Todos los capítulos de 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する: Capítulo 81 - Capítulo 90

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81話 正当化

湊にそう言われた加山良江は跪き、正座のまま話し出す。「私が知っている事を全部、お話します」小さな声でそう言う加山良江に私は聞いてみる事にした。「どういう風の吹き回しなの?」そう私が聞くと加山良江は私を見上げて言う。「私は久遠家の使用人でした。ずっと久遠家に仕える事が出来ていて、それが私の誇りだったのです。奥様も旦那様も厳格だけれど、使用人思いで、前田さんを筆頭に使用人同士も仲が良かったんです。それが私の、ささやかな誇りだったんです」加山良江はそう言うと、視線を伏せる。「でも私の、ほんの少しの心の隙間にくるみお嬢様……いいえ、愛沢くるみは入り込みました。愛沢くるみが久遠家のお屋敷に来た時、私がその時に何を感じていたか……」そこまで言って加山良江は私をまた見上げる。「燈お嬢様、あなたの美しさに私は嫉妬していたんです」そう言われて驚く。「私の……?」加山良江の顔が羞恥からだろうか、赤くなる。「そうです。あなたのように自分も美しかったら、他の男性に見初めて貰えるかもしれないと、そう思ってしまった。年が近い分、あなたの美しさや洗練された雰囲気や、醸し出す品格が羨ましかった……私のような使用人であっても、燈お嬢様の持っているもののうち、少しでも私に備わっていたら、と」愛沢くるみを動かしている私への嫉妬や略奪したいという欲求と、加山良江の抱いていた願望が重なった瞬間が、あのエステ券に繋がっているという事なのだと思うと、全ての原因は私にあるように感じてしまう。「詭弁だな」そう切り捨てたのは高嶺遼大だ。高嶺遼大は加山良江に向かい、言う。「あたかも燈に非があるような言い方をするな。馬鹿げた嫉妬や羨望で、加山良江、あなたの行動全てに理由付けが出来る訳無いだろう?」高嶺遼大はそう言って、正座している加山良江の前に立ち、しゃがむと加山良江と目線を合わせて言う。「アンタの中には嫉妬や羨望もあったかもしれないが、燈に対する侮辱の感情が無いと説明が付かないんだよ」そう言って高嶺遼大は加山良江の目を見て言う。「羨ましいと感じたから何だ? 妬ましいと感じたから愛沢くるみの言う通りに従ったのか? 薬を盛るなんて犯罪行為じゃないか。燈はそれで大事な命を失っているんだぞ?」高嶺遼大は視線を下げる加山良江に続けて言う。「颯太が死んだ後、抜け殻になっている燈に薬を
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82話 音声データ

加山良江が湊を見上げて聞く。「私のスマホはありますか?」そう聞かれて湊がスマホを加山良江に渡す。私たちは加山良江のスマホのデータにはアクセスしたけれど、写真以外にはまだそれほど、精査していない。加山良江は自身のスマホを操作し、そして無造作に音声を流す。~えー、じゃあそのお薬、手にれられるんですかぁ?~間延びした話し方、甘えるような声でそう言うのは愛沢くるみだ。~未承認薬だからなぁ、手に入れるのは簡単じゃないが、出来ない事は無いよ~男性の声。「千堂彰だ」高嶺遼大がそう言う。~えー、私、それ欲しいなぁ~愛沢くるみの声は普段、私たちと話している時とはまた違った雰囲気だ。~何に使うのかは聞かないでおくよ~そう言って笑う男性。音声は続く。~何でしたっけ……レプリ……~愛沢くるみがうろ覚えの薬品の名前を言う。~レプリトールだよ~男性の声がハッキリとそう言った。加山良江がスマホを操作する。音声はこれで終了のようだ。「これはどうやって撮った?」そう高嶺遼大が聞く。加山良江が俯いたまま言う。「私はその場に居たんです。サロン・ド・オーキッドは特殊な場所ですから、一部屋に二人だけという時もありますが、複数人が一部屋に入る事もあります。特に愛沢くるみはサロン・ド・オーキッドでは女王なので、彼女の一声で何でも決まってしまうんです」そう言われて改めて愛沢くるみの狂気を感じる。「サロン・ド・オーキッド内の事も加山良江、あなたに聞く必要があるな」湊がそう言う。確かにサロン・ド・オーキッド内の組織構成なんかは聞いておいた方が良いだろう。愛沢くるみが女王として君臨しているなら、尚更だ。「他には何かあるのか?」高嶺遼大がそう聞く。加山良江は震える手でスマホを操作しながらまた別のデータを出して来る。~未承認? のお薬って事は、外に出たらまずいのよね?~愛沢くるみがそう言う。~まぁな、でもここから外に出る事は無いだろう? 俺が作って渡した愛欲の女王はサロン・ド・オーキッドの女王様にしか渡さないんだから~千堂彰がそう言う。加山良江がスマホを操作する。これで音声は終了なのだろう。「つまり、湊くんを操っていた愛欲の女王は千堂彰が作ったって事か」高嶺遼大がそう言う。「そのようね」私がそう言うと高嶺遼大が少し笑う。「まぁ、そうか。未承認の向精神薬が使
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83話 クリアな思考

皆で顔を見合わせる。愛沢くるみが来ている?!一瞬、考えた後、湊が言う。「愛沢くるみは俺に会いに来ているだろうから、俺が対応する。前田、皆を別室へ」前田さんが私たちを別室へと案内する。「湊くん」高嶺遼大が何かを湊に向かって投げる。反射的にそれを受け止めた湊が、受け止めたものを見る。「レコーダーだ。録音と同時に俺たちの方にも声が聞こえるようになっている」そう言われて湊は手の中にある、ボールペンのようなものを胸ポケットに挿す。「了解した」そう言って湊は内ポケットから小さな丸いケースを取り出すとその蓋を開け、軟膏を鼻の下に塗る。「じゃあ、後で」湊がそう言う。その後ろ姿に向かって、高嶺遼大が言う。「何かあったら突入する、安心してくれ」◇◇◇朝食のテーブルに誰も居なかった事、そしてまた最近、湊と少し距離を感じている事が不安だった私は、久遠家へ乗り込んだ。どうせ、今は久遠家のおじ様もおば様も居ないのだし、久遠家には湊しか居ないのだもの。久遠家のおじ様やおば様が居ると、私はお屋敷の中へは入れて貰えないけど、居ないのだったら、簡単だわ、そんな風に思って久遠家へ来た。案の定、対応した執事の男性は私を見て、表情一つ変えずに中へ入れてくれた。「湊さんは?」そう聞くとその男性が言う。「湊様は所用があり、席を外しておられます。呼んで参りますので、こちらでお待ちください」そう言って私を客間へ通す。久遠家は本当に大きい。森崎の家とは比べ物にならない。敷地も大きいし、部屋数だって森崎の家とは全然違う。このお屋敷の女主人になれたら、どんなに素敵だろう。毎日、自分専属のメイドが私の身の回りの世話をするの。外商の人を呼んで、お屋敷の中で買い物をするのよ……久遠家の女主人ならお部屋だって大きいんでしょうね……ウォークインクローゼットに入り切らない程のお洋服や宝飾品、靴やバッグに囲まれて、優雅にお茶をするのよ。それで自分の気分次第で、そのお茶もお庭でやったって良いのよ、だって私は女主人なんだもの……。そんなふうに夢想しながら私は小さなバッグの中の愛欲の女王を取り出す。持ち運び用の小さな瓶は華奢な作りが気に入っている。シュッ、シュッ自分の首筋に、そして手首に愛欲の女王を馴染ませる。最近は湊が少し冷たい気がするから、少し多めに振った方が良いわよね、そう思いながら私は空
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84話 牙を剥く毒

扉が開く。部屋の入口にあの執事の男性が立ち、言う。「湊様がお待ちです」そう言って自身の体を横へ向け、部屋を出るように促す。(この部屋で会うんじゃ無いの……?)(振り撒いた愛欲の女王が部屋中に充満しているのに)そう思いながらも、促されれば出なければいけない。私は部屋を出て、執事の男性の案内でもう一つに部屋に向かう。「こちらです」執事の男性がそう言う。部屋の扉は開いている。部屋は中庭に面していて、その大きな窓が開け放たれている。湊はその部屋のその窓の前に立ち、中庭を見ていた。「湊さん」そう声を掛ける。慎重に、可愛く、可憐に。湊が振り向き、私を見た瞬間、視線を落とし、時計を見る。「くるみ、悪いが時間が無い。今日はこれから病院でカンファレンスがいくつか入ってるんだ」会ってすぐの拒絶。こんな事、今まで一度も無かった事だ。「要件を言ってくれ」湊はそう言い、私の方へ歩いて来ようともしない。私は部屋の中に入り、湊に近付く。「ごめんなさい、急に来てしまって。それにそんなに予定が詰まっているなんて思わなかったの」そう言うと湊がクスっと笑う。「俺も一応、聖カトリーナの理事なんだ。病院の経営や運営なんかにも関わっているのは知っているだろう?」湊の様子が何だか少し違って見える。今まで私が愛欲の女王で支配していた湊とは違い、凛々しく、その瞳には鋭さまである。(湊に何があったって言うのよ……)そんなふうに思いながらも、こうも思う。(まぁどうせ無駄な足掻きだわ、私自身が愛欲の女王を纏っているんだから)そう思いながら私は湊の前まで行く。湊は私を見下ろして言う。「要件を言ってくれ」同じセリフ。私はそんな湊を見上げ、その腕に触れて言う。「顔を見たかったの、最近、全然、連絡もくれないから……」そう言って上目遣いで湊を見る。湊は不意に私から離れ、口元を押さえる。「どうしたの? 具合でも悪いの?」そう聞きながら私が近付こうとすると、湊が手を出して、自分に近付くなとジェスチャーする。「……病院で何かに感染したのかもしれない、悪いが帰ってくれ」湊はそう言って中庭へ出る。ハンカチで口元を押さえながら。「元々、今朝は朝からあまり調子が良くなかったんだ。だから部屋の空気を循環させていたんだが」そう言われて私はこんなふうに部屋中の窓や部屋の扉が開いている理由
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85話 提案

湊が前田さんに支えられ、部屋を出て行った。部屋中に充満する「愛欲の女王」の甘い毒の匂いに私は顔を顰める。「すごい匂いね」そう言うと高嶺遼大が笑う。「本当にな、香水の域を超えてるよ。これはもうテロに近い」湊の具合の悪さを見て、私も頷く。「本当だわ」すぐに数人の使用人が部屋に空気清浄機を持って、入って来る。その様子を見ながら私はふと、思う。「ねぇ、愛欲の女王を無力化出来ないかしら」そう言うと高嶺遼大が驚いて私を見て、そして考え込む。「確かに、それは有効な手段だな」部屋を出て二人で歩き出しながら、私も高嶺遼大と一緒に考える。「あの匂いさえあれば、愛沢くるみの事だもの、中に有用な成分が入っているかどうかなんて、気にしないんじゃない?」私がそう言うと高嶺遼大が笑う。「確かにな。それに有用な成分が入っているかどうかを確かめる術も無いだろうしな」そして加山良江に会ってからすっと思っていた事を口にする。「愛欲の女王は加山良江にも影響を及ぼしているわよね」そう言うと高嶺遼大が頷く。「そうだろうな、あの体の震えは恐怖や罪悪感では無いように見えたしな」私は高嶺遼大に言う。「加山良江にもあなたが調合した解毒薬を投与する方が良いと思うの」そう言うと高嶺遼大が少し悲し気に笑う。「本当に燈は“真っ白”だな」そう言われて高嶺遼大を見る。「真っ白……?」そう聞くと高嶺遼大が笑う。「あぁ、真っ白だ。だってそうだろう?」高嶺遼大はそう言いながら私の腰を抱く。「加山良江は直接、燈に薬を投与して、燈に害をなした人間だ。そんな人間がどうなろうとどうでも良いって、普通の感情を持っている人間ならそう思う。俺だってそうさ。加山良江や愛沢くるみがどうなろうとどうでも良い。でも燈はそんな加山良江も救おうとしている。医師の鑑だ」そう言われて私は笑う。「その裏には何か隠されているかもしれないわよ?」冗談めかしてそう言うと、高嶺遼大が私を引き寄せ、耳元で聞く。「何を隠してる?」私は笑いながらそんな高嶺遼大に軽くキスして言う。「内緒よ」◇◇◇部屋で休んでいる湊は顔色が悪い。「病院で点滴を打った方が良い」高嶺遼大がそう言う。「そうね、私もそう思うわ」湊が起き上がる。「加山良江にも症状が出てる」高嶺遼大そう言いながら湊を支える。「だから加山良江に
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86話 副作用と拒絶反応

加山良江を連れて病院へ行く。加山良江も自分が何故、私たちに連れられて病院へ行くのか、分かっていなかった。(本当に自覚症状が無いのね……怖いわ)そう思いながら加山良江を観察する。さっきからずっと体の震えが止まらず、挙動不審な状態だ。「加山さん」私が車中で声を掛けると加山良江が私を見る。「頭痛なんかは無い?」そう聞くと加山良江が言う。「頭痛は今朝から少し……」そう聞いて私は加山良江の手首を持ち、脈を計る。……少し脈が速い。加山良江の顔色は少し色味が薄く、白く見える。「もう少しで病院だから、少しの間、辛抱して」そう言って加山良江の手を離す。「……どうして、私なんかにこんな事、してくれるんですか?」そう聞かれて私は笑う。「私は医師よ、目の前に患者が居たら、それが誰であれ、最善を尽くすの」加山良江の瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。「私は……燈お嬢様に……なんて事を……」泣き出した加山良江を見ても何とも思わない自分が、少し薄情かとも思った。けれど本当に何も感じないのだ、仕方ない。高嶺遼大の言う通り、加山良江は愛沢くるみに唆されていたとはいえ、私にレプリトール、更にラインプロスを食事や飲み物に混ぜた実行犯だ。そのせいで私は私の中に宿った大事な命を失った。その代償は計り知れない。刑事事件にしても良い、これは傷害、そして殺人でもある。更に言えば、愛沢くるみに至っては颯太の事故を誘発し、意図してアレルギーの有無を隠し、颯太を死なせたのだ、私としては殺人未遂に問いたいくらいだ。このまま加山良江が私たちに寝返ったら、愛沢くるみは大切な共犯者をまた失う事になる。湊に続き、加山良江も私の手の内のカードになった。しかも加山良江はジョーカーだ。愛沢くるみの犯行の全てを本人から聞いている。でも。それでは証拠としては弱いのだ。悔しい事に、覆す事の出来ないような確固たる証拠では無い。だからこそ。まずは愛欲の女王の無力化を図り、湊には頑張って貰わないといけない。◇◇◇病院へ入り、すぐにラボの奥まで加山良江を連れて行く。湊もそこへ運び入れて、高嶺遼大が解毒薬を調合しにラボへ向かって行った。「まずは状況を説明するわね」そう言って私は加山良江に椅子を進めて、加山良江に説明する。「見ての通り、湊は具合が悪い。それは分かるわね?」そう聞くと加山良江
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87話 静かなる侵食

加山良江と湊に高嶺遼大が調合した解毒薬を投与する。医療措置が必要な程の“香水”なんて聞いた事が無い。だからこそ、質が悪いのだ。二人が点滴を受けている部屋を出た時、高嶺遼大が廊下に寄り掛かって言う。「今朝、早くにね」高嶺遼大が話し出す。「ん?」そう聞く。「望美さんが森崎の家を出たんだってさ」そう言われて思わず高嶺遼大を見る。「あぁ、大丈夫。愛沢くるみには療養だって言ってあるそうだ」私は高嶺遼大に言う。「そんな事が聞きたいんじゃないわ。大丈夫なの? 森崎のおば様は」そう聞くと高嶺遼大が苦笑する。「颯太の死に愛沢くるみが絡んでる事を知ってしまった以上、気持ちの整理がつくまでは愛沢くるみとは距離をとりたいって事らしいんだ」その気持ちは良く分かる。自分の可愛がっていた一人息子を殺されたんだから、それは真っ当な反応だ。「良い機会だから病院に来て貰ってる」そう言われて、そういえば以前、望美さんの検査もした方が良いと話していた事を思い出す。「一応、念のための検査ね?」そう聞くと高嶺遼大が頷く。「あぁ」私はそう言う高嶺遼大の腕に触れる。「遼大、大丈夫?」そう聞くと高嶺遼大が少し溜息をつく。「本当にこんな事になっているなんて思いもしなかった。愛沢くるみなんていうクソ女が居るせいで、あの女の周囲の人間、誰も幸せになんてなってないじゃないか」私、湊、颯太、遼大、そして颯太のご両親、湊のご両親、私の両親、加山良江……愛沢くるみを受け入れた人間は皆、痛みを与えられ、それぞれ、それに耐えている。「あの女が今は一人勝ち状態だ……本当に許せない」私はそんな高嶺遼大に言う。「だからこそ、よ」高嶺遼大が私を見る。「辛いけれど、今はその愛沢くるみを追い詰める為に証拠を揃えないと。愛沢くるみと同じような手を使ったら、それこそ、私たちの方が堕ちてしまう。私たちは最初から愛沢くるみとは違う世界の人間だった……最初に愛沢くるみを引き入れたのは私なの。だから私がちゃんと幕を引くわ」そう言うと高嶺遼大が私を不意に引き寄せ、抱き締める。「ごめん、弱音なんて吐いて……」私はそんな高嶺遼大の頭を撫でる。「良いのよ、そんな時もあるわ」高嶺遼大に抱き締められながら、私は思い出していた。五年前、ボロボロになった体で私は彼の元に向かった。事情を聞かず、私を受け入
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88話 種を撒く

遼大に報告を入れた俺はその当事者にメールする。~今日、クリニックにいらっしゃいませんか~これだけで恐らくは食いついて来るだろう。遼大から大体の事情は聞いている。愛沢くるみの味方だった久遠湊が寝返り、更に自分の手を汚さない為の実行犯だった久遠家の使用人、加山良江をも寝返らせた。という事は愛沢くるみの周りは本人の知り得ないところで、どんどん、状況が目まぐるしく変わっているという事だ。不意にスマホが鳴る。表示されている名前は“愛沢くるみ”俺は微笑んでスマホを手に取る。◇◇◇「和輝から連絡だ」そう言って高嶺遼大が私にスマホを見せてくれる。「合成オキシトシン誘導体は副腎皮質を刺激し続け、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールの分泌のせいで免疫力が低下……」そう考えると体全体にもその影響は出そうだ。「風邪をひきやすくなるとか、ちょっとしたウィルスにも負けてしまう可能性もありそうね」私がそう言うと高嶺遼大が頷く。「そうだろうな」更に読み進める。「特殊なベンゾジアゼピン系物質のせいで眼瞼下垂……果てはベンゾ・マスク……」想像しただけで恐ろしい。「表情筋の弛緩や麻痺か……」高嶺遼大が笑う。「周囲の人間を自分に依存させる為に使っていた“香水”で自分自身をも破壊しているって事か。皮肉だな」確かに高嶺遼大の言う通りだろう。愛沢くるみは若い頃からその体を整形によって変えているのは薄々感じてはいた。だって学生の頃の愛沢くるみは体の凹凸がほとんど無かったのだ。それが大学が分かれ、少し見ない間に、いつの間にか、その体は妖艶なものに変わっていたのだ。最初は太っただけなんだろうと思っていたけれど、体のラインが強調される服を好んで着ているのは分かっていたし、そこを強調するという事、それは「女」を売りにし出した何よりの証拠だった。そんな愛沢くるみの武器である体や顔が、愛欲の女王によって破壊され始めている、というのは高嶺遼大の言う通り、皮肉な話だ。「やっぱり未承認薬は怖いわね」私がそう言うと高嶺遼大が言う。「だからこその未承認だっていうのにな」このまま放っておいても、その体に既に影響が出始めているのだったら、自滅を狙うのもありだけれど。それでは誰も救われない。(自滅なんてさせないわよ、愛沢くるみ)高嶺遼大を見る。「作れる? 偽の愛欲の女王」そう
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89話 ベンゾ・マスク

湊と加山良江の点滴が終わる。二人ともが起き上がる。「体調はどう?」私がそう聞くと湊が微笑む。「俺は大丈夫」湊の瞳にはまた力が戻っている。加山良江は、そう思って加山良江を見る。加山良江はポロポロと涙を零していて、きっと点滴を受けながら湊のように自分の視界が開けて行き、今まで盲目的に信じていた愛沢くるみにやらされた数々の悪行が自分に圧し掛かっているのだろうと思った。「知り合いの医師から新しく情報が入ったの。ちょっと診させて貰わね」そう言って私は湊の“見た目”を診察する。一条和輝によれば、目元にシミが出来たり、眼瞼下垂や口元の歪みが症状として出るかもしれないとの事だった。湊の目元には薄くシミがあるように見える。「湊、ちょっと口元を動かしてくれる?」そう言うと湊が口元を動かす。それを見ながら聞く。「動かしにくいとか、そういうことは無い?」そう聞くと湊が首を振る。「今のところは」表情筋の弛緩や麻痺などの症状は、今のところ出ていないという事だ。「一条和輝から連絡があったのよ、特殊なベンゾジアゼピン系物質が使われているって言ったでしょう?」私が湊から離れると、湊が頷く。「あぁ」私は溜息をついて言う。「その特殊なベンゾジアゼピン系物質がいわゆる」そこまで言うと湊が言う。「ベンゾ・マスクを引き起こす」そう言われて私は少し笑う。「知っているのね」そう言うと湊は点滴していた腕の袖を直しながら言う。「あぁ、一応、その辺りの論文を読んだ事がある」論文と言われて私は湊を見る。「論文って?」そう聞くと湊が言う。「誰だったかな、三年位前にベンゾジアゼピン系物質が表情筋の弛緩や麻痺を起こし、表情筋が死に“ベンゾ・マスク”になるっていう論文だった」三年前にはベンゾ・マスクについての論文が出ていた……。(その論文を書いた人物はもしかして、愛欲の女王の存在を知っていたんじゃない……?)考え込むと、湊が言う。「燈」呼ばれてハッとする。「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてたわ」私がそう言うと湊が言う。「加山良江も診てやってくれ」そう言われて私は加山良江に視線を移す。加山良江は私と湊の話を聞いて、戦慄している。「ベンゾ・マスクって何なんですか?」そう聞かれて私は言う。「愛欲の女王には未承認の薬物が混ぜられているの。私たちがさっきか
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90話 グランドクィーンとアトマイザー

「先生、グランドクィーンを愛沢さんに?」愛沢くるみが出て行った後、スタッフの一人がそう聞く。「あぁ、だけど、特別な配合をした方が良いだろう」そう言って俺は立ち上がり、調合室へ入って行く。鼻歌を歌いながら、うちの看板商品であるグランドクィーンに、ある成分を混ぜて行く。これがすぐに愛沢くるみの醜形恐怖に火を点けるだろうと思うと、その次のプロセスが楽しみになる。どう名付けようか。グランドクイーン・ヴェリタス・エッセンスとでも名付けようか。グランドクィーンは文字通り、女王という意味だ。うちの看板商品でもある。そこに特別な配合を加える。ヴェリタスは真実を意味する。女王の肌の真実を暴く……最高じゃないか。「先生、配合成分には何と?」隣で作業していたスタッフが聞く。「メラノ・リベレーター10の表記を加えてくれ」これは特別な配合のシミ取りクリームだ。愛沢くるみ用、メラニンを可視化させる成分であるメラノ・リベレーターが入っている。メラニンが可視化されれば、鏡を覗く度にそのシミは目立って見える。高嶺遼大からはどんな手を使っても良いと言われている。とにかく、愛沢くるみを一条クリニックに縛り付け、その美への探求心を刺激し、依存するように仕向ける事。それが俺に課せられた使命だ。違法では無い。美容業界はグレーな事が多い業界だ。しっかり蓋を閉めて、印刷した商品名のシールを貼れば完璧だ。すぐに結果は出る。手袋を外し、特別配合のグランドクィーンを持って、受付に行く。◇◇◇「治験、という意味では俺たちは最適かもしれないな」そう言って湊が笑う。残念ながらそれは否めない。不意に扉が開いて顔を出したのは高嶺遼大だった。「湊くん、ちょっと良いかな」そう言う高嶺遼大に、湊が頷く。「体調が大丈夫そうなら、加山さんにもお願いしたいんだが」高嶺遼大にそう言われて加山良江も頷く。「はい」ラボに移動する。高嶺遼大は偽の愛欲の女王の調合していたところだった。「匂いを嗅いで欲しいんだ」高嶺遼大にそう言われて、湊と加山良江がそれぞれに偽の愛欲の女王を試してみる。匂いを嗅ぎ、少し考え込む湊に対し、加山良江はその香りを嗅いだ瞬間に、言う。「あの、申し上げても?」そう言う加山良江に高嶺遼大が微笑む。「あぁ、頼む」加山良江が言う。「愛欲の女王は百合の香りがファーストノートです。その後
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