Alle Kapitel von 氷の戦乙女は人たらし公爵に溺愛される〜甘く淫らに溶かされて〜: Kapitel 101 – Kapitel 110

179 Kapitel

101話

 本を読んだり剣の手入れをしたりするが、どうにも落ち着かない。頭の中がラウルでいっぱいだ。「はぁ……」 盛大なため息をつき、ベッドに横たわる。ラウルが無理をしていたのは、騎士団に入ってからではない。きっと物心つく前から無理をしていたのだろう。彼がどんな人生を歩んできたのかは知らないが、そんな気がした。カミリアも酷な人生を送ってきたが、ラウルはそれ以上に酷な人生を送ってきたはずだ。だからこそ、彼はどこまでも優しく、強く在るのだろう。 誰かがドアをノックし、思考が止まる。起き上がって返事をすると、オネストが入ってきた。「どうしたの?」「貴女に聞きたいことがあります。貴女がここに来る前、ラウル様はシャムスに行って、貴女と会っていたのではありませんか?」 鋭い質問と視線に、言葉が詰まる。ラウルは今までシャムスの騎士団長であることを、彼らに隠していた。きっとラウルなりの考えがあってそうしていたのだろう。それを自分が話してしまっていいのだろうか? 真実を話して、彼らがラウルをどう思うだろう? そう考えると、何も言えない。「貴女を責めているわけではありません。貴女なら、何か知っていると思って訊ねたのです」 オネストはそう言って笑みを浮かべるが、とてもぎこちない。まるで今笑うのが初めてのようだ。「えぇ、ラウルは確かにシャムスに来ていましたが……」 サウラと会っていたことにしようとしたが、そしたら何故自分と知り合いなのか説明するのに困ってしまう。サウラは騎士団のことを気にかけてはいるが、騎士団長と王子は身分の差が離れすぎているし、自分が彼と親しい間柄と嘘をつくのは気が引ける。 どう答えるか悩んでいると、オネストが笑った。今度は自然な笑みだ。「ラウル様は、騎士団に入団されたのではないですか?」 隠していたことを言われ、カミリアは目を丸くする。オネストは困った人だと呆れ返る。「何故、分かったんですか?」「あの方は大人しそうに見えて、突拍子のないことを平然とやってのける方ですから」 団長であることを隠しても無駄だろうと悟ったカミリアは、観念して洗いざらい話した。オネストは相槌を打って大人しく聞いてくれた。
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102話

 全て話し終えると、オネストは苦笑した。昨日は鉄仮面のような顔をしていたが、この短時間で、彼の人間らしい表情をいくつも見ることができた。「貴女も大変でしたね。話してくださって、ありがとうございます。このことは誰にも言いませんので、ご安心ください」「ありがとう」「いえ、こちらこそ。サージュにはこちらから言っておきますので、カミリア様もしばらくお休みください。では、失礼致します」 オネストは恭しく一礼すると、部屋を出た。 この日、カミリアはルナに頼んで自室で昼食を食べた。広い食堂でひとりで食事をするのは味気ない。こんな時くらい、落ち着ける自室で食べたかった。 食事が終わると少しだけ気持ちが落ち着いてきて、2時過ぎまで読書をして過ごした。 2時半を回ると、カミリアはラウルの部屋を訪ねる。ラウルはベッドに腰掛け、オネストと話をしていた。「いらっしゃい、カミリア。オネストから話を聞いたよ。苦労をかけたね」「苦労なんて言うほどではないわ」「頼もしいね。オネスト、カミリアとふたりで話したいから、退室してもらっていいかな?」「……かしこまりました。カミリア様、ラウル様に無理をさせないようにしてください。いいですね?」 オネストは念を押すと、渋々部屋を出ていった。「オネストは僕が小さい頃からいるから、過保護になってるんだ」「オネストって何歳なの? 私達より10歳くらいしか変わらないように見えるけど……」「35かそこらじゃないかな。僕が子供の頃、自害をしようとしているオネストを見つけて家に連れて帰ったんだ」 とんでもないことを平然と言うラウルに、カミリアの思考が止まる。オネストは10歳前後歳下のラウルに声をかけられ、自殺を止めたことになる。絶望しきって死のうとしている時に子供に声をかけられ、簡単に自殺を止めるとは思えない。いったいどんな言葉をかけたのだろう?
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103話

「ルナがお茶とお菓子を持ってきてくれるから、それが届いてから話そう。はやく来てくれるといいんだけど……」 そう言ってラウルはお腹をさする。ラウルに食欲があることに安堵するのと同時に、昨日ぐったりしていたとは思えない回復力に感服する。いくら優れた薬を飲んだとはいえ、常人ではここまではやく回復することはないだろう。「食欲があるようでよかった」「野菜スープかリゾットしか食べさせてくれないんだ。オネストは、僕を重篤患者か何かと勘違いしているらしい」 やれやれと肩をすくめるラウルに、カミリアは苦笑する。昨日自力で歩けなかったのだから、オネストが消化のいいものを食べさせようとするのは、当然だろう。 ドアがノックされ、ラウルが返事をするとドアが開く。ルナはケーキスタンドやティーポットを乗せたワゴンを押して入室すると、テーブルにケーキスタンドを置き、紅茶を淹れてくれる。ティーポットをケーキスタンドの隣に置くと、一礼して部屋を出た。「さっそくいただこうか」 そう言ってラウルはテーブルセットへ向かう。その足取りは、朝よりもしっかりしていた。 ラウルはソファに座るなり、カミリアのティーカップを自分の隣に置く。「こっちに座って」「しょうがないわね」 カミリアが隣に座ると、ラウルは顔を綻ばせ、マドレーヌに手を伸ばす。紅茶を飲みながらひとつ食べ終えると、身体をカミリアに向けた。「空腹が和らいだところで話そうか。僕の両親の、禁断の恋物語を」 そう前置きをすると、ラウルは叔父から聞いたという両親の話を始めた。 ラウルの母はシャムス人、父はフェガリ人だった。ふたりが出会ったのは、国境にある森の中。薬師の手伝いをしていた母は薬草を採りに、狩人だった父は、動物を狩りに行った。 薬草採りに夢中になっていた母は、フェガリに入国していた。そんな母のすぐ近くに父が撃ち落とした鳥が落ち、彼女は悲鳴を上げて倒れた。父が母の悲鳴を聞いて駆けつけると、彼女は足をひねって動けずにいた。そんな彼女を連れ帰って手当をしたのが、ふたりの出会いだった。
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104話

 父の家で話をしていると意気投合し、お互いに何人か知らないまま恋に落ちた。愛する人が敵国の民だと知っても、愛してしまったら関係ない。 ふたりは出会った森で逢瀬を繰り返したが、母には政略結婚をしなければならない相手いる。父はそのことを知り、母にフェガリで暮らすように言うが。家族のために政略結婚を受け入れた母は、時折こうして逢瀬することを望んだ。その頃、母のお腹の中には既にラウルがいたが、婚約者との子供ということにするつもりだった。 だが、ブロンドである母と婚約者の間に産まれたとされるラウルの髪はミルクティー色だった。前々から母の不貞疑っていた婚約者は、母を通報した。不貞取締専門の自警団は母をつけ、森の中で逢瀬する両親を捕えた。ふたりは磔にされ、ラウルは顔に焼印を押される寸前、父方の叔父に助けられた。だが本当にギリギリだったため、顔は逃れたものの、右の鎖骨下に押されてしまった。「顔じゃなくてここだったのが救いだと思ってるよ」 そう言ってラウルは焼印を見せた。三日月の焼印に、カミリアは顔をしかめる。シャムスでは三日月は不完全なもの、刃物にも見えることから危険分子という意味もある。そんなものを罪のない赤子に焼き付けるのは、どう考えてもおかしい。「こんなの、おかしい……」「そうだね。だからこそ、僕とサウラで手を組んで、シャムスとフェガリを変えていくんだよ」 ラウルの声音は優しいものの、力強さが感じられた。それぞれの国の風習に苦しんだふたりだからこそ、両国をいい方向へ変えていってくれる。カミリアはそう確信していた。「このことを知ってる人は、叔父様以外にいないの? そういえば、叔父様にはまだ会ってないのだけど……」「叔父はこの国の騎士団長だったんだけど、ずっと前に病死してしまったんだ」「知らなかったとはいえ、ごめんなさい……」「いいんだ、気にしないで。叔父が亡くなった時は悲しかったけど、今は賑やかに暮らしてるから楽しいよ。それに、叔父が病死でよかったって、心の底から思ってるよ」「どういうこと?」 不謹慎にも聞こえる発言に、カミリアはまじまじとラウルを見つめる。カミリアの視線に、ラウルは困ったように笑う。
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105話

「別に、叔父が死んでよかったっていう意味ではないよ? 戦死とかじゃなくてよかったって意味。戦争や討伐で死んでたら、遺体は悲惨な状態になるだろうからね。もしかしたら、その場に放置せざるを得ない状況になるかもしれない。それに、出向いた先で死なれたら、死に目に会えないからね。悲しくはあったけど、看取れてよかったと思ってるよ」 ラウルの話を聞き、自分の勘違いが恥ずかしくなる。いくらラウルが変わり者だからって、そんな不謹慎なことを考えるはずがないと、反省をする。「そうそう、さっきの質問だけど、この焼印を知ってるのは、君とオネストだけだよ。彼は僕の世話係だからね」「他に知ってる人がいるのなら、よかった。うまく言えないけど、そんなに重いものを独りで抱えていたらって思うと、とても悲しいというか……、辛いじゃない? 知ってる人がいても辛いでしょうけど、それでも、理解者は必要だと思うの」 ラウルは一瞬目を見開いたかと思うと、カミリアを抱きしめた。何故抱きしめられたのか分からずに困惑していると、ラウルの笑い声が聞こえた。「ありがとう、カミリア。君は本当に強くて優しい女性だ。大好きだよ」「そういうことは、簡単に言わないでくださいっ!」 あまりにもストレートな言葉と行動に、顔どころか、身体中が熱くなる。どうしようか考えていると、ラウルの笑い声が鼓膜を震わせる。「久しぶりに聞いたよ、カミリアの敬語」「あ……」 敬語を指摘されただけで、再び羞恥が襲ってくる。恥ずかしいことではないのだが、軽くパニックを起こした頭は、羞恥と捉えてしまう。「あははっ、顔真っ赤。可愛いね」「話が終わりなら、部屋に戻る」 恥ずかしさのあまり立ち上がろうとすると、腕を掴まれてしまう。「待って。話は終わってないよ」 カミリアは渋々座り直すと、冷めた紅茶を飲んで深呼吸する。落ち着いてくると、敬語を指摘されただけで恥ずかしくなった自分に呆れ返った。
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106話

「話を続けても?」「どうぞ」 カミリアが促すと、ラウルも紅茶を飲んでから口を開いた。「さっきも言ったけど、叔父は当時、フェガリの騎士団だった。その頃の騎士団は、シャムスほどではないけど強かったんだ。僕は物心つく前から剣を握らされたよ。6歳の頃に両親やシャムスの話を聞かされ、シャムスを憎んだ。その憎しみを糧に、僕は死ぬ気で剣技を磨き、必死に勉強をした」 まだ始まったばかりだというのに、あまりにも壮絶なラウルの過去に、カミリアは言葉を失う。あの現実を6歳が受け入れられるとは到底思えない。「ある程度強くなると、国境の森経由でシャムスに連れて行かれたんだ。フェガリには凶悪な魔物はほとんどいないからね。文字通り命がけで魔物を倒して、強くなっていった。前にカミリアの方が強いと言ったのを覚えてるかい?」「えぇ、もちろん。あの答えには納得してないから」 カミリアの言葉に、ラウルは苦笑する。「もう1度言うけど、あれは嫌味とかじゃない。本当にそう思ったんだ。僕のは死ぬのが怖い。だから魔物だけでなく、死の恐怖とも戦って強くなった。けど、君は捨て身で戦っているように見えた。少なくとも、僕にはできない戦い方だ。そういった意味では、カミリアの方がずっと強いよ」 ラウルに言われ、戦場にいる時のことを思い返す。カミリアは時と場合によっては、肉を切らせて骨を断つ戦い方をする。その証拠に、使用人からもらった傷消しのクリームで消えない大きな傷がいくつもある。「死の恐怖と戦うこともある種の強さだわ」「……ははっ、この話をすると結論が出ないね。話を戻すけど、僕は叔父から話を聞いてから、シャムスを滅ぼすことばかり考えていた。けど、14歳の頃にサウラと出会って、その考えが変わったんだ」「14歳って、まだ子供じゃない。どうやってサウラ王子と会えたの?」 驚きのあまり話の腰を折る。いくらなんでも話が飛躍し過ぎだ。
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107話

「僕は10歳で騎士団に入団して、14歳で貴族に昇格したエリートだからね。ちょうどその頃、シャムスとの敵対関係が緩和し始めた頃だったんだ。シャムスはどうかは知らないけど、フェガリ側はシャムスとの関係を改善しようとしていた。当時、サウラと歳が近い貴族は僕だけだったから、外交に連れて行かれたんだ。僕もサウラも当時は子供だけど、近い将来国を担う者だからね。ま、僕は可能性の話だけど。それでも期待されているのはひしひしと伝わっていたよ」 目を細めて懐かしそうに話すラウルだが、貴族になるまで血の滲むような努力をしてきたのだろう。聞いているだけで胸が締め付けられる。「本当に壮絶な人生ね……」「まぁね。けど、僕の人生が楽しくなるのは、この後から」 ラウルは楽しそうに言うが、本当にそうなのか疑問だった。以前オネストも言っていたが、ラウルは大人しそうな顔をしてとんでもないことを平然とやってのける。そんな超人の楽しいことは、本当に楽しいことなのだろうか?「サウラからシャムスの話を改めて聞いて、考えが変わったんだ。この狂った国を変えることの方が、潰すよりも復讐になるんじゃないかってね。サウラはその悪巧みに乗ってくれたよ。それから僕達は、文通をする仲になったんだ」「シャムスを変えるって、あなたが言い出したのね。てっきり、サウラ王子だと思っていたわ」「言い出したのは僕だけど、サウラも変えようと思っていたみたいだよ。僕も加わって大人になっていって、フェガリも変えていこうってなったんだ」 楽しそうに言うラウルだが、やはり常人には理解しがたいと思う。もしカミリアがラウルの立場なら、サウラから話を聞いても、シャムスを滅ぼそうと思うかもしれない。自国の王子ですら、黒髪だからと笑う国民に、可能性を見出だせると考えられない気がする。
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108話

「文通や外交でサウラからも色々学んで、こうして時期国王最有力候補にまで成り上がったんだ。本当に長かったよ。はやく良くなって、公務に戻らないとね。じゃないとあっという間に最有力候補の座を奪われてしまう」(私でも、ラウルの力になれればいいんだけど……) ラウルの話を聞き、彼の力になりたいと心の底から思った。だが、無理をしてほしくない。矛盾しているかもしれないが、これがカミリアの本音だ。「ラウル、私に公務を手伝わせて」「え?」 力強い眼差しで見つめてくるカミリアを、ラウルはキョトンとした目で見つめ返す。「私に出来ることなんて、たかが知れてるかもしれない。けど、手伝わせてほしいの」「気持ちは嬉しいけど、カミリアは学ぶべきことがたくさんあるんじゃない?」「それなら大丈夫。ダンス以外はサージュさんに太鼓判を押してもらえたから。それに、あなたが無理をし過ぎないように見張るのも、護衛の仕事なんじゃないかしら?」 反論させまいとするカミリアに、ラウルは苦笑して肩をすくめた。「まったく、君には敵わないな」「それじゃあ、手伝いをさせてくれるのね?」 目を輝かせるカミリアに、ラウルは苦笑しながら頷く。子供っぽいことをしてしまったと思うも、ラウルを手伝える嬉しさが勝り、羞恥が消えていく。「それにしても、意外だね。ダンスが苦手だなんて。運動神経がいいから、すぐに覚えると思ったんだけど」「ステップの順番は頭に入ってるんだけど、サージュさんとの身長差のせいか、うまく踊れないのよね……」 サージュとの練習を思い出し、カミリアは苦笑をする。男性に身を預ける気持ちでと習い、サージュが男性役をして練習するのだが、どうしても彼女に身を預けようとは思えない。そのせいか、互いに足を踏んでしまうなんてしょっちゅうだ。「女性と踊るのと、男性と踊るのとはまた違うだろうからね。サージュ女史は君より小さいから、余計に難しく感じるのかな。良くなったら、練習に付き合うよ」「いいの?」「僕がこうして寝ている間に、オネストがいくつか仕事を片付けてくれたからね。彼は本当に優秀な執事だよ」 そう言ってラウルは誇らしげに笑う。正反対なふたりだが、そこには確かな絆があるのだと、改めて感じた。
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109話

 それから2日間、ラウルは任せられる公務をオネストに任せて養生した。カミリアはナイフの稽古をする時間にラウルの話し相手になり、それ以外の時間は勉強に勤しんだ。 倒れてから5日目の朝、ラウルはようやく食堂に姿を現した。過保護なオネストが無理やり寝かせていたおかげか、顔色もすっかりよくなっている。「おはよう、ソニア。君と食べるのは久しぶりだね」「おはよう、ラウル。元気になってくれてよかった」 それはソニアとしてではなく、カミリア自身の本音だった。一時はどうなるかと思ったが、またこうして一緒に食事をできることが、素直に嬉しい。「今日はナイフの稽古をしている時間にダンスを見てあげるよ」「ありがとう」 笑顔でお礼を言うものの、不安が拭いきれない。あんなに踊れなかったのに、相手が変わるだけで踊れるようになるのか、甚だ疑問だった。 朝食が終わると、ふたりはカミリアの部屋に行く。練習のために置かれた蓄音機でワルツを流すと、ラウルはカミリアの右手を握り、左手を彼女の腰に手を添える。今までにない近距離に緊張してしまい、固まってしまう。「ほら、僕の肩に手を置いて」「えぇ……」 言われたとおりに空いている左手をラウルの肩に置くと、彼の合図でステップを踏み始める。すぐにラウルの足を踏んでしまうのではないかと心配したが、杞憂だった。 ラウルのリードで、思うようにステップが踏める。今思えばサージュはあまりにも小柄だったため、歩幅も小さく、彼女の足を踏まないようにすることに気を取られていて、基本通りに動けなかった。「なんだ、上手じゃないか」「自分がこんなに踊れるなんて、思ってもみなかったわ。ダンスってこんなに楽しいのね」 嬉しくなってラウルを見上げると、想像していたよりも近くに彼の顔があった。カミリアは照れて赤くなった顔を見せまいと、顔をそらす。
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110話

(また初心だって笑われてしまいそう) 耳元に、ラウルの唇が近づけられるのを、気配で感じる。からかわれることを覚悟して、言い返す言葉を必死で考える。「他の男と踊った時に、そんな素振りを見せてはいけないよ」「え?」 独占欲とも取れる囁きに、胸が高鳴る。驚いてラウルを見ると、彼は見たことない、妖しい笑みを浮かべていた。「まぁ、他の男と踊らせる気はないんだけどね」 どういう意味なのか聞きたかったが、聞く勇気がない。聞いてしまったら、後戻りできない。そんな気がして口を噤む。 カミリアはラウルの妖艶な笑みに魅了され、曲が終わるまで見つめ合いながら踊った。 ダンスの練習は昼食の時間になるまで続いた。ふたりはそれぞれの部屋で着替えをすると、食堂へ行く。 カミリアの後ろにはいつもどおり、ルナとサージュがいるが、ラウルの後ろにいるはずのオネストがいない。「オネストは?」「すぐに来ると思うよ」 ラウルは気にする素振りすら見せず、食事を始めた。大事な執事がいないのにそれでいいのかと言いたいところだが、自分が口出しをしていいことではないと思い、カミリアも渋々食事を始める。 前菜を食べ終える頃、オネストはようやく食堂に来た。いつも不機嫌そうな顔をしているが、今日はいつにも増して不機嫌そうだ。「食事中申し訳ありません。午後の公務ですが、お休みになられてはいかがですか? 回復したとはいえ、病み上がりなのですから」「いいや、絶対に行くよ」 穏やかな声音で言うが、強い眼光から、強い意志が感じられる。「いったいどんな公務なの?」「畑仕事ですよ」 オネストは苦虫を噛み潰したような顔で答える。何故、国王最有力候補であるマルティネス公爵ともあろう人物が、公務で畑仕事をするのか、理解できない。確かにこの国は農業を大事にしているが、役に立たないと判断された貴族や囚人がするのだから、現役貴族がする必要もない。それがカミリアの見解だ。
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