息を呑む間もなかった。 不来方玄が、床の縁に身を投げ出し、自らのステッキを放り投げて、崩れ落ちようとする千隼の左腕を、骨ばった両手で力任せに掴み上げたのだ。「……っ、ぐ……!」 老人の口から、血の混じった唾液が飛ぶ。 蒼白だった皮膚の下で、細い腕の血管がちぎれんばかりに隆起している。 這いつくばったまま、千隼のジャケットの襟元を両手で力任せに掴む。 重い。九十キロ近い筋肉の塊が、肩と腹部の傷を容赦なく引っ張る。「上がって、千隼!」 千隼のブーツの先が、砕けたコンクリートの断面を蹴る。 ズリ、と。 不来方の革靴が床を滑り、老人の身体ごと裂け目へと引きずり込まれそうになる。だが、その細い指は決して千隼の腕を離さなかった。 老人の額から噴き出した脂汗が、千隼の顔に落ちる。 ギリギリと骨が軋む音が、爆発の地鳴りに混じって響く。 千隼の背中の筋肉が極限まで収縮し、腕の力と蹴り上げる反動で、その巨体が縁を乗り越えて床に転がり込んだ。 ドサッ、と重い肉が床に叩きつけられる。 息を整える間もなかった。 頭上で、耳を劈くような金属の破断音が轟いた。 見上げると、重厚なシャンデリアを吊るしていた天井の太いコンクリートの梁が、爆発の振動に耐えきれず真っ二つに折れ曲がっている。 メキメキと音を立て、数百キロの質量が、這いつくばる位置へと向かって落下してくる。 千隼が、右肩の激痛に顔を歪めながらも、覆い被さろうと身体を反転させる。 遅い。間に合わない。 その時、濃紺のスーツの影が視界を横切った。 ドンッ! 凄まじい衝撃が真横からぶつかる。 息が詰まる。千隼ごと、部屋の隅の壁際へと強引に突き飛ばされたのだ。 背中が書棚の残骸に激突する。 直後。 ズガァァァァンッ!! 床を叩き割る轟音。舞い上がる白い粉塵が、視界を完全に奪った。 口の中に石膏の粉が入り込み、激しく咳き込む。「&h
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