百九 舞台上では母らしき人物に再会し、思い悩む浦島マモルと石山病院に長期入院中の小野フミカが交流している。コミカルな演技に客席に笑い声が上がっていて、自分のことのようにナベは嬉しくなった。ナベの背中に触れるものがあり、振り返ると裕子がいた。指でつつかれたようだった。城田マイ役の裕子は出番が少ないので、わりと暇を持て余しているのだろう。「ナベ、がんばれ〜」 ささやく裕子の声援に、ナベは二の腕の力こぶを作って応えた。すこしだけ緊張が和らぐ。裕子に笑顔を見せ、出番が近いので舞台袖で準備をする。 浦島マモルを病院で雇った後、浦島は真面目に働いて入院代を稼ぎ、いまも病院で働いている。入院代の返済が終わってから貯金をし、病院暮らしをやめて一人暮らしをしている。 結城スズから、浦島マモルと付き合っているという話を聞いたときは驚いたが、幸せになれるといいと願っていた。「やあ、こんにちは。僕は浦島マモルっていうんだ。イセポちゃん、よろしくね」「ヨロシク、マモルおじさん!」「イセポちゃん、いいかい?僕はマモルお兄さんだよ!」 照明が切り替わるのを合図に小野フミカが舞台を降り、ナベが舞台に上がる。いまは病院で昼の休憩を取っているところだ。「石山先生」「浦島くん。お疲れ様」「あの、ちょっといいですか?」「うん、なんだい?」「フミカちゃんのことなんですけど、その、何の病気で入院してるのかとか、聞いちゃってもいいですか?」 以前、浦島にフミカのことを気にかけてほしいと頼んでいたが、なにか進展でもあったのだろうか。「それは守秘義務があるからね、答えてあげることはできないな。仲良くなってくれたのかい?」「そうですね、少しは心を開いてくれたと思います」「そうか、ありがとう」「……誰にも言わないって約束してくれるかい?」 昨日のゲネでは、次のセリフをナベは間違えた。大丈夫、何度も台本を読み返した。いけるはずだ。という思考は石山はしない。雑念が混じっている。集中しろ。体が固い。指先に汗が滲む。
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