Todos los capítulos de 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Capítulo 71 - Capítulo 80

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71話 秘められた想い

湊くんを見送って、燈が眠っているベッドルームに入る。気を失った燈のバイタルをチェックする。(大丈夫そうだな)そう思い、ホッとする。ベッドの端に座り、燈を見下ろす。手を伸ばしてその頭を撫でる。思い出されるのは五年前のあの日。俺に電話して来た燈に何かを感じた。何が起こったのかは後で知る事にはなったが。EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)の本部は、国外にある。その研究機関の責任者だった俺に直接、電話をかけて来るくらいだから逼迫しているのだろうとは思った。それまで燈から直接、電話を貰った事など、無かったからだ。研究機関の人数的には、もちろん多い方が良い。だが誰でもがEMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)に入れる訳では無い。能力が無ければ入れないのは当然の事として。医師としての経歴も大事だった。燈はその点に関しては何の問題も無かったが。研究機関に来た燈は痩せ細っていたし、やつれてもいた。加山良江の日記から読み取れた情報ではラインプロスを使われ、流産させられた燈は、その足で研究機関に来た事になる。体に負担をかけたまま、研究機関に来たという事だ。俺は燈を見て、燈の体の具合を察した。燈の瞳からまた涙が流れている。それを優しく拭いながら思いを馳せる。俺はEMSOに燈が来た時、研究機関に慣れるよりも、土地に慣れる方が先だと言って、一カ月の休養を命じた。燈は働きたがったが、俺はそれを許さなかった。まるで抜け殻のようになった燈を誘い出し、休日を一緒に過ごし、時折、研究の話をする。そんな日々を過ごして行くうちに、燈の方から事情を話してくれた。自分は久遠湊と結婚していたが、一年後に親友だった颯太が死に、その責任を負って医師を辞め、久遠湊との間にやっと子供を授かったのに、流産してしまった。夫である久遠湊は佐伯家の家政婦の娘である愛沢くるみと関係を持っているかもしれなくて、しかも自分が流産した時、夫はその家政婦の娘の妊婦検診に付き合っていた、と。森崎颯太が死んだ事は知っていた。俺も葬儀には遠くからだが、参列はしたのだから。医療過誤だのと言われていたのも知っている。だが、それだけじゃない何かを感じていたのも事実だった。それは学生時代から燈の事を知っていたからだ。そして何よりも、颯太の葬儀で俺は違和感を持っていた。大泣きする愛沢くるみを見て、嘘くささを感じていた。大泣きす
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72話 罪と向き合う

屋敷に戻ると、使用人であり、今は屋敷の中をの事を取り仕切っている執事のような役割をしている前田が俺に近付く。「おかえりなさいませ」そう言われて俺は前田に聞く。「加山良江は?」そう聞くと前田が言う。「隔離しております」そう言われて頷く。自身の部屋に戻りながら聞く。「加山良江の通信機器は?」部屋に入ったれ俺に続き、前田が部屋に入りながら言う。「こちらに」前だが差し出したスマホ。俺はスマホを見ながら聞く。「ロックは?」前田が言う。「かかっておりません」加山良江のスマホを受け取る。「下がって良い」そう言うと前田が小さく会釈をして下がる。部屋に一人になり、スマホをデスクに置き、椅子に座る。スマホを見つめながら考える。(先に見るべきか?)今日、判明した多くの事実。七年前の颯太の死はくるみの悪意によって引き起こされた。そしてくるみは颯太のアレルギーカードを隠し、アレルギーの有無を故意に燈に伝えなかった。溜息が出る。そしてその後、高嶺遼大と一緒に見た加山良江の日記には、くるみが聖カトリーナから盗み出したラインプロスを加山良江に渡し、燈に秘密裏に飲ませ、燈はその結果、流産した。しかもそのタイミングで俺はくるみの妊婦検診に付き合っていたのだ。今にして思えば、それはタイミングとしては図りやすかっただろう。燈にラインプロスを飲ませたタイミングが分かっていたのだから。自分の顔を両手で覆う。俺は本当に何をしていたんだ。すっきりとした頭の中は疑問でいっぱいだった。長い年月をかけてくるみは俺に燈のネガティブキャンペーンをし、それを俺の中に定着させ、結婚さえも自分の意志では無く、家同士の取り決めだと思い込むように誘導されていた。そして仕組まれた颯太の死。颯太の死後、どんどん自分を責め、追い詰められていく燈を見ていた筈なのに、俺はそんな燈に対し、颯太の死の責任を一人、負わせた。その裏でくるみに泣き付かれ、くるみに囁かれ続けていた言葉たち。「燈ちゃんなら救ってくれると思ってたのに!」「燈ちゃんなら出来た筈でしょう?」俺自身が医師であるならば、救えない命だってあると分かっている。それもアレルギーの有無を知らされていないのだとしたら、俺だって颯太を救えなかっただろう。悪意がまた更なる悪意を隠して行く。颯太を失った事は俺だって辛かった。颯太は親友だ
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73話 カメラロール

加山良江のスマホを手に取る。ロックはかかっていない。高嶺遼大との会話を思い出す。「連絡手段は電話か、メールか」俺は加山良江のスマホを操作する。ノートPCにあれだけの証言を残しているのだ。それだけ警戒心が薄かったのだろう。現に今、俺の手の中にあるスマホだってロックが掛かっていない。通話履歴を見る。最新はやはり、というのか、相手は愛沢くるみだ。そしてその表記が秀逸だ。女王・くるみお嬢様加山良江のスマホにはそう登録されていた。「女王、か……」苦笑いしながら、俺は今度はメッセージの方を見る。どれくらい遡れば良いだろうか。やはり、七年前から見るべきだろうか。そんなに過去のメッセージなど、残っていないだろうか。そんな事を考えながら見ていた俺は、メッセージに画像が添付されている事に気付く。題名は「くるみお嬢様へ」となっている、メッセージの一つを開けてみる。表示された画像を見て、俺は驚愕した。(これは一体何なんだ……)表示されていた画像には、くるみの痴態があった。見た事も無いような下品な下着だけを身に着け、ベッドの上にまるで“女王”のように座っている。その画像に加山良江からのメッセージが添えられている。~お美しいくるみお嬢様の女王タイム~(女王タイム?)一瞬、そう思ったが、そうだ……くるみは売春をしているんだったと思い出した。それもかなり前から。くるみ自身がどれだけサロン・ド・オーキッドで幅を利かせているかは分からない。上層部に入り込んでいる可能性だってあるのだ。だからくるみ自身がこんな格好をする事はサロン・ド・オーキッドでは至って普通の事なのだ。胃の辺りがキリキリと痛み出す。俺は一旦、メッセージを閉じて、今度は加山良江のスマホの中のカメラロールへ入った。映し出される、目を疑うような写真の数々。加山良江と一緒に仲良く写っているものも数枚あったが、ほとんどはくるみの痴態の写真だった。似たような下品な下着を身に着け、ベッドに座ったり、文字通り女王の座るような椅子に座っていたりするものもある。楽しんでいるそう感じ取れるその写真は、くるみ自身が心から“売春”という行為を楽しんでいるのが伝わって来る。カメラロールの中の写真の中には、男性が写り込んでいるものもあった。くるみを買ったであろう、男たち。その中に、一人、知っている顔があった。それを
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74話 千堂 彰

ふと、目が覚める。(ここは……)そうだ。私は気を失って……周囲は真っ暗で目が慣れていなくて良く見えない。でもちゃんとベッドに寝かされていると分かる。カーテンが引かれ、優しい間接照明だけが小さく灯っている。「燈」声を掛けられ、振り向くと、私のすぐ横に高嶺遼大が居た。「遼大……」高嶺遼大は私に手を伸ばし、私を抱き寄せる。その大きな体で私を包み込むと聞く。「具合はどう?」そう聞かれて私は高嶺遼大の胸に自分の頬を寄せて言う。「ん、大丈夫そう……」情けない姿を見せてしまった。我慢が出来ずに嘔吐し、泣いて気を失うなんて……。高嶺遼大は私の後頭部を撫でながら言う。「すごく心配した」そう言われて私はほんの少し笑って言う。「うん、ごめん……」私の首の下に高嶺遼大の腕が差し込まれ、高嶺遼大はそのまま私を抱き締めて言う。「良いんだ、俺が勝手に心配してただけだから」この人はいつもそうだ。私が五年前に急に高嶺遼大の前の現れた時も、事情を聞かずに私を見て、休養を命じて。ポロポロと事情を話した私に寄り添って、朝まで一緒に居てくれた。何度、この人に救われただろう。高嶺遼大だって、自身の弟の颯太を亡くしているというのに。「私が気を失った後は?」そう聞くと高嶺遼大が言う。「湊くんと続きを読んだよ」そう言われて私は自身の胸の疼きを感じる。「やっぱり、予想通りだった?」そう聞くと高嶺遼大は私の背中を撫でながら言う。「あぁ、そのままだった」高嶺遼大がそう言うという事は、やっぱり、愛沢くるみの命令で加山良江が私にラインプロスを飲ませた、という事だ。「私、それを読んで、耐えられるかな……」呟くように言うと、高嶺遼大が言う。「俺がいつでも支えてやる」そう言われてクスっと笑う。この人も抱えきれない程の悲しみを背負っているだろうに、私が高嶺遼大の前に現れてからはずっと、私の事を支えてくれている。「あなたは強い人なのね……」そう言うと高嶺遼大がクスっと笑って言う。「俺は意気地なしだよ。臆病者だし、卑怯な男だ」そう言う高嶺遼大を見上げる。「臆病者で、卑怯者?」そう聞くと高嶺遼大は私を見下ろして笑う。「あぁ、そうさ」私にはそんなふうに見えなくて、何が彼にそう思わせているのか、知りたかった。高嶺遼大は私を見ながら微笑み、言う。「湊くんが家に戻ったよ
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75話 意気地なし

千堂彰の関与が明らかになり、これからの方針を少し変えなくてはいけなくなった私と高嶺遼大は、湊に加山良江のスマホのデータを送って貰うのと同時に、加山良江のノートPCにも何かが入っていないか、探す事にした。加山良江のPCには自身の日記の他にもいくつかファイルがあった。PCに保存している写真にも注目する。「何か食べた方が良いな」高嶺遼大がそう言う。「そうね」私がそう答えると、高嶺遼大が時計を見る。「ルームサービスでも頼むか」そう言う高嶺遼大に微笑む。◇◇◇部屋にルームサービスが届き、一旦、PCから離れる。運ばれて来た食事を口にしながら、私はさっき高嶺遼大が私に言った事をふと思い出していた。「俺は意気地無しだよ。臆病者だし、卑怯な男だ」目の前の高嶺遼大は食事を口にしながらも、私を気遣っている。(遼大のどこが意気地なしなんだろう? それに臆病者でも、卑怯でも無いと思うのだけど)私の視線に気付いた高嶺遼大は微笑み、私に聞く。「どうかした?」そう聞かれて私は高嶺遼大に聞く。「さっき、私に遼大は自分は意気地なしで、憶病で卑怯だって言ったじゃない?」そう言うと高嶺遼大が苦笑いする。「あぁ、言ったな」私はそんな高嶺遼大に聞く。「私から見たらそんなふうには見えなくて……どうして遼大はそう言うの?」そう聞くと高嶺遼大が苦笑したまま言う。「俺は燈が俺の前に現れた時、ほんの少し期待したんだ」そう言われて聞く。「期待?」聞き返すと高嶺遼大が言う。「あぁ、期待した」そう言われて食事の手を止める。高嶺遼大は私の隣で私と同じように食事の手を止め、言う。「俺は大学時代に燈と初めて会って、その時には燈が弟の颯太の友達だって事は知っていた。颯太から話を聞いていたからね」高嶺遼大を見る。高嶺遼大は私を見ずに言う。「最初は可愛い子だなって思ってた。研究にも熱心で優秀だったしね」高嶺遼大は箸を置き、飲み物に手を伸ばす。「燈と話してると分かるんだよ、燈が誰を好きで、その視線の先には誰が居たのか」そう言われて私は大学時代の自分を思い出す。確かにその当時、私は湊への恋心を抱いていた。それは幼い頃からずっと変わらなかった感情だ。「だからね、そんなふうに燈に想いを寄せられている湊くんが羨ましかったんだ」飲み物を置き、その両手を組み、高嶺遼大は少し笑う。
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76話 殺意

今日は一条和輝とサロン・ド・オーキッドで話した時、学生時代の事を思い出した。豊かな胸を隠しもしない佐伯燈に、私は劣等感を持ち、妬ましくて仕方なかった。胸の大きさの劣等感はずっと私に付き纏った。自分の肌を見る。今は一生懸命に美肌を目指し、日に焼けないように気を配っている。元から私はメラニン色素が多いのか、日に焼けるとすぐに黒くなる。だからこそ、日に当たらないように気を付けないといけないのに。佐伯燈は元から色白で、日に当たっても少し赤くなる程度で、その肌の色は白いまま。しかも日に当たり日焼けをした後なんかは、もう家中が大騒ぎになる程なのに、当の本人は何事も無かったかのように笑っているのだ。私なんて日に焼けて、肌が赤くなっても、誰も何も言わないし、それは私の母親でさえもそうだった。どうして生まれが違うだけで、こんなにも扱いが違うのか。佐伯燈は日焼けをすれば、高級な化粧品や何人もの使用人たちがパタパタと動き回り、まるで重病患者を看護するかのように手厚くケアをするというのに、私は放っておかれて、私の肌が赤くなっていても、いや、私の事など、誰も見ていなかったのだ。ものすごい劣等感と嫉妬。激しく燃え上がるその炎に私は身を焼いた。あの夏の日。私が家政婦である母の手伝いを命じられ、カンカン照りの中、草むしりをしている私を尻目に、佐伯燈は涼しい室内でピアノを弾いていた。部屋に戻った私は佐伯燈に貰った服を、引き裂いた。―― 施し ――そんな言葉が頭の中を占拠する。絶対に成り代わってやる!そう誓ったあの夏の日から私は様々な事を調べた。どうやってあの天然の美しさに対抗するか。どうしたら佐伯燈を出し抜けるのか。それまで私はただ単に、佐伯燈の顔が暗くな
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77話 尋問

対峙しなければならない。そう思うと気が重い。しかし、ちゃんと向き合って話すべきなのだ。加山良江のスマホから情報を取れるだけ取り、スマホの中の情報を漏れなく高嶺遼大に送る。数枚の写真を見ただけで、俺の知っているくるみはほんの一部なのだと思い知る。最初から愛沢くるみは佐伯燈を追い落とすつもりで、色々と画策して来たのだ。周囲の人間を上手く使いながら。データの転送が終わり、そのスマホを持って、加山良江を軟禁している部屋に向かう。俺を見て加山良江はどういう態度になるのか、どういう状態になるのか、言い訳するのか、しらを切り通すのか。何も情報を与えていない状態だから、加山良江は今のところ、どうして自分が久遠家で軟禁されているのか、その理由は全く分かっていないだろう。森崎の家で愛沢くるみに高嶺遼大と燈の森崎家訪問をいの一番に告げ口した、たったそれだけで加山良江は久遠家に戻された。何も分からないまま、久遠家へ戻ったにも関わらず、部屋に軟禁状態でスマホも取り上げられている状況だ。不安で仕方ないだろう。加山良江はサロン・ド・オーキッドで違法賭博にハマり、多額の借金を作り、その借金返済の為に身を売っている。これだけの事が雇い主である俺に知られれば、解雇は間違いない。そしてそれは金輪際、どこかの屋敷の使用人にはなれない事を暗に示している。自分の何が問題で軟禁状態になっているのか、きっと今は思案を巡らせ、自分の悪行が俺に知られていない事を神にでも祈っているだろう。部屋の前には人を立たせている。部屋の前に立っている男が俺を見て会釈をする。「どうだ?」そう聞くとその男が言う。」「大人しいです。時折、様子を伺っていますが、落ち着いているようにも見えます」俺はその男に言う。「開けろ」そう言うとその男が目の前の扉を開ける。部屋の中に加山良江は居た。加山良江は部屋に備え付けられているベッドに腰掛けている。扉が開いた事で加山良江が俺を見る。「湊坊ちゃん……」加山良江は昔から俺をそう呼ぶ。俺は慎重に加山良江と向き合う。「どうして軟禁状態になっているのか、分かるか?」そう聞くと加山良江は俯き、首を振る。(そうか、白を切る方向か)そう思いながら俺は部屋の扉前から動かずに聞く。「じゃあどうして久遠家に戻された?」そう聞くと加山良江が顔を上げて言う。「私が森崎の家で、くるみ
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78話 天敵

湊から送られて来た加山良江のスマホの中身。カメラロールには愛沢くるみの見たくも無いような写真が数多く収められている。題名は“女王タイム”「女王タイムねぇ」高嶺遼大がそう言いながら蔑むように笑う。気持ちは分からなくもない。あんな場所で“女王”になる事が愛沢くるみの中の虚栄心を満足させているのだとしたら、それは滑稽ですらある。けれど愛沢くるみが写真に収めている男たちは、中には世間的に大スキャンダルになりそうな人物も居て、サロン・ド・オーキッドがそれだけ、政界や財界とも結び付いている事を示唆していた。「こんなふうに写真に残す事に危機感は無かったのかしら」私がそう言うと高嶺遼大が言う。「まぁ、写真を撮ったのは加山良江本人だろうし、それを愛沢くるみに転送していたとしても、互いに脅迫関係ではいられるからな。均衡が保てているうちは、心配は無かったんじゃないか?」均衡が保てているうちは。「加山良江はエステに行き、言葉巧みに違法賭博に誘われ、借金を背負わされ、その借金返済の為にその身を売って……それが世間に露呈したら、普通には生きられないものね」私がそう言うと高嶺遼大も頷く。「しかも、自分を誘い込んだ本人がサロン・ド・オーキッドで“女王”として君臨しているなら、間違ってはいるが崇拝に近い感情が起こっても無理はないだろうな」崇拝と言われて私は納得する。加山良江の日記を読んだ時、加山良江の愛沢くるみに対する言葉遣いや扱い、それらは崇拝に近かった。本来なら今、目の前の高嶺遼大のような蔑みの感情が起こるのがごく一般的な感情だろう。「さて、どうするか……」高嶺遼大がそう言いながら考え込む。「出来れば、愛沢くるみが言い逃れ出来ない確固たる証拠が欲しい所よね」私がそう言うと、高嶺遼大が頷く。「まぁ、そうだよな。颯太のアレルギーカードは今、俺たちの手の中にあるし、颯太のカルテもある。加山良江の日記の中身も証拠にはなるが、証言を本人がするかどうか……」余りに大きな事が動き出しつつある。愛沢くるみの背後には千堂彰が居るのだ。「千堂彰が未承認薬を愛沢くるみに横流しした事も、今のところ、ただの憶測でしか無いものね」私がそう言うと高嶺遼大が少し笑う。「まさか、EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)が関わっているとは思っていなかったけどな」確かにそうだ。私たちの居る組
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79話 侮りと隷属

愛沢くるみ自身から証拠を得る為には、以前のように誰かや何かを囮にして、愛沢くるみを誘い出す必要がある。「愛沢くるみの部屋に証拠はあると思う?」そう聞くと高嶺遼大が考える。「うーん……どうだろうな。以前、入った時は愛欲の女王を探す事が目的だったから、他のものには注視していなかったからな……」そう言いながらも高嶺遼大は、以前の時に、颯太のアレルギーカードを見つけている。「加山良江のように、愛沢くるみのPCやスマホには何か入ってはいるだろうが、それを無防備に晒したりはしないだろうしな」確かに、高嶺遼大の言う通りだ。あの愛沢くるみが自分の手からスマホを手離す瞬間なんて、あるんだろうか……そう考えた時、ふとアイデアが浮かぶ。「ねぇ、一条和輝に頼めないかしら」私がそう言うと、高嶺遼大も私のアイデアを察したんだろう、私に向かってニッコリと笑う。「それは良いな」◇◇◇すぐに高嶺遼大が一条和輝に連絡を取る。今回は、一条和輝に愛沢くるみを呼び出して貰い、森崎家の愛沢くるみの部屋を捜索する人間と、一条和輝の施術を受けている間に、愛沢くるみのスマホを捜索する人間とに分かれようという事になった。「燈はどっちが良い?」そう聞かれて考える。どっちが有効だろうか。仮に私が愛沢くるみの部屋の捜索をしたとして。何か見つけられるだろうか。天才的なひらめきでパスワードを突破した高嶺遼大のように。どちらにせよ、パスワードが掛かっていたらそれを突破しなくてはいけない。「私に出来るかしら……パスワードとかはどうするの?」そう聞くと高嶺遼大が考える。「パスワードか……愛沢くるみの周辺の人間に当たってみるしか無いだろうな」そこでふと思う。「湊なら何か知っているかもしれないわね」そう言うと高嶺遼大も頷く。「そうだな、湊くんなら無意識に、もしかしたら見ているかもしれない」すぐに湊に連絡を取る。ここまで私と高嶺遼大で考えた案を全て、湊にメッセージで送った。数分後、湊から返信が来る。~パスワードの方は俺が分かる~短い返信。私と高嶺遼大は顔を見合わせる。「湊、分かるのね……」私はそう言いながら、これまでの湊と愛沢くるみの関係性を思い出す。「確かに湊くんなら分かるかもしれないな。それだけ愛沢くるみは湊くんを手に入れたがっていたんだから」高嶺遼大がそう言う。「そうね
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80話 後悔、懺悔、そして贖罪

湊に案内されて久遠家の奥へと入って行く。「ここへは、来た事が無いわね……」私がそう言うと湊が苦笑する。「ここは使用人たちが使ういわゆる“使用人棟”だからね」そう言われて私は本宅から既に湊の言う使用人棟へ来ている事を知る。湊の家は格式が高く、代々受け継がれて来ている財閥家。御屋敷も大きく、敷地も広い。私の家である佐伯家も久遠家に並ぶ家柄だけれど、久遠家ほど敷地面積は無い。こうして見ると、本当に湊は久遠家の令息なのだと思い知る。私自身、それ程、財閥家に産まれた事など、意識はした事が無いけれど、ことさら家政婦の娘であった愛沢くるみにとっては、喉から手が出るほど欲しい立場なのだろう。これほどのお屋敷の女主人になれるんだとしたら、手にしているもの全てを駆使して入り込もうとする、そういう期待が今までずっとあったのは、愛沢くるみを見ていれば分かる。けれどそれは久遠家のおじ様とおば様に阻止されてしまった。きっとおじ様やおば様は愛沢くるみの腹の底にある底意地の悪さを感じ取っていたんだろうなと思う。「こっちだ」湊がそう言って、使用人棟の奥、一つのドアの前で止まる。そのドアの前には男性が一人立っていて、湊を見ると、一礼して、下がる。「人を付けてるの?」そう聞くと湊が頷く。「あぁ、一応ね」そう言う湊を見ていて、感じる。(そうだ、湊は元々、こういう完璧主義の人だったわね……)学生時代から勉強が出来た湊は、本人の努力の跡を見せない人だった。人一倍勉強をし、人一倍努力をする人。そういう真面目な人だった。(そんな真面目な中に、ふと見せるぶっきらぼうな優しさに、私は心奪われたんだっけ)そんなふうに感傷に浸る暇も、今までは無かった。こうして自分の気持ちを振り返る事が出来るようになったのも、もう私の中では湊との事は“過去”になった証拠なのだと感じる。部屋の扉が開く。狭い部屋の備え付けのベッドに、加山良江は腰掛けていた。加山良江は私を見ると、一瞬、息を飲みながら目を見開き、そして俯く。その反応にはどんな感情が隠されているんだろう。そう思いながら湊に促された私と高嶺遼大が部屋に入る。大人四人が入るには、少々、息苦しさを感じる広さの部屋。加山良江が立ち上がり、私たち三人に頭を下げる。使用人としての振る舞いだ。腕を組んだ高嶺遼大が言う。「前置きは省く」短く強くそう言った高嶺
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