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第6話

Author: 金色の宝物
それから間も無くして、霞の元に友達申請が届いた。

承認した途端、その相手からは要とのラブラブなやり取りが、何百件も送りつけられてきた。

夏美の気晴らしのためだけに、要は大事な契約を断り、映画や食事に付き添ったり、夏美が隣の市のスイーツが食べたいと何気なく言っただけで、要は夏美の笑顔のためだけに、車を何百キロも走らせて買いに行ったりしているようだ。

さらには、夏美のために自らキッチンに立って料理をし、手にやけどをしても、まったく気にしないらしい。

夏美が要のUSBを排水溝に落としてしまい、数百億円ものプロジェクトを台無しにした時だって、ベッドに押し倒して三日三晩ひどいことをしただけだった。

……

退院の日、霞が足を引きずりながら病院から出ると、すぐに要が駆け寄ってきた。

「霞、この間はわざと怒鳴ったり、置き去りにしたわけじゃないんだ。大勢の人が見てたし、夏美はお前のせいで怪我したからさ。あそこで夏美を放っておいたら、会社に悪影響が……」

霞は心の中で冷たく笑ったが、落ち着いた声で「大丈夫。仕事が大事なのはわかってるから」とだけ言った。

その言葉を聞いて、要はすっかり安心したようだった。

「お腹すいただろ。お前が行きたがってた、あの湖畔にあるレストランに行こう」

霞はこれ以上彼と関わりたくなかったが、結局は上手く言いくるめられ、無理やり車に乗せられてしまった。

ドアを開けると、自分の指定席であるはずの助手席に夏美が座っていた。

「霞さん……」夏美が霞の機嫌を伺うように、おそるおそる声をかけてきた。

要は思わず夏美を庇うように言い訳を始める。

「この前のことを夏美がずっと気にしててさ。俺たちの関係にひびが入いったら嫌だから、食事に誘ってお詫びしたいんだって」

必死に夏美をかばう要の姿は、ひどく滑稽に見えた。

結局、霞は何も言わず、静かに後部座席に乗り込んだ。

席に着くとすぐ、要は手慣れた様子でたくさんの料理を注文し始めた。

煮込みハンバーグに豚の角煮、それに麻婆豆腐。案の定、すべて夏美の好物ばかりだった。

霞の体では、油や塩分の多い食べ物は口にできない。要はそのことをずっと覚えていてくれたはずなのに、今ではすっかり忘れてしまったようだ。

立ちのぼる油の匂いで息が苦しくなり、霞は急いで席を外した。

新鮮な空気を吸い込むと、少しだけ不快感が和らぐ。

しかしそれも束の間、夏美が指をもじもじさせながら近づいてきて、気まずそうに口を開いた。

「霞さん。もしかして私のこと嫌いですか?なんだか、すごく冷たい気がして……」

「そんなことないわ。私はもともとこういう性格なの」霞は、なんとか笑顔を作った。

真実を知った今、夏美に対する憎しみはもうなく、心には虚しさだけが広がっていた。

すると夏美はぱっと顔を輝かせ、プラスチックビーズでできたお揃いのブレスレットを取り出して、霞の腕につけようとした。

「安心しました。私、嫌われてるのかと思っていました。

これ、私が作ったんですけど、お揃いなんですよ。気に入ってくれると嬉しいです」

しかし、その瞬間さっきの鼻をつく油の匂いが霞を襲う。

霞はとっさに身を引いた。その瞬間、振り払われたブレスレットが湖に落ちてしまった。

夏美はたちまち目を赤くする。

「霞さん、謝罪を受け入れてくれないのは全然気にしませんが、どうしてプレゼントまで捨てるんですか」

いつの間にか背後に立っていた要の顔は、氷のように冷え切っている。

「何をまた騒いでいるんだ?」

霞はとっさに言い返す。「違う、私はそんな……」

要は眉を顰めた。

「お前が無くしたんだろ。だったら自分で拾ってこい」

後ろにある湖は、岸に立っているだけで凍えるほど寒かった。

しかし、断る間もなく、霞は冷たい湖の中へと突き落とされた。

湖はそれほど深くなく、水は腰のあたりまでしかないし、それに夏だから、水もそこまで冷たいわけではなかった。

だが、彼女の体では冷たい水に触れることさえかなり厳しい物だった。だから、水の中に一秒いるだけ、それは拷問のように過酷なのだ。

すぐに霞の体はふらつき、今にも倒れそうになる。

なんとか岸までたどり着いたものの、ボディーガードに止められて上がらせてもらえなかった。

「社長のご命令です。橋本さんのブレスレットが見つかるまで、上がるな、と」

一人で湖に立ち尽くす霞は、胸が張り裂けるような思いだった。

霞は何度も息を止めては湖の底に潜り、2時間もかけてようやくブレスレットを見つけ出した。

その時の霞の顔は青ざめ、全身は焼けつくように熱く、今にも風に散ってしまいそうなほど儚かった。

その時、夏美を抱きかかえて出てくる要の姿が霞の目に映った。

「要さん、私は本当に大丈夫だよ。ちょっと擦りむいただけだから、平気……」

「だめだ、ちゃんと病院で診てもらおう。そうしないと俺が安心できないから」要の声には、明らかに焦りがにじんでいる。

要は夏美をそっと助手席に乗せると、エンジンをかけて走り去っていった。

最初から最後まで、視線を一度も霞に向けずに……

霞はふと昔のことを思い出した。

彼の家に引き取られて2年目のこと。要に動物園へ連れて行ってもらった時、暴れ出した動物が襲いかかってきた。

その時、要は躊躇うことなく自分の前に立ちはだかってくれた。

「大丈夫だよ、霞。俺がずっと守ってあげるから」

しかし今、彼が守ろうとしているのは、もう自分ではない。

心の中で張り詰めていた最後の糸が切れ、霞は力なく後ろに倒れた。

結局、また親切な通行人が霞を病院に運んでくれた。

……

病院に着いて分かったのだが、すべての医師が夏美の傷の処置のために呼び出されているというのだ。

その様子を見た看護師が、不憫に思ったのか声をかけてきた。

「申し訳ありません。医師は全員、新井社長の奥さんの診察にあたっておりまして……もしあれでしたら、新井社長に電話して先生を一人こちらに回してもらうようお願いしてみてはどうでしょうか?」

以前は、霞が少しでも体調を崩せば、要はどんなことよりも優先して、そばにいてくれたのに。

しかし今、要の愛情は全て、他の誰かに向けられている。

霞は十数回電話をかけたが、要が出ることはなかった。

絶望の淵で、霞は親友・木下陽菜(きのした ひな)の父親が退職したばかりの内科医だったことを思い出した。

「陽菜、私……」霞は声を振り絞る。「あなたのお父さんを連れてきてもらえないかな?早く……手術して……もう、だめ……」

そう言うと、霞は意識を失った。

再び目を覚ました時、手術はすでに終わっていた。

陽菜が心配そうに、泣きながらベッドのそばに座っている。「最近のこと、聞いたよ。要ってひどすぎるでしょ。人の心変わりって、どうしてこうも早いんだろ?」

霞は陽菜を見て、虚しい気持ちになりながらも声をかけた。

「泣かないで。もう踏ん切りはついたから」

しばらくして、泣き止んだ陽菜が尋ねてきた。「本当にいいの?外国に行って、もう二度と帰ってこなくて……」

「うん。もう二度と帰ってこないよ」

その時、要が突然現れた。要の声は、これまでにないほど狼狽していた。

「誰が二度と帰ってこないって?」
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