All Chapters of 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Chapter 291 - Chapter 300

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291話 安堵

東都メディカルの正面玄関に到着する。正面玄関にはスーツ姿の数人の男性が私たちを待ち構えていた。遼大が先陣を切り、車を降りて、私に手を差し出し、エスコートしてくれる。私の後に賀神さんが降りて、私たちが立ち並ぶと、男性の中の一人が前に進み出て言う。「はじめまして。私は東都メディカル院長の御堂院と申します」恰幅の良い男性。御堂院と名乗ったその男性が、御堂院静香のお父様なのだろう。「EMSO最高責任者の高嶺だ」遼大は背筋を伸ばしてそう言い、御堂院氏を見下ろすように手を差し出す。二人が握手するのを見ていると、御堂院氏が言う。「先程は大変失礼致しました」そう言いながら苦笑する御堂院氏に遼大が聞く。「何のお話ですか?」そう聞かれた御堂院氏が言う。「娘とのお見合いの件です」そう言われて遼大がチラッと賀神さんを見る。(御堂院家のお父様がそう言うという事は、賀神さんの事を今もあまり良く思ってはいないという事かしら)私はそう思いながら二人を見る。「あぁ、その事ですか。私としては全く」そう言って遼大は私と賀神さんへ視線を向けると、御堂院氏に向けて言う。「彼女はEMSO臨床顧問の佐伯燈、私の婚約者です」私をそう紹介した遼大は驚いている御堂院氏を尻目に更に言う。「彼がEMSO日本支局の支局長であり、世界的な心臓外科のエキスパートの賀神怜です」御堂院氏が賀神さんに視線を向ける。「EMSO日本支局、支局長……」そう呟きながら、呆気に取られているのが分かる。「賀神のEMSO日本支局長就任は、つい最近、決まった事なんですよ」遼大がそう言って微笑む。「ご無沙汰しております」賀神さんはそう言って手を差し出す。御堂院氏がその手を取り、二人が握手する。「まさかEMSOに入局しているとは、思いもしなかったよ」御堂院氏の後ろには控えめに御堂院静香が立っている。「今日は急に視察を決めてしまって悪かった」遼大がそう言う。御堂院氏は気まずそうに微笑む。「いえ、うちはいつ来て頂いても」御堂院氏はそう言って私たちを中へ促す。「どうぞ」◇◇◇視察は順調に進み、残すは地下階への視察のみとなった。「地下階には何が?」遼大が白々しくそう聞く。「地下階は基本的に倉庫や精密機械の保管、ファイルの保管などですね」御堂院氏がそう言う。地下階へ向かうエレベーターに乗
last updateLast Updated : 2026-10-03
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292話 和解

ホテルに戻った時にはもう既に夜だった。「賀神、夕食一緒にどうだ?」遼大が誘う。賀神さんは少し笑って言う。「今日はこの後、静香と会う事になっていて」そう言われて私も遼大も顔を見合わせて微笑む。「そうか、じゃあまた明日」ホテルのロビーで別れて、私と遼大はそのままホテルのレストランに向かった。「あの二人、お似合いだったわね」私がそう言うと遼大も頷く。「そうだな、俺もそう思うよ」私は不意に心配になり、聞く。「そう言えば、お祖母様の方は大丈夫なの?」そう聞くと遼大が苦笑する。「今のところは何も言って来ていないが……今日あたり、報告を受けているかもしれないな」御堂院家とのお見合いを強行したお祖母様。そこには高嶺家という家柄や、その人間の出自の問題などもあるんだろう。不意に遼大はふわっと笑い、言う。「お祖母様に何を言われても俺のパートナーは燈だけだから」そう言われて私も微笑む。「えぇ、分かってるわ」◇◇◇静香との待ち合わせの場所に行くと、そこには御堂院氏が待っていた。「やぁ、賀神くん」そう言われて私は少し苦笑する。「先ほどはどうも」そう言うと、御堂院氏も少し苦笑し、言う。「静香との時間を邪魔して悪いな、少しだけ時間を貰えるか」そう言われて承諾する。「分かりました」御堂院氏はそのまま話し出す。「まずは謝罪をさせて欲しい」そう言って深々と頭を下げる。「すまなかった」正々堂々、正面切っての謝罪に私はまた苦笑する。「静香との交際を無理やり裂いてしまったが」そこで御堂院氏は頭を上げる。「親なりに子供の事を思っての事だった」そう言われて私は言う。「はい、承知しております」そう言うと御堂院氏は少し笑い、そして言う。「あれからどれだけの時間が経とうとも、静香は一向に見合いもせず、恋人も作らなかった。それを見て、無理やり婚約させようとした事もあったが、静香が首を縦に振らなかったんだ」御堂院氏の横で静香が微笑んでいる。「そんな静香が舞い込んだ高嶺家との見合いに行くと言った時は驚いたよ」そう言いながら御堂院氏は微笑み、静香を見ている。「その裏で君との再会があったと聞いて、やっと分かったんだ」そこには父としてのほんの少しの諦めが見える。「私は娘可愛さに娘の事を何も見ていなかった」御堂院氏は私を見て言う。「娘
last updateLast Updated : 2026-10-04
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293話 陽動

夜の病棟は静かに時が進んで行く。時折、廊下を歩く足音や、少し離れた場所でのパタパタとした足音が響く程度の本当に静かな夜だった。私はベッドの中で、今後の事を考えながら、自分がどう行動すべきかを入念に考え抜き、計画を立てていた。佐伯燈、高嶺遼大は賢い。私の少しの変化や表情、言動できっと私の記憶喪失が嘘だと見抜くだろうと思えた。どこかへ逃亡する?逃亡の計画を立てたとしても、協力者がいなければ、成立はしない。現状、私には体の傷があって、今はその治療も進めているのだから。つまりは私はここから動くことが出来ない。このままずっとしらを切り通していても、きっといつかは真実が露呈する。そしてそれはきっと私の予想よりも早いだろう。指の爪を噛みながらベッドの布団の中に潜って考える。どうしよう……どうするのが一番良いのかしら……。湊はもう頼れない。私が、何も知らない無垢な状態の私が手を伸ばして湊に触れても、湊は顔色一つ変えなかった。以前までの湊なら、何なら私と誰も会えないよう、手配くらいはしてくれただろう。きっと佐伯燈や高嶺遼大から私を守って、矢面に立ってくれていた筈なのだ。けれど湊は私の手を忌避して、距離を取った。何となく事情を聞き出そうと思ったけれど、公的機関、関係機関とも連携を取るなんて話が出たのだから、きっともう手を回してはいるだろうなと思えた。それじゃあ、ダメなのよ!私が捕まっちゃうじゃない!その時の私は色々と考え込んでいて、気付いていなかった。その病室に入って来る人の気配に。◇◇◇けたたましく鳴るスマホの着信音。私も遼大もその音で飛び起きる。スマホを手に取り、画面を見ると、そこには湊の名前。「もしもし」まだ寝惚けている声でそう答えると、電話の向こうで湊が言う。『燈……愛沢くるみが居なくなったそうだ』スマホのスピーカーから流れ出る湊の声に遼大が即座に反応する。「湊くん、俺だ、高嶺だ。愛沢くるみが消えたってどういう事だ?」そう聞きながら遼大は既にベッドを出ている。私もベッドを出て、着替えを始める。『俺にも今、まだ詳しい事情は分からない……聖カトリーナから緊急でそう連絡が入ったんだ』◇◇◇聖カトリーナに向かう。「愛沢くるみが消えたって……一体……」やっと回り始めた頭でそう言葉に出した途端、ハイスピードで思い付く。「千堂
last updateLast Updated : 2026-10-05
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294話 不意打ち

「俺は高嶺邸でお祖母様と話した時、どうして燈に関するファイルがそこにあるのか、とそう考えた。そしてそれは反高嶺派の人間が送って寄こしたものだろうと思っていたが」遼大はそう言って少し溜息をつく。「それが見合いを進める為、そしてその後の東都メディカルへの陽動作戦だったと考えれば、あのタイミングでお祖母様から見合いの話が持ち込まれた事にも納得がいくんだ」遼大にそう言われて私もそう思う。立て込んでいる状況で持ち込まれたお見合いの話。唐突に遼大が戦力として離脱しなければならなかった。更に、東都メディカルと千堂家の繋がりを匂わせ、もしかしたら東都メディカルも一枚噛んでいるのかもしれないと思わせる……そうする事によって、自分たちが確保している愛沢くるみへは関心が薄くなる……。「怪我の功名はあったけどな」そう言って微笑む遼大は、賀神さんと御堂院静香の事を言っているのだろうと分かる。「とにかく現場を見てみないとね」私がそう言うと遼大が頷く。◇◇◇聖カトリーナに到着する。時間帯的にも裏の緊急搬入の為の出入り口しか空いていない。私と遼大がそこへ向かうとそこで湊が待っていた。「湊くん」遼大が声を掛ける。「高嶺さん、燈」湊も連絡を貰ってすぐに飛び出して来たのだろう、シャツとスラックスという軽装だった。「とにかく、中へ」湊がカードキーをタッチして重い自動ドアを開け、私たちは足早に院内へと滑り込む。「出入口はあの夜間の出入り口しか無いのよね?」歩きながら私がそう聞くと、湊が言う。「患者や医師などが出入りできるのはあの夜間の出入り口しか無いが」湊はそこで言葉を区切る。「業者は分からない」そう言われて私は聞く。「業者?」そう聞くと湊が言う。「どういう経路で愛沢くるみを連れ去ったのか、全く分からないんだ」そう言いながら歩く私たちの足音が深夜の病棟に響く。「俺は聖カトリーナに到着するまでに、いくつかの経路を予想した。可能性として一番高いのは、愛沢くるみを何らかの方法で意識を失わせ、搬入用のエレベーターで地下階へ行く方法だ」湊にそう言われて頷く。「そうね、それがおそらく一番、無難な方法ではあるわね」地下階へ行ってしまえば、そこから車で運び出すのは容易だ。でも。「それだと地下階からの車両の出入りのログが残るな」遼大がそう言う。「そうなんです、
last updateLast Updated : 2026-10-06
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295話 上からの指示

「何か物音は聞こえなかったか?」湊が看護師に聞く。看護師たちはみな揃って、首を振る。「監視カメラの映像をチェックしよう」遼大がそう言う。「そうね、その方が早そうだわ」私がそう言うと湊が頷く。「一応、このまま病室の方は証拠保全の意味も含めて、誰も立ち入らないようにしておこう」湊はそう言って看護師たちに言う。「このまま誰も病室には入らないよう、手配してくれ」◇◇◇私と遼大、湊の三人で深夜の病棟を出て、セキュリティー棟へ行き、監視カメラの映像を確認する。時間を遡っても、愛沢くるみの居た病室の廊下には、異常は見られない。誰も歩かず、静かなものだった。「何も映ってない……」そう呟きながら湊が考え込む。「もう一度、もう少し時間を遡って流してくれ」遼大がそう言うと、監視カメラの映像がもう一度流される。映像を注意深く見る。一瞬だけ、監視カメラの映像が乱れる。私と遼大はそれを見て、顔を見合わせる。「差し替え……」私がそう言うと遼大も頷く。「有り得る話だな」そう言って溜息をつき、腕を組む。「考え得る経路、全部の監視カメラの映像をチェックしましょう」湊が遼大にそう言う。「あぁ、徹底的に映像をチェックした方が良いだろうな」遼大がそう言う。◇◇◇私たちはそのまま、あらゆる可能性を考えて、あらゆる経路の監視カメラの映像をチェックした。その中で一つだけ、映像の片隅に動く何かを見つける。「ねぇ、これ……」私がそう言うと、遼大が覗き込む。「ちょっと待ってくれ……ここをズームして」遼大が映像を指差し、指示を出す。映像がズームする。そこに映っていたのは。大きなリネン回収用のカートを押す男性二人組。パッと見、清掃業者のような制服を着ているけれど。「こんな深夜帯に回収をする業者なんて見た事無いわね」私がそう言うと遼大が頷く。「あぁ、有り得ない」見つけた映像は病棟の最東端、愛沢くるみが入院していたあの部屋に近い。そして。「エレベーターに乗ったな」遼大がそう言いながら、今度はそのエレベーターの映像を出すよう、指示をする。セキュリティー棟の人が映像を切り替えてくれる。映像がエレベーター内のものに切り替わる。日時を指定すると、現れた映像には、大きなリネン回収用のカートを押す清掃員の格好をした男性二人。リネン回収用のカートの中はシーツで
last updateLast Updated : 2026-10-07
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296話 ヒント

「この男たちはリネンカートをどこへ運んだのかしら」私はそう言いながら通用口から外へ出る。外は漆黒の夜。風が吹き抜けて、木々がザワザワと音を立てている。「ここに業者の車が停まっていたのか?」湊が警備員に聞く。「いえ、車は停まっていませんでしたけど」警備員がそう言う。「停まってない?」湊が聞き返す。「えぇ、停まっていませんでしたよ」警備員はそう言いながら通用口の左手奥の駐車場を指差す。「あっちに停めてるって言ってましたね。遠いのにご苦労様って言ったら、そちらも深夜帯の業務、お疲れ様って……」きっと和やかに会話をしたのだろう。怪しまれないように、善良な振りをして。「行ってみよう」遼大にそう言われて頷く。左手奥の駐車場。車が何台か停まっている。宿直の人のもの、関係者の車……。当然のようにそこにはもう、業者らしい車両は停まっていない。「ここにはカメラは無いのか?」遼大がそう聞くと湊が周囲を見回しながら言う。「あそこにある」そう言って湊が指差したのは外灯。少し離れた所に立っている外灯には丸い半円型のカメラが付いている。「チェックしよう」遼大がそう言い、私たちは再び、セキュリティー棟に戻る。◇◇◇「これだな」遼大がそう言って指差したのは、駐車場を映した監視カメラ映像の中の人物。大きなカートを押しながら二人の男性が歩いている。その映像を見ながら私も遼大も湊も皆がどの車に乗るのかと、思っていたと思う。けれどその二人組はどの車両にも乗らなかった。代わりに。そのままその二人組は駐車場の端までカートを押しながら歩き、茂みの中に入って行く。「茂みの中?」私がそう呟くと、遼大が言う。「ズームしてくれ」そう言われたセキュリティー棟の人間が映像を拡大する。茂みの中に入った二人組は白い何かを持ち上げると、胸の高さのフェンスを軽々と越えさせ、フェンスの向こうに居る誰かにその白い何かを渡している。そしてそのまま大きなカートをサッと手早くたたみ、そのカートもフェンスを超えさせ、自分たちもフェンスを乗り越えた。フェンスの向こうには暗闇に紛れるように真っ黒なワゴンが停まっている。そのワゴンに全てのものを積み終えると、ワゴンのドアが閉まり、走り去る。「病院の中に停まっていた訳じゃ無かったんだな」遼大がそう言って苦笑する。確かに病院内
last updateLast Updated : 2026-10-08
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297話 狂気

出る時は何も提示しなくても警備員に挨拶だけすれば出られる。けれど、じゃあ入る時にはどこから入ったのだろうか。通用口から入るのであれば、確実に入館証が必要になる。仮に患者として入って来たとしても救急の窓口の人間と何らかのやり取りは発生している筈だ。遼大と顔を見合わせて頷き合う。「それなら何かヒントを得られるかもしれないな」遼大がそう言い、そしてベッドまで来る。私に手を伸ばして、私の頬に触れると、微笑み言う。「少し休もう」そう言われて私も頷く。きっと今すぐどうこうという話では無い気がした。千堂弘の目的が愛沢くるみの奪取、そして愛沢くるみから採取出来る何らかの物質である以上、愛沢くるみを生かしておかないと意味は無い。海馬を破壊されるような抽出方法をとったのは、追い詰められていたという事もあるだろうと思った。だとするならば、逆に時間を与えた方が良いのかもしれない……そんな事を考えているうちに私は眠りに落ちていた。◇◇◇頭が痛い……何でこんなに頭が痛いの……寝返りを打とうとして、体が動かない事に気付く。何なの……何で私は動けないの……そう思いながら目を開ける。薄暗い感じがする……まだ夜が明けてないの……?薬品の匂いが鼻を衝く。徐々に鮮明になる視界と記憶。ハッとして私は目をカッと見開く。そうだ! 私……病室で誰かに……!そう思い自分を見る。身体全体が拘束されている。手首が実験台のようなベッドに固定され、更にその上から体自体も革のベルトで固定されていた。これ……!記憶の中の一番、怖かったものが呼び覚まされる。千堂弘の抽出術……。あの時、見た光景と同じ光景がまた目の前に広がっている。体をよじって拘束が解けないか、試してみるも、実験台のようなベッドはガチャンという音を立てて私の動きを封じている。呼吸が荒くなる。恐怖が湧き立ち、背筋を走り抜ける。「おや、目覚めたようですね」冷ややかな声。声の持ち主が視界に入って来る。白髪のマッドサイエンティスト。千堂弘。千堂弘はその冷たい顔に冷ややかな笑みを浮かべて私を見下ろしている。「前回は邪魔が入ったのでゆっくりと実験が出来ませんでしたからねぇ……」そう言いながら千堂弘は微笑む。何かを言おうと思ったのに、言葉が出て来ない。何で! どうして声が出ないの!そう思い声を上げようと試み
last updateLast Updated : 2026-10-09
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298話 潜伏先

ほんの少しの間、睡眠を取り、私と遼大は支度をして早速、聖カトリーナに向かった。「まずは彼らがどこから入ったのか、それを確認しましょう」私がそう言うと遼大が頷く。「入館の記録は時間帯的にもそれ程、多くは無いだろうからな」遼大にそう言われて私は頭の中に、一瞬、嫌な予感が過った。けれどそれを口には出さずにいた。聖カトリーナに入り、自分のオフィスに入ると、湊がオフィスに入って来た。「おはようございます」湊は遼大にそう言い、そして私を見て言う。「おはよう、燈」私も遼大も湊に返事をする。「おはよう」湊はつい数時間前の愛沢くるみの件について話し出す。「俺の方でも色々と調べてみた」そう言って湊がタブレットを出し、私たちに見せてくれる。「うちの東駐車場付近に監視カメラが無いか、当たってみた」そう言って湊はタブレットをスクロールする。タブレットに映し出されたのは闇夜に映し出された真っ黒な車両。それ程、鮮明では無い画像だった。「残念ながらここの周辺の監視カメラを避けて走っているらしくて、この画像しか無かった」湊が悔しそうにそう言う。「これじゃあナンバーが見えないな」遼大がそう言う。「そうね、良く見えないわね」遼大が湊に聞く。「Nシステムには?」そう聞かれた湊が言う。「それは俺の方では何とも」少し困ったようにそう言う湊に遼大が微笑む。「じゃあ、それは俺の方で当たってみるよ」そう言って遼大がスマホを出し、どこかへ電話をかけ始める。「監視カメラを避けているなら、Nシステムも避けている可能性はあるわね」私がそう言うと湊が頷く。「その可能性は高そうだな」私は一度帰ってから思い付いた事について、湊に話してみる。「一度、ホテルに戻ってから色々と考えてみたんだけど」そう言って私は湊を見る。「私たちは侵入して来た彼らがどこへ行ったのかを探っているけれど、どこから入って来たかを探してみるのも手だと思うの」そう言うと湊の顔がハッとする。「そうか、なるほど」湊は持って来たタブレットを操作し始める。「彼らがどこから入ったのか、あの時間帯なら入って来る人間も限定出来る」そう言われて私はここへ来るまでに頭の中に過った事を話す。「でもね、盲点もあると思うの」そう言うと湊が顔を上げる。「盲点?」そう聞かれて私は苦笑する。「えぇ、だ
last updateLast Updated : 2026-10-10
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299話 連携

「かなりの設備って?」遼大が聞くと、一条和輝が言う。「かなりの設備と言ったら、かなりだよ。EMSOの日本支局と同等かそれ以上」そう言われて私は遼大を見る。EMSOの日本支局は国内ではかなり大規模な設備を誇っている。「そうか……EMSOの地下階に閉じ込められていた千堂理なら、EMSOの設備の事も良く知っている……だからこその概算か」遼大がそう言うと、一条和輝が頷く。「ご名答」すぐにPCに向き合い検索をかける。「国内でもEMSOと同等かそれ以上の設備を誇るなんて、数か所しか無い筈ね」私がそう言うと遼大が頷く。「あぁ、たとえ秘密裏にそれが建設されていたとしても、機材や機器なんかは搬入している筈だ」遼大はそう言い、PCのキーボードをたたき始める。すぐに検索結果が上がって来る。数か所に絞られはしたけれど、それは表面上の数字だ。「パッと見た感じでは、千堂家とは繋がりが無さそうだが」そう言いながら遼大は画面を見ている。「まずはここに表示されている施設を重点的に洗う。それと同時にうちの方で少し機器や機材関係の搬入に関しても調べよう」遼大がそう言い、微笑んで一条和輝を見る。「和輝、サンキューな」そう言われた一条和輝が微笑む。「何て事無いさ。俺はただ単に情報を千堂理に共有しただけだ」私は一条和輝に聞く。「それで、千堂理の方はどう?」そう聞くと一条和輝が私を見て微笑む。「順調に検査結果が上がって来ているよ。リブートする為の薬品を今、千堂理本人とも話し合って計算中だ」そう言って軽く私にウィンクして見せる一条和輝の軽やかさに少し笑う。◇◇◇私と遼大で湊の穴を埋める為の回診に出る。藤堂氏の病室を訪れた時、藤堂氏が言う。「退院を伸ばして貰って悪いね」藤堂氏のリハビリは順調に進んでいて、退院しても問題無いと判断したけれど、本人の意向もあり、退院を伸ばしている。「いえ、藤堂先生が聖カトリーナに居て下されば、私たちとしても助かります」遼大がそう言うと藤堂氏が微笑む。「体調面での不安は無いが、私がここに居た方が、色々と動きやすいだろう」藤堂氏はそう言って微笑む。今回の千堂弘の一件で、医療機器の搬入や機材の会社など、そちらの方面でも藤堂氏には協力して貰っていた。すぐに連携が取れるのは有り難い事だった。「本当に助かります」私がそう言う
last updateLast Updated : 2026-10-11
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300話 口コミ

ここ数日起きた出来事を順を追って話していく。そして昨夜の愛沢くるみの失踪まで話が及ぶと、波多野優斗も新田豊も驚いていた。「院内でそんな事が起こっていたなんて……」新田豊がそう呟く。「まだ公にはしていない情報なんだ。愛沢くるみを連れ去った男たちの素性すら分からない」遼大がそう言う。私は少し気になって波多野優斗の反応を見ていた。波多野優斗にとって愛沢くるみは姉だ。虐げられ搾取されて来たとは言え、そこはやはり血族。だから何か私たちには無い特別な感情が沸き起こるかもしれないと懸念していた。けれど。波多野優斗を見る限り、そんな感情が湧き上がっている感じはしない。「大丈夫?」私がそう聞くと波多野優斗は苦笑する。「驚きはしましたけど、愛沢くるみは僕にとってはもう他人です」そう言いながらベッドに半身を起こしている新田豊を見て微笑む。「僕にとっては豊さんの方が肉親に近いです。確かに愛沢くるみは姉ですけど、僕は今までずっとその肉親である筈の姉に搾取されて来た。こちらが何もしていないのに助けてくれた豊さんとは人としての格が違い過ぎます」そう言って笑う波多野優斗は姉である愛沢くるみとは決別したのだろうと思えた。「じゃあ、くるみは今、だいぶ、危ないんですか?」新田豊がそう聞く。遼大と顔を見合わせる。「もしかしたらそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。私たちには分からないわ」私はそう言いながらも、愛沢くるみは無事では済まないだろうと思っていた。「ただ相手が真正のマッドサイエンティストだって事は確かだな」遼大がそう言って少し笑う。「愛沢くるみの首に」そう言いながら遼大が首を指差す。「極太のカテーテルを入れて、引っこ抜いた狂人だからな」そう言われて新田豊も波多野優斗も顔を顰める。「すげぇ、グロいっすね……」そう新田豊が言う。「そんな状況下で姉は生きてたんですか?」波多野優斗がそう聞く。「えぇ、幸いな事に、と言うか、おそらくこれは千堂弘の計算の中に入っていたとは思うけれど、最低限の止血の処置はちゃんとしてあったの。そして目の前に倒れている人間を放り出して、自分を追って来る事は無いと、そう踏んでいた」私がそう言うと新田豊が苦笑する。「怖い思考っすね」私も遼大と顔を見合わせて苦笑する。千堂弘のその思惑はその通りだったから。私も
last updateLast Updated : 2026-10-12
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