ランキングレース最終ラップでアクシデントが起きた。マシンは時速200キロを超えたままタイヤバリアに突っ込み、私――鷹宮柚葉(たかみや ゆずは)は、脛の骨を折った。救急搬送が間に合い、命だけは拾った。それでも――表彰台の端、かろうじて3位には食い込めた。病室のベッドに横たわりながらも、胸の奥は不思議と高鳴っていた。この朗報を、夫の鷹宮宗一郎(たかみや そういちろう)に自分の口で伝えたかった。また一つ、彼のクラブに栄誉を持ち帰れたのだと、誇らしく言いたかった。けれど私の目に飛び込んできたのは、宗一郎が一条美緒(いちじょう みお)を抱き寄せ、満面の笑みで祝杯をあげる写真だった。【新人ドライバー・一条美緒、鮮烈デビューで3位入賞】そんな見出しのトレンド記事と、レース速報。――私が、命を削ってまで掴んだ順位とトロフィー。それは、レースにすら出ていない美緒の手の中で、まばゆく輝いていた。待っても、待っても来ない。ギプスが外れ、退院できるほど回復するまで、宗一郎は、一度たりとも病院に姿を見せなかった。退院したその足で、親友の西野梓(にしの あずさ)に付き添われながら、私はチームのクラブハウスへ向かった。宗一郎専用の個室の前に立つと、扉の向こうから絶え間ない笑い声が漏れてくる。「なあ宗一郎。柚葉のエントリー情報、書き換えて順位を美緒に回したんだろ?それで、あいつ納得したのかよ?」宗一郎はグラスを手に取り、ゆっくりと一口含んだ。「納得も何もねえだろ。俺が右って言えば右、左って言えば左だ。家じゃ犬より素直なんだからな」場の空気が一気に緩み、どっと笑いが起きた。「そりゃそうだ。この社交界で知らない奴はいねえよ。柚葉が一番執着してるのは、鷹宮夫人って肩書きだろ。ハハ!」宗一郎は腕の中の美緒を見下ろし、にやついたまま唇を寄せ、酒を口移ししようとする。美緒は頬を赤らめ、「やだ、もう」と甘くじゃれた。白い指で彼の胸を軽く叩き、身をよじって逃げるふりをしながら、「宗一郎さん、だめですって……」と、わざとらしく囁く。結局、最後の一口はそのまま口移しで飲まされ、美緒は真っ赤な顔で身を預けた。「宗一郎さんってば、ひどい……こんなの、酔っちゃって帰れなくなります……」宗一郎は頬にキスを落とし、「俺と帰ればいいだろ」と笑う。
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