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第10話

Auteur: ネコ芋
晃が言った「家に帰る」とは、黒沢家の本邸のことだった。

玄関をくぐった瞬間、使用人たちは一斉に晃へ深く頭を下げた。私の手が彼に握られているのを見ても、誰ひとり口を出さない。ただ、その視線の端に、ほんの一瞬だけ驚きが走り、すぐに伏せられただけだった。

屋敷は想像以上に広く、奥の居間へ向かう途中で、執事らしき人物が近づいてきて晃に低く何かを告げた。晃は一瞬ためらい、それから私を振り返る。

「柚葉……ここで、少しだけ待ってて」

「うん」

そう答えると、晃は大股で執事の後を追って行った。

その場で待っていると、少し離れた築山の陰から、赤いドレスをまとった若い女性がすっと姿を現した。写真で見たことのある顔――若葉陽菜だった。

澄んだ瞳に白い歯、気品のある佇まい。本人のほうが、写真よりもずっと綺麗だ。

「……本田柚葉(ほんだ ゆずは)さん?」

私は頷き、逃げずに視線を受け止めた。「はじめまして」

陽菜はどこか挑むような目つきで、私を上から下まで何度も値踏みするように見つめ、感心したように小さく息を鳴らした。

「確かに綺麗。あの人、見る目はあるわね。でも本田さん、私とあの人は子
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    晃が言った「家に帰る」とは、黒沢家の本邸のことだった。玄関をくぐった瞬間、使用人たちは一斉に晃へ深く頭を下げた。私の手が彼に握られているのを見ても、誰ひとり口を出さない。ただ、その視線の端に、ほんの一瞬だけ驚きが走り、すぐに伏せられただけだった。屋敷は想像以上に広く、奥の居間へ向かう途中で、執事らしき人物が近づいてきて晃に低く何かを告げた。晃は一瞬ためらい、それから私を振り返る。「柚葉……ここで、少しだけ待ってて」「うん」そう答えると、晃は大股で執事の後を追って行った。その場で待っていると、少し離れた築山の陰から、赤いドレスをまとった若い女性がすっと姿を現した。写真で見たことのある顔――若葉陽菜だった。澄んだ瞳に白い歯、気品のある佇まい。本人のほうが、写真よりもずっと綺麗だ。「……本田柚葉(ほんだ ゆずは)さん?」私は頷き、逃げずに視線を受け止めた。「はじめまして」陽菜はどこか挑むような目つきで、私を上から下まで何度も値踏みするように見つめ、感心したように小さく息を鳴らした。「確かに綺麗。あの人、見る目はあるわね。でも本田さん、私とあの人は子どもの頃から婚約してる。知ってるでしょ?」私は正直に頭を下げた。「私も、ここ数日で知ったばかりです。もし不快な思いをさせていたなら……ごめんなさい」婚約が事実なら、晃が誰もが納得できる形を示せない限り、私は迷わず身を引く。もし彼が本気で向き合うと言うのなら――私が欲しいのは、愛で、結婚で、そして一生、ただひとりと向き合う未来だ。それだけは、どうしても譲れない。陽菜が何か言いかけた、そのときだった。晃が息を切らしながら駆け寄ってきて、私をぐっと背中側にかばう。「陽菜!柚葉に何を言った?」陽菜は眉を上げ、どこか余裕のある笑みを浮かべた。「ちょっとからかっただけよ。そんなに身構えなくてもいいでしょ?」晃は一歩も引かず、彼女を鋭く見据えた。「俺が、それを信じると思うか?」陽菜が吹き出した。「まあ、そうなるわよね。何年も想っててさ、他の人と結婚するのまで見ちゃったんだもん。やっと取り戻したんだから、大事にするのも無理ないでしょ。……もう一回逃したら、一生結婚できないわよ」私は思わず、陽菜をまじまじと見た。この瞬間、二人の距離感がどこかおかしいと確信

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