Todos os capítulos de 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Capítulo 451 - Capítulo 460

479 Capítulos

451話

◇◆◇ 「──うっ、けほっ、けほっ」 ガタン、と洗面台に手を付いて、込み上がる吐き気を何とか抑える。 顔を上げた際に鏡に映った自分の顔色の悪さに、女性はふと何かを思い出したようにリビングに顔を向けた。 「まさか……」 急ぎ足でリビングに戻り、カレンダーを確認する。 綺麗に片付いたリビング。 その片隅に置かれた棚の上にあるカレンダーを手に取った女性は、何かを確かめるようにカレンダーを遡った。 こざっぱりと片付けられた、綺麗なリビング。 女性の一人暮らしには十分な広さがあり、女性はこの部屋を気に入っていた。 だが、所々にある男物のワイシャツや、ネクタイ。 男性用の洗顔フォームやシェーバーなどから、男性も良くこの部屋に出入り──泊まっているのが良く分かる。 「──不味いわね。確か、今月は……2件ほど招待されているパーティーがあったはず……」 その女性──中野 未来は、仕事用の手帳を取り出し、すぐに自分の上司──誠司に電話をかけた。 数コールですぐに繋がった電話。 電話口の誠司の声には覇気がなく、疲れ切ったような様子だった。 〈──もしもし、中野か?こんな時間にどうした?〉 「業務終了後に申し訳ございません、社長」 〈いや、大丈夫だ。何か仕事の漏れでも──〉 「社長。明日なのですが、午前休をいただきたいと思っております。午後から出社したいのですが、よろしいでしょうか」 誠司の言葉を遮るようにして中野が言葉を紡ぐ。 どこか焦ったような口調の中野に、誠司は眉を寄せた。 だが、詳しい事を聞く事は出来ない様子だ。 何故なら、誠司は今自分の家に居る。 つまり、家には彼の子を身篭った胡桃と、その母親が居るはずだ。 誠司の事情を全て把握している中野は、誠司を心配させないように敢えて明るい声で告げる。 「少し野暮用が出来てしまいまして……。午後の出社時間には間に合わせますので」 電話越しに、誠司が移動している音が聞こえた。 外にでも出たのだろうか。 車の走る音と、誠司の靴音が聞こえる。 〈そうか……。分かった。今の俺は会社に行っても後ろ指を指されるだけだろうし、変な噂も回っているかもしれない。午前休と言わず、1日休みにしたらどうだ?〉 「それ、は……有難いですが
last updateÚltima atualização : 2026-10-12
Ler mais

452話

翌日。 午前中、中野は病院の産婦人科に居た。 名前を呼ばれ、診察室に通された中野は医者の診察を受けた。 そして、エコーを受けてある写真を1枚受け取った。 「──それでは、ありがとうございました」 頭を下げ、診察室を出た中野は笑みを浮かべその場を離れた。 その日の夜。 中野は自宅でご馳走を用意して待っていた。 夜も遅い時間帯。 中野の家のインターホンが鳴った。 「──!」 ぱっ、と表情を明るくすると中野は急いで玄関まで向かう。 そして鍵を開けると、そこに居た誠司を笑顔で出迎えた。 「社長」 「ああ、遅くなってすまないな」 「とんでもないです、どうぞ入ってください」 中野に促された誠司がリビングに足を進めると、そこでぴたりと足を止めた。 リビングのテーブルには、所狭しと誠司の好物が並んでいた。 誠司はネクタイを緩めつつ、驚いた表情で中野に話しかける。 「どうしたんだ、こんなに沢山の食事を用意して……。大変だっただろう?」 「いえ、少し……嬉しい事があったので」 「嬉しい事……?」 「ええ。夕食はまだですよね?一緒に食べましょう、社長」 「中野もまだ食べていないのか?」 「ふふっ、社長と一緒にご飯を食べたくて」 にこり、と笑う中野に誠司は自分の荒んだ感情が凪いで行くのが分かった。 自分の家に帰れば、義母と胡桃がいて息が詰まる。 自分の家なのに、心休まる空間ではない。 まだ、もみじと結婚していた時の方が自分の健康面も、精神面も安定していた。 そもそも、もみじと離婚しなければ。 胡桃と不倫しなければ。 (俺は……前科者にだってならなかったし、会社での立場だって揺らぐ事はなかった。胡桃と不倫してから全部がおかしくなっていったんだ……。胡桃と出会う事さえなければ……そうすれば俺は今ももみじと……) 誠司が考え込んでいると、不意に袖を引かれた。 「社長、どうしましたか?座りましょう」 「──え、あ、ああ。すまない、ぼうっとしていた」 中野に心配そうに話しかけられた誠司は、椅子に座る。 すぐに温かいスープを用意してくれた中野にお礼を言い、口をつける。 温かいスープが喉を通り、胃にじんわりと満ちる。 優しい味に、誠司が思わず「美味いな」と呟いた時。 中野が笑顔のまま、ある1枚の紙をテーブルに乗せた。 「
last updateÚltima atualização : 2026-10-13
Ler mais

453話

「社長、食べていてください。私は片付けますから」 未だ事態を飲み込めていない誠司に、中野は明るい表情で話しかけ、食事を進めるように促す。 唖然としつつ箸を手に取り、食事を始める誠司をちらりと横目で見やった中野は、手早く器と床にこぼれたスープを片し、新しいスープを器によそい直して誠司の目の前に置いた。 「そう言えば社長、須藤財閥一人娘の誕生パーティーの招待、胡桃と参加されるんですよね?」 「──えっ?……あ、ああ。そう、だな……。苦労して、胡桃の父親が用意してくれたから、胡桃を連れて行くつもりだ」 どこか気まずそうに、中野から目を逸らしつつ答える誠司。 中野は表情を変える事なく、微笑みながら頷いた。 「かしこまりました。それでは、私は自宅で待機しておりますので。事前準備はしっかり行いますね。何かあればご連絡ください」 「あ、ああ……悪いな」 「とんでもございません。私は社長秘書ですから。社長のお仕事のお手伝いをする事が一番大事です」 ふふ、と幸せそうに笑う中野。 そんな中野を見て、誠司は後ろめたさを感じた。 妊娠させてしまったと言うのに、ただその事実を中野から告げられただけ。 子を産みたい、と言われたが本当にそれだけ。 それ以外の事は何も口にしない中野に、誠司の胸にはどんどん罪悪感が込み上げてくる。 中野がいつも通りの態度で、変わらず自分に接する姿が、誠司は何だか痛々しく見えてしまった。 食事は、変わらず美味しい。 中野の態度も、普段となんら変わらない。 だが、誠司は後ろめたさを感じていて、そわそわと落ち着かない。 本当は今日はこのまま中野の家に泊まる予定だった。 そのために胡桃にも、桔梗にも取引先との会食があって帰りが遅くなるからホテルに泊まる、と告げている。 気兼ねなく中野の家に泊まり、そのままいつものように中野を抱こうとしていた誠司だったが、妊娠を聞いた今、とてもそんな気分ではなくなってしまった。 もそもそと食事を食べ終え、食後のお茶を全て飲み終えた誠司は、キッチンで片付けをしている中野には顔を向けず、告げた。 「……悪いが、今日は帰らせてもらう」 「──えっ」 誠司はいそいそと自分のスーツを着直し、ソファに投げていた鞄を持つと中野の方を見ないまま玄関に向かった。 「しゃ、社長……!」 慌てて中野がキッチ
last updateÚltima atualização : 2026-10-14
Ler mais

454話

誠司が家を出て行ったあと。 中野は食器の片付けを終え、リビングのソファーに腰を下ろした。 自分のスマホを取り出し、画像フォルダを開く。 フォルダをスクロールしていた中野の指がぴたり、と止まった。 画面に映し出された画像を、中野はただ無表情で見つめる。 画像には、高校生くらいの少女だろうか。 どこか中野と似た顔立ちの少女が年相応に屈託なく笑う姿が映っていた。 「──美奈」 中野の口からぽつり、とその少女の名前が呟かれる。 「──お姉ちゃんが、絶対に復讐してあげるからね」 中野は何度も画面に映る自分の妹を手のひらで撫で続けた。 ◇◆◇ 「もみじさん。次はこれを着てみてください」 夜。 会社を出たもみじと髙野辺は、とあるブティックにやって来ていた。 「ひ、聖さん……!これ以上はもう……!」 「いえ。もみじさんに似合うドレスを買わなくちゃ」 「わ、私は3着前に試着したやつがいいかな、と思うんですが……」 「いや、あれは背中が開きすぎているので駄目です。それにスリットも深すぎる。あれは絶対駄目です」 「え、ええ……。あのデザイン、凄く素敵だったのに……」 「確かにもみじさんに凄く似合っていましたが、あれを俺以外の男性の前で着て欲しくないです」 「──っ」 髙野辺の真っ直ぐな言葉。嫉妬に、もみじは顔を真っ赤に染める。 何も言葉を返せないでいると、接客のためにもみじと髙野辺についていた店員が2人の仲睦まじい様子に微笑んでいた。 店員達の生温い視線も、またもみじの羞恥を煽る。 だが、このブティックに入って既に10着近く試着を繰り返している。 最早、どれがいいか分からなくなって来てしまっている。 「俺は他のドレスを見ているので、着替えてきてください」 「……分かりました」 にっこり、と有無を言わせない笑みで髙野辺に言われたもみじは、諦めたようにため息を1つついて試着のために別室に通される。 外では髙野辺が再び他の店員を呼び、ドレスを指さしているのが見えた。 「もう……。そろそろ本当に決めなくちゃ」 このまま試着を続けていたら、ブティックの閉店時間になってしまいそうだ。 そもそも、こんなに時間が掛かるとは思っていなかった。 「今日はおばあちゃん達の家に戻るのは無理そうね……」 今から戻ったら、時計の針が日を跨いで
last updateÚltima atualização : 2026-10-15
Ler mais

455話

TK株式会社の新商品発売記念パーティー。 その日は、あっという間にやって来た。 新商品の発売に尽力してくれた営業社員や、取引先、生産工場の代表。そして、メディア。 髙野辺は「そこまで大規模なパーティーにはならない」と言っていたが、今回は新商品の発売と同時にシリーズ展開も発表する事になったため、当初の予定より規模が大きくなった。 そのため取材陣も増え、シリーズ展開に伴い取次業者や生産工場も増えた。 当初予定していた会場では手狭になってしまうため、それより広い会場を借りた。 それに合わせて招待客も広げたのだ。 主要取引先以外の招待客も増やしたため、今回のパーティーには多くの人が参加していた。 「もみじ!」 「──蘭っ!」 パーティー開始から少し。 髙野辺と一緒に挨拶回りをしていたもみじのもとに、見知った人物がやって来た。 もみじは聞き覚えのある声にぱっと表情を明るくし、すぐに振り向いた。 振り向いた先にいたのは、ワインレッドのドレスを 身に纏ったもみじの親友、一ノ瀬 蘭がいた。 蘭はもみじのすぐ側までやって来ると、彼女の肩をパシパシと叩く。 「ちょっとちょっと、聞いたわよもみじ!」 「えっ、えっ、何?どうしたの?」 「今回の新商品、シリーズ化するんでしょう?うちの会社の社員のせいで……発売が危うくなってしまったのに、さすがもみじだし、シリーズ化を決めた髙野辺社長の判断と決断の早さはさすがよね」 先程までの明るい表情から暗い表情に変わる蘭。 そんな蘭の表情を見たもみじは、彼女を元気付けようと口を開いたが、どう言葉をかければいいのか、と悩む。 「気にしないで」などと、自分が言える立場ではない。 損害を受けたのは会社であり、会社の代表は髙野辺だ。 もみじはただのいちデザイナーと言う立場なのだから、軽々しく答える訳にはいかない。 そう、もみじが悩んでいると、他の招待客と話をしていた髙野辺が会話を切り上げ、2人のもとにやって来た。 髙野辺は他の招待客と会話をしつつ、もみじと蘭の会話も聞いていたのだろう。 穏やかな笑みを浮かべつつ、蘭に向かって話しかけた。 「一ノ瀬社長。本日はありがとうございます」 「そんな……お礼を言いたいのはこちらの方です、髙野辺社長。御社の情報を漏らした社員がいる我が社を招待してくださり、感謝の気持
last updateÚltima atualização : 2026-10-16
Ler mais

456話

髙野辺と蘭が和やかに会話をしている所を写真に撮り、それ以上は近付いて来ない。 蘭との話が終わった途端、髙野辺のもとに他の取引先の社長がやって来て話しかけている。 その様子を見遣りながら、蘭はもみじのもとにやって来た。 苦笑いを浮かべつつ、蘭は口を開く。 「髙野辺社長が招待してくれたお陰で、記者達はこれ以上あの件について調べ回らないでしょう?……ここ最近、うちの会社の周辺も記者がうろうろしていたから、本当に有難いわ……」 「蘭の会社の周辺を……?」 「ええ、そうなのよ。新商品の流出なんて、とんでもない事でしょう?記者にとってはそれだけ美味しい餌って訳よ」 嫌そうに、表情を歪めて零す蘭。 「私たちがどれだけ苦労して商品を作り、会社経営をしているのか……記者達はそんなものどうでもいいんでしょうね。自分達が書いた記事が世に出て、注目されればそれでいいのよ」 まるで吐き捨てるように告げる蘭に、もみじは先程とは逆に蘭の肩を今度は自分が優しく撫でた。 「──蘭」 「ごめんね、もみじ。せっかくのパーティーなのに、暗い話なんかして。……さあ、暗い話はもう終わりにして、話しましょう!」 蘭はパッと表情を切り替えると無理やり笑みを浮かべる。 その姿がとても痛々しくて、もみじの脳裏に嘲笑うよう胡桃の顔が浮かんだ。 (胡桃……。胡桃はこうやっていつまでも私に関わってくるのね。私の周りにいる大事な人達を、傷付けるつもりだわ) 誠司を奪い、彼の子を身ごもっただけでは飽き足らず、今も尚自分に執着している胡桃にもみじは頭を痛める。 どうしたら自分から興味をなくしてくれるのだろう。 (実家にだって、もう帰っていない……。それどころか、私はもう母の旧姓を名乗ってるんだから……私の意思だって伝わっているはずでしょう?どうして放っておいてくれないのかしら) もみじが考えこんでいると、2つのグラスを持った蘭が不思議そうに話しかけてきた。 「もみじ?どうしたの、そんなに難しい顔をして」 「あっ、ごめんね蘭。グラスを持ってきてくれたの?ありがとう」 「どういたしまして。あっちのテーブルで話さない?」 「ええ、そうしましょう」 もみじは蘭と話をしつつ、人が少ない一角にあるテーブルに向かった。 そこにはデザートや軽食が用意されており、蘭はそれらを見ると瞳を輝かせた。
last updateÚltima atualização : 2026-10-19
Ler mais

457話

蘭が髙野辺のいるであろう方向に視線を向けたのは、無意識だった。 だが、向けた視線の先で髙野辺がじっともみじと坂崎を真顔で見つめているのを見て、蘭は口に含んでいたグラスの中身をごきゅり、と飲み込んだ。 蘭が見ている事に気が付いたのだろう。 髙野辺はさっと表情を変え、にこやかな笑みを浮かべて軽く会釈をする。 それに釣られて、蘭も引き攣った笑みを浮かべつつ、会釈を返した。 (おー……怖。大学生の男の子にも焼きもち……?髙野辺社長って、あんなクールな見た目なのに独占欲強いのね) 蘭は独りごつ。 髙野辺から視線を外し、再びもみじと坂崎の方へ視線を戻すと、2人は未だデザインの事で会話に花を咲かせている。 笑顔で自分の意見を交わしているが、デザイナーの感性は蘭には分からない。 しかも、もみじも坂崎もTKが主催するコンテストで受賞する程の実力の持ち主だ。 デザイン会社の社長を務める蘭だが、それでも2人が話している内容の半分も理解出来なかった。 もみじと坂崎が話していると、また別の招待客がもみじに近付いて来る。 「──玖渡川デザイナー」 「あっ、森田社長。こんばんは」 以前のパーティーで知り合った会社の社長だろうか。 もみじに話しかけてきた中年の男性は、もみじと軽く挨拶を交わすと、蘭と坂崎に顔を向けた。 「ええっと、そちらは……」 「紹介いたします、こちらは──」 もみじが蘭と坂崎をそれぞれ森田、と呼ばれた社長に紹介してくれる。 蘭も軽く挨拶をし、名刺を交換した。 どうやら森田は商品の販売、流通を手がけている会社の社長のようだった。 これは自分も縁を繋いでおきたい、と蘭は森田と積極的に話をする事にした。 もみじや坂崎から少し離れた場所で話をしている蘭を、もみじは穏やかな目で見つめていた。 「玖渡川さん?」 「え……?あっ、ごめんなさい、坂崎さん。どうしましたか?」 坂崎に話しかけられ、もみじははっとして坂崎に顔を向ける。 坂崎はもみじの視線の先にいる蘭を見つめつつ、答えた。 「玖渡川さんと、一ノ瀬さんは学生の頃からの友人だとお聞きしましたが……とても仲の良い友人なのですね」 「──ええ、そうですね。学生の頃は、蘭に沢山助けてもらったし、励ましてもらったり……。蘭が居てくれなかったら、私はデザイナーの道を諦めていたかもしれませ
last updateÚltima atualização : 2026-10-20
Ler mais

458話

猪谷 雅臣(いのた まさおみ)。 車の処理業者。 以前、もみじと髙野辺が会った処理業者で、彼は轢き逃げ事件とは無関係の業者だった。 猪谷から教えてもらった別の業者をあたった所、その業者が誠司の車を処理したのが分かったのだが、どうして彼がここに。 そんな疑問が、もみじの表情に浮かんでいたのだろう。 そして、髙野辺もまた少々困惑しているように見えた。 「もみじさん。彼が話したい事がある、と……。別室に移動しても構いませんか?」 「──話したいこと。……分かりました」 この場で話せない内容となれば、轢き逃げ事件についての事だろう。 それを察したもみじは、真剣な表情で頷いた。 そして、隣で困惑したように立っている坂崎に話しかける。 「すみません、坂崎さん。私と社長は……取引先の方と大事なお話があるので、ここで失礼しますね。またお話しましょう」 「え、ええ……分かりました」 有無を言わせぬ、何とも言えない雰囲気。 坂崎はもみじの言葉に、ただただ頷く事しか出来なかった。 ◇ 場所を移動し、とある一室。 パーティー会場からほんの少しだけ離れた場所に、休憩用に用意された一室があった。 そこに移動したもみじ達。室内に入るなり髙野辺が部屋の鍵を閉めた。 どこか、3人の間に流れる空気は緊張感を孕んでいてぴりっとしていた。 鍵を閉めた髙野辺が振り返り、猪谷に話しかける。 「──猪谷さん、どう言う事ですか?それに、どうやってこのパーティーに参加したんですか?招待状は?」 まさか偽装したのか?とまるで詰め寄るように猪谷に向かって矢継ぎ早に話す髙野辺。 猪谷は余裕の笑みを崩すことなく、答えた。 「ははは、落ち着いてください社長さん。私は別に後暗い手を使った訳ではありませんよ。大企業のパーティーに招待される企業と、我々は繋がりがある。以前、そう言った話をしたのを覚えておいでですか?」 「──ああ、ああ、確かに。そう言っていましたね」 猪谷の言葉に、髙野辺は前髪を掻き上げつつ答える。 どこか焦燥感を感じる髙野辺の様子に、もみじは彼に近付いてそっと腕に触れた。 「聖さん、落ち着いてください。……猪谷さんは、何かを教えてくれようとしているんではないでしょうか?」 もみじの言葉に髙野辺は一旦息を吐き出すと、改めて猪谷に向き直った。 「そうです
last updateÚltima atualização : 2026-10-20
Ler mais

459話

猪谷の言葉──忠告、だろう。 それを聞いたもみじと髙野辺の心臓が嫌に騒ぐのを自覚した。 髙野辺は深く息を吐き出すと、真っ直ぐ猪谷を見返して答えた。 「……ご忠告、痛み入ります。身辺には十分注意します」 「ええ、その方がいいでしょうな。……まあ、これ程の大企業の社長さんだ。あの連中もそう迂闊には手を出せないと思いますがね」 それより、と猪谷は自分の顎をゆっくり指で擦りながら零す。 「あの業者に車の処理を頼んだ依頼者の方が大変だと思いますよ」 じゃあ、伝えたい事は伝えたので。 そう告げると、猪谷はあっさり部屋を出て行ってしまった。 もみじも、髙野辺も。猪谷を引き止める暇もなく彼は足早に部屋を退出してしまった。 猪谷も、ある意味では危険を冒してここまでやって来たのかもしれない。 彼に様々な依頼を持って来るのは大企業の関係者や、政界の人間だと言っていた。 あまり派手に動くと、それらの人物の注目を集めてしまうだろう。 それにも関わらず、わざわざ忠告して来てくれた、と言う事は。 もみじは不安気に髙野辺を見た。 「聖さん。……猪谷さんの話が本当なら、新島社長……」 「ええ……」 髙野辺は何とも言えない複雑な表情でもって頷く。 「本当にあまり良くない人達が依頼者について調べているんでしょうね」 「──あっ!わ、私たち、あの車を引き取ってしまいました……!大丈夫なのでしょうか?」 「……彼にはこちらの身分を明かしていないので、大丈夫でしょう。それに、送金も足が付かない口座から送金しています。もし、こちらの正体が割れたとしても……」 ──自分に辿り着いたとしても。髙守を敵に回す、など面倒な事はしないだろう。 髙野辺は胸中で、そう呟いた。 ◇ 「──あっ、もみじに髙野辺社長!戻ってきた!」 もみじと髙野辺がパーティー会場に戻ると、蘭がぱっと明るい表情になり、2人に向かって手を上げた。 蘭の周りには取引先の社長が数名居て、彼らと談笑をしていたようだった。 彼らももみじと髙野辺が戻ってくると、嬉しそうに目を輝かせた。 「髙野辺社長!」 「玖渡川デザイナー!」 「ぜひお話を……!」 あっという間にもみじと髙野辺の周りには、沢山の招待客がやって来て、囲まれてしまった。 もみじはちらり、と髙野辺を見やる。 すると、髙野辺ももみじ
last updateÚltima atualização : 2026-10-21
Ler mais

460話

人の気配がない髙野辺の家は、静まり返り、ひんやりと寒かった。 電気を付けて回っていた髙野辺がぽつりと零す。 「最近はもみじさんのおじい様おばあ様の家に居る事が多かったから、家を放置しすぎたな……」 以前、車の処理業者を探している時。 一時的に髙野辺の家に帰宅した事はあれど、もみじは基本的に祖父母の家に。 髙野辺も、最近ではもみじと同じく祖父母の家に帰って来る事の方が多い。 以前は仕事が忙しく、こちらに戻ってくる事が多かったが、ここ数週間は髙野辺も家を空ける事が多かった。 「以前の家政婦さんを雇うか……それとも……」 「聖さん、暖房を付けてもいいですか?」 何か考え込んでいる髙野辺に、もみじはエアコンのリモコンを手に取りつつ声をかける。 すると、ハッとした髙野辺が慌てて頷いた。 暖房をつけて、暫し。 静かな部屋にエアコンの稼働音だけがする。 もみじと髙野辺は一先ず自分の部屋に向かい、着替えを済ませる事にした。 もみじが着替えを終えてリビングに戻って来ると、既に髙野辺が居て、キッチンで飲み物を用意してくれていた。 「もみじさん、ソファに座っててください。もうできるので」 「すみません、聖さん。ありがとうございます」 もみじが髙野辺の言葉に甘え、ソファに座る。 テレビを付けると、ちょうどニュースがやっていた。 国内外で発生した事件や、事故。 それらのニュースが報道されていたが、誠司が起こした轢き逃げ事件に関しては、ほんの欠片も表に出ていない。 テレビを見ていると、飲み物を持ってきてくれた髙野辺がもみじの隣に座る。 2人が黙ってテレビを観ていると、TKの新商品発売記念パーティーの事が軽く触れられた。 「今日のパーティー、報道されたんですね」 もみじが驚いた様子で隣の髙野辺を見ると、髙野辺は自分のスマホを確認していた。 スマホから顔を上げた髙野辺が、苦虫を噛み潰したような表情で低く唸る。 「ええ、数分前に連絡が来ていました。……今日のニュースで少しパーティー中について触れる、と」 髙野辺がスマホの画面を見せてくれて、もみじはそれを覗き込んだ。 自然と2人の距離が近くなり、お互いの肩が触れ合う。 「……本当ですね。ほとんど事後報告、みたいな感じですね」 「ええ、騙し討ちに遭ったようなものです。招待客は上手く隠してい
last updateÚltima atualização : 2026-10-22
Ler mais
ANTERIOR
1
...
434445464748
ESCANEIE O CÓDIGO PARA LER NO APP
DMCA.com Protection Status