Alle Kapitel von 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Kapitel 11 – Kapitel 20

95 Kapitel

11話

「わざわざ会社まで押しかけて、何のつもりだ?」 社長室に向かい、入室したもみじを迎えたのは、誠司のそんな心無い冷たい言葉だった。 呆れたように額を手のひらで抑え、溜息を吐き出す誠司。 そして、誠司の後ろにあるソファには胡桃が当然のように座っていて。 もみじは、まさか開口一番、誠司にそんな言葉を言われるとは思っていなかった。 「何のつもりって……。どうして私が誠司の会社に来ただけで、そんな事を言われなくちゃ……」 「俺は仕事で忙しいのに、どうして俺を煩わせる?話があるなら、帰ってからでもいいだろう?急ぎの用事なんてもみじには無いだろうに……」 はあー、と深い溜息を吐き出す誠司に、もみじは悲しみで視界がだんだんと歪んで行くのを感じる。 そんなもみじを見て、誠司の瞳に一瞬申し訳なさそうな感情が浮かんだ。 だが、次の瞬間──。 「もう、お義姉ちゃん。誠司さんは忙しいのに煩わせちゃ駄目じゃない。お義姉ちゃんには誠司さんがどんな仕事をしているか何も分からないでしょ?誠司さんはとっても忙しいのよ?邪魔したら駄目だよ。家で大人しく料理や掃除しておかないと〜」 くすくす、とどこか嘲笑を孕んだ胡桃の言葉。 ソファから立ち上がり、もみじに近付きながらそう告げる胡桃は、誠司の隣にやって来ると、自然な動作でするりと誠司の腕に自分の腕を絡ませた。 「胡桃──。……そう、だな。胡桃の言う通りだ。もみじ、君には何も分からないだろう?俺が今どんな仕事をしているかも、どんな取引をしているかも分からないんだから、会社に来てもただ俺の貴重な時間を消費するだけなんだよ」 先程、誠司の瞳に一瞬だけ浮かんだもみじへの申し訳ないと言う気持ちは、胡桃の言葉によって呆気なく霧散した。 胡桃の言う通り、もみじには学がない。 そう、誠司は思い込んでいる。 もみじは大学在学中に誠司と結婚したのだ。 大学3年の時、誠司からプロポーズを受け、プロポーズを受けたもみじに、誠司は家庭に入って欲しいとそう願った。 誠司は起業のために忙しく毎日を過ごしていた。 だから、もみじには家庭に入って支えて欲しい。朝も、夜ももみじに送り出してもらって、出迎えて欲しい、と誠司は結婚後にもみじにそう願いを伝えたのだ。 大学卒業まであと1年だった。 だけど、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-28
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12話

もみじは、誠司の願いで大学卒業を諦め、結婚して家庭に入った。 それに、後悔はなかった。 仕事で毎日疲れて帰ってくる誠司を出迎える事は嫌じゃなかった。 毎朝、会社に出勤する誠司を笑顔で送り出す事も、嫌じゃなかった。 一生懸命働いている誠司を支える事を、もみじは誇りに思っていたから。 だが──。 誠司はもみじを拒絶し、胡桃を快く受け入れるのは酷過ぎるとは思わないのだろうか。 胡桃が大学でデザインを学んでいるのは分かる。 胡桃の勉強のために、会社を見学させる事も、まだ……分かる。 だけど──。 もみじは、苦しさと悲しさで滲む視界で、胡桃を見た。 正しくは──誠司に腕を絡ませている胡桃の腕を。 胡桃の左手薬指には、誠司と揃いのペアリングが今も尚、そこに鎮座していた。 それに──。と、もみじは誠司の首元。正しくは、ネクタイに視線を向けた。 「もみじ……?どこを見て……」 もみじの視線に、誠司は怪訝そうな顔をする。 突然黙り込んでしまったもみじの視線を辿った誠司は、はっとした。 自分のネクタイは、胡桃がプレゼントしてくれたネクタイに替わり、今自分の左手薬指には胡桃と揃いのリングが嵌められている事を思い出した誠司は、慌てて胡桃の腕を払い、薬指から指輪を外した。 「すまない、もみじ。これは胡桃の我儘で一時的に嵌めただけだ。そんなに気にするな」 「ちょっと、誠司さん──」 誠司の言葉に、胡桃は不服そうに頬を膨らませた。 拗ねたような態度の胡桃に、誠司は顔を向けると緩く首を横に振ってから胡桃の頭を撫でる。 「胡桃、あまりもみじを困らせたら駄目だろう?胡桃は恵まれていて、沢山の物を持っている。大学の成績だって優秀だろう?だけど、もみじは大学を途中で辞めているし、胡桃のような才能も無いんだから……困らせたら駄目だ」 誠司の言葉が、ぐさぐさともみじの胸を抉る。 誠司は、もみじを庇うようでいて実際はもみじをコケ下ろしているのだ。 庇う振りをして、いかに胡桃より劣っているのかを告げているのだ。 誠司の言葉を聞いた胡桃は「ぷっ」と失笑して、もみじを憐れむように見下ろした。 「ふっ、ふふっ。そうよねぇ、誠司さん♡お義姉ちゃんには何もないもの。私には将来選べないくらい沢山の道があるけど、お
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-28
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13話

もみじの態度に、思う所があったのだろう。 誠司はぴくり、と不愉快そうに眉を顰めた。 「……もみじ、胡桃もこうして謝っているだろう?いつまで拗ねている?忙しいのに、いい加減にしてくれ」 誠司の言葉に、もみじは涙で滲んだ視界のまま、誠司を睨み付ける。 もみじの大きな瞳は、悲しみに歪み、ぽろぽろと大きな涙の粒が白くきめ細やかな頬を伝い、いくつも床に落ちて行く。 「誠司……っ、私が指輪って言うアクセサリーにどれだけ思い入れがあるか、分かっているでしょう!?それなのに、胡桃がねだったからって簡単に買い与えないで!それに、私たちの結婚記念日の料理を、胡桃に食べさせないで……!私が贈ったネクタイを、ゴミみたいに捨てないで!!」 「な、何でそれを──っ」 もみじが、どうして料理の事を知っているのか。 それに、ネクタイの事もどうして知っている──。 もみじの言葉を聞き、誠司の表情はあからさまに狼狽えた。 「す、すまないもみじ……!そこまで傷付くとは──」 誠司が慌ててもみじに駆け寄ろうとした瞬間、胡桃が誠司を押し退けてもみじに駆け寄った。 「ごめんなさい、お義姉ちゃん!私が誠司さんに頼んだの!久しぶりにお義姉ちゃんの美味しい手料理を食べたいって!」 わあっ!と泣きながらもみじに縋り付く胡桃。 急にそんな事を言われ、そして強い力で胡桃に縋り疲れたもみじは、驚きと共にバランスを崩してしまった。 「それに、それにネクタイの事も知らなくてごめんなさい!よれているし、古くなっていたから、私が誠司さんに新しいネクタイをプレゼントしたの……!そんなに大事な物だと思わなかったの──!」 わああっ、と声を上げてもみじの胸に泣きつくような様子を見せる胡桃。 実際、後ろにいる誠司からはそう見えているだろう。 だけど、胡桃は涙声で大声を出しながら、もみじの胸に縋り付いていたが、不意に胡桃から両手でどんっともみじの胸を強く押される──。 「──っ!?」 「きゃああっ!」 胡桃に強く胸元を押され、もみじは一瞬息が詰まる。 バランスを崩し、後方によろめいたもみじ。 だが、その反動を利用して、胡桃は派手に転んで見せた。 「──胡桃!」 派手に転倒した胡桃に、真っ青な顔で駆け寄る誠司。 もみじは、咳き込むだけ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-28
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14話

「胡桃がこんなに謝っているのに、どうしてこんな酷い事をする!」 「──えっ、」 けほけほ、と咳き込んでいたもみじが誠司の怒声に顔を上げると。 胡桃は床に倒れ込み、ぐったりとしている。 そして、誠司はそんな胡桃を焦った表情で抱え、大切そうに胸に抱き寄せた。 「胡桃、胡桃……。大丈夫か?」 誠司がいくら声をかけても、胡桃はうんともすんとも返事をしない。 さぁっと顔を真っ青にした誠司は、慌てて胡桃を抱き上げると、内線で誰かに向かって指示を出した。 「今すぐ救急車を呼んでくれ!」 「ちょ、ちょっと待って……誠司──」 もみじが誠司に話しかけようと、彼に手を伸ばした時。 誠司は自分に伸びてくるもみじの手を汚いものを払うように強い力で叩き落とした。 「──いっ」 「もみじ。お前にはがっかりした……。まさか、あんなに必死に謝る胡桃を突き飛ばして大怪我を負わせるなんて……」 「な、何を言っているの誠司……?私はそんな事……」 「俺の前でそんな嘘をつくのか?お前が胡桃を突き飛ばしたのを、はっきりとこの目で見た!胡桃に嫉妬して酷い事をするな!可愛い妹だろう!」 「私はっ!そんな事をしていないわ!話を聞いて、誠司!」 「まだそんな事を言うのか!?いい加減にしろ!これで胡桃に怪我をさせるのは何回目だ!離婚したっていいんだぞ!」 誠司の【離婚】と言う言葉に、もみじはびくりと体を竦める。 誠司がまだもみじに向かって何かをしようとした時──。 「社長、手配が済みましたが──」 「──っ!ああ、すまない。胡桃が怪我をして気絶してしまったんだ。この女が怪我をさせた張本人だ。会社からつまみ出せ」 誠司は、もみじに一切視線を向ける事なく、冷たくそう言い放つ。 誠司に指示をされた男性は、誠司の秘書なのだろうか──。 もみじの姿を見ると、怪訝そうに眉を顰めた。 「社長の奥様に怪我を……?とんでもない女ですね。すぐに追い出します」 「──えっ」 この目の前の秘書は今、なんと言ったのだろう。 秘書の言葉を聞き、もみじは信じられないとばかりに目を見開いた。 だが、当の本人、誠司は秘書の言葉を訂正する事もせず。 もみじに弁解する事もせず。 大事そうに胡桃を抱いたまま、社長室を出て行ってしまう。 もみじの傍を通り過ぎる瞬間、誠司はわざともみじの肩にぶ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-29
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15話

もみじは、未だに信じられなかった。 秘書が胡桃の事を「奥様」と言っていた。 それを、誠司は否定しなかった。 それどころか、本当の妻であるもみじの事を「この女」と言ったのだ。 呆然としたまま、床に座り込むもみじを、誠司の秘書は嫌そうな顔で無理矢理手を引っ張り、立たせた。 「──どこのどなたかは知りませんが、社長の最愛の奥様にこんな事をして……あなたはタダでは済まないと思いますよ。それに、汚い血で部屋を汚す前にさっさと出て行って下さい」 汚い、血──。 もみじは、秘書の男から言われた言葉で、ようやく流血に気づく。 倒れ込んだ時に、社長室に設置されていたテーブルの角に頭を打ってしまったのだろう。 痛む箇所を手で触れると、手にぬるりとした感触が伝わった。 「──あ」 「ほら、さっさと出て行って。不審者が不法侵入したと警察に通報しますよ!」 そう大声で告げた秘書は、もみじをぐいぐい引っ張ると、社長室の扉を開けて勢い良く突き飛ばした。 「──きゃあっ」 べしゃり!と床に倒れてしまったもみじを、冷たい目で見下ろした秘書は、そのまま廊下を歩いて去って行ってしまった。 ずきずき、ずきずき、ともみじの額が痛む。 額を伝う血の感触も感じられて、もみじはその場にゆっくりと立ち上がった。 廊下には、他の社員もちらほらと居る。 社長室から秘書に追い出されたもみじを、不審者を見るような冷たい目で見る社員や、嘲笑するように見て、ひそひそと話している社員も見える。 (恥ずかしいし、凄く痛い──っ) 痛いのは、怪我をしたからだろうか。 それとも。 ずたずたに傷付けられたもみじの心が痛むのか。 それも分からず、もみじは廊下の壁を伝って何とか歩く。 誠司にぶつかられ、倒れた時。そして、秘書に突き飛ばされてしまった時。 その時に足も捻ってしまったのだろう。 燃えるような物凄い痛みを、足首から感じる。 もみじは今にも泣きだしそうになりながら、ようやくエレベーターに辿り着いた。 そして、エレベーターのボタンを押して到着するのを待つ。 エレベーターを待つもみじを、先程より多くの社員が廊下に出て来て見つめていた。 ひそひそともみじの話をしたり、悪口を言っているのが薄っすらともみじの耳に届く。 (どうして……どうして私がこんな風に言われないといけないの
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-29
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16話

どさり、ともみじの体が倒れ込んだ先は、男性の腕の中だった。 ふわり、と香る男性の香水。 鼻に届いたのは、どこか刺激的だけど爽やかでもあって、もみじは急いで男性から離れようとした。 「すみませ……っ、ありがとうございます」 ぐっ、ともみじが男性の胸を押すと、素直に男性はもみじの体を離した。 だが、離れた事でもみじの顔が良く見えるようになり、そこでもみじの額を流れる血を見て更に慌てたように声を出した。 「額から血も出ていますよ!?大丈夫ですか!?」 「え、ええ──」 何だか、男性の声に聞き覚えがあったもみじは、ふと顔を上げた。 すると、そこには。 「──あっ、あなたはさっきの女性?」 「あ……先程の!」 もみじがエレベーターに乗り込んだ時。 慌てたように駆け込んで来た男性だった。 彼は、上の階にある会社に用事があったのだろう。 そしてその用事も済んで、1階に戻る途中だったらしい。 その彼は、もみじを見て驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めて口を開く。 「額を切っていますし……足の怪我もしているように見えます。このままにしておけません。病院にお送りしますよ」 「えっ、いえ!大丈夫です。お気遣いありがとうございます!」 もみじは、男性の申し出を断った。 確かに、額は痛いし足も酷く痛む。 だけど、病院には自分1人で行けると思い、断ったもみじだったが、目の前の男性の表情は優れないままだ。 「……壁に寄りかからないとご自分で真っ直ぐ立てないんですよね?無理をしたら、悪化してしまいます。肩を貸しますから、どうか俺に病院に送らせてください」 男性の心配そうな表情を見
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-30
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17話

扉が開き、エレベーターを待っていた人達は、もみじとその男性の姿を見て、驚いた。 その中には、男性の姿を見てぎょっと目を見開き「しゃ──」と呟いた人がいたが、その人物に向かって男性は鋭い視線を向けると、緩く首を横に振った。 そして軽く顎をつい、と上げた仕草だけで何かを察したその男性は、もみじ達がエレベーターから完全に降りる前に、駆け足でビルを出て行った。 だが、もみじは歩く度に痛む足首に、痛みを耐える事に必死になっていて、男性2人のそんなやり取りには全く気が付かなかった。 「大丈夫ですか?ゆっくりでいいですよ」 「すみませ……っ、ありがとうございます……っ」 男性が優しく声をかけてくれる。 エレベーターに乗るために待っていた人達も、もみじの邪魔をしないようにさっと避けてくれていた。 色々な人に迷惑をかけてしまっている状況が、益々もみじを焦らせる。 (早くエレベーターからどかなきゃ……っ、それに、男性にもこれ以上迷惑をかけられない……っ) 痛みで脂汗を滲ませているもみじに、男性がそっと躊躇いつつ、ハンカチをもみじの額に当てた。 怪我をしていない反対側にハンカチを当て、滲む汗を拭ってくれる男性の優しさに、もみじは涙が零れてしまいそうだ。 「すみません、本当に……ありがとうございます」 「いえ、これだけしか出来ず、申し訳ないです」 「とんでもないです、肩を貸して頂いているだけで、とても助かります」 ゆっくりと歩きながらエレベーターから離れ、ビルの正面入り口に向かう。 ようやく出入口が見えてきた、と安堵したもみじは、顔を上げた。 そして、見たくもなかった光景を目撃してしまう。 「──っ、」 もみじの表情が、悲しげに。 苦しげに歪
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-30
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18話

「何から何まで……本当にすみません」 「いえいえ。気にしないでください。むしろ、このタイミングで降りて来て良かった。あなたが転んでしまいそうな所で咄嗟に受け止められて良かったです」 男性は、優しい声でもみじに告げる。 運転をしているため、もみじと視線は合わない。 だが、男性の表情はとても優しくて。 優しくもみじに声をかける彼からは、純粋に思いやりが感じられた。 もみじは先程まで誠司に酷い言葉をかけられ、誠司にぶつかられて大怪我をしてしまったが、怪我をした人を放っておけない、こんな優しい人もいるんだ、と知ってほっと安心した。 誠司の会社では、皆がもみじを冷たい目で見ていた。 ひそひそと陰口を叩いていた。 だが、もみじは沢山の視線を感じたが、誰1人としてもみじに手を差し伸べてくれる人はいなかった。 だけど──。 それだけ、誠司の会社では胡桃の存在が浸透しているのだろう。 秘書が胡桃を「奥様」と認識するくらい。 それだけ、胡桃は誠司の会社に何度も訪ねて来ているのだろう、ともみじは悟った。 もみじがそんな事を知らず、家で誠司のために家事をして過ごしている間も。 家で誠司のために誠司の好きな料理を作って、誠司の帰りをそわそわとしながら待っている間も。 誠司は、胡桃と仲睦まじく会社で過ごしていたのだ。 それが、今日のあの態度でもみじには分かってしまった。 それに、もみじは胡桃に対して何もしていない。 それなのに、胡桃が倒れたからと言って、誠司はすぐに胡桃に危害を加えたのはもみじだと決めつけた。 そして、あろう事が、もみじの気持ちを知っているのに誠司は脅すようにもみじに「離婚」の言葉をまた突きつけたのだ。 (離婚、と言われたら……私が何も言えなくなってしまうのを誠司は分かってる……) もみじは、苦しげにぎゅうっと自分のスカートを握りしめた。 (私は、本当に何もしていないのに……。私から胡桃に触れてすらいないのに……。それなのに、誠司ははなから私が悪いって決めつけてた……) 妻より、妻の義妹を心配する。 そんな事があるだろうか。 しかも、誠司は自分の妻のもみじを突き飛ばし、怪我をさせたと言うのに。 その瞬間を、誠司はしっかりと見ていたのに。 それなのに、床に倒れ込んだもみじを冷たく見下ろすだけで。 心配するような様子は、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-31
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19話

「新島さん、降りられそうですか?」 車が病院の駐車場に到着し。 男性──髙野辺 聖が運転席から降りてきて、もみじの乗る助手席のドアを開けてくれた。 「はい、大丈夫です……」 「ゆっくり、ゆっくりで大丈夫ですよ」 「──ぅっ」 ずっと座っていたから忘れていたのだが、もみじの足首の腫れは、悪化していた。 車から降りようと足を動かした途端、鋭い痛みが足首に走り、もみじの顔が痛みに歪む。 そんなもみじの状態を見て、髙野辺は心配そうな表情を浮かべると、痛みに震えるもみじに口を開いた。 「やっぱり無理に動かすと、痛みが酷いですよね。悪化したら大変です。……すみません、また触れますね?」 「え……?──あっ」 もみじが髙野辺の言葉に返事をする前に。 髙野辺は、もみじに触れると助手席のシートからいとも容易くもみじの体を抱き上げた。 「すみません、不快だろうけど少しだけ我慢してくださいね」 申し訳なさそうに眉を下げて笑う髙野辺に、もみじは「とんでもない!」と慌てて答える。 「むしろ、こんな風に運ばせてしまってごめんなさい、髙野辺さん。本当に……朝からご迷惑をかけてばかりで……」 もみじは、朝から髙野辺のスーツを汚してしまった事も含めて彼に謝罪する。 彼の汚れてしまったスーツは、車の後部座席に目立たぬように置かれていたのに気づいてしまったのだ。 「あの汚してしまったスーツの弁償と、今回のお礼も必ずしますから……」 「ええ?そんな事は気にしないで大丈夫ですよ。それより、新島さんの怪我が早く治ってくれる方が私は嬉しいです」 髙野辺はそう言うと、病院で貸し出している車椅子の方へ向かい、もみじを車椅子に優しく座らせた。 そして、車椅子を押してくれながら受付に向かう。 「新島さん、病院の受付をしますね。えっと……身分証をお借りしても大丈夫ですか?受付に出します」 「──あっ!そうですよね、すみません!今出しますね」 もみじが立てない事を気遣い、髙野辺が受付の手続きをしてくれるようだった。 もみじが慌ててバッグの中から身分証を探していると、受付に居た人物が髙野辺を見てはっとする。 髙野辺はすぐに自分の口元に人差し指を1本立てると、緩く首を横に振った。 「髙野辺さん、身分証です」 「ありがとうございます、新島さん。整形外科で大丈夫ですよね?
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-01-31
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20話

もみじが案内された場所は「特別室」とプレートがかかっている個室。 個室に通されたもみじは、ぎょっと目を丸くして傍らに立つ髙野辺に顔を向けた。 「た、髙野辺さん……」 特別室などに案内された事は、初めてだ。 何だか普段よりも病院の対応もとても丁寧で、もみじは逆に不安を覚えた。 「大丈夫ですか、新島さん?もしかして、痛みが悪化しています?」 だが、髙野辺はもみじの態度を、痛みが悪化しているからだと勘違いした。 彼が案内してくれた受付の人間を見ると、受付の人間はさぁっと顔色を悪くさせ、慌てた様子で頭を下げた。 「申し訳ございません、ただ今医師が向かっております、今暫くお待ちください……!」 「……分かりました。なるべく早めにお願いします」 「も、もちろんでございます!少し廊下を見て参りますね!」 受付の人がぺこぺこと頭を下げる様子に、もみじは違和感を覚える。 病院は、そもそも診察までの待ち時間が長い事が普通だ。 それなのに、受付の人がこれほど申し訳なさそうに頭を下げるのはどうしてか──。 もみじが髙野辺をちらり、と見やる。 すると、もみじの視線を受けた髙野辺が、不思議そうに首を傾げた。 「──あの、髙野辺さ」 「大変お待たせいたしました」 もみじが口を開き、髙野辺に話しかけたのと。 個室の扉を開けて医師がやって来たのは、同時だった。 ◇ 「骨にヒビは入っていませんが、酷い捻挫です。2、3日は絶対安静にしてください」 診察を終えた医師が、手早くもみじの足首を包帯で固定する。 医師の説明を聞いたもみじは、不安そうに質問する。 「その……家事なども、しない方がいいんでしょうか?」 「家事?以ての外です!そんな事をしたら悪化してしまいますよ?絶対に動いてはいけません!」 「で、ですが……」 もみじには、誠司が帰って来る家を綺麗に掃除しておかねばならない。 それに、誠司のために食事だって作っておかなければならないのだ。 もみじが迷っている様子を見た髙野辺は、優しくもみじに声をかけた。 「新島さん。2、3日絶対安静と言う事は、家事もやってはいけないって事です。安静にしないと悪化しますし、怪我だってすぐに治りませんよ?」 怪我が長引いたら、それこそもっと大変じゃありませんか? そう告げる髙野辺に、もみじはぐっと言葉に詰
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-02
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