All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 41 - Chapter 50

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41話

気丈に振舞っているが、もみじの肩は震え、唇を悔しそうに噛み締めている。 震えているもみじの姿がとても弱々しく、儚く見えて髙野辺はどう声をかけたらいいのか分からず、ただ黙って車椅子を押す事しか出来なかった。 庭にやって来たもみじと髙野辺2人は、気まずい雰囲気の中、少し開けたスペースにやってくると、そこで車椅子を止めた。 髙野辺が立ち止まった事で、もみじは無意識の内に俯いてしまっていた顔を上げた。 「──髙野辺さん。本当に、ごめんなさい。主人が失礼な事ばかり……」 「いえ、俺は大丈夫です。だから本当に気にしないでください……」 髙野辺はそう告げながら、もみじをちらりと見やる。 悲しそうに微笑みを浮かべているもみじは、本当に消えてしまいそうで──。 髙野辺は、その場にしゃがみこみ、自分の膝の上で爪が白くなってしまう程拳を握りしめているもみじの手に、そっと触れた。 「新島さん……。肌が傷付いてしまいますから、手を開いてください」 「──っ!すみません、ありがとうございます」 髙野辺の言葉に、もみじははっとして苦笑いを浮かべ、ゆっくり手を開いた。 力を入れすぎていて、ぷるぷると震えている。 もみじは落ち着くように何度か深呼吸をすると、ゆっくりと目を開く。 そして、髙野辺を見上げて口を開いた。 「すみません、髙野辺さん。……1つお願いがあるのですが」 「何でしょう?俺に出来る事でしたら、いくらでも」 優しく微笑んで返してくれる髙野辺に、もみじはほっとして強ばっていた体から少しだけ力が抜ける。 髙野辺の優しい言葉に後押しされるように、もみじは言葉を続けた。 「さっき……、主人が迎えに来る、と言っていたのですが……。私が入院している病室の情報を、主人に隠す事って出来ますか……?」 「──!」 「そ、その……っ、すみません、難しいようでしたら、全然大丈夫です!」 髙野辺が驚き、目を見開くともみじははっとして、慌てて頭を下げる。 (今は誠司に会いたくないからと言って、法律上私と誠司は夫婦だものね……。私が会いたくないと言っても、病院は会わせないって事はきっと出来ないわよね……) 変な事を髙野辺に頼んでしまった。 もみじがしゅん、としているともみじのお願いを聞いた髙野辺は、しゃがみ込んでいた体勢から立ち上がると、答えた。 「新島さん
last updateLast Updated : 2026-02-13
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42話

◇ もみじと髙野辺が庭に居る時。 一方、胡桃と誠司達。 誠司は、自分の腕に抱きつき、辛そうに歩いている胡桃の腰を支えながら、ちらりと庭がある方向に視線を向ける。 誠司が、もみじを気にしている──。 その事に瞬時に気がついた胡桃は、地面にある小石を見つけ、それに躓いて見せた。 「──あぁっ」 「胡桃!」 胡桃が石に躓き、転びそうになった所を、咄嗟に誠司が支える。 すると、前方を歩いていた胡桃の両親が血相を変えて駆け寄ってきた。 「胡桃!」 「胡桃ちゃん、大丈夫!」 胡桃の両親は慌てて胡桃に声をかけた後、責めるように誠司を睨んだ。 「誠司くん!君が隣にいるというのに、どうして胡桃が転倒しそうになっているんだ!」 「そうよ、誠司さん?何のためにあなたに胡桃を任せていると思っているの?胡桃に怪我をさせたら承知しないわよ!」 「大変申し訳ございません……っ」 誠司は、何故自分が両親にこれほど叱責されなければならないのか、と苛立ちを覚えた。 地面の石に躓くような鈍臭い事をしたのは胡桃なのに。 しかも、ちゃんと転倒する前に胡桃を支えてやったと言うのに──。 感謝こそすれ、罵倒される謂れはない。 誠司がむっとしたのが胡桃に分かったのだろう。 胡桃は両親に顔を向け、口を開いた。 「お父さん、お母さん。誠司さんを責めないで?私が石に躓いちゃったのよ。それに、彼は私を支えてくれたわ!──誠司さん、ありがとう。お陰で転ばずに済んだわ」 「……まあ、胡桃がそう言うなら仕方ない。誠司くん、胡桃をしっかり支えなさい」 「……はい、分かりました」 胡桃の言葉に、胡桃の父親は不服そうにしながら誠司にそれだけを言うと車に向かって歩いて行く。 両親に頭を下げて答えた誠司は、面白くなさそうにむすっとしている。 そんな誠司を見た胡桃は、ある程度両親と距離が出来た事を確認すると、背伸びをしてこそりと誠司に耳打ちする。 「さっきの誠司さんが激しくって♡足腰立たなくなっちゃったの……ごめんね……?」 「──っ、そうだったのか……?」 誠司の瞳が、胡桃との情事を思い出したように炎が灯った。 じりじりと身を焼くような瞳に見つめられた胡桃は、恥ずかしそうにしつつ、だが誠司の興奮を煽るように体を寄せた。 「うん……。ねぇ、誠司さん。お姉ちゃんってまだ病院
last updateLast Updated : 2026-02-14
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43話

◇ その日の、夜──。 もみじを病室まで送り届けた髙野辺は、もみじにまた明日と挨拶をして部屋を出た。 そして、髙野辺はそのまま病院を出る事なくある場所に向かって歩いていた。 髙野辺が向かったのは、病院の「院長室」 院長室のドアをノックすると、院長自ら扉を開けた。 「髙野辺様!」 「院長、急にすまない」 「いいえ、いいえ!髙野辺様でしたらいつでも!いつもご支援いただき、本当に感謝しております!」 室内に案内された髙野辺は、促されるままソファに腰を下ろした。 院長が髙野辺の目の前にコーヒーの入ったカップを置くと、不安そうに視線を向けてくるのを感じる。 髙野辺は淹れてもらったコーヒーを持ち上げ、口元に運んだ。 (俺が突然面会を求めたから……支援の打ち切りでも心配しているようだな……) だが、髙野辺の目的は全く違う所にある。 髙野辺の口元は、苦笑いを形取っていた。 だが、口元を綺麗にカップで隠した髙野辺は、そんな気配など微塵も気取らせずにカップをテーブルに戻し、悠々と足を組む。 院長の年齢は50代頃。 対する髙野辺は、まだ30にも満たないまだまだ若造、と侮られるような年齢だった。 だが、髙野辺がただソファに座り、足を組んでいるだけでその姿はとても威風堂々としており、威厳を感じさせる。 まさに、王者の風格、とでも言うのだろうか。 そんな言葉が似合う男が、この髙野辺 聖という男だった。 「──院長」 「は、はいっ!」 「そんなに恐れないでくれ。今日は、少し頼み事をしに来ただけなんだ」 「た、頼み事……ですか?」 院長の言葉に、髙野辺は優雅に頷く。 「ああ。……俺が個人的に入院させている女性が居るだろう?」 髙野辺の言葉に、院長はすぐに思い至る。 髙野辺が血相を変えてこの病院に、一般女性を運び込んだ。 最初は見知らぬ人をただ助けただけだと思っていた。 髙野辺は、そう言う男だからだ──。 だが、それだったらこれほどまでに髙野辺が病院に足を運ぶのも。 その女性のために全ての手続きを行うのも首を傾げてしまう程の、違和感。 日中、対象の女性と髙野辺の様子から、昔からの顔見知り、と言う訳ではないのは承知の上だ。 それなのに、あの女性のためだけに髙野辺がここまで動くなんて──。 そう、院長は驚いていた。 だが、髙野辺
last updateLast Updated : 2026-02-14
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44話

院長との話を終えた髙野辺は、帰宅するために病院の駐車場に向かう。 病院の駐車場には、以前「友人から借りた」はずの高級車が停まっている。 その車のドアを開けて車に乗り込んだ髙野辺はアクセルを踏み込み、病院を後にした。 髙野辺が向かったのは、自宅でもなく1つのビルに向かっていた。 都心部の一等地。 そこにはいくつもの会社が入っているが、そのビルの持ち主は旧華族の大財閥。 髙野辺は、迷いなくそのビルの駐車場に向かい、車を停めた。 ビルに入った髙野辺を見た社員達は、皆頭を下げる。 その中から1人の男性がすっと歩みでると、真っ直ぐ髙野辺に向かって歩いて来た。 その男性のスーツはぴしっとしていて。 病院で髙野辺と話をしていた男性だ。 「社長」 「蒔田。進捗は?」 「はい、問題無く進んでおります。本日この後の会食はどうなさいますか?」 「キャンセルだ」 「かしこまりました。先方に伝えておきます」 「ああ、頼んだ。部屋には誰も入れるな」 「かしこまりました」 「そうだ、蒔田。300〜400万程度の車を購入しといてくれ」 「──?」 「理由は聞くな」 「かしこまりました。すぐに手配しておきます」 ビルのエレベーターまで2人並んで歩いて来ると、蒔田は髙野辺の言葉に頭を下げ、エレベーターに乗り込む髙野辺を見送った。 エレベーターの扉が閉まり、髙野辺の姿が見えなくなった後、蒔田はそのまま懐からスマホを取り出して髙野辺に言われた新車の手配を始めた。 ◇ 「社長室」とプレートが掛かった部屋に入った髙野辺は、ネクタイを緩めて椅子に座る。 疲れたように息を吐き出し、前髪をかきあげた。 目の前にはいくつものバインダーが積まれており、それを見た髙野辺は眉を寄せたが、その内の1つを手に取って内容を確認し、署名を行う。 時折掛かってくる電話に対応し、仕事を済ませていくと、あっという間に時間が経っていた。 「──そうだ、病院からの連絡は」 髙野辺は、誠司が病院にやって来てはいないだろうか。 そして、もみじを探して面倒を起こしていないだろうか、とスマホを確認する。 病院から着信が入っていないので、そんな事にはなっていないのは分かるが、病院にやって来た誠司が迷惑をかけていないのか、それが気になった。 「──……」 病院からの報告が来ていた。
last updateLast Updated : 2026-02-15
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45話

◇ 場所は変わって、病院──。 もみじは、髙野辺が帰った後、病室で夕食を食べゆっくりとしていた。 髙野辺が持って来てくれていた小説を読んでいたその時、自分のスマホが着信を告げる。 「──!」 その音は、もみじが「仕事用」に着信設定をしていた着信音だ。 もみじは読んでいた小説を閉じてベッド脇にある棚に置くと、スマホを持ち上げて届いたメールをタップする。 私用のメールアドレス宛てには、何も届いていない。 仕事用のアカウントに切り替えたもみじは、届いたメールアドレスの宛名を見て、ぐっと眉間に皺を寄せた。 誠司の会社──NEW ISLANDの社用アドレスから送られてきたそれ。 そのメールの件名には【新規発注依頼】と書かれていた。 メールの送り主は、新島 誠司。 もみじの夫である彼だ──。 だが、彼からのメールは「新島 もみじ」宛では無い。 彼からの宛名は──。 【Sea 様】と書かれていた。 Sea……日本語では海、と言う意味だが、もみじは海がとても好きだった。 都内に住んでいる以上、中々海を見に行く機会がないが、子供の頃に祖父母に連れて行ってもらった時に見た、海の美しさに魅了されたのだ。 だから、もみじは自分の素性を隠して「活動」する時は「Sea」と言う名前で活動していた。 もみじがSeaだと言う事は、夫である誠司にも秘密にしていた。 それは、単純にもみじが夫である誠司を陰ながら手伝いたい、と思っていたからだ。 それに、彼はもみじに家庭に入って家事をしろ、と言っていた。 もみじが仕事をする事を、嫌がっているように見えたからだ。 だから、その内──。 大きな仕事を、誠司の会社と成功させたら。 そうしたら、もみじは「Sea」だと言う事を告白しようとしていた。 だけど、今となっては。 「……隠していたのが、正解だったのかもしれないわね」 もみじは、自嘲混じりの笑みを浮かべると、誠司からの依頼内容を確認するためにメールをタップした。 「依頼内容は……ああ……、やっぱり新しいデザイン案を起こしてくれって内容ね……」 誠司の会社では、今度アクセサリー事業を開始するらしい。 その際に「Sea」のデザインしたアクセサリーを目玉商品として取り上げたい、と言う事だった。 「Sea」は、謎の多いデザイナーだ。 海外のコンクー
last updateLast Updated : 2026-02-15
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46話

もみじがその日、病院で過ごしている間。 昼間に誠司が叫んでいたような事が、実際に起きる事は無かった。 誠司は結局、もみじの入院している病室に姿を現す事は、1度も無かったのだ。 誠司が来なくてほっとしたのは、事実。 だが、もみじはあんな風に髙野辺に対して啖呵をきった誠司が【迎えに来る】と言った事に少しだけ期待してしまっていた。 もし、本当に誠司がやって来たら。 少しだけ、自分は嬉しいと感じてしまうだろう。 だが。 結局、その日は病院の関係者以外、もみじに会いに来る人は誰もいなかった。 それに、揉めるような。 言い争うような声を聞く事もなかったのだ。 それだけで、もみじは何となく理解した。 誠司は昼間あんな事を言ってはいたが、結局もみじを病院から連れ帰ろうと行動する事は無かったのだ、と。 「──酷い。どうして誠司は私に対して……っ」 こんな事が出来るのか──。 「私は、誠司の妻なのに……。誠司は私の事がちっとも心配じゃないのね……」 本当に愛してくれているのなら。 心配してくれているなら。 あの場で、妻である自分より胡桃を優先なんてしないはずだ。 だけど、結局誠司は胡桃を送り届ける事を選んだ。 自分を迎えに来る、とは言ったがそれは果たされなかったのだ。 「誠司の馬鹿……っ」 もみじは【Sea】宛に来た誠司からの仕事のメールには、結局返信しなかった。 ◇ 翌日。 土曜日のため、面会時間は午前中で終わりだ。 だけど、髙野辺は時間外だと言うのにあっさりと顔を出した。 「新島さん、怪我の具合はどうですか?」 「──髙野辺さん」 ひょこり、と病室の扉から顔を出した髙野辺に、もみじは微笑みを浮かべる。 だが、もみじの目の下には薄っすらと隈が出来ていて。 それに気付いた髙野辺は、心配そうに病室に入ってきた。 「新島さん、昨夜はあまり良く眠れなかったんですか?」 「え?」 「隈が酷い。もしかして、体調が悪かったりします?医者を呼びますか──」 髙野辺の言葉に、慌ててもみじは髙野辺を止める。 このままでは本当に髙野辺が医者を呼んでしまいそうで。 「だ、大丈夫です髙野辺さん!昨日は、少し夜更かしをしてしまっていて……!」 そこまで口にしたもみじは、棚に置いていた本を視界に入れてはっとした。 「た、髙野辺さんに
last updateLast Updated : 2026-02-16
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47話

車椅子に乗せてもらい、もみじは髙野辺と一緒に病院の駐車場に来ていた。 もみじは病院着の上にしっかりと上着を羽織り、髙野辺は普段のスーツ姿とは違い、今日は休日なのだろう。 少しラフな格好をしている。 土曜日は病院の外来診察が無い。 それに、午前中の面会時間も終わっている。 そのため、病院内には病院関係者や、入院患者だけしかいないのだが、院内から駐車場にやって来るまでの少ない時間だけでも、髙野辺は周囲から多くの視線を集めていた。 ラフな格好ながら、どこか気品溢れる佇まいに、均整のとれた体躯。 手足は長く、背も高い髙野辺は視線を集めた。 だが、それだけでこれだけの視線を集めているのでは無い。 髙野辺が多くの視線を集めている1番の理由は、髙野辺本人のとても整った顔立ちだろう。 黒曜石のような黒い瞳に、さらさらの黒い髪の毛。 鼻梁はすっと通り、高い。 切長の瞳は、初対面だと冷たそうな印象を与えるが、笑うと柔らかく緩められる。 まるで貴公子のようだ、とすれ違う誰もが髙野辺の容姿の良さにほうっと溜息を吐き、見蕩れている。 すれ違う人達──特に、女性の熱い視線を一身に集める髙野辺に、もみじはちらりと髙野辺を盗み見る。 (こんなに視線を集めているけど……髙野辺さんはちっとも気にしてる風に見えない……。慣れてるのかな?) もみじがそんな風に思っていると、もみじの視線に気付いた髙野辺がこてり、と首を傾げて不思議そうにする。 「どうしました、新島さん」 「──っ!す、すみません何でもないです……!その、本屋さんに行くのが楽しみだなって思って……!」 「そうですか、それは良かった!」 「あの、車椅子だと小さな本屋さんには行けなくて……大きめの本屋さんに向かって頂いても大丈夫ですか?」 「勿論ですよ。車に乗ったら、店名を教えてもらってもいいですか?」 「はい!よろしくお願いします!」 もみじは嬉しそうに笑う。 ぱっと花が咲くような可愛らしい笑みを浮かべるもみじを見た髙野辺は、僅かに目を見開き、仄かに頬を染めると、誤魔化すように咳払いをした。 「んんっ。──着きました、車はあれです」 髙野辺は車の施錠を解錠すると、助手席のドアを開ける。 以前もみじが乗った車とは違う、普通車。 あの時乗った高級車は、友人に借りたと言っていたので、髙野辺は
last updateLast Updated : 2026-02-16
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48話

駅前 有木書店本店 書店の駐車場に車を停めた髙野辺は、車椅子を降ろしてもみじを再び抱き上げ、車椅子に降ろす。 「すみません、髙野辺さん。いつもありがとうございます」 「いえいえ、気にしないでください」 にこり、と爽やかに笑う髙野辺にもみじも自然と笑顔になる。 もみじの車椅子を押して、2人は書店に入って行った。 ◇ 同時刻。 遮光カーテンがしっかりと引かれた薄暗い寝室で、男はぱちり、と目を覚ました。 男──誠司はむくりとベッドに起き上がると、自分が寝ていたすぐ隣を見る。 そこには誰もおらず、シーツを手で触れてみたがそこには既に温もりも何も残ってなく、冷たい。 「──胡桃?」 誠司は、昨夜家に来て、そして一夜を共にした胡桃の姿が無い事に焦り、下着姿のままベッドから降りる。 手早くスウェットを着ると、寝室から出た。 途端、鼻腔を擽る美味しそうな匂いに、誠司は鼻をひくりと動かした。 「あっ、誠司さんおはよう♡」 「──胡桃」 キッチンで朝食を作ってくれていたのだろう。 胡桃は、誠司のワイシャツを羽織っただけの姿で振り返る。 寝室から出てきた誠司に嬉しそうに笑いかける。 帰ってしまったんじゃなかったか──。 そう、誠司は胸中で呟くと、ほっと安心したように表情を緩めた。 胡桃の元に歩いて行った誠司は、朝食を作っている胡桃を背後から抱きしめた。 「体は……?辛くないか?」 「ふふっ、誠司さんったら心配性なんだから。心配するなら、あんなに激しくしないで」 甘ったるい声で、胡桃が自分の腹に回った誠司の手に、自分の手を重ねる。 そして、恥ずかしげに上目遣いで誠司を見つめると、誠司の喉仏がごくり、と動いたのが見えた。 その様子に、胡桃はにんまりと笑みを浮かべる。 (今までは、流石に誠司の家に泊まる事は出来なかったけど……。お姉ちゃん──いえ、馬鹿な女が入院してくれたお陰で、ようやく泊まる事ができた♡) 誠司が朝から自分の格好に欲情し始めているのが見て取れて、胡桃はあと一押し、とばかりに背後の誠司に擦り寄った。 「もう……、こんなに愛されたら動けなくなっちゃうわ。程々にしてね、誠司さん」 「……胡桃が家事をする必要なんてないだろ。家事をする役割の人間はちゃんといるのだから」 「でも……今はお姉ちゃんが誠司さんの傍にいないじ
last updateLast Updated : 2026-02-17
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49話

一頻り気が済むまで抱き合った後、誠司と胡桃は軽く朝食を食べ、出かける事にした。 胡桃が誠司と出かけたい、と可愛らしいお強請りをしたのだ。 胡桃に可愛く請われた誠司は嫌な顔1つせず、快く頷いた。 誠司は自分の部屋で外出用の服に着替えながら、ふと思い出す。 「そう言えば……もみじとは殆ど出たけた事は無かったな……」 もみじは、何度も誠司をデートに誘っていた。 入籍してからも、もみじは記念日を迎える度にせめて外食でも、と誠司を誘っていたのだが誠司は仕事の忙しさを言い訳に、入籍してからはもみじと一緒に出かける、なんて事はほぼした事が無かった。 「──……」 流石に悪い事をしたと考えているのか、誠司は気まずそうにもみじの私室がある方向に顔を向けた。 「仕方ない。もみじが退院して戻って来たら、外食くらいはしてやっても良いか。……そうすれば、もみじも喜ぶだろう。……俺だってわざともみじを転倒させて怪我をさせた訳じゃないしな」 外食に連れて行ってやれば、それが詫び代わりになる。 胡桃を優先してしまった事も、それでもみじは許すだろう、と誠司は考えた。 誠司が着替えを終えて部屋出て、リビングで待っているともみじの部屋の扉が開き、部屋から胡桃が出て来た。 「お待たせ、誠司さん♡」 「──胡桃。ああ……もみじの服も、胡桃が着ると良いな。似合っている、可愛いじゃないか」 「ええ、本当?嬉しいな」 頬を赤らめ、嬉しそうにはにかむ胡桃を引き寄せた誠司は、艶々としている胡桃の唇に軽くキスを落とす。 胡桃が泊まりに来た時、翌日の着替えを忘れてきてしまったのだ。 そのため、誠司はもみじの部屋にある彼女の服を好きに着ればいい、と胡桃に告げた。 普段もみじが着ている服は、もみじが着ているとそれ程可愛らしく見えないのだが、同じ服でも胡桃が着るだけでこんなに可愛らしい印象になるとは、と誠司は満足気に頷いた。 「そろそろ行こう、胡桃。あまり遅くなるとご両親に悪いからな」 「うん、誠司さん♡」 胡桃は、誠司の腕に飛びつき、花が咲くような笑顔を浮かべた。 ◇ 本屋。 本屋で、もみじは髙野辺と一緒に小説のコーナーにやって来ていた。 「新島さん。何か気になる本があれば言って。自分で取るのは大変でしょう?」 「何から何まですみません、髙野辺さん。ありがとうございま
last updateLast Updated : 2026-02-17
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50話

(──えっ、どうして……?) こんな所で、聞こえるはずのない声。 胡桃の声を聞いた瞬間、もみじは嫌な予感を覚えた。 声が聞こえてきた背後にもみじが振り返る。 すると、そこにはやはり胡桃が居て──。 「ぁ……っ」 胡桃の隣には、やはり想像通り誠司が並び立っていた。 胡桃は誠司の腕に自分の腕を絡め、2人の左手薬指には揃いの指輪が光っている。 どこからどう見ても、胡桃と誠司は似合いのカップル──いや、夫婦に見えるだろう。 もみじがショックを受けていると、胡桃の顔がにんまりと歪んだ。 胡桃の隣に居る誠司は、もみじがどうしてここにいるのか、と唖然としていて、もみじに話しかける気配がない。 その隙に、胡桃は更にもみじを傷付けてやろうと口を開いたが。 胡桃が声を発する前に、低い声が響いた。 「新島さん、大丈夫ですか?顔色が悪い……」 「──えっ、あ……髙野辺さ……」 髙野辺が、もみじを気遣うように優しく声をかける。 出鼻をくじかれてしまった胡桃は、じろりともみじの車椅子を押す男に睨め付けるような視線を向けて、そこではっとした。 (あっ!あの人は病院で私を助けてくれた──!) 誠司よりも背が高く、誠司よりも容姿の整った男。 そんな人が、もみじの隣に居る。 胡桃はそれがどうしようもなく悔しくて、今まで組んでいた誠司の腕をパッと離し、もみじと髙野辺に駆け寄った。 「もう、お姉ちゃんったら!迷惑ばっかりかけてぇ!すみません♡お姉ちゃんが我儘を言ったんですよね♡」 まるで媚びるように、甘ったるい声を出して胡桃はもみじを窘めるように話しながら髙野辺の腕に自分の腕を絡めようとした。 だが、頭上から髙野辺の冷たい視線が注がれ、びくり、と胡桃の体が跳ねた。 さっと腕を避けた髙野辺は、冷たい視線を背後で固まっている誠司に向けた。 「──確か、新島さんの旦那さん、ですよね……?昨夜、奥さんの所に行くと言っていましたけど、病院には結局来られなかったようで……それで、奥さんの妹さんと、何をしていたんですか?親しそうに身を寄せ合って、まるで妹さんと旦那さんが夫婦のようだ」 「──なっ、お前!!」 髙野辺の言葉に、誠司は顔を真っ赤にして怒鳴り返そうとした。 だが、空気を読まず、胡桃はきゃあきゃあと嬉しそうな声を上げて、誠司に意識がいっていた髙野辺の腕
last updateLast Updated : 2026-02-18
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