◇◆◇ 「──うっ、けほっ、けほっ」 ガタン、と洗面台に手を付いて、込み上がる吐き気を何とか抑える。 顔を上げた際に鏡に映った自分の顔色の悪さに、女性はふと何かを思い出したようにリビングに顔を向けた。 「まさか……」 急ぎ足でリビングに戻り、カレンダーを確認する。 綺麗に片付いたリビング。 その片隅に置かれた棚の上にあるカレンダーを手に取った女性は、何かを確かめるようにカレンダーを遡った。 こざっぱりと片付けられた、綺麗なリビング。 女性の一人暮らしには十分な広さがあり、女性はこの部屋を気に入っていた。 だが、所々にある男物のワイシャツや、ネクタイ。 男性用の洗顔フォームやシェーバーなどから、男性も良くこの部屋に出入り──泊まっているのが良く分かる。 「──不味いわね。確か、今月は……2件ほど招待されているパーティーがあったはず……」 その女性──中野 未来は、仕事用の手帳を取り出し、すぐに自分の上司──誠司に電話をかけた。 数コールですぐに繋がった電話。 電話口の誠司の声には覇気がなく、疲れ切ったような様子だった。 〈──もしもし、中野か?こんな時間にどうした?〉 「業務終了後に申し訳ございません、社長」 〈いや、大丈夫だ。何か仕事の漏れでも──〉 「社長。明日なのですが、午前休をいただきたいと思っております。午後から出社したいのですが、よろしいでしょうか」 誠司の言葉を遮るようにして中野が言葉を紡ぐ。 どこか焦ったような口調の中野に、誠司は眉を寄せた。 だが、詳しい事を聞く事は出来ない様子だ。 何故なら、誠司は今自分の家に居る。 つまり、家には彼の子を身篭った胡桃と、その母親が居るはずだ。 誠司の事情を全て把握している中野は、誠司を心配させないように敢えて明るい声で告げる。 「少し野暮用が出来てしまいまして……。午後の出社時間には間に合わせますので」 電話越しに、誠司が移動している音が聞こえた。 外にでも出たのだろうか。 車の走る音と、誠司の靴音が聞こえる。 〈そうか……。分かった。今の俺は会社に行っても後ろ指を指されるだけだろうし、変な噂も回っているかもしれない。午前休と言わず、1日休みにしたらどうだ?〉 「それ、は……有難いですが
Última atualização : 2026-10-12 Ler mais