Alle Kapitel von 氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜: Kapitel 111 – Kapitel 120

179 Kapitel

111話

「何故公爵のラウルが?」「フェガリの習わしで、貴族も王族も月に1回は農業の手伝いをして、食べ物のありがたみを再確認するんだよ。予定表が組まれていてね、今日は僕の番なんだ」 畑仕事は病み上がりの人間には酷な仕事だろう。オネストが止めるのも頷ける。だが、これほどまでに農業を尊重している国なら、この公務はかなり重要だ。この公務にラウルが出なかったら、評判が落ちる可能性が高いのも、察しがつく。国王を目指しているラウルにとって、これは大損害だ。「見張りも兼ねて、私がついて行く。だから、行かせてあげて」「ソニア様は、またラウル様が倒れられてもいいとおっしゃるのですか?」 想像以上に過保護なオネストに笑いそうになるのをぐっと堪える。ラウルはというと、オネストから自分の顔は見えないからと、笑いを堪えるカミリアを見てニヤニヤしている。(あなたのために言ってるの!) 心の中でラウルを叱ると、オネストに向き合った。「畑仕事を休んだら、ラウルの評判が下がるんじゃない? 厳しいことを言うようだけど、ラウルが体調を崩していたなんて、国民には関係のないことなんだから。本当にラウルを思うなら、公務に行かせるべきよ。私が無理しないように見張ってるから、公務に行かせてあげて」 オネストは難しい顔をして唸る。どうやらカミリアの説得はだいぶ響いているようだ。「いいじゃないですか、オネストさん。ラウル様が心配なのは分かりますけど、もう子供じゃないんですから」「そうよ、オネスト。それに、ソニア様がついて行ってくれるなら安心じゃない」 サージュとルナが後押ししてくれる。オネストは咳払いをして、ルナを睨みつけた。「ルナ、主人達の前では私語を控えなさい」 ルナを叱責するが、考えは更に揺らいでいるらしく、眉間に皺が寄っている。きっとあとひと押しだ。だが、カミリアは言うべきことをすべて言ってしまった。ふたりが更に畳み掛けてくれることを祈る。
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112話

「こんなに素晴らしい婚約者と優秀な執事であるあなたが付き添うのに、何を心配することがあるんですか。それに、愛の力は偉大なのですよ」「そうですよ。ふたりの愛は確かです。それはオネストもよくご存知でしょう?」 叱責されたばかりのルナは、敬語で訴えかける。カミリアはむず痒い気持ちでふたりの言葉を聞いた。(嬉しいんだけど、話の方向ズレてない? それに、ルナは私がラウルの婚約者じゃないって知ってるのに……) ラウルを見ると、彼は口元を覆って肩を震わせていた。使用人達がいなければ、1発殴っていたところだ。 気を取り直してオネストを見ると、彼は諦めたようにため息をついた。「分かりました、ソニア様にお任せします。私も同行したいところですが、他の仕事がありますので……。ソニア様、ラウル様が無理をしようものなら、引きずってでも連れて帰ってください」「えぇ、もちろん」 オネストににっこり笑いかけて頷くと、ラウルはつまらなそうな顔をした。(さっきまで私達が苦労して説得してたのを笑ってたんだから、これくらいいいでしょ?) カミリアは一瞬だけ意地の悪い笑みをラウルに見せると、何食わぬ顔で食事を再開させた。 午後、ふたりは馬車に揺られてのどかな田舎町に到着した。田舎町と言ってもほとんどが畑で、家は視界に1軒あるかないかだ。 馬車は2階建ての立派な家の前で停まった。馬車から降りると、優しそうな老夫婦が出迎えてくれた。「マルティネス公爵様、お待ちしておりました。そちらの女性は、恋人ですか?」 老婦人は、あたたかい眼差しをカミリアに向ける。カミリアが自己紹介をしようとすると、ラウルに肩を抱かれた。「えぇ、こちらは婚約者のソニアです」「まぁ、婚約者でしたの。公爵様もついにご結婚なさるのですね。こんな田舎まで、遥々ご足労いただき、ありがとうございます。私はクレアと申します」「ソニアです。今日はよろしくお願いします」 クレアと名乗った女性は、握手をしようと手を差し出す。カミリアは皺だらけのその手を包み込むように握った。彼女の手はとてもあたたかく、どこか懐かしさを感じる手だった。
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113話

「ばあさんばかり喋ってずるいぞ。ソニア様、わしはヘンリーといいます。今日1日、よろしくお願いします」「こちらこそよろしくお願いします、ヘンリーさん」 今度はヘンリーと握手をする。クレアと同じく皺だらけであたたかい手をしているが、彼の手は骨ばってたくましい手だった。「ソニアはどこに行っても人気者だね。ヘンリー、今日の仕事は?」 ラウルが仕事について質問をすると、ヘンリーは思い出したようにあぁ、と声を出す。「今日は種の選別と、畑を耕すのを手伝ってもらおうと思っています。ささ、こっちへ」 ふたりについていくと、お手製の大きなテーブルの上で作業をしている女性が5,6人ほどいた。近くに建っている小屋からは、若い男ふたりが鍬を担いで出てきて、近場から畑を耕し始めた。「皆、マルティネス公爵様が綺麗な奥様を連れてお見えになったぞ」 ヘンリーの奥さんという言葉に、彼女達は立ち上がってこちらに駆け寄ってくる。先程までは帽子をかぶってうつむいていたので顔は見えなかったが、15歳くらいの少女から、80代くらいの老婆までいた。「まぁ、本当に綺麗な奥様だこと」「さぁさぁ、こちらへどうぞ。一緒に種を選別しましょう、奥様」 彼女達は目を輝かせながら、カミリアの腕を引いたり背中を押したりする。カミリアはいつの間にか妻にされたことや、彼女達の歓迎に苦笑しながらも、やんわりと彼女達の手を解いた。「皆さん初めまして。ラウル・マルティネス公爵様の婚約者、ソニアです。私は畑を耕すので、皆さんはラウル様に種の選別を教えてあげてください」 そう言ってラウルの手を引くと、彼女達に押し付けるように背中を押した。ラウルは驚いてカミリアに振り返る。カミリアはにこやかに手を振る。「待ってよソニア。君に力仕事をさせるわけにはいかない」「病み上がりなんだから、無理をしないって約束でしょう? 私はラウル様が心配なんです。どうしても畑を耕すというのなら、お屋敷に連れて帰りますからね」 慣れない言葉遣いに違和感を覚えながら、ラウルを牽制する。ラウルは項垂れ、彼らはラウルを茶化しだした。
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114話

「公爵様、もう尻に敷かれてるのかい」「歳下に見えるけど、姉さん女房なんだねぇ」「けど、お似合いだよ」 貴族と農民の距離の近さに驚くのと同時に、彼らの目にどんなに理想的なカップルに見られても、ラウルと夫婦になることはないという事実に、寂しさを覚える。(どうしてこんな気持ちになるの? 私はシャムスとフェガリの交友関係をよくするための任務を遂行しているだけ。ラウルとそういう仲になることなんて、最初から望んでないじゃない) 心の中で自分に言い聞かせると、ヘンリーに向き直る。「流石にお嬢さんみたいな華奢な女の子に、畑を耕させるわけにはいきませんよ」 もう20歳を越えているのに、女の子と呼ばれてむず痒い気持ちになる。だが、ヘンリーからすればカミリアは孫と大差ないのだろうと思うと、妙に納得してしまうから不思議だ。「大丈夫ですよ。私は名家の令嬢といっても、田舎に住んでたんです。その頃は猟銃で動物を狩っていました。なので、鍬くらい平気ですよ」「ははっ、それは頼もしい。では、お願いします。疲れたらすぐに言ってくださいよ」 ヘンリーは物置小屋から2本の鍬を持ってくると、1本をカミリアに渡した。鍬はレイピアやサーベルとはまた違った重みがある。「さぁ、こっちです」 ヘンリーに案内されたのは、雑草が生えた広大な土地だ。これでは作物を育てるなど不可能だろう。「見ての通り、うちの畑は広いですからね。収穫したら、種を蒔くまでこうして放ったらかしになるんですよ。ここ一帯を、雑草ごと耕して欲しいんです」「雑草は抜かないんですか?」「一緒に耕せば、しつこい雑草も生えようがないですからね。そのまま枯れて肥料になるんです」「そうなんですね。分かりました。けど、どこから耕せばいいんですか?」 カミリアは広大な土地を見渡した。こういった作業は端からやりたくなるが、端というものが見つからない。せめて目印でもあればいいのだが、それもなかった。
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115話

「好きなところから、好きなように耕してください。もう少ししたら、若い衆が来て手伝ってくれますから」 ヘンリーは鍬の使い方を教えると、少し離れたところから耕しはじめた。カミリアも今自分がいるところから、ヘンリーが耕しているのと同じ方向へ耕していく。 5mも耕すと、30代くらいの男性がふたり来て、カミリアのすぐ近くを耕し出す。「あんた、公爵様の婚約者なんだって? 細っこいのに、病み上がりの公爵様に代わってこんな力仕事をするなんて、公爵様のことがよっぽど大事なんだね」 反射的に「そんなことない」と言いそうになるのをグッと堪えると、男性に笑顔を向けた。そして自分はラウルの婚約者なのだと、自分に言い聞かせる。「はい。ラウル様は、私を田舎町から連れ出して、素敵な思い出と愛をくださいましたから」 こんな時のためにと、夜な夜な読んでいた恋愛小説を応用して答える。疑われないか心配していたが、男性は涙ぐんで、首にかけていたタオルで目を覆った。「なんていい話なんだ……。公爵様ならきっと幸せにしてくれるさ」「え、えぇ、そうですね。ありがとうございます」 まさか泣かれるとは思っておらず、少しだけ罪悪感を覚える。だが今はラウルの婚約者として振る舞わなければいけない。婚約者としては正解だと自分に言い聞かせながら、彼らに話を合わせる。 時折休憩を挟みながら、夕方まで畑を耕した。最初は途方もないと思っていたが、あの後農夫達が7,8人ほど来たおかげで、半分近く耕せた。 剣を振るうのとは勝手は違ったが、久方ぶりに思いっきり身体を動かせて、気分がいい。運動特有の疲労感も、爽快だ。「公爵様、ソニア様、ありがとうございました。これはほんのお礼です」 ヘンリーは籠いっぱいの野菜を差し出した。ラウルは野菜を受け取ると、ヘンリーと別れの握手をする。「こちらこそ、ありがとう。フェガリの国民が美味しい野菜を食べられるのは、あなた方のおかげです。これからもフェガリの食を支えてください」 ヘンリーは一瞬目を見開くと、大粒の涙をボロボロ零した。首にかけていた泥だらけのタオルで、顔を覆う。
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116話

「私からも、お礼を言わせてください。あたたかく出迎えてくださった上に、丁寧に仕事を教えてくださって、ありがとうございました。頂いたお野菜は大事に食べさせていただきます。どうかお元気で」 ヘンリーは嗚咽を上げながら、何度も頷いた。後から集まってきた農民達も、目を潤ませている。「名残惜しいけど、そろそろ行こうか」「はい」 ラウルにエスコートされて馬車に乗ると、彼らに見送られながら馬車に揺られた。「今日は君のおかげで身体が楽だったよ。ありがとう、カミリア。とっておきのご褒美をあげようね」 どんなご褒美か聞こうとしてラウルを見上げると、額にキスを落とされる。柔らかな熱に、顔が熱くなる。「そこそこ慣れてきたと思ったんだけど」「こんなこと、慣れるわけありません!」「敬語」 ラウルに敬語を指摘され、ムスッとすると、ラウルは笑った。カミリアもつられて笑う。「ちゃんとしたご褒美用意してあるから、今夜楽しみにしてて」「ご褒美って?」「それは夜になってからのお楽しみだよ」 ラウルはそう言ってイタズラっぽく笑う。経験上、この笑みを浮かべたラウルは、何を聞いても教えてくれない。カミリアは夜を待つことにした。 カミリアは最初、いつもより豪勢な夕食かデザートかと思ったが、どちらも普通だった。湯浴みの時もいつもと変わらず、肩透かしを喰らった気分になる。 自室に戻ると、部屋の前には見慣れない女性がいた。「初めまして、ソニア様。私はアンジュと申します。ソニア様を癒やしに来ました」「癒やすって、いったい……」「オイルマッサージをさせていただこうと思いまして」 アンジュの手には、オイルやタオルなど、マッサージに必要なものが抱えられていた。正直マッサージは必要ないように思うが、ラウルとアンジュの厚意を無下にしてはいけないと思い、アンジュを部屋に招き入れた。
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117話

「では後ろを向いていますので、服を脱いでベッドでうつ伏せになってください。このタオルをかけて、身体を隠してくださいね」 アンジュに大きめのタオルを渡される。いくらタオルで隠せるといっても、人の前で裸になって背中を向けるのは抵抗があった。だが、そんなワガママを言っては、ふたりの厚意が無駄になってしまう。 カミリアはネグリジェを脱いでうつ伏せになると、おしりを隠すようにタオルをかけ、アンジュに声をかける。「では、施術を始めていきます。痛いところがあったら、我慢せずに言ってくださいね」「はい」 アンジュはタオルの位置を直すと、手にオイルを馴染ませてからカミリアの背中をほぐしていく。オイルはとてもいい香りがして、アンジュの手のぬくもりも、絶妙な力加減も心地がいい。 強烈な睡魔に襲われ、カミリアはいつの間にか眠ってしまった。 翌朝、目が覚めるとカミリアはベッドで掛け布団をかけて横たわっていた。ネグリジェもちゃんと着ている。「私、あのまま眠ったの?」 思い返してみるも、自分でネグリジェを着たり、ベッドに入った記憶はない。きっとアンジュがやってくれたのだろう。申し訳無さと恥ずかしさで、顔が熱くなる。 水差しの水を飲むと、身支度を整えて食堂へ行く。 食堂にはすでにラウルが座っていた。彼はカミリアの顔を見るなり、穏やかな笑みを浮かべる。「昨日はどうだった?」「とてもよかったのだけど、いつの間にか眠ってしまって……。アンジュさん、呆れ返ったりしてなければいいのだけど」「それなら心配ないよ。ソニアは感じのいい人だったって言ってたしね」 これでアンジュが怒ったり呆れ返ったりしていないことは分かったが、恥ずかしさは拭えない。「アンジュが気に入ったのなら、またそのうち頼んであげるよ。さぁ、ごはんにしよう」 ラウルに言われ、朝食を食べ始めた。 昨日から交流パーティ前日まで、カミリアは勉強と公務の手伝いをする日々が続いた。午前中は公務の手伝い。午後は勉強。勉強が終わった後でも、ラウルが忙しそうにしていれば、彼の手伝いをした。 怒涛の日々に追われ、交流パーティを4日後に控えた日の昼下がり、カミリアはラウルに中庭に呼ばれていた。
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118話

 中庭に来るのは久方ぶりだった。ラウルの姿はない。カミリアは中庭を縁取るように咲き乱れる花々を眺めて待つことにした。中庭には何度も来ているが、こうして花を愛でるのは初めてだ。色とりどりの花が咲いているが、中でもカミリアの目を引いたのは、黄色い小ぶりの花だ。この花は鐘のような形をしており、とても愛らしい。「可愛い花……」 目を細めて黄色い花を愛でていると、足音が聞こえた。顔を上げなくても、誰か分かる。「お待たせ、カミリア。その花が気に入ったかい?」 ラウルはいつもの穏やかで優しい笑みを浮かべ、カミリアの隣にしゃがみこむ。「外で私の本名呼んでもいいの?」「今屋敷にいるのは、僕達とオネスト、ルナの4人だからね。他の使用人は外に買い出しに行ったり、用事を済ませにいってるよ」 いくら事情を知っている人しかいないとはいえ、外で本名を呼ばれるのは落ち着かない。いつ誰が帰ってくるか分からないというものあるが、ラウルの命を狙っている者が、息を殺して屋敷に忍び込んでるかもしれない。「怖い顔してどうしたの?」「外で本名を呼ばれるのは、落ち着かないの」「分かったよ、ソニア」 ラウルはカミリアお偽名を呼びながら、鐘のような黄色い花に触れる。花に話しかけているように見えて、少し滑稽だ。「ソニアっていう名前は、この花から取ったんだよ」「この花、ソニアっていうのね」「いや、サンダーソニアっていうんだ。花言葉は祈り、福音、信頼、そして純粋な愛。そうそう、意地っ張りっていうのもあったね。カミリアにぴったりだと思って、この花から命名したんだよ」「最後のは聞かなかったことにする」 カミリアが一瞬だけ眉間に皺を寄せると、ラウルはそういうところだよと笑う。「そんなことより、どうしてここに呼んだの?」「向こうで話そうか」 ラウルはベンチを指さす。ベンチに並んで座ると、カミリアの膝に長方形の箱が置かれた。箱は紺色で、四隅には銀の装飾が施されている。シンプルだが、品のある美しい箱だ。
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119話

「この箱は?」「交友パーティで使う仮面だよ。それは君の分。開けてみて」 言われたとおりに開けると、紺色のマスカレードマスクが入っていた。右側には蝶の銀装飾が施されており、マスク本体をよく見ると、サンダーソニアが彫られていた。「綺麗だけど、何故仮面を? 交友パーティって、仮面舞踏会なの?」 カミリアはマスカレードマスクを箱に戻しながら聞く。ダンスの練習をさせられていたことから、舞踏会だろうと予想していたが、仮面舞踏会とは思わなかった。交友を目的にしているというのに、わざわざ仮面をつけるのも、おかしな話だ。「あぁ、仮面舞踏会だよ。交友パーティといっても、互いに不信感があるからね。だからこそ、仮面で正体を隠すのさ。相手の顔が見えなければ、よっぽどの知り合いでもない限り、フェガリ人かシャムス人か分からないからね」 カミリアはこの理由に納得した。フェガリ人のことはよく知らないが、シャムス人の陰湿さはよく知っている。きっと普通の舞踏会だったら、シャムス人はフェガリ人と踊るのを避けただろう。避けるならまだしも、あえて一緒に踊って、後で仲間達と馬鹿にするのは、目に浮かぶ。「けど、これは表向きの理由。本当は誰が誰だか分からなくして、暗殺を食い止めるため。それと、シャムスの騎士団長と副団長がその場にいることを誤魔化すため」 暗殺という重い言葉に、気が引き締まる。自分がそういった輩からラウルを守るためにいるのだと、改めて実感した。「私はともかく、ラウルはそんなにシャムスの貴族に知られてないと……」 彼が貴族の護衛をする際、彼らに気に入られていたことを思い出す。特に女性人気は凄まじかった。「是非とも私の専属騎士になってほしい」という女性が大勢いて、中には宿舎や訓練所に押しかける者もいた。 女性人気は、単にラウルが美丈夫だからというだけではない。彼は女性達の服や装飾品のこだわり、美貌などを褒めちぎり、細かいところまで気遣っていたのだ。護衛というより、エスコートと言ったほうがしっくり来る。
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120話

 男性貴族達のこともとことん褒めちぎり、彼らの気を良くする言葉を並べ立てた。そのため、ラウルに護衛された貴族のほとんどが、彼の顔を覚えている。「この人たらし」「酷い言い様だね。僕は真面目に仕事してただけなのに」 ラウルはふてくされるが、真面目に仕事をしていたら、女性達が宿舎などに押しかけてくることはない。護衛任務はあくまでも護衛対象を守る仕事であって、褒めちぎることは仕事ではないのだから。「護衛任務の後にも行ったけど、私達は彼らを護衛していればいいの」「厳しいなぁ……」 そう言ってラウルは苦笑する。きっと反省はしていないだろう。(困った団長だわ……) カミリアはうんざりしてため息をつく。「ねぇ、ラウル。聞きたいことがあるんだけど、いい?」「なんでも聞いて」「養生中、私に色々教えてくれたでしょう? 今までどんな風に生きてきたかとか、シャムスに復讐を考えていることとか。どうして私に話そうと思ったの?」 ラウルは一瞬目を丸くすると、慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。笑っているはずなのに、どこか泣きそうにも見えて、胸が締め付けられる。「好きな女性には、自分のことを知ってもらいたいんだ。他に理由なんてないよ」 返答に困っていると、ラウルは立ち上がって伸びをした。「サボれるのはこれが限度かな。そろそろ公務に戻らなくちゃ。そうそう、明日はドレスが届くはずだよ。楽しみだね」 ラウルは一方的に言うと、屋敷の中に戻っていった。 自分が何も言わないことによって、ラウルを傷つけてしまった。そんな気がしてならないが、どう答えればよかったのか、見当もつかない。「私も、戻らないと……」 カミリアも屋敷に戻り、勉学に励むことにした。 誰もいなくなった中庭では、サンダーソニアがそよ風に揺れていた。
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