All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 31 - Chapter 40

95 Chapters

31話

何で? どうして、胡桃を抱きしめているの──? もみじの心の中は、そんな疑問でいっぱいになっていた。 扉を開けていたからだろうか。 誠司の低く、落ち着いた声と。甘えるような胡桃の声が聞きたくもないのにもみじの耳に届いた。 「ねえ、誠司さん♡ここは今私たち2人だけしかいないじゃない?ね?だからいつもみたいに……」 「──だが……。まだもみじが見つかっていないんだ。そんな状況で、俺は……」 「もうっ、お姉ちゃんならきっと不貞腐れてどこかに隠れているだけよ!誠司さんに迷惑をかけて、心配してもらいたいだけ!」 「そ、そうだろうか──……」 「そうに決まってるわ。お姉ちゃんは昔っからいっつもそうだったから!」 胡桃はそう言うなり、誠司にぎゅうっと強く抱きつく。 誠司は戸惑いつつ、胡桃を拒絶する素振りは見せず、抱きつく胡桃を受け止め、抱きしめ返しているのが見える。 「ねぇ、誠司さん……。私、昨日お姉ちゃんに突き飛ばされて凄く悲しくて……。落ち込んでるの……。誠司さんにキスしてもらったら元気が出るわ。ねえ、だからキスして?」 「──しょうがないな、胡桃は」 甘ったるい胡桃の声と、しょうがないと言いつつ嬉しそうな誠司の声が聞こえる。 そして、もみじの目の前で。 胡桃は誠司に体を擦り寄せ、誠司は胡桃を引き寄せた。 2人は当然のようにキスをする。 まるで、何度もキスをしてきたかのように、その仕草はとても自然で。 胡桃が甘い吐息を零し、誠司の後頭部に手を回し、誠司は胡桃を強く引き寄せた。 深くなる2人のキスに、もみじは自分の頬に伝う何かに気がついた。 「──……っ、」 声にならない泣き声を零し、もみじは自分の頬に伝った涙を手のひらで拭う。 もう、我慢ならない──。 キスなんかして、どう言うつもりなのか──。 もみじは、個室に乱入してやろう、と取っ手にかけていた自分の手に力を入れた。 所で。 「こんな所に居たんですね?どうしたんですか、新島さん」 「──っ、かた、のべさん」 背後から髙野辺の声が聞こえ、もみじははっとして振り向いた。 涙に濡れたもみじの頬と、潤んだ瞳を見て髙野辺は目を見開くと、急いでもみじへ駆け寄る。 「──どう」 「……しっ、喋らないでください、髙野辺さん……」 もみじが、自分の唇に人差し指を当てて髙野
last updateLast Updated : 2026-02-08
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32話

「気のせい、だろうか──」 「どうしたの、誠司さん?もう1回キスしましょう?」 自分を甘く可愛らしく呼ぶ胡桃の声に、誠司は振り向く。 そして、自分に手を伸ばしている胡桃の愛らしい姿に頬を緩めると、胡桃の手を掴んで自分に抱き寄せた。 (もみじの声が聞こえたような気がしたが……。やっぱり気のせいだったんだな。もみじがここに居るんだったら、俺に連絡が来るはずだ) 誠司はそう考え、もみじの事を頭の中から追い出してしまうと、可愛い胡桃を抱きしめて唇を重ねた。 嬉しそうに、だが恥じらうような仕草を見せる胡桃が可愛くて。 誠司は我慢出来ずに胡桃をベッドに押し倒した。 ◇ 一方、もみじを部屋まで送り届けた髙野辺は、さめざめと泣き続けるもみじに眉を下げた。 ひと目見ただけで、もみじがとてつもなく深い悲しみに打ちひしがれているのが髙野辺にまで伝わってきて。 「どうしたんですか、新島さん。何があったんですか……」 髙野辺は、もみじの頬を流れる涙を拭おうと自分の手を伸ばした。 もみじは、目を瞑り涙を流しているので髙野辺の動きは分からない。 髙野辺は、ひと目もみじを見た時からもみじの美しいが可憐な姿に惹かれていた。 そして、もみじの相手を気遣う優しい内面にどんどん自分の気持ちが大きくなって行っているのを自覚していたのだ。 もみじが悲しむ原因を、取り除いてやりたい。 もみじには笑っていて欲しい。 まだ、出会ってからたった数日しか経っていないが、髙野辺は確かにもみじに熱い気持ちを抱いていた。 髙野辺がもみじの頬に零れる涙を拭おうとして伸ばした指が、もみじが口を開いた事でぴくり、と跳ねて止まる。 「──夫、が」 「……夫?」 髙野辺は、もみじの言葉にぎょっとしてしまう。 そして、すぐにもみじの左手に視線を向けた。 (先日、エレベーターで会った時も、新島さんは結婚指輪なんて……) 髙野辺は、もみじに惹かれた時。 すぐにもみじの手を確認していたのだ。 もみじが結婚していたら、この気持ちは捨てなければいけない。 だが、エレベーターで会った時。 もみじの手に、指輪は無かった。 それに、もみじが入院してから。 もみじの言う「夫」がこの病院にやって来た素振りは無かったのだ。 (新島さんの名前じゃなく、髙野辺の名前を出して入院手続きをしたから、
last updateLast Updated : 2026-02-08
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33話

「手を痛めてしまう!」 髙野辺は慌てた様子で叫ぶと、もみじの手を強く掴み、勢いのまま引き寄せてしまった。 驚くほど軽いもみじの体が、髙野辺に倒れ込んで来る。 髙野辺は再び慌て、もみじを正面から抱きとめた。 「す、すみません新島さん──!」 強く引っ張りすぎてしまった。 そう、髙野辺が謝ろうとしたが、倒れ込んだもみじは身動き1つせず、静かだ。 しまった。 気持ち悪がられてしまっただろうか。 髙野辺がそう考え、もみじの体を離そうとした時。 もみじの細い肩が震えている事に気づいた。 それに、小さくもみじが啜り泣くような声が聞こえ、髙野辺は引き離そうとしていた自分の腕を空中で彷徨わせ、覚悟を決めたようにそっともみじの肩を抱いた。 「──っ、どうしてっ、どうしてあんな酷い事が出来るのっ」 もみじの泣き声は聞いている髙野辺の心までズキズキと痛んでしまいそうな程、辛く悲しい。 (まるで心臓を鋭いナイフで刺されているように……俺まで心が痛い……) 髙野辺は、眉を下げて自分の胸で泣くもみじを見下ろす。 細い肩は可哀想なくらい震えていて。 悲痛なもみじの叫び声は、耳を澄ましていなくとも髙野辺の耳に届いてしまう。 (──夫……、それに新島さんの妹……?自分の妹と、夫が……何か新島さんを裏切るような行為をしていたのか……?) 髙野辺が考えつつ、もみじを落ち着かせようと背中を優しく叩いていると、次第にもみじの震えも。 悲痛な声も収まってきた。 「──新島さん?」 静かになってしまったもみじを不思議に思い、髙野辺がもみじを呼ぶ。 だが、もみじは髙野辺の胸に力無くくたり、と倒れ込んでいて動く気配が無い。 「──っ」 さっと顔色を悪くさせた髙野辺は、慌ててもみじを自分の胸から離す。 もしや、具合が悪化してしまったのでは──。 そう心配した髙野辺の耳に、すうすうと規則正しいもみじの寝息が聞こえてきた。 「寝てる、だけ……?本当に、寝てるだけか……?」 髙野辺は安心出来ず、数秒間じっともみじを観察した。 だが、もみじの顔色は多少悪いものの、気絶したような様子は伺えない。 「……一応、医者を呼ぶか」 髙野辺はもみじを抱き上げると、すぐ傍のベッドに優しく、ゆっくりと寝かせた。 もみじの頬には、涙の跡が痛々しく残っているのが見える。 髙
last updateLast Updated : 2026-02-09
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34話

ガラガラ、と扉の開く音が聞こえたような音がする。 そして、誰かと誰かが話す声がもみじの耳に薄っすらと届いてきた。 だが、もみじの意識は微睡みの中にあり、会話内容までははっきりと聞こえなかった。 そして、再び扉が開く音がして、閉まる音が聞こえた。 その後は、室内はしんと静まり返った。 もみじは再び深い眠りについた。 ◇ 「──ん」 ふ、ともみじの意識が浮上する。 酷く頭が痛いような気がして、もみじは自分の額を抑えた。 「あたま、痛い……」 ズキズキと痛む頭に、もみじは眉をぐっと寄せる。 すると、もみじの額にひやりと冷たいシートがぺたり、と貼られる。 途端、痛みが和らいだような気がしたもみじは、表情を柔らかく緩めてほっと息をついた。 「……ありがとう──お……かあ、さん……」 もみじは、懐かしい夢を見ていた。 幼い頃。 まだ母が健在だった時に、もみじが熱を出して、母親に看病してもらった事を薄っすらと覚えている。 もみじが泣けば、すぐ隣に横になってくれてお腹を叩いてくれた。 もみじが頭が痛い、と言えば熱を下げるシートを額に貼ってくれた。 そんな、懐かしくて優しい思い出を夢で見たのだ。 ここ最近、もみじは体調を崩した事など殆ど無かった。 ましてや、誠司の看病ならしょっちゅうしていたが、自分が倒れる事など、誠司と結婚してから1度も無かった。 それだけ誠司の体調に気を配っていたし、もみじは自分が倒れている場合じゃない、と気を張っていたのだ。 だが、そこでもみじははた、と思い出す。 もみじの実母は、幼い頃に亡くなってしまっている。 夢に引っ張られて、自分はさっき何を口走ってしまったのか──。 次第に思考がクリアになってきたもみじは、ぶわっと頬を真っ赤に染め、慌てて起き上がった。 「──わ、私今何を……っ!」 「急に起き上がったら駄目です、新島さん……!」 もみじのすぐ傍から、低くて心地よい男の声が聞こえた。 そして、くらり、と目眩を起こしたもみじをしっかりと支え、再びベッドに寝かせてくれる。 もみじは、自分の顔を両手で覆って蚊の鳴くような声で呟いた。 「……すみません、髙野辺さん。さっきの寝言……忘れて下さい……」 「──ふふっ、分かりました。俺は何も聞いてませんよ」 優しい髙野辺の声がするり、ともみじの耳
last updateLast Updated : 2026-02-09
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35話

◇ もみじの病室を出た髙野辺は、先程まで浮かべていた優しい笑みをすっと消し去り、無表情になる。 「──聖(ひじり)様」 「……調べはついたか?」 髙野辺の傍に、ぴしっとスーツを着た男性が現れる。 スーツの男は、髙野辺に「はい」と返事をする。 すると、髙野辺はちらりと気遣うようにもみじの病室に視線を向けた後、すぐに顔を戻した。 「ここだと、新島さんに聞こえてしまう恐れがある。場所を移動するぞ」 「かしこまりました」 こくり、と頷いたスーツの男を伴い、髙野辺は廊下を歩き出した。 もみじの入院している個室の下の階。 胡桃が入院している病室がある階まで降りてきた髙野辺とスーツの男は、人があまり通らない場所に移動し、廊下の隅で立ち止まった。 向き合う形で止まった後、髙野辺は壁に寄りかかりながら「報告してくれ」と告げる。 すると、かしこまった様子でスーツの男が胸ポケットから黒い手帳を取り出し、口を開く。 「はい。……新島さんの妹君──異母姉妹、ですが妹君は同じ病院に入院しています。名前は嶋久志 胡桃。彼女は、この階の病室に入院しており、入院の手続きは全て新島 誠司──新島さんの夫である彼が行ったようです」 「──義妹のために全て……?些か心配性過ぎないか?」 はっ、と鼻で笑う髙野辺に、スーツの男は躊躇いがちにその後の事を報告した。 「──はっ。それが……その、……新島誠司と、嶋久志胡桃は……どうやら不倫関係のよう、です……」 「──何だと!?」 「病院には、新島誠司が嶋久志胡桃を自ら運び入れたようで……。あの日、聖様が新島さんを保護した時に、どうやら新島の会社で一悶着あったようです。……新島の会社では、嶋久志胡桃が新島誠司の妻だと認識されているようで……。本当の妻である新島さんは、不審者扱いをされ……あのような状態で社長に助けられたようです」 男の長い説明を聞いている内に、髙野辺の拳は怒りで小刻みに震え出した。 「……一悶着……?それに、不倫関係だと……?」 「はい……。新島誠司は、どうやら嶋久志胡桃を溺愛しているようで……」 「ならば、どうして新島さんと結婚したんだ!?」 「それは……私にも……」 男は、髙野辺の剣幕に恐れ慄いたが何とか気を保ち、報告を続ける。 「その……、新島誠司は先程まで嶋久志胡桃の病室に……。……2
last updateLast Updated : 2026-02-10
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36話

「──すまないっ!」 廊下の曲がり角でぶつかった相手は、女性のようだった。 髙野辺は慌ててぶつかった女性を抱きとめると、謝罪を口にしながら女性の顔を見る。 ぶつかった際に髙野辺の鼻腔を擽った甘ったるいローズの香りが少し不快に感じたが、髙野辺はそんな様子を微塵も出さずに紳士的に対応しようとした。 ぶつかった相手の顔を見るまでは。 「わ、私こそごめんなさい……。よそ見をして歩いていたから……。大丈夫ですか?」 うるうる、と瞳を潤ませて媚びるように縋ってくる女性──それは、報告の際に見せられた写真に写っていた、嶋久志 胡桃だった。 「すまない、怪我はないか?」 髙野辺は冷たい表情のまま、社交辞令で胡桃を気遣う。 だが、胡桃は数秒の間、髙野辺に見惚れるようにぽうっと呆けていた。 そして、胡桃ははっとすると、支えてくれていた髙野辺に体をもたれさせた。 「──あぁっ、ごめんなさい……っ、足を挫いたみたいでぇ……っ」 「……っ」 まるで蛇のように胡桃の腕が髙野辺の腰に巻き付く。 こんな細腕のどこにそんな力があるのか。 無理矢理剥がしてしまう事もあるが、胡桃の今の格好はこの病院の入院着だ。 小柄な患者相手に、大の男が無理矢理引き剥がす。そんな光景を見られてしまっては、変な噂を立てられる可能性がある。 それに、胡桃の大きな声で先程までこちらに注目している人なんて殆ど居なかったのに、今は注目を集めてしまっている。 (──この女っ) とんでもない性悪女だ。 髙野辺は心の中で悪態をつくと、自分の腰に腕を巻き付け、ぐいぐいと体を寄せてくる胡桃から逃げるように体を捻った。 「足を挫いたのか?それはすまない。すぐに看護師を呼ぶ」 「──あっ、大丈夫です……私の病室は同じ階で、すぐ近くにあるので……あなたが抱き上げて移動してくれれば♡」 媚びるように粘ついた甘ったるい声が、髙野辺の耳にへばりつく。 その不快感に髙野辺は眉を顰め、胡桃が更に体を寄せようとした瞬間に、強引に体を引き剥がした。 「すまない。それは出来ない。……おい!誰か、手を貸してくれ!」 「──あっ」 髙野辺が声を上げると、廊下に居た看護師が髙野辺の顔を確認し、ぎょっと目を見開いた。 看護師の目には、嫌がる髙野辺に痴女が絡みつき、無理矢理迫っているような、そんな光景に見えたの
last updateLast Updated : 2026-02-10
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37話

だが、髙野辺は胡桃の動きに気付き、さり気なく胡桃から距離を取った。 髙野辺が自分から離れてしまった事も、胡桃は「照れて恥ずかしがっている」と勘違いしているようで、口元には薄っすらと笑みを浮かべている。 嫌がっている態度をこんなにも素直に出していると言うのに、胡桃はその空気を読みもしない。 その態度を見て、髙野辺は嫌悪感を更に募らせた。 (何だ、この無礼な女は──。本当に新島さんと血の繋がりがあるのか……?彼女とは大違いじゃないか) 髙野辺が不快感を隠しもせず、露わにしているのを看護師が見て、益々顔を真っ青にした。 看護師は、これ以上この病院を支援してくれている髙野辺に失礼な事があってはならない、と胡桃を引き剥がしに出た。 「さ、さあ!嶋久志さん!部屋にお戻りになった方が良いですよ!旦那様がお待ちですし、退院の手続きをしなくては!」 「──あっ」 胡桃を髙野辺からさり気なく引き離した看護師は、髙野辺に頭を下げて胡桃を病室に促す。 だが、胡桃は名残惜しそうにちらちらと髙野辺を振り返り、髙野辺に聞こえるように大きな声で看護師の言葉を否定した。 「やだぁ、あの人は私の旦那さんじゃないですよっ。大切な人ですが、旦那さんでも、彼氏でもないです!」 「──えっ、え?」 「先程はありがとうございました♡またお礼をさせてくださーい♡」 ぶんぶん、と甘ったるい媚びた声で手を振る胡桃。 だが、髙野辺は冷めた表情で胡桃を一瞥するだけで、すぐに背中を向けて廊下を歩いて行く。 気味の悪い声が自分の耳にへばりついていて、髙野辺は早くもみじに会って癒されたいと頭の中がいっぱいになっていた。 ◇ 去って行く髙野辺を名残惜しそうに見つめていた胡桃は、自分を促し続ける看護師に不貞腐れたような顔を向けた。 「もう!せっかく素敵な人と出会えたのに!変な事を言わないでくださいっ!私には旦那さんなんていないのに!」 「──えっ?え?ですが、嶋久志さんが自ら自分ほ旦那だ、と……」 「えぇ〜そんな事言ってないと思います。聞き間違いじゃないですか?──それより……!さっきの髙野辺って男の人……!凄く素敵な人ですよね!?どこかの会社の社長さんですか!?」 キラキラ、と好奇心を隠しもせずに聞いてくる胡桃に、看護師は「個人情報ですから」と口を噤む。 胡桃は髙野辺の素性を教え
last updateLast Updated : 2026-02-11
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38話

「そう言えば新島さん、あの階に居たのってどこかに行くつもりだったんじゃないですか?」 髙野辺が話を変えてくれたお陰で、もみじは胡桃の部屋で見てしまった事を一旦頭の中から追い出す事に成功し、髙野辺に顔を向けた。 「──はい。髙野辺さんが来られるのが夕方頃、とお伺いしていたので……それまで病院にある庭を散歩しようとしていた所だったんです」 「そうだったんですね。もしかして、新島さん1人で車椅子に移動したんですか?」 「え、ええ。そうですが……」 きょとん、と不思議そうな顔をするもみじに、髙野辺は慌ててもみじに言い聞かす。 「そんな無理をしたら駄目です、新島さん!あなたの足は捻挫しているんですよ?医者も暫くは安静に、と言っていたのですから1人で動いたら駄目です!車椅子に移動する時は看護師を呼んでください」 「で、ですが……。自分でもある程度動かないと体が鈍ってしまいますから……。車椅子に移動するくらいなら、良い運動になりますよ。ご心配ありがとうございます」 大丈夫、とはっきりとした口調で告げ、笑うもみじに髙野辺は眉を下げたまましぶしぶ頷く。 確かに、もみじの言う通り多少は体を動かした方がいい。 「分かりました……なら、俺がいる時は必ず俺に声をかけてくださいね」 「ええ、分かりました髙野辺さん」 「では……庭に行きますか?気分転換が必要でしょう?」 ベッドに体を起こしていたもみじに近づいた髙野辺は、そう口にする。 髙野辺の言葉を聞いた瞬間、もみじの瞳が期待でキラキラと輝いた。 「い、いいんですか髙野辺さん!」 その様子がとても可愛らしくて、髙野辺はついつい笑みが零れてしまう。 「ええ、もちろん大丈夫ですよ。行きましょう」 「ありがとうございます!」 「ずっと病室にいると気も滅入りますもんね。これからは俺が来た時は庭に散歩しに行きましょうか」 そう話しつつ、髙野辺はベッドから降りようとするもみじの手助けをして、彼女を車椅子に座らせる。 もみじは車椅子を押してくれる髙野辺に振り返り、満面の笑顔でお礼を伝えた。 「お手数おかけします、ですがとっても嬉しいです!よろしくお願いします!」 「ふふ、どういたしまして。さあ、庭に向かいましょうか新島さん」 髙野辺は微笑みつつそう言うと、もみじの車椅子を押して病室を出る。 廊下を歩き、1
last updateLast Updated : 2026-02-11
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39話

もみじは、ふと自分の名前を呼ばれたような気がして振り向いた。 「──?」 だが、振り向いた先の廊下には誰もいない。 「気のせいだったのかしら……?」 そう呟き、首を傾げるもみじ。 もみじの様子に、車椅子を押していた髙野辺が不思議そうに声をかけた。 「新島さん、どうかしましたか?」 「いえ、聞き間違いだったみたいです。何でもないです」 もみじが髙野辺に笑顔でそう告げる。 もみじがそう言うなら、と髙野辺も庭に繋がる扉を開けて、外に出ようとした──。 その時。 「──もみじ!!」 「……っ!?」 突然、誠司の声が聞こえた。 そして、その誠司の声は怒りに満ちているような怒声で。 もみじはびくり、と肩を跳ねさせた。 もみじと髙野辺が声が聞こえた方向に顔を向ける。 すると、そこには。 退院手続きを終えたのだろう。 今、まさに退院する様子の胡桃。そして、彼女の両親。 そして──。 「──誠司?」 怒りで顔を真っ赤にし、ドスドスと荒い足取りでもみじと髙野辺に向かって歩いてくる誠司の姿が見えた。 「もみじっ、お前!昨夜帰って来ないと思っていたらこんな男と……!」 「え……っ」 「言い訳は無用だ!どうしてこんな男と一緒に居る!?そもそも、こいつは誰だ!どうして俺に連絡すらせず、こんな男と一緒にいる!どれだけ心配したと思っているんだ!!」 誠司の口から次から次へともみじを責め立てる言葉が出て、もみじを詰問する。 「ま、待って誠司──この方は、私を助けて──」 「言い訳は無用だと言っただろう!!どけ!俺の妻に何をしている!?」 誠司は車椅子を押してくれていた髙野辺の胸を強く押し、もみじから離れさせようとする。 だが、強く押されたはずの髙野辺の体は少しもぶれず、誠司を強く睨み付けた。 そして、もみじに向かって問う。 「──新島さん、この男が……あなたの夫なんですか?」 「え、ええ、そうです髙野辺さん。……主人が、申し訳ございません」 「主人」 もみじが口にした「主人」と言う言葉に、髙野辺の胸はぐさり、と深く切りつけられたように痛んだ。 だが、その事を悟られないように表情1つ変えずに髙野辺は「そうですか」と答えると、目の前で興奮し、鼻息を荒くしている誠司に冷たい視線を向けた。 「──はっ。新島さんのご主人は何も状況を
last updateLast Updated : 2026-02-12
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40話

「はっ、はは!無断外泊ときたか!」 「き、貴様!何がおかしい!俺の妻と不倫した間男の分際で──」 誠司が髙野辺に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきたのを見て、もみじはいい加減我慢ならずに叫んだ。 「いい加減にして、誠司!」 もみじの怒声に、誠司ははっとして髙野辺の胸ぐらを掴もうとしていた手をぴたりと止める。 その間に畳み掛けるようにもみじは叫んだ。 「どうしてそんな不埒な考えが出てくるの!私の格好を見て分からないの!?私は昨日、あなたの会社で怪我をして秘書にも不審者だと言われ、会社を追い出されたの!自力で歩けなくなった私を、たまたまエレベーターで居合わせた髙野辺さんが助けてくれたのよ!大事を取って病院に入院していたの!」 「──っ」 「それに、私は誠司に連絡を入れているわ!だけど、あなたは胡桃の看病に忙しくて私からの連絡に気付いていなかったみたいだけど!」 もみじの言葉に、誠司は途端に慌てだし、後ろにいる胡桃や両親の姿を隠そうと体を動かした。 だけど、今更隠そうとしたって遅い。 先程、もみじはしっかりと自分の目で見てしまっている。 胡桃がまるで勝ち誇ったかのようにもみじを見下し、醜い笑みを浮かべている姿を。 そして、胡桃の傍に居る両親──実の父と、義母からまるで虫けらを見るような蔑んだ視線を向けられているのを、しっかりともみじは自分の目で見ている。 もみじの言葉で、冷静さを取り出した誠司は、慌てたようにもみじに縋った。 「ちが、違うんだもみじ。胡桃は昨日の怪我が酷く、万一の事を考えて入院させたんだ!そ、それにもみじの事をずっと探してたんだ!昨夜、会社の防犯カメラでもみじの動向を確認したんだが、エレベーターから降りた後のもみじの足取りが分からず、今日は胡桃を家まで送り届けたら、警察に捜索願を出しに行くつもりだった!」 ペラペラと言い訳めいた事を自信満々に紡ぐ誠司に、もみじは呆れてしまう。 そんな言い訳が通用すると本気で思っているのだろうか。 もみじは誠司からさっと視線を逸らすと、冷たく答えた。 「──そう。なら、無事見つかったしもう大丈夫ね。捜索願なんて出さずに済んで良かったじゃない。そんな事をしたら、私が誠司の妻だって色んな人に知られてしまう可能性があったから」 「──〜っ、お、俺は別に隠してなど……っ」 「もう良い
last updateLast Updated : 2026-02-12
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