Alle Kapitel von 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Kapitel 21 – Kapitel 30

95 Kapitel

21話

「にゅ、入院!?とんでもないです……!」 髙野辺の言葉に、もみじは大慌てで両手をぶんぶんと振り、拒否をする。 「その……っ、家に戻って安静にしていますから。家に戻っても大丈夫ですよね、先生?」 「それは──……」 もみじに質問をされた医師は、困った顔で髙野辺を見やった。 焦ったように額に汗を滲ませ、助けを求めるようにチラチラと髙野辺を見る。 医師の視線を受けた髙野辺は、もみじを心配するように彼女に近付き、話しかけた。 「新島さん。入院した方がいいですよ。足の怪我もそうですが、あなたは額を切って血を流しているんですから。頭部も検査してもらいましょう?」 「──あっ」 そうだった、ともみじははっとする。 足の痛みが強く、すっかり忘れてしまっていたが、額をテーブルの角に打ち、流血していたのだ。 もみじが頭の怪我を思い出した事を悟ったのだろう。 髙野辺は医者に素早く指示をしてしまう。 「先生、脳神経外科も予約してもらっていいですか?」 「分かりました、髙野辺さん。では、すぐに手続きをして参りますね!新島さんも髙野辺さんと一緒にこの部屋でお待ちください!」 「あっ、先生──!」 整形外科の医師は、髙野辺の言葉を聞くなり一目散で個室を出て行ってしまう。 もみじは物凄い速さで出て行ってしまった医師に呆気にとられ、ぽかんとしてしまった。 「新島さん、他に辛い所はありませんか?」 「髙野辺さん……」 にっこり、と笑みを浮かべて話しかける髙野辺に、もみじは引きつった笑みを返す事しか出来なかった。 ◇ 数時間後。 もみじは、脳神経外科の診察を受けた。 CTやMRIは、個室では受けられない。 結果を待ち、何の異常も見られない事が分かり、ほっと安堵したもみじは、車椅子を髙野辺に押してもらいながら個室に戻ってくる途中だった。 「髙野辺さん、こんな遅い時間まで付き合わせてしまって……本当にどうお礼をすれば……」 「気になさらないで下さい、新島さん。怪我をしている人を手伝うのは当然です」 髙野辺の優しい言葉に、もみじが笑顔で言葉を返そうとした時──。 廊下を進むもみじの耳に、ふと聞きなれた声が入った。 「胡桃、本当に大丈夫か?お前は意識を失っていたんだ。1日くらい入院していた方が──」 「大丈夫よ、誠司さん。私なら大丈夫だから、お姉
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-03
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22話

そして、そんな声はもみじ以外の耳にも、当然入っていた。 それは、近くを歩いていた看護師の耳にも入っていたようで。 「いいなぁ、あそこの個室の奥さん。凄い格好いい旦那さんが、凄く心配して、精密検査やら何やら手配したのよ?」 「ええ?」 「どうやら、奥さん気絶しちゃったみたいで。多分低血圧とか、そう言う類だと思うんだけど、突然気を失ったって血相変えて来たんだから!」 「それ本当!?奥さん、旦那さんに凄く愛されているのね!」 「凄かったわよー、救急車に同乗して、奥さんがストレッチャーで運ばれてる間もぴったり横に寄り添って凄かったんだから!」 きゃいきゃい、と興奮気味に話す看護師の言葉に、もみじの胸はぐさぐさと見えない刃で刺されているようだった。 (胡桃が、勝手に倒れたのに……) あの時誠司は、まるで胡桃が倒れたのはもみじが突き飛ばしたせいだとでも言うような態度を取った。 あの時、実際はもみじは胡桃に自ら触れてなどいなかったと言うのに。 それどころか、誠司は自分の妻であるもみじを突き飛ばし、もみじを転倒させたのだ。 その際にもみじがテーブルの角で額を切っても。 足を挫いても。 見向きもせず、秘書を呼び出してもみじを不審者扱いして放り出したのだ。 (どうして……誠司の妻は私なのに……) 何故、こんな目に遭わなくてはいけないのか──。 もみじが急に黙り込んだ事で、車椅子を押してくれていた髙野辺が不思議そうに首を傾げた。 「──新島さん?どうしましたか?」 声をかけられ、もみじははっとする。 すぐに笑みを貼り付けると、何でもないと言うように首を横に振った。 「何でも無いです、髙野辺さん」 「そうですか?」 もみじの辛そうな笑みに、髙野辺は眉を顰めたがもみじが話してくれなさそうな気配を感じ、それ以上は聞かなかった。 そして、上の階にあるもみじの個室に戻るため、エレベーターに乗り込んだ。 ◇ 「……?今の声」 誠司は、ふと病室の扉を振り返った。 胡桃は、誠司が突然扉を振り返り見つめている姿にきょとんとする。 「誠司さん?」 「……」 胡桃の声には答えず、誠司はそのまま病室の入口に向かう。 すると、扉を開けて廊下を確認した。 左を見ても、歩いているのはこの病院の医師や看護師のみ。 右を見てみる。 すると、そこには
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-03
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23話

誠司が病室に戻り、ぐったりとベッドに横になっている胡桃のためにりんごを剥いていると、バタバタと忙しなく走る音が聞こえてきた。 「胡桃!」 「胡桃ちゃん!」 ガラ!と大きな音を立てて勢い良く個室の扉が開く。 やって来たのは、中年の夫婦。 胡桃の両親だった。 「──お義父さん、お義母さん」 ガタン!と丸椅子から誠司が勢い良く立ち上がる。 病室に転がり込むように駆け込んできた胡桃の母親は、ぐったりとしている胡桃に駆け寄った。 「なんて可哀想なの、胡桃ちゃん……!大丈夫?辛いことろは無い?」 「お母さん……。大丈夫よ、誠司さんがすぐに病院に運んでくれたから……」 力なく笑う胡桃に、母親は涙を浮かべてそっと胡桃の手を強く握る。 誠司に歩み寄った胡桃の父親は、彼に向かって口を開いた。 「誠司くん。いったい何があった?胡桃は今日、君の会社に行って……何があってこんな事に?」 「お義父さん……実は……」 誠司は、申し訳なさそうに胡桃の父──そして、それと同時にもみじの父である彼に事情を包み隠さずに全て話した。 会社に、もみじがやって来た事。 そして、もみじが怒って胡桃を突き飛ばしてしまった事を。 「──何だと!?」 胡桃がこんな目に遭ったのが、もみじのせいだと知った父親は、目を吊り上げる。 その様子は、誰がどこからどう見ても怒りを覚えている。 「けしからん
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-04
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24話

夜。 胡桃の病室を出た誠司は、自宅に戻ってきた。 「──もみじ!もみじ!」 怒鳴りながら玄関扉を開けて、中に入る。 だが、リビングは真っ暗なままで。 そして、電気もついていない。 「何だ……?まさか、不貞腐れているのか?」 誠司はもみじが反抗してこんな事をしているのだ、と判断する。 ドンドン、と荒い足音を立ててリビングを通り過ぎ、寝室へと向かう。 きっと寝室のベッドで泣いているのだろう。 そう考えた誠司は、乱暴に寝室の扉を開けた。 「いつまで拗ねている!夫が帰宅したと言うのに、出迎えに来ないなんて生意気な事をするな!お前は専業主婦だろう!」 怒声を上げながら部屋に入った誠司は、寝室も真っ暗な事に驚いた。 室内の温度も低く、どこかひんやりとしている。 「──もみじ?」 そこでようやく誠司はおかしい事に気付く。 そう言えば、玄関にはもみじの靴が無かった。 「いない、のか……?」 少し焦りながらベッドに歩み寄った誠司は、布団を持ち上げて確認する。 やはりそこにはもみじの姿は、無い。 「──っ」 誠司は顔色を悪くさせ、すぐにリビングに引き返す。 「そう言えば……、もみじは部屋で転倒していた……」 歩きながら、昼間の事を思い出す。 胡桃の事に集中していたせいで忘れていたが、そう言えばもみじに強くぶつかったような気がする。 そして、背後から派手な音が聞こえた。 「か、会社に確認しに行かねば……」 もし、気を失ってあそこに倒れたままだっ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-04
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25話

「社長?こんな時間にどうされたんですか?何か緊急の案件でも……?」 「──田島」 ひょこり、とやって来た秘書の田島は、部屋の中で立ち尽くしている誠司に首を傾げたが、ふと誠司の足元を見て「不味い」と顔色を変えた。 「申し訳ございません、社長!汚い血が残っておりましたね。業者に片付けを頼んだのですが、残しがあったようです。担当した者はクビにいたします!」 「片付け……?」 清掃業者に電話をかける田島に、誠司は唖然としつつ振り返る。 業者に片付けを頼むほど、室内は荒れていたのだろうか──。 誠司が唖然としていると、田島は彼の違和感には気付かずに清掃業者と電話が繋がった事で、喋り始める。 「──田島だ。昼間掃除を頼んだ件だが。……ああ。いったいどんな仕事をしたんだ?社長の部屋に血液の拭き残しが残っていたぞ。汚らしい血液は、綺麗にしておけと言っただろう!」 「……拭き残し」 拭き残し、と言う事は。 もみじの血液は、これだけじゃなかったのか──。 その事に気付くなり、誠司の顔は真っ青になる。 電話をしている田島をその場に残し、誠司は警備室に急いだ。 警備室に向かえば、監視カメラでもみじの動向を知る事が出来る。 ビル内のどこかで気を失ってはいないか──。 それとも、ビルから出て変な所で倒れてはいないだろうか──。 もみじが今、どこにいるのか。 それを知りたくて誠司は焦りつつ警備室に向かった。 ◇ 「──おい!この時刻の監視カメラを確認してくれ!」 警備室に着くなり、誠司は大声で叫ぶ。 中に居た警備員は突然会社の社長が入室してきて叫ぶ状況に、驚いている。 「えっと、あなたは確か……NEW ISLANDの社長?」 「ああ、そうだ!この時間帯のうちの会社のカメラ映像を出してくれ!廊下や、社長室もだ!」 「──社長室は、以前御社が設置を拒否されていたので、カメラ映像はございませんよ。ただ、廊下はビル内に設置してあるので、確認が出来ます」 「……くそっ、そうだったか……。分かった、ならば廊下の映像を頼む」 「分かりました。少々お待ちください」 警備員が操作をする後ろで、誠司は頭を抱えた。 1番欲しかったのは、社長室のカメラ映像だ。 だが、以前胡桃が恥ずかしがったのだ。 社長室では、胡桃はいつも誠司に寄り添い、時折誠司と胡桃は
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-05
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26話

警備員の言葉に、誠司はモニターに駆け寄る。 「どれだ!」 「こちらの、左側のモニターです」 切羽詰まったような誠司の様子に、警備員は押されつつモニターの前から退く。 入れ替わるようにモニターの前にやって来た誠司は、モニターに映し出されたもみじに目を見開いた。 社長室から出て来たもみじは確かにボロボロの姿だった。 モニターに映し出されたもみじの額にははっきりと血が流れているのが見える。 そして、その血液がもみじの衣服に付着して汚れているのが見える。 モニターに移るもみじが足を引きずっているのが見えて、誠司の胸がずきりと痛む。 (違う、俺はもみじに怪我をさせるつもりは無かった……) 社内には、社員が沢山いるのに足を引きずるもみじを誰も助けようとはせず、エレベーターに歩いて行くもみじを嘲笑うような表情で見ている社員達の姿がモニターには映っている。 (なぜ、どうしてもみじに手を貸さない……!?こんなに冷たい奴らが、俺の会社で働いていたのか!?) ようやく到着したエレベーターに、もみじが倒れ込むように乗った所で、その映像は切れてしまった。 その後のもみじの動向を知りたくて、誠司は警備員に振り返る。 「──おい!この後の映像は!?この女性がエレベーターに乗っている時の映像と、エントランスに下りた時の映像は!?」 血相を変えたように詰め寄る誠司に、警備員は若干気圧されながらモニターを操作した。 だが、怪訝そうに首を傾げる。 「あれ……、おかしいな……?」 「──どうした!?早くモニターに出せ!」 「いや、すみません……。あの後の映像がどこにも残っていなくて……」 あれ?あれ?と呟きながら警備員は操作盤を操作するが、どれだけ確認してもあれ以降の映像は出てこない。 時間がかかればかかるだけ、誠司の苛立ちは募り、イライラとした感情が行動にまで出てくる。 苛立ちを表すように誠司は組んだ腕を指先でトントンと叩く。 自分の背後で急くような態度の誠司に、警備員はひやひやとしながらモニターを操作して映像を確認するが、やはりどう探してもその後のもみじが映っている映像は見つからなかった。 「も、申し訳ないです新島社長……やはりどこにも映像はありません……」 「──何故そんな事になっている!?くそっ、いいか、明日の朝までにどうにかして映像を探してお
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-05
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27話

「しゃ、社長?どうなさったんですか?」 「どうもこうも……!」 誠司は自分の秘書に妻を探せ、と命令をしようとしたがそこで言葉に詰まる。 目の前の秘書、田島は誠司の妻は胡桃だと思っている。 そして、誠司は田島が胡桃の事を「奥様」と呼ぶのを訂正した事は無いのだ。 本当は胡桃が妻ではなく、他の女性──しかも、昼間に追い払った女性が本当の妻だと知ったら。 田島が他の社員に言いふらす事はないだろうとは思うが、田島が胡桃の事をどう思うか。 それだけが、誠司は心配だった。 だが、誠司1人ではもみじを探し出す事は難しい。 人を使って調べさせようにも、もみじの事を妻だと告げねばならないのだ。 (くそっ、面倒な事に!) 誠司は胸中で舌打ちをしたが、もし、万が一。 もみじが外で倒れていたら。 社長の妻が汚い格好で外に倒れていた、と知られたら。 (会社のイメージも悪くなるし、俺の面目も丸つぶれになる。それならば、田島だけには真実を話し、探させた方がいい) そう判断した誠司は、田島をちらりと見やった後「着いてこい」と一言だけ告げて社長室に戻った。 ◇ 社長室に戻った誠司は、田島に全てを話した。 誠司が説明を進める内に、田島の表情はみるみる変わり、顔色は真っ青になって行く。 「──あの女性が、社長の奥様だったんですか……?では、今の奥様……いえ、胡桃さんは……?」 田島は、胡桃が我が物顔で誠司の会社に出入りして、堂々と誠司といちゃついている所を見ているのだ。 田島の頭の中にははっきりと「不倫」の2文字が浮かんでいた。 だが、誠司はあっさりと告げる。 「胡桃は、妻の妹だ。俺を兄のように慕ってくれている」 「兄、ですか……」 誠司の言葉に、田島はそんな馬鹿な、と言い返してしまいたい気持ちをぐっと耐えた。 兄だと思っているなら、あんな風に親密そうにしないし、必要以上接触はしないだろう。 それに、誠司は忘れているようだったが、田島は何度か社長室の「清掃」を行っている。 (社長は、奥様の妹さんと体の関係を持っている……。なんて事だ……) こんな身近で、不倫をしている人を見るなんて。 秘書の田島は信じられない思いでいっぱいだ。 だが、混乱している田島をそのままに、誠司は落ち着いた様子で指示をする。 「警備室で確認したが、エレベーターから降
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-06
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28話

◇ 場所は変わって、もみじが入院している病室。 ベッドに横たわりながら、もみじは病室の真っ白な天井をぼうっと見つめつつ、ころりと寝返りを打った。 じっとしていると、昼間の事が思い出されて、もみじはぐっと強く目をつぶった。 (……誠司は、胡桃を優先した) あの時の光景を思い出して、もみじの唇が震えてくる。 (私が倒れても、誠司は見向きもせずに……胡桃を大事そうに抱えて……) そもそも、そんなに胡桃が大切なら。 どうして誠司は自分と結婚したのだろう、ともみじはどんどん暗くなってしまう。 (結婚しても……、誠司とはまだ本当の夫婦になっていない……。それに、結婚指輪だって──。会社が軌道に乗ったらって、それは一体いつなの?結婚式だって挙げて無いし、指輪だって誠司からもらってない……それに、誠司の会社の人達は胡桃の事を誠司の妻だと思ってた……) 誠司の秘書だって、胡桃を「奥様」と呼んでいた。 その光景を思い出したもみじの目からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。 (離婚って言葉を、誠司は一体何度口にしたの……?離婚の言葉を誠司から聞く度に、私がどれだけ傷付いて来たか……誠司はちっとも分かっていない……) 結婚してから、誠司は一体何度「離婚」の言葉を口にしただろう。 (覚えているだけでも……数十回は口にしてるわ……) 両手では足りない程、誠司は離婚の言葉を口にしている。 離婚を切り出されたもみじは、いつだって自分が悪くなくても謝って来た。 誠司が好きだったから。 愛しているからこそ、必死に謝って、誠司に離婚の言葉を取り消してもらっていたのだ。 だが、もしかしたらそのもみじの態度が誠司を助長させてしまったのかもしれない。 (これからは、誠司に離婚を切り出されてもすぐに謝らないようにしよう……。どうしてそんな事を簡単に口にしてしまえるのか……、それに、私のどこが駄目だったのか、それをちゃんと誠司に聞いて……話し合おう……) 話し合いを避けて来た自分にも非がある。 嫌われたくない、別れたくない、と言う気持ちから今までは一方的にもみじが謝って、誠司に離婚を撤回してもらっていた。 だけど、今のままだとそれの繰り返しだ。 何も解決しない。 「病院を退院して……家に帰ったら……誠司に話してみよう」 そう決めたもみじは、怪我を早く治すためにしっ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-06
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29話

「今のって……誠司と、お義母さんの声……?誠司、この病院に居るの……?」 もしかして、胡桃もこの病院に入院しているのだろうか──。 もみじは、そう考えてベッドから降りようとしたが、足首に走った鋭い痛みに目を強く瞑った。 「──いっ」 ドクドク、と心臓がまるで足首にあるような熱を感じる。 痛みがじわじわと増して行く。 もみじはぐっと歯を食いしばって、痛みをやり過ごそうと耐えた。 「……っ、ふぅ──……」 何とか痛みをやり過ごし、もう1度もみじは目を開ける。 昨夜、髙野辺が用意してくれていた車椅子にゆっくり近付くと、車椅子に何とか座る。 病室の扉を開けたもみじは、左右を探してみたが、そこにはもう誠司の姿も。 そしてもみじの義母の姿もどこにも無かった。 「どこに行ったのかしら……」 誠司を追って、どうなるのか。 もみじの頭に一瞬そんな考えが過ぎるが、もう既に車椅子に乗って病室を出てしまっている。 これからまた病室に戻り、ベッドに戻るのは一苦労だ。 「それなら……少し庭を散策してみようかな」 確か、病院の外には小さな庭があった。 入院患者が、散歩を出来るように作られた、小さな庭だ。 今日は天気も良いし、良い気分転換になるかもしれない。 「髙野辺さんは、夕方にまた来てくれるって言ってたっけ……」 もみじは自分のスマホを取り出して、時刻を確認する。 まだ髙野辺が来ると言っていた夕方まで余裕はある。 少し庭を散策してから戻っても、十分余裕はあるだろう。 そう判断したもみじは、庭に向かう事に決めた。 車椅子を押して、エレベーターまで向かう。 他の入院患者も同じエレベーターに乗り込んで、エレベーター内がぎゅうぎゅうになってしまった。 車椅子に座っているもみじの視線は、低い。 人に埋もれてしまい、今が何階なのか、分からなかった。 エレベーターが止まり、扉が開く。 沢山の人が降りたので、1番下に到着したのだろう、と判断したもみじは、自らもその階で降りる事にした。 「すみません、降ります!」 車椅子のもみじが降りるまでボタンを押して待ってくれている。 その人にお礼を告げてエレベーターから降りたもみじは、そこがまだ病院の1階では無い事に降りてしまってから気付いた。 「──あ。失敗したわ……まだもう1階下だった……」 途
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-07
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30話

腕を動かし、車椅子を操作する。 もみじは自分の息が上がるのを感じて、苦笑いを浮かべた。 「運動しなきゃ、駄目ね……」 ふう、ふうと息を弾ませながら何とか廊下を曲がったもみじは、きょろり、と周囲を確認した。 廊下を曲がった先は、やはり入院患者の病室がずらりと並んでおり、その病室に掲げられているプレートの名前を一つ一つ確認して行く。 「誠司の事だから、胡桃が入院しているなら、個室かしら……」 あれ程心配そうにしていたのだ。 それに、自ら救急車に乗り込み、胡桃に寄り添っていた。 その姿を見た時、もみじの胸はどれだけ痛んだだろうか。 胡桃は、あんな風に誠司に大切に扱われ。 かたや誠司の妻であるもみじは、彼にぞんざいに扱われ、彼の秘書には不審者扱いをされる──。 あの時の事を思い出すと、もみじの視界は滲んでしまうが、それでも何とか唇を噛み締めて耐えると、再び車椅子を動かした。 大部屋の病室を通り過ぎる。 大部屋を通り過ぎた先は、もみじが当たりを付けていた個室が廊下の両側にずらり、と並んでいた。 (……私が入院している場所って、何なのかしら……?ここの確かに個室だけど……階が違うし……) もみじは、自分が入院している個室に首を傾げる。 実はもみじが入院している個室は、この階にある個室に比べ、遥かにグレードの良い特別室なのだが、その事を知らないもみじは首を捻るばかりだ。 (今度髙野辺さんに会ったらお礼と、病院の費用の精算をお願いしないと……) 髙野辺には沢山助けられている。 このまま、何もお礼も出来ずにいたらとても失礼に当たる。 もみじがそんな事を考えながら廊下を車椅子で進んでいると、見覚えのある名前がプレートに印字されているのを見つけた。 【嶋久志 胡桃(しまくし こもも)】 胡桃の名前が書かれたプレートを見つけたもみじは、その部屋の前で車椅子を止めた。 (あった、胡桃の名前。……本当に、入院してたんだ……) 恐らく、誠司が胡桃を心配して手配したのだろう。 その事実にもみじは俯いたがすぐに顔を上げて左右を確認する。 「……誠司は、義母と一緒に居たはずだけど……病室の中……?それとも、もう帰ったのかしら……?」 周囲を見回してみても、そこに胡桃の母親の姿は無い。 もみじは義母がいない事は置いておき、病室の取っ手に手をかけ
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