「6億円賭けるわ。私と要が離婚することに」新井霞(あらい かすみ)が静かに賭け金を置くと、そばにいたカジノ責任者は冷や汗を流した。これは、令嬢たちが嫉妬まじりに暇つぶしで仕掛けた戯れにすぎなかったのに、まさかそのせいでこんな大物を怒らせてしまうとは、夢にも思わなかったのだ。新井要(あらい かなめ)が霞を骨の髄まで愛していて、霞のためなら命まで捨てかねないほどだということは、誰もが知っている。以前、霞が身をかがめたときに胸元を覗こうとした男がいた。その男は数日も経たずに交通事故に遭い、二度と光を見ることはなかったという。また、酒に酔ったふりをして彼女の腰に手を回した男もいた。翌日、その男の両手は勤め先の会社のドアに吊るされていたらしい。霞は孤児で、先天性の心臓病を抱えていたから、子どもも産めないし、激しい運動もできない。ましてや、要に男としての喜びを与えてあげることだってできなかった。それでも、要は霞をこれでもかというほど溺愛していた。だから霞の体を気遣い、要は決して関係を持とうとはしなかった。いつもキスやハグだけで終わらせて、自分は冷たいシャワーを何度も浴びていたそうだ。そんな要を見かねた親友が気を利かせて女をあてがったが、要はその女を布団ごと部屋から叩き出したという。さらには、親戚たちが子供を産むようどんなに必死に説得しても、彼の決意は変わらず、こう言い切ったのだ。「この生涯で俺が愛するのは霞だけだ。これ以上、彼女を諦めろと強要するなら、お前達の前で死んでやる」と。また、霞は表舞台に立つことをあまり好まなかったので、要はわざわざ霞とよく似た替え玉を用意し、面倒な場にはその女を代わりに行かせていた。……こんな幸せが永遠に続くと思っていた。しかし、ある事件が起きた。1年前、薬を盛られた要は替え玉の女を霞だと思い込んでしまい、関係を持ってしまったのだ。正気に戻った要は、霞の前で額を床に擦り付けた。さらには、ナイフで自らの胸に霞の名前を刻み、許しを求めたのだった。「霞、信じてくれ。あの時は薬のせいで、あの女をお前だと思い込んでしまったんだ。俺が愛しているのはお前だけだ。あの女はもう遠くに行かせる。二度と俺たちの前に現れないようにするから」霞は要の言葉を信じて許した。要に満足な夜の営みをして
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