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第5話

Penulis: ネコ芋
クラブに来る前に、私はすでに関係する申立て資料をすべて主催側へ提出していた。

この主催とは、今回が初めてのやり取りではない。だからこそ、向こうも事の重さを理解し、迅速に動いてくれた。

すべて決着がついたと聞き、私はようやく大きく息を吐いた。これ以上、彼らと関わる気もなく、その場を後にする。

長い廊下を歩いているあいだも、背後からは宗一郎が物を叩きつける音と怒声が響いてきた。

「……ふざけるな!調子に乗りやがって!出てけ、全員出てけ!」

クラブを出る前に、私はトイレに立ち寄った。

出てきたところで、洗面台に突っ伏して、えずいている女の子が目に入る。

声をかけようとした、その瞬間。彼女が顔を上げ、鏡越しに映ったのは――美緒だった。

さっき個室にいなかった理由も、すぐに分かった。

美緒も私に気づき、胸元を押さえながら、ゆっくりと身体を起こす。

私の視線を追うように、彼女は自分の、わずかにふくらんだ腹に目を落とし、薄く笑った。

「……そう。妊娠したの」

私は感情を挟まず、短く言った。「おめでとう」

美緒は意味ありげに私の腹部へ視線を走らせ、しばらくしてから、くすりと笑う。

「それくらいしか言えないよね。宗一郎さん、もう二年もあなたに触れてないんじゃない?まあ、無理もないけど。あなたみたいにガサツで愛想もない女、どんな男だって疲れるでしょ」

少し間を置いて、追い打ちをかける。「そういえば、宗一郎さんのお母さまも言ってた。女として何も分かってない、って。跡取りの話も、期待できないって」

宗一郎とは、すでに二年別居していた。夫婦関係なんて、とっくに形だけのものだった。

最初は、クラブが伸び盛りで、もっと結果を出したかった。だから、子どもの話を急がなかった。

けれど次第に、宗一郎は私を露骨に疎み、家に帰ることさえ、ほとんどなくなった。

それなのに、ほんの数日で。宗一郎の母親は、浮気相手をあっさり受け入れた。

――あの家に注いだ私の時間も、気持ちも、何だったんだろう。

離婚はしたはずなのに、その言葉は、胸の奥をざらつかせた。

私は自分を嘲るように、静かに笑う。

そのとき、スマホが鳴った。画面には、見知らぬ番号。

「もしもし」

すぐに分かった。晃の声だ。きっと、梓から番号を聞いたのだろう。

「今、クラブの外にいる。今夜、一緒に食事でもどう?」

受話口を隠しもしなかったから、美緒にも聞こえたはずだ。彼女の表情が、はっきりと変わる。

それが、なぜか少し愉快だった。

「分かった。すぐ行く」

通話を切り、私は美緒に視線を戻す。軽く頷いて、言った。「……大事にされる立場になれて、よかったですね。どうか、幸せに」

美緒は怒りで顔をぐしゃりと歪めた。

相手にする気もなく、私はそのまま横をすり抜け、バッグを肩に掛けて、さっさと歩き出した。

外の、少し人目につきにくい場所に、この前、晃が乗ってきた黒いベントレーが停まっていた。

助手席へ回ろうとした、その瞬間。後部座席のドアが開き、大きな手に引き寄せられて、レザーシートへ押しつけられる。熱を帯びたキスが、一気に降ってきた。

男の体温と匂いが、瞬く間に私を包み込む。

晃のキスは迷いがなく、まっすぐだった。視界の先にある世界が、私だけになったみたいに。

「会いたかった……たまらなく」

荒い息のまま、晃は耳たぶや鎖骨に口づけ、掠れた声で耳元に囁く。

会っていないのは、たった一日だけなのに。

それでも、晃の熱は真昼の陽射しみたいに私を焦がし、濃い想いに、逃げ場なく絡め取られていく。

狭い車内は、二人の体温をさらに近づけた。

晃は顔を私の胸元に埋め、抱きしめる腕に、ぐっと力を込める。

「柚葉……もし俺が、一目惚れだったら、どうする?」

一目惚れなんて、正直あまり信じていない。でも、身体が先に落ちるなら、話は早い。

「お前じゃなきゃ駄目だ」そう言わんばかりの態度が、たまらなく心をくすぐった。

宗一郎の冷たさがなければ、こんな出会いが訪れることもなかったのかもしれない――そんな思いさえ、胸をよぎった。

「晃さん……」

私はそっと彼の腰に絡みつき、鍛えられた腹筋をなぞりながら、下へと手を滑らせた。好き勝手に、火を点ける。

うとうとしながら、酒に酔っていたあの夜の記憶が蘇り、身体が、本能のままに彼を欲しているのを感じる。

……

足音が近づいてきて、私ははっとした。さっき、宗一郎の車も、この辺りに停まっていた気がする。

しかも、一人じゃない。さっき個室にいた取り巻き連中まで連れて、こちらへ向かってきている。

美緒は言った。宗一郎は二年も私に触れていない、女らしさがなくて、誰にも好かれない、と。

でも今、晃の目に映っているのは、間違いなく私だけだった。そう言い切れるほど、熱が満ちている。

目の奥が滲み、私は晃の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。「晃さん……私、不器用で、洗濯も料理も得意じゃない。人の世話だって、うまくできない。それでも、どうして私を選ぶの?」

晃は答える代わりに、静かにキスを落とし、私の髪を、そっと撫でた。まるで、手のひらで大事に守られているようで、胸が、きゅっと震えた。

「洗濯と飯炊きなら、金を払えばいくらでも代わりはいる。でも君は、俺が惚れた女だ。金じゃ替えられない。柚葉……一日会わないだけで、気が狂いそうになる」

息も絡まるほど近い距離で、私は弄ばれ、涙が滲み、思わず甘い声が漏れた。

「……晃さん……晃さん……」

宗一郎たちは、私の声を聞き慣れすぎている。

「今の……柚葉の声じゃないか……」

「……たしかに。似てるな」

宗一郎は顔を暗く沈め、足を止めかけた。だが次の瞬間、こちらへ向かって、大股で歩き出した。
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