意識を取り戻したところだった。「ここは俺に任せてくれて良い」湊が真壁早妃を診ながらそう言う。私と遼大、そして賀神さんは互いの顔を見合わせて頷き合う。ベイサイド・パイロットプラントへ行かなくてはいけない。こうしている今でも、愛沢くるみに何らかの実験をしているかもしれ
last updateLast Updated : 2026-09-14
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