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第2話

Penulis: ネコ芋
個室を出ると、梓は何も言わずに私へ親指を立て、そしてもう一度だけ念を押した。「柚葉……今回は、本当に離れるつもりなの?」

私はクラブの入口に立ち、宗一郎の車と、彼が美緒に贈った赤い限定モデルのスポーツカーを見つめていた。

二台は肩を寄せ合うように並んで停まっていて――まるで、もともとそう並ぶのが当然だったかのように。

宗一郎は、女を追うときはいつも派手だった。私のときもそうだ。毎日のように花を贈り、食事に誘い、いつも私の前に現れた。周囲に隠す気なんてなく、誰が見ても分かるほど堂々と、そうして私を口説き落とした。

三年付き合い、三年結婚して――

飽きたのは、宗一郎のほうだった。

私への態度は、少しずつ、しかし確実に冷たくなっていった。

「お前みたいな女は、好きじゃない」

そう言われたこともある。

けれど、最初から私は変わっていなかった。宗一郎が私に夢中だった頃の私は、クラブで一番実力のある女性レーサーで、運営側の理事でもあり、クラブの仕事の大半を担っていた。

この二年は、さらにひどかった。宗一郎は、平気な顔で別の女を家に連れてくるようになった。

我慢できず、何度も言い争った。そのたびに、彼は決まって離婚を口にした。

これまでの私は、いつも先に折れていた。宗一郎から離れたくなかったからだ。

彼も、それを分かっていたのだと思う。だからこそ、ますます図に乗った。私の目の前で、堂々と別の女に言い寄るようになった。

花を贈り、バッグを贈り、ついにはスポーツカーまで。

……冗談じゃない。それは、私たちの婚姻中の財産だ。

あんな連中に、好き勝手させるわけにはいかない。

私はバッグからスペアキーを取り出し、宗一郎の車に乗り込んだ。

角度も、踏み込む強さも、すべて計算済み。梓への返事は、言葉じゃなく行動で示す。

――轟音が響いた。

宗一郎の車で、美緒の新しいスポーツカーの後部を強くぶつけた。車体は大きくへこみ、フロントは壁に押し付けられて、ほぼ廃車状態だ。

スペアキーを放り捨て、私は車を降り、そのまま立ち去った。

外の陽射しはやけに眩しかった。それは、私が長い間必死に支えてきた、もう壊れかけていた結婚を、白日の下に晒しているようだった。

その夜、梓から一本の動画が送られてきた。

画面の中で、美緒が宗一郎の胸にすがりつき、声を上げて泣いている。

「私の車……どうして……こんな……」

宗一郎は階段に立ち、苛立った様子で煙草を吸っていた。もう監視カメラは確認したのだろう。

「ひどい……あんまりです……宗一郎さん、車が惜しいんじゃないんです。宗一郎さんが私にくれたものなのに……まだ三日しか乗ってないのに……」

そう泣きながら訴えてから、美緒は言った。

「……通報しましょう、宗一郎さん」

横で、誰かが小声で言った。「通報しても、たぶん無理だな。柚葉さんは奥さんだし、宗一郎さんの車は柚葉さんの車でもある。自分の車で自分の車を壊しただけじゃ、警察も手出しできない……」

別の誰かが、舌打ちまじりに言う。「柚葉さん、やるなあ……」

宗一郎は乱暴に煙草を揉み消し、吐き捨てるように言った。「……ああ、いいだろ。明日、区役所に行く」

……

私は動画を黙って閉じ、離婚に必要な書類を、淡々と揃え始めた。

翌朝、私は早めに区役所へ向かい、宗一郎を待った。

タクシーから宗一郎が降りてきた、その瞬間。なぜか私は、胸の奥でそっと息を吐いていた。

「柚葉、最後に一度だけチャンスをやる……」

私は足を止め、笑うでもなく言った。「順位を美緒に譲って、頭を下げて、それから、もう一台買い直せってこと?」

宗一郎は、冷たい顔のまま言う。「美緒はいい子なんだ。あんな思いをさせるわけにはいかない」

「だったら、どうしてあの子を日陰に置いたままなの。ちゃんと肩書きを与えてあげればいいでしょう。私はもう、邪魔しないわ」

鼻で笑い、私はそのまま窓口へ向かった。

宗一郎は顔を険しくし、離婚届と書類一式を、窓口に叩きつけるように差し出した。

職員も、私たちの空気を察したのだろう。余計なことは何も言わず、淡々と手続きを進める。数分後、出来たばかりの離婚届受理証明書が手渡された。

あまりにも早くて、宗一郎のほうが状況に追いついていない顔をしていた。

宗一郎は証明書を握りしめ、指の関節が白く浮き上がった。

「また駆け引きか?俺の気を引きたいだけだろ。無駄だ。ここまで騒いで、どう始末をつけるつもりだ!」

宗一郎にとっては、私が怪我をして脚を折り、病院でひと月近く寝ていたことさえ、同情を引くための小細工に過ぎなかったのだろう。

離婚を口にしたのも、すべて計算のうえでの芝居――そう、最初から決めつけていた。

私と宗一郎は、いつから、こんなふうになってしまったのだろう。

それでも私は、もう決めていた。

今回は、絶対に振り返らない。

昨夜外した結婚指輪を宗一郎に放り投げ、私は迷いなく、大股で歩き出した。
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