白粉の匂いが、鼻腔の奥に冷たく張り付いている。 鏡台の前に座る姿勢を保つだけで、下腹部の奥から焼け焦げるような痛みが這い上がってきた。 絹が擦れる微かな音。着付けの女性が、背後に回り込み、黒留袖の帯をきつく締め上げる。「……っ」 奥歯を噛み締め、喉の奥にせり上がりそうになった呻き声を飲み込む。 縫合されたばかりの傷口に、固い帯の縁が容赦なく食い込んでいる。呼吸を浅くしなければ、痛みのあまり視界が白く飛んでしまいそうだった。 動ける服ではない。けれど、これは戦闘服ではなく、王として立つための喪服であり、礼装だった。 背中に刺繍された「下り藤」の家紋が、ずしりと重い質量を持って肩にのしかかる。「……そこまででいい。下がれ」 部屋の隅から、低い声が落ちた。 着付けの女性がビクッと肩を跳ねさせ、慌てて一礼して襖の向こうへと消えていく。 硬い足音が、背後からゆっくりと近づいてきた。 鏡越しに視線が交差する。 黒の紋付羽織袴に身を包んだ千隼。 右肩から胸にかけて分厚いテーピングが巻かれているはずだが、羽織の直線的なシルエットがそれを見事に隠し、彼の巨大な体躯に威圧的なまでの鋭さを与えていた。 彼は私の背後に立つと、帯の結び目にそっと両手を添えた。 ゴツゴツとした指先が、絹の生地越しに私の背骨に触れる。「……少し、緩めますか」 頭上から降ってくる息遣いが、私のうなじを微かに温めた。「駄目よ。……これが、久遠の形なんだから」「ですが、額に冷や汗が浮いています。……俺の腕の中で、お座りさせて運びましょうか」「馬鹿なこと言わないで。……私は、自分の足で歩くわ」 鏡の中の自分を見つめる。 血の気のない青白い肌に、紅く引かれた唇。数ヶ月前、初めてこの黒留袖を着せられ、ただ恐怖に震えていた「お飾り」の少女は、もうそこにはいない。「行きま
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