湊くんを見送って、燈が眠っているベッドルームに入る。気を失った燈のバイタルをチェックする。(大丈夫そうだな)そう思い、ホッとする。ベッドの端に座り、燈を見下ろす。手を伸ばしてその頭を撫でる。思い出されるのは五年前のあの日。俺に電話して来た燈に何かを感じた。何が起こったのかは後で知る事にはなったが。EMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)の本部は、国外にある。その研究機関の責任者だった俺に直接、電話をかけて来るくらいだから逼迫しているのだろうとは思った。それまで燈から直接、電話を貰った事など、無かったからだ。研究機関の人数的には、もちろん多い方が良い。だが誰でもがEMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)に入れる訳では無い。能力が無ければ入れないのは当然の事として。医師としての経歴も大事だった。燈はその点に関しては何の問題も無かったが。研究機関に来た燈は痩せ細っていたし、やつれてもいた。加山良江の日記から読み取れた情報ではラインプロスを使われ、流産させられた燈は、その足で研究機関に来た事になる。体に負担をかけたまま、研究機関に来たという事だ。俺は燈を見て、燈の体の具合を察した。燈の瞳からまた涙が流れている。それを優しく拭いながら思いを馳せる。俺はEMSOに燈が来た時、研究機関に慣れるよりも、土地に慣れる方が先だと言って、一カ月の休養を命じた。燈は働きたがったが、俺はそれを許さなかった。まるで抜け殻のようになった燈を誘い出し、休日を一緒に過ごし、時折、研究の話をする。そんな日々を過ごして行くうちに、燈の方から事情を話してくれた。自分は久遠湊と結婚していたが、一年後に親友だった颯太が死に、その責任を負って医師を辞め、久遠湊との間にやっと子供を授かったのに、流産してしまった。夫である久遠湊は佐伯家の家政婦の娘である愛沢くるみと関係を持っているかもしれなくて、しかも自分が流産した時、夫はその家政婦の娘の妊婦検診に付き合っていた、と。森崎颯太が死んだ事は知っていた。俺も葬儀には遠くからだが、参列はしたのだから。医療過誤だのと言われていたのも知っている。だが、それだけじゃない何かを感じていたのも事実だった。それは学生時代から燈の事を知っていたからだ。そして何よりも、颯太の葬儀で俺は違和感を持っていた。大泣きする愛沢くるみを見て、嘘くささを感じていた。大泣きす
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