ゴッ、という鈍い衝撃音。 男の白目が剥かれ、膝から崩れ落ちる。「次」 千隼の声は、これ以上ないほど冷え切っていた。 彼は私の前を歩きながら、次々と現れる影を排除していく。 関節を蹴り折り、掌底で顎を打ち抜き、呼吸を奪う。 だが、その一撃一歩には、以前のような「自分が壊れても構わない」という自暴自棄な狂気はなかった。 私を背後に感じ、私の視線を受け止めながら、自らも生きて隣に立つための、研ぎ澄まされた計算と抑制。「若頭、右の監視塔が動きました!」「鬼瓦、任せる」「へいよッ!」 鬼瓦たちが側面から突入し、センサーの死角を突いて制圧を進める。 私は千隼のジャケットの裾を軽く握りながら、荒い息を整えて進んだ。 腹部の痛みが波のように押し寄せ、視界がときおり白く明滅する。 けれど、握りしめた手のひらに伝わる彼の体温だけが、私をこの現実に繋ぎ止めていた。 防爆ゲートが、千隼の放った蹴り一発で歪み、重い金属音を立てて開く。 その先にあるエントランスホールに足を踏み入れた瞬間、肌に触れる空気の質が劇的に変わった。「……っ」 鼻腔を突いたのは、濃密な花の匂い。 それも、生きている花ではない。 線香の煙と、乾燥した百合、そして……どこか防虫剤のような、保存のための薬剤の匂い。 外の山道の土臭さが嘘のように、そこは完璧に無菌化され、静止した空間だった。 千隼の歩みが止まる。 彼の三白眼が、険しく細められた。「……気色が悪い」 千隼が吐き捨てるように呟くのも無理はなかった。 磨き上げられた大理石の床。高い天井から吊るされた、体温を感じさせない蒼白いLEDのシャンデリア。 そして壁一面に、整然と並べられた「額縁」の数々。 私は千隼の腕を離し、ふらつく足取りで壁に近づいた。 そこには、母の写真があった。 二十年以上前の古いものから、死ぬ直前のやつれた
Leer más