Todos los capítulos de 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Capítulo 61 - Capítulo 70

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61話 エステ券

サロン・ド・オーキッドの表の店で、私は一条和輝と会った。一条和輝は茶髪で何だか少しチャラいイメージだ。それなのに美容外科医をやっているのだから、頭は良いのだろう。「愛沢……くるみ、さん?」一条和輝がそう聞く。私は微笑んで言う。「はい。愛沢くるみと申します」一条和輝は私が事前に書いた問診票を見ている。「ふん……気になるのはお肌の張りと……」そう言いながら問診票をめくる手が美しい事に気付く。「目元のシミ、かな?」そう言われてギョッとする。そんな事を書いた覚えは無い。私が一条和輝の手に見惚れている間に、一条和輝は私の顔を見ていたのだ。思わず怒り出しそうになって、私は自分を諫める。(待って、冷静になるのよ、彼は手駒に入れておきたい男なんだから)そう言い聞かせて、私は自分自身を落ち着かせる。一条和輝に悪気は無さそうだ。美容外科医なんだから、言わないと気が済まないのかもしれないと思い直して、言う。「シミ、ありますか?」◇◇◇加山良江のノートPCを持ち帰り、ホテルの部屋で起動する。何だか人の日記を読むのは気が引けたけれど、そう甘い事も言っていられない。これを読めば加山良江がいつから愛沢くるみと繋がりがあり、そして五年前の事も、更には七年前の事も、何か分かるかもしれない。高嶺遼大と、そして湊も一緒に、ノートPCの中の加山良江の日記を読み始める。「日付は……」高嶺遼大がそう言いながら日記の文章を検索しようとする。「日付よりもワードで検索をかけた方が良い気がする」私がそう言うと男性陣二人が私を見る。「日記全体を見る時間は無いから、まずは愛沢くるみでワード検索をかければ……」そこまで言うと高嶺遼大が頷く。「確かに燈の言う通りだな」ワード検索をかける。検索ワード:愛沢くるみノートPCの中の文章に検索結果が表示される。「……すごいな」湊がそう呟くように言う。湊がそう言うのも無理は無い。検索結果にはほぼ毎日、愛沢くるみの名が記されている事が表示されている。高嶺遼大がスクロールする。「加山良江がいつから日記を付けているかにもよるが……」日付をどんどんさかのぼる。そして見つける。加山良江の日記に、愛沢くるみの名が初めて出て来た日付け。「……九年前……」三人ともがその日付を見て、それぞれが溜息をつく。「そんなに前から……」私がそう言う
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62話 虚栄心の始まり

私、颯太、湊は幼馴染だ。親同士仲が良くて……というよりは、大人の事情が分かる今となれば、私の家である佐伯家も、湊の家である久遠家も、颯太の家である森崎家に仕事の融通をしていた。子供同士には上下関係は無いけれど、それでも財力の差というのは、如実に表れていた。そこへ入って来た愛沢くるみなら、もっとそれを感じただろう。 「……そう言えば」 私はふと思い出した事があった。 「何かあったか?」 高嶺遼大がそう聞く。 「確か、私たちが医大に入った頃、颯太も愛沢くるみも、別の大学に進学したわよね」 私がそう言うと、今度は湊が聞く。 「それが何か?」 私はその時、ふと感じていた事を思い出して、少し可笑しかった。 (そうよ、どうして気付かなかったの) 私は少し笑いながら言う。 「別の大学だったから愛沢くるみの事は良く知らなかったけれど、今、考えればあの頃の愛沢くるみはお金のかかる物ばかり、持ってたわよね……ブランドもののバッグや一流ブランドの服や靴……到底、家政婦の娘が持つ事は出来ないような物ばかり」 そう言って湊を見る。 「湊が愛沢くるみに全部を買い与えていた訳では無いんでしょう?」 そう聞くと湊が苦笑いしながら頷く。 「俺も当時は学生だったからね。親は俺に何でも与えてくれたけど、俺が誰かに何かをあげるのは、それなりの理由が必要だったからな。ある程度、自由になるお金はあったが、それを全部、愛沢くるみの為に使ったりはしてないよ」 湊がそう言った後、私が言いたい事を察した高嶺遼大が言う。 「つまりは愛沢くるみの資金源は大学生の時から変化をし始めたって事か」 私はそう言う高嶺遼大に言う。 「もしかしたらもっと前かもしれないけれどね」 そう言いながら愛沢くるみの変化について、考える。 愛沢くるみは佐伯家の家政婦の娘だ。小学校の頃から私が親に言い添えた事で、私、湊、颯太と同じ学校へ行けるよう、手配した。小学校も、中学も高校も私立。更に言えば大学だって、学費はそれなりに掛かっている。颯太は森崎家の事業を継ぐために、私と湊とは別の大学に行ったけれど。 そこまで考えて、私はまた思い出す。 「そう言えば、愛沢くるみは大学を卒業したかしら……」 私がそう言うと、湊が言う。 「くるみは確か、大学を中退した筈だ。俺や燈、颯太がストレートで大学を卒業した頃、
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63話 泥沼への招待

――虚栄心――それに火がついてしまった加山良江はそこから、坂道を転がるように、借金を重ねて行った事が綴られていた。そして。ある日、突然、始まる悪夢のような日々。加山良江の日記はその“ある日”から、変わって行く。~今日はかさんだ借金の取り立ての電話が鳴りやまなかった。どうしたら良いの……こんな事が久遠家にバレたら、私は使用人を解雇されてしまう。どうしよう、どうしよう~「相当、焦っている文章だな」高嶺遼大がそう言う。「そうね。文面からも、それが感じられる。借金の事で頭がいっぱいで、それ以外の事なんか、一つも書かれていないもの」私がそう言う程に、加山良江の日記には借金の事しか書かれていない。高嶺遼大がスクロールする。~今日、サロン・ド・オーキッドで愛沢さんに会った。愛沢さんは私に微笑みかけ、そして私に救済の手を差し伸べてくれたの~その場に居た全員が顔を見合わせる。――救済の手――加山良江はそう表現しているけれど、それは泥沼への入口なのだと思った。~サロン・ド・オーキッドの裏のカジノとは別に、もう一つ、入口があって、そこは自分自身の体でのし上がれる場所だって愛沢さんに言われたわ。頑張れば頑張っただけ、収入も上がるし、借金の返済も楽になるって。愛沢さんが持っているブランドのバッグも服も宝石も、そこで頑張った成果で、人に買い与えて貰うのでは無く、自分で買う事に意味があるって。確かに言われてみれば、そうよね。湊坊ちゃんにプレゼントをもらって喜んでいる佐伯家の燈お嬢様のような、誰かに依存する生き方は良くないものね~誰かに依存する生き方……そう書かれていて笑ってしまう。愛沢くるみがそう言ったのか、それとも加山良江の心からの言葉なのか。自分で買う事に意味がある……そんな言葉を愛沢くるみが言うなんて……滑稽だ。最初は私に寄生し、ターゲットを湊と颯太に移し、今も湊から最新作の限定バッグを貰って嬉しそうにしているのは愛沢くるみ、その人なのだから。「グルーミングがこの時に発動した訳だ」そう言われて私は頷く。「そうね」弱り切っている人に親切に手を差し伸べているように見えるけれど、それは泥沼の入口から泥沼へ引き摺り込む行為だ。そしてそこからの加山良江の日記には悲痛な叫びが記されている。売春を斡旋され、必死にそれをこなしても渡された額が少ない事を何
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64話 レプリトール

加山良江が綴った日記の中で、いかに加山良江自身が愛沢くるみにそそのかされて、泥沼に堕ちて行ったのかが良く分かった。自転車操業のごとく、カジノで借金を作り、それを売春斡旋で返済に充て、それでも返済しきれない額をカジノで借金してしまう……まさに泥沼だ。「あのアロマが愛欲の女王の原型……」湊が呟く。湊もショックだったんだろう。それ程、前から自分に蒔かれていた悪意の種。時間をかけてじっくりと、ゆっくりと、確実に湊を浸食し、その完成形があの五年前の暴言に繋がっていたのだから。そして。この日記をスクロールしていくうちに、私たちは辿り着く。七年前の事実と、歪んだ虚栄心、そして五年前の真実に。私と湊が結婚をした時、久遠家から加山良江は、私と湊が住んでいたマンションへ通って来ていた。~佐伯家の燈お嬢様と湊坊ちゃんの結婚。正直、湊坊ちゃんも可哀想だ。結婚するなら燈お嬢様じゃなく、くるみお嬢様の方が良かっただろうに。家同士の取り決めなんだそうだ。燈お嬢様は医者で、救急医療? に携わっていて、帰りだって不定期だし。だからこそ、私が久遠家からお手伝いに出されている訳だけど。こんな事なら燈お嬢様では無く、きちんと家庭を守る事の出来るくるみお嬢様の方が、よっぽど湊坊ちゃんには良いだろうに~「無理して働かなくても」それは加山良江に直接言われた事があるから覚えている。高嶺遼大の手が止まる。「どうしたの? 遼大」そう聞くと高嶺遼大が私を見て言う。「燈、この先はもしかしたら知る事で燈が苦しむ事も出て来るかもしれない……それでも読むか?」そう聞かれ私は微笑む。「読むわ、知りたいもの。七年前の事も、五年前の事も」私がそう言うと高嶺遼大は今度は湊に聞く。「湊くんはどう? 受け止められるか?」そう聞かれた湊が頷く。「あぁ、受け止める。自分がどれだけ酷かったかを再確認しなくてはいけない」そう言う湊の顔には覚悟があった。高嶺遼大が頷く。「分かった、読むぞ」そう言ってスクロールする。~くるみお嬢様から折り入って話があると言われた。場所はサロン・ド・オーキッドの個室。誰にも聞かれたくない話だから、と~~会ってお話を聞いて来た。近く実行するというその計画は恐ろしいものだった。そんな事を私に話すという事は、くるみお嬢様から絶大な信頼を得ている証拠だわ~日付は七年前の颯太の
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65話 対等である事

次々と明かされるくるみの悪事に俺はおののいていた。俺の知っている愛沢くるみは可憐で、少しだけ可哀想で……でも加山良江の日記に出て来るくるみはそんな事を微塵にも感じさせない。俺が知らなかっただけで、くるみはもう既に大学の時から“そういう場所”へ出入りしていた可能性が高い。そう思うと俺があらゆる手を使われて、くるみに堕ちて行ったのも納得が行く。(どうしてくるみは、燈を狙ったんだ……?)そういう疑問が浮かんでは消える。確かに愛沢くるみは、佐伯家の家政婦の娘であって、どこかの家の令嬢では無い。一般的にはそういう使用人の娘という立場の人間と、雇い主の娘という立場とでは、天と地ほどの差がある。使用人の娘という立場の人間を何人か知っているが、俺の知る限り、愛沢くるみのように、さも自分がどこかの家の令嬢であるかのように振る舞う人間はほとんど居ないのが通常の状態ではあるのに。五年前、俺が燈に投げ付けた言葉。愛沢くるみに手を上げようとした燈を止めた時。俺の中には愛沢くるみに普段からまるで呪文のように、囁かれていた言葉があった。「燈ちゃんは強いから」「燈ちゃんは何でも持っているものね」「燈ちゃんはどうしてあんなふうに振る舞うのかしら」「私なら湊さんの傍に居られるだけで幸せなのに」「湊さんを放っておいて、仕事だなんて呆れてしまうわ」「女性はやっぱり家に居て、家を守るのが役目だと思うの」「男性よりも前に出て、活躍するなんて女性としてはちょっとやり過ぎな気もするけれど」「それだけ燈ちゃんが優秀って事よね」「私はそんな事、出来ないけれど」全ては愛沢くるみの佐伯燈への“否定”だったのだ。俺と燈が結婚した時。確かに家同士が決めた結婚ではあったけれど。俺は燈が好きだったし、好感を持っていた。普段から愛沢くるみに色々と言われていたけれど、全部を聞き流して……そういう事の繰り返しで俺の中に蓄積されていったものもあったんだろう。まるで型に嵌めるように、女性とは、私なら、そんな言葉が繰り返されていた。長年、愛沢くるみに繰り返されて来た言葉によって、俺は少しずつ認識をずらされていた。燈の事を尊敬している一方で、自分に対して時間を使ってくれない燈に苛ついていた事もあった。それ自体がもう、愛沢くるみの手の平の上で踊らされていた事にも気付かずに。そう、いつから、じゃない。最初
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66話 衝撃の真相

加山良江の私への関与がここまでだとは思いもしなかった。七年前の颯太の死後、私はレプリトールという薬物を摂取させられ、ただでさえ颯太を救えなかった自責の念があった私を、愛沢くるみは容赦なく深淵の中へ突き落すべく背中を押していたのだ。高嶺遼大が日記をスクロールする。~燈お嬢様は日に日にやつれて、部屋の閉じ籠っているわ。湊坊ちゃんもそんな燈お嬢様には呆れているし。燈お嬢様は世間からもバッシングされてる。颯太様の死は医療過誤だとかで大騒ぎになっているわ。颯太様の死の責任を一人で背負って、バカみたい。くるみお嬢様は今回の事で、湊坊ちゃんと距離が縮まったようだし、そのお陰で私の借金の返済についても口をきいてくださった。これで少しは楽になるかしら~冷静になった今なら、颯太の死は、愛沢くるみのアレルギーの虚偽申告によって引き起こされた事が分かるけれど、当時の私は死にゆく颯太を見てしまった事で、冷静では無くなっていたのだ。どうしても救いたかった命なのに、救えなかったという事が、私を絶望の中へ突き落す手段に使われていた。「でもどうやって愛沢くるみは事故を……」高嶺遼大が考え込む。そう言われれば、そうだ。(事故自体が仕組まれていた? ……でもどうやって……?)愛沢くるみは計画をしていると言っていた。それは加山良江の日記にもそう書いてある。事故が起こる事を予見など出来るだろうか。事故自体が仕組まれていたとするなら、それはどうやって引き起こされたのか。「分からないな……あの愛沢くるみが仮に事故を誘発出来るとして。それは車に何か仕掛けをするとかの類では無いような気がするがな」高嶺遼大がそう言う。「えぇ、私もそう思うわ。あの愛沢くるみが自らの手を汚して車に細工するなんて有り得ない。しかもそんな知識も持っていないでしょうからね」昔から愛沢くるみは勉強が出来なかった。それは小学校の頃からそうだった。私も湊も勉強は出来たし、颯太も人並みには勉強が出来た。しかし、愛沢くるみは勉学においてはいつも下の下だったのだ。それを気にしていたからこそ、中学に上がってからは頻繁に湊に勉強を教えて貰っていたのだから。それも高校に入ってからは回数が減ったように思っていたけれど。「湊、そういえば、高校に入ったあたりから、愛沢くるみに勉強を教える回数、減ったわよね?」そう私が聞くと湊が苦笑する。
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67話 コンプレックス

颯太は真面目な人だった。森崎健太郎のように優しく、そして堅実で実直な人。面白味には欠けるかもしれないけれど、夫なら完璧な人だ。颯太は愛沢くるみが好きで、愛していた。湊と私が結婚した時、お祝いの言葉を言いながらも寂しそうな愛沢くるみに自分が一生をかけて愛するよと伝えたと、後から颯太から聞いた事があった。それなのに。そんなふうに穏やかに愛してくれる人が居るのに。その人にずっと隠して来たであろうサロン・ド・オーキッドの事を暴露し、動揺を誘い、事故を誘発させた……許せない……。ボロボロと泣く私を高嶺遼大は抱き締め、私の耳元でずっと大丈夫だよと言い続けてくれる。颯太……大切な友達だった颯太……幼馴染でずっと同じ時を過ごした颯太……事故で運ばれて来た時の顔や、開放骨折している状態の颯太を嫌でも思い出す。私が細菌感染を防ぐ為に投与したセファゾリン系の抗生剤。それが颯太の息の根を止めてしまった……アレルギーがあるなんて聞いてなかった……アレルギーの有無の確認を三度もしたというのに!「あぁぁぁ……!」叫び声を上げて、私は泣いた。高嶺遼大が私を抱き締め、受け止めてくれる。◇◇◇叫び声を上げて泣いた燈はそのまま気を失ってしまった。それだけ、颯太の死が燈の精神の根本に深く傷を残しているという事を物語っている。俺は燈を抱き上げ、ベッドに運ぶ。俺自身も抱えきれない程の怒りを感じている。絶対に許さない、愛沢くるみ。「高嶺さん」湊くんが俺にそう声をかける。燈をベッドに寝かせ、バイタルのチェックをしながら聞く。「何?」素っ気ない聞き方をしてしまっている自覚はあった。けれどそんな事に構っていられる程、俺にも余裕が無かった。「くるみの傍には俺が行きます」そう言った湊くんを見る。「愛沢くるみは危険だ、湊くんも加山良江の日記を読んで、分かっただろう?」そう聞くと湊くんが頷く。「はい、分かってます。でもくるみはまだ俺が愛欲の女王から抜け出した事を知らない。俺の事を手駒だと思っています。それならそれを逆に利用して、俺がくるみから色々な情報や証拠を手に入れられると思うんです」そう言いながら俯く湊くんもまた、颯太を失った事への怒りの感情を押し殺しているのが分かる。湊くんにとっても颯太は親友だったのだから、当然といえば当然だ。「分かった、だが細心の注意を払ってくれ」そう言いな
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68話 後ろ盾

それも仕方のない事ではあった。私はただの家政婦の娘。対して佐伯燈は佐伯家の令嬢。自分に与えられる栄養なんかを考えても、私の方が栄養価はどうしても低かった。そして。遺伝的なものへの抗いようの無い現実。佐伯家の夫人もそのプロポーションはかなり良かった。背も高く、スラッとしているのに、胸もヒップも大きく、それでいてウェストは引き締まっている。佐伯燈もそんな遺伝的なものをしっかりと引き継いでいて、そのプロポーションはかなり良かったのだ。対して私の母の愛沢幸子は見た目の平凡で、普通のどこにでもいるオバサンという雰囲気。体のラインも年と共に衰え、美しさの欠片も無い。私は奇跡的に顔の造詣が良かったから、まだ良かったけれど、それでも体の豊かさに関しては、親譲りになってしまった。自分の胸を見下ろした時のその屈辱感。その屈辱感に負け、私はその時、佐伯燈の持ち物に細工をした。皆が更衣室を出た後、一人居残って佐伯燈の制服を切り裂いたのだ。今にして思えば、私は短慮だった。そんな事をすればすぐに誰がやったのかはバレてしまう。それなのに、佐伯燈は犯人捜しをせず、その日は一日中、学校指定のジャージを着て過ごしていた。大騒ぎする同級生たちを宥め、問題だと言う先生たちまでをも宥め、大きな問題にはしなかった。学校指定のジャージを着ていても、佐伯燈は凛としていて、美しかった。悔しくて仕方なかった。だからこそ、私はそういう意味でも佐伯燈を越えなければならなかった。その頃から私は、湊にも颯太にも「女」の部分を押し出していくようになった。そして私はその時、既に知っていたのだ。久遠湊が佐伯燈に好意を持っている事を。「愛沢さん」そう声をかけられてハッとする。「ごめんなさい、ちょっと動揺してしまって」そう言うと一条和輝が笑う。「そうですか、見る人が見れば分かるものですよ」その言い方が少し冷たく感じて、何だか違和感があった。「どこか、気になるところはありますか?」そう聞かれて、私は考える。このまま「無い」と言ったら、これで問診は終わってしまうだろう。さっき目尻のシミの話を一条和輝が出したんだから、それを引き合いに出せば良い、そう判断して言う。「先程、先生は私の目尻のシミについて、ご指摘されましたよね」そう言うと一条和輝が笑う。「えぇ、そうですね。でも、まぁ、年齢的な事を考
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69話 一条和輝

目の前の愛沢くるみを観察する。遼大からは最大限の警戒をして、対応すべき相手だと言われていた。(確かにな……)俺は顔に出さず、内心で愛沢くるみを見て、笑った。隅々まで管理が行き届いているその体も、その顔も“作られたもの”だという事は、俺のような美容外科医であれば、見抜く事は出来る。俺が招かれたサロン・ド・オーキッドは表向き、エステ店だ。そこへ来る女性客をターゲットにもっと美しくなりたいと思う人たちを相手に、美しさの提案をする、それが今回の表向きの目的だ。俺にこの依頼が来た時、うちのクリニックに人が流れて来るなら、エステ店との協力も悪くないと思った程度だった。しかし、話を持って来たサロン・ド・オーキッドの上層部の人間を見た時、裏があると感じた。含みのある言い方、エステ店の女性客と言ったが、実際は裏稼業で稼いでいる、いや、稼がせている女性をもっと美しく磨く、それが上層部の狙いでもあったのだ。愛沢くるみの前に数人、カウンセリングをした。彼女たちを見れば分かる。まるで工場の流れ作業のように、俺の元に来されられている。そんな中で愛沢くるみだけは異質だった。輝きを放ち、自信に満ちている。仕事柄、女性に対応する事の多い俺は、カウンセリングで話せば、大抵の事を見通せるくらいにはなった。その女性の抱える闇なんかにも触れる事が多いからだ。だが、目の前に居る愛沢くるみには迷いが無い。美しくなることに関して貪欲だ。そして積み上げてきたものを誇ってすらいる。愛沢くるみがこのサロン・ド・オーキッドで“女王”と呼ばれている事にも頷ける。ここへ来る前、急ぎ足ではあったが、遼大から事情は聞いた。俺の役割は出来るだけ愛沢くるみを惹き付け、時間を作る事。決して愛沢くるみに深入りしない事。目の前の愛沢くるみを見ていると、遼大があれだけ何度も念を押したのが、何故だか分かる気がしたのだ。何も知らないで愛沢くるみに接していたら、この女の術中にハマる可能性もあっただろう。それぐらい愛沢くるみは人心掌握術に長けていた。特に男性に対しては。大学時代、俺は遼大と共にこの愛沢くるみを見に行った事があった。学内に超可愛い子が来ていると噂になったからだ。遠目から見ても愛沢くるみは確かに可愛かったが。俺も遼大もその裏にある胡散臭さに気付いていた。周囲を囲む男の視線だけに敏感に反応し、自分をどう見せればそこに
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70話 意識の変化

そう聞かれて俺は笑う。「五年ぶりに燈に会ったからです。燈が天才医師Xとして俺の前に現れた時、俺の中にそれまで当たり前のようにあった事実が崩れ去った」手術の前の準備の時、目の前の燈を見て、俺の中の何かが崩れて行った、あの感覚。「それまでの俺はどうしてか、燈を無価値な人間だと思い込んでいました。一緒に聖カトリーナで働いていて、燈の手腕も知っていた筈なのに」そう言いながら自分の手を見る。「俺の中にくるみが囁いた事実では無い言葉たちが、俺にそう思い込ませた……そんなふうに言えば聞こえは良いが、俺の深層心理の中にも燈に対する劣等感みたいなものはあったんでしょう」燈は優秀な医師だった。医師になる前の燈も、それよりもっと前の燈も……幼馴染だからたくさんの燈を見て来たというのに。目の前の高嶺遼大が少し笑う。「燈は本当に優秀だからな、EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)に燈が来てから、俺自身も常に感じている事だ。あの腕は世界でも唯一と言っても良い。天才医師と謡われるだけの実力がある」高嶺遼大の言う通りだ。救急救命はどんな患者が運ばれて来るかは、運ばれて来てからじゃないと分からない。だからどんな患者が来ても対応出来るだけの知識も技術も無いと務まらない。外科医としてどんな患者にも対応する、それが心臓でも脳でも整形でも。瞬時に判断し、的確な処置をして、更に必要であれば専門医に繋げる。しかも救急医療の現場は一分、一秒が命取りになる。「本当に何を見て来たんでしょうね、俺は……」そう言うと高嶺遼大が言う。「今ならまだ間に合う。燈を取り戻す事は出来なくても、その贖罪として湊くんにしか出来ない事がある」高嶺遼大が俺を見て言う。「この先はもっと辛い事が書かれているかもしれない。見るぞ」高嶺遼大がノートPCをスクロールする。「これだ」高嶺遼大がそう言う。ノートPCを覗き込む。◇◇◇~燈お嬢様が妊娠したんだそうよ? まぁ、久遠家には必要な子だから、仕方ないけれど。湊坊ちゃんも良く、あんな何の魅力も無い女を抱けるものね。つわりだか何だか知らないけれど、具合の悪そうな燈お嬢様は食事だってそんなに召し上がらなくて。そんなに苦労する子なら、居なくても良さそうだけれどね~完全に加山良江は愛沢くるみに支配されているのが分かる。愛沢くるみが敢えて口にしない事を、加山良江が代わ
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