Todos os capítulos de 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編: Capítulo 141 - Capítulo 150

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第百三十八話

百三十八「まず歴史調停局員たちがタクヤに説明する場面なんですけど、リヒトの長ゼリフがなんていうのかなあ。読んでる感じに聞こえる。人がしゃべってるんじゃなくてなんだろう、説明書を読み聞かせてるように聞こえるから、もっと自分の言葉にしてください」「はい」 瞳がデカにダメ出しをしている中、ナベはセリフの暗記が不完全だったと反省していた。「マーサはいいですね。セリフも入っててちゃんと自分の言葉で話してるように聞こえます。『タクヤさんには、まだ正しい歴史の記憶が残っているでしょう?』はちょっと表情が冷たいかなって思いました」「ごめんなさい、ちょっとタクヤのセリフが棒読みでイラッ……えーと。素が出ちゃいました」 裕子の言葉がナベの胸にチクリと刺さる。ほんの少し胃の辺りが締め付けられるのを感じた。「めんぼくない。がんばります」「はい。がんばってください」 あたりのきつさとよそよそしさはナベの気のせいなのかそうではないのか、判断がつかなかった。「タクヤはねー。……うーん。短いセリフは比較的マシなんだけど、長いセリフになるとセリフを思い出しながらしゃべってるのがわかるから、ちょっとまだ台本見ながら稽古してもらわないと、ダメ出しできない」「了解っす」 セリフを覚えなければならないが、演出を受けるのも大事だ。演出するレベルにない、というのは耳に痛かった。「あのさー」 裕子の少し不機嫌そうな声に、ナベは何か言われるのかと身構えて続きを待つ。「ダメ出しできないのもそうなんだけど、私もタクヤの心を受け取れないから、なんとかして。これじゃ自主練やってんのと変わんない」 稽古場の空気が固まる。裕子の言葉にナベの頭の中は白くなった。指先が冷たい。「……ごめん。直す」 ナベはやっとそれだけ言うことができた。「……はい、じゃあ続きから行きまーす」 ナベは台本を見ながら立ち読み稽古を再開した
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第百三十九話

百三十九 ナベは集中していたので不意をつかれた。振り返ると、裕子が立っていた。「自主練?」 裕子は私服でリュックを背負っていた。なぜこんなところにいるのかとナベは焦る。「……うん、そうだよ。そっちは?」「レポートやった帰り。図書館から歩いてきたら、知ってるセリフが聞こえたから」 たしかにこの教室は図書館からそう離れていない場所にあった。けれどおそらく図書館まで声は届かないだろう。「そうなんだ」「ここ借りたの?」「うん」「誰か呼んで一緒にやったほうが効率いいんじゃないの?」 実際その時間はほしいと考えていた。だが。「いや……まだそのレベルじゃないから、そうなるまで稽古しようと思って」「それでも一緒に稽古したい人いるかもしれないじゃん」「まあ、そうかもしれないけど……迷惑かけるかもって思って」「それ、聞かなきゃわかんないじゃん」 まだ一人でやる段階だとナベは考えていたが、裕子にとっては違うのだろうか。「その発想が出てこなかったよ」 裕子はふう、とため息をついた。「ナベっていっつも自分のことだけだよね。いいよ、わたし時間あるからナベ以外のセリフ読んであげるよ」 ナベは人の迷惑を考えて一人稽古をしようと決めたので、自分のことだけという意味がわからなかった。「……え、いいの?」「ナベがちゃんとできなきゃ全体が困るでしょ」「……ありがとう」「じゃあやるよ。何時まで借りてるの?」「六時までだよ」 いまは午後二時を過ぎたところだ。「どこの稽古するの?」 裕子はリュックから台本を出した。ナベもそうだが、裕子も稽古がなくても台本を持ち歩いているらしい。次はよりにもよってシーン3からだった。どうしてもこういう余計な思考が入ってしまうのは集中が切れて
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第百四十話

百四十 裕子はナベの人生の中でいちばん距離が近づいた存在だった。けれどナベは裕子の恋人として何かを与えることができたかというと、そうではない。どうすればよかったのかはわからないが、間違っていたことだけはわかる。せめて誠実に応えようと心を決めた。「……推測できることはある。僕はね。人の感情がよくわからないんだ。大学に入ってからは楽しかったからだいぶ笑うようになったけど。中学から高校卒業まで、ほぼ表情を変えずに過ごしてきたと思う。それは、やっぱり……中学生の頃にいじめにあったからだろうね」 ナベの一人称はふだん外向けに取り繕っている「俺」から自分の素である「僕」に変わっていたが、ナベは気づいていない。目を開けているが、ナベの瞳には何も映っていない。裕子は黙って聞いている。「人格を否定される言葉を浴び続けていたから、僕は自分を守るために何も感じないことにしたんだ。僕は自分の中に引きこもって、人に見せる僕の姿は自分の中から自分の体も感情も操ってるイメージ」「それは、いつも人前で演じてるってこと?」 裕子の戸惑っているような声が遠くから聞こえる。ナベは水の中にいるような感じがした。現実は少し息苦しい。「……なんていうかな。僕には現実の実感がないんだ。テレビのライブ映像をずっと見てる感じ。自分で自分を操ってるけど、その結果を受け取るのは自分じゃないみたいな。行動の結果を受け取るのが自分じゃなければ、僕は傷つかないから」「……演劇研究会でも、ずっとそうだったの?」 その言葉で、ナベの目は裕子の姿を捉えた。「ううん。演劇を始めてからは、ずっと楽しかったよ。いつのまにか、そうだな。演劇の楽しさを感じたくて僕は表に出てきてたみたいだ。だからその、人の感情を受け取ったり自分の感情を伝えたりすることにまだ慣れてないんだと思う」 ナベはもう何も隠すことはないか、と解放された気分だった。だから続きを告白する。「……それに、裕子ちゃんに『付き合わない?』って言われたとき、
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第百四十一話

百四十一「今日はありがとう。すごい練習になったよ」 ナベは笑顔で裕子に礼を述べた。今日まで裕子に感じていた緊張感や罪悪感は薄くなっている。「ううん。わたしが協力したかったからしたんだよ」 裕子は済ませておきたい用事があるらしい。まだあと一時間教室を借りているので自主練を続けられる。裕子と一緒に帰りたい気持ちが湧いてきたが、我慢した。ナベの満足できるレベルに達していなかったからだ。だが、その気持ちがナベの中にあることに安堵した反面、悔しくもあった。ナベにとって大事なものが何か、はっきりさせたくなかったらしい。「俺はもう少し稽古やってく」「がんばってよ」「うん、ありがとう」「みんなのためだからね」「うん、わかってる」 裕子の後ろ姿を見送り、ナベは稽古を再開する。心の在りようは体にも影響するらしい。時間ぎりぎりまで集中して稽古をすることができた。 本番まで残り一ヶ月になった。ナベはバイト先の店長から、シフトの変更を認めてもらうことができたので稽古への参加率が上がった。台本の暗記はほぼ終わり、稽古中に感情を乗せてもあまりセリフが飛ばなくなった。台本を持たずに舞台に立っても感情を乗せることができるようになった。と言うと少し語弊がある。乗せている感情がナベ自身のものだと信じられるようになった。これは裕子がナベにかけた言葉の影響だろう。ナベにとっては順調に稽古が進んでいると言ってよかった。「まゆ、ちょっといい?」 稽古の開始前、ナベは部室のテーブルで何か書いていたまゆに話しかける。「俺最近、大道具の方にぜんぜん顔出せてないけど、順調に進んでる?っていうか、土日に大道具作業とかやったほうが良ければ参加するけど、どんな感じ?」「んー、そうですね。いまのところ問題ないですよ」「そう?必要だったらちゃんと言ってよ」「はい、困ったら頼りますよ」「できれば困りそうになった時に頼ってもらったほうがいいな」「そうですね、その時はお願いします」 大道具も問題なさそうなので、ナベは安心する。とりあえず何か言われるま
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第百四十二話

百四十二 本番一週間前の土曜日、仕込みの日を迎えた。結局、ナベはあまり手伝うことはなかったが大道具は問題なく完成していた。もう少し手伝っても良かったと複雑な気分だったが、後輩が立派に成長した証拠なのでよしとした。 天井の照明吊りは舞監の山口と、また留年して三度目の四年生になったブラザーが担当した。ナベは足で脚立を移動させていた田中を思い出し、少しだけ感傷に浸った。「田中さんがいないとなんか仕込みって感じしないわぁ」「わかるー。物足りないよねー」 裕子と照明のコロがナベと似た感想を言い合っていた。「惜しい人を亡くしたわ」「裕子ちゃん、卒業しただけだよ」「俺も同じこと思ってました」 ナベも照明の仕込み待ちだったので会話に加わる。「惜しい人を亡くしたって?ひどいわー」「じゃなくて。足で脚立動かしてた田中さんが懐かしいなーって」 裕子の軽口にナベが返す。「危なかったよねー、あれ。いっつも見ててハラハラしたよー」 コロも懐かしそうな顔をする。「照明終わりー」 脚立から山口が降りてくる。「はーい、それじゃあ大道具の準備始めてくださーい」 山口の動きを見て舞監助手の彩子が指示を飛ばしている。一年で演出助手と舞監助手という責任重大なポストをこなしている彩子は将来部長になるかもしれない、とナベは知る機会がなさそうな未来を思い描いた。「あらら、みんな働いてる。わたしも仕事しなきゃ」 同じく舞監助手の裕子はそう言いながら歩いていく。「俺もあんまり手伝えてない大道具やるかー」「なんかみんな先輩になったねー」 余裕のある様子の裕子とナベにコロはそんな感想を持ったみたいだが、後輩が成長したおかげだろうな、とナベは思う。 演劇研究会のメンバーで完成した大道具のパネルとタイムマシンを多目的ホールへ運ぶ。タイムマシンはふだん作らないものなので、手伝いが必要かとナベは考えていたが、まゆが言うには「形が珍しいだけで、パネルを作るのとあんまり
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第百四十三話

百四十三 木曜日にはゲネが行われた。大きな失敗はなかったが、ナベにはそれが逆に不安を感じさせた。本番で気を緩ませてしまうのではないかと怖くなる。けれど心配しすぎて新人公演のときのように寝不足になるのは本末転倒だ。睡眠をコントロールするのは苦手だったが、本番初日の金曜日、ナベはすっきりと目覚めることができた。調子は良さそうだった。 本番までの時間を、最初から最後まで繰り返し通して自分の調子を確かめる。途中、多目的ホールに来た共演者と部分的にシーンを通して合わせたりして過ごした。開場時間が近づき、ナベは客席に座って生協で買ったうどんを食べ始める。食べ慣れていて可もなく不可もなかったが、消化が良く体に影響しなさそうなのでこういうのがちょうどよかった。緊張でしっかりしたものを食べる気にならなかったというのもある。「いやー、緊張するー」 一年のしょうたが落ち着かない様子でサンドイッチを食べていた。いまは客席で夕食をとっている部員が何人か集まっている。「しょうたは初舞台だっけ?」 カップラーメンをすすっているガジンがしょうたに尋ねる。「はいそうです。俺が演劇始めたの大学からなんで」「大学から演劇始めたのってどのくらいいるんだろうね?」 部長の理恵がだれともなしに問いかける。「大学から演劇始めた人ー」 ガジンが挙手を促すと、その場にいた瞳とデカとしょうた、それとナベも手を挙げた。「へー、そうなんだ」 うんうん、と理恵は頷く。そして会話がぴたりとやんだ。「……え、それだけ?」「え、なにが?」 ガジンのツッコミに理恵は戸惑った顔をする。「いや、なんか演劇初心者に向けたありがたい言葉とか期待しちゃうじゃん」「ないよそんなの。ただの興味」「そこは部長の金言が欲しかったですよ」 ペットボトルのコーヒー牛乳を飲んでいたデカが残念がる。「部長は関係ないでしょー。それに、そういうのは瞳ちゃんが言ってくれるよ。演出だし」「わたしも演出初め
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第百四十四話

百四十四「おっはようございまーす!ちょっともう、最悪なんだけど!授業長引きそうだったから『遅刻遅刻〜』って言いながら途中で出てきちゃった。少女漫画じゃないつーの」 開場三十分前、裕子が元気に現れた。「ちょ、やめてよ裕子ちゃん。いまメイク中なんだから笑わせないでよ」 ナベのメイクをしていた由美が手を止めた。前髪を両手で上げたままだったナベは少し腕がつかれたので下ろしていいのかな、まあいいかと思いつつ腕を下ろす。「危ない。危ないよー。失敗してないよね?」 由美にメイクをされていたナベがつぶやきつつ、一緒に笑っている。裕子は賑やかに自分の準備を始めた。 開場十分前、一通り準備が終わり、部員たちは輪になって集まっていた。「えー、はい。いよいよ初日を迎えました。私は初めての演出で、いろいろこう、ダメなところはいっぱいあったと思うんですけど、ついてきてくれてありがとうございました」「え?待って、瞳ちゃん死ぬの?」 理恵が本気で心配している演技をしたので、笑いが起こる。「ちーがーう!もう、なんだっけ。あのね、みんなダメな私の予想を超えて成長してくれたので、いつも通りやってくれれば大丈夫です。たくさん稽古した自分を信じてください」「瞳ちゃんはダメなんかじゃないよ」「ありがとう、理恵ちゃん」「二人はしんゆーぅ」 ガジンが妙なイントネーションで瞳と理恵を茶化すとまた笑いが起きた。「お客さん第一号並んでまーす」 受付から山口が戻ってきた。「それじゃ、円陣やります」 瞳がそう言うと、瞳を中心にして全員が集まった。「成功させるぞー!」『おー!』 全員で声を合わせ、ナベも気合が入る。「よろしくおねがいしまあーす!」 昂る気持ちのまま、ナベは挨拶して舞台袖に入った。他の役者たちも口々に気合を入れる。「開場しまーす!」 舞台袖で待機していたナベの耳に山口の声が届く。多目的ホール内に客入れ曲が流れ始める。
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第百四十五話

百四十五「もったいぶんじゃねえよ、タクヤ」 しょうたは稽古期間中にずいぶん上達した。棒読みだったセリフが人間味を帯びている。「まあ、待てって。そんな急かすなよ。ここまでこぎつけるまで本当に長かったんだけど、じつはさ……」 ナベは第一声を上げる。声は安定して出ている。嗄れてもいない。「じつは?」 しょうたがナベに期待するような、馬鹿にするような表情を向ける。「じつは——なんだっけ」 本当に次のセリフを忘れるように意識すると、忘れた感じがうまく伝わるようなのでそうしている。だが、本当に忘れてしまう可能性もあるので気を抜けない。「おまえ、いいかげんにしろよ!」 怒った顔のしょうたを見ながら、頭の中で必死にセリフを思い出す。大丈夫。いつも通り思い出せるはずだ。「いや……え?あれ?本当に……大事なことだったはずなんだけど……」「そういうのいいから」 ナベは無事にセリフを思い出す。同時にその感情を忘れていたシノブの記憶を思い出した感情にすり替える。「悪いフトシ、今日は早退する。会社には適当に言っといて」「は?おいタクヤ、なん……えぇー……」 ナベはシノブのもとへ駆けつけるために走り出す。同時にジン役のガジンとシノブ役のみさきが舞台に上がる。舞台袖で二人の姿を眺めながら、同時にシノブの勤務先へ急ぐ自分を頭の中に描く。「シノブさん、そろそろランチの時間だね。少し早いけど、混み始める前に入っちゃおうよ」「うん、そうだね。あ、ここよさそう」 知らない男と仲よさげにしているシノブの姿を見つけたタクヤは話しかけに行くことができない。「シノブ……」 タクヤは仲良く話している二人をなすすべなく見つめていたが、ふいに男の方と目が合ったような気がした。男の顔
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第百四十六話

百四十六 照明が変化し、リヒトとマーサが舞台からはけてタクヤはシノブの方へ歩いていく。過去にタクヤがシノブにプロポーズをするため、会っていた場面だ。「シノブ、会社の方はどうなの?世界を変える発明をしてるとか言ってたけど」 タクヤはシノブと会話をしつつ、実は上の空だった。プロポーズを切り出すタイミングをいつにするか、そればかり考えている。「わたしは開発部じゃないから詳しいことは教えてもらえないっていうか、知ってても公表されるまで会社の外には言えないのよ」 上の空でいて不機嫌になられては本末転倒なので、タクヤは会話に集中しようとする。「うん、守秘義務があるよね。でも世界を変えるって、そんなすごい発明が日本で進んでるとはね」 「そうなの。前に話してたニカイドウくんが話せる範囲で教えてくれるの。わたしたちと同じ大学だったんだけど、本当に覚えてない?」 同じ大学の男がシノブの会社にいて仲良くしているのは、あまりおもしろくなかった。「うーん、ニカイドウねえ。そんな大層な苗字だったら覚えてそうだけど。大学って人数多いからなあ。人の少ない授業とかゼミとかサークルが同じじゃないと知る機会がないよ」 よく知らない男のために自分が不機嫌になるのももったいない。いまシノブと話しているのはタクヤだ。タクヤはもう、切り出すことにした。「そうかもね」 タクヤは腹をくくる。それでも自信なんてなかった。ただ自分の本心を伝えることに心を砕いた。「……ええと、シノブ」 「なあに?」 「俺は世界を変えることはできないけど、シノブの人生を変えたい」 考えていたプロポーズの言葉とは別のものになったが、シノブとの会話の中で思いついた素直な言葉だった。胸ポケットから指輪を取り出す。「タクヤくん……」 シノブは本当に嬉しそうな顔をする。タクヤは成功を確信し、喜びが溢れてくる。「俺と一緒に生きてくれますか?」 湧き上がる笑顔とともに、そうプロポーズする。「……はい」 タクヤはシノブの
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第百四十七話

百四十七「……歴史改変の犯罪認知件数は増加の一途を辿っている」 リヒトとマーサによる世界観の説明が終わり、ジンとその同僚の会話が始まる。「ついに完成したな、ジン」「ああ、やったな」 舞台上ではジンが同僚の目を盗み、タイムマシンの情報を手に入れた。次はタクヤの大学生時代のシーンだ。シノブのことが気になり、デートに誘おうとしている。ナベの体はよく動いている。緊張はしているがこわばってはいない。やはり今日は調子がいい、と思い込んで意識をタクヤに切り替える。「……僕だ。……ああ、そうだ。手に入れた。タイムマシンの設計データだ」 タクヤはシノブとともに歩き出す。ナベは実際には裕子をデートに誘ったことはなかったが、もしタイムマシンが本当にあるのならデートに誘いたかった。だからその願望を感情に乗せる。「コザクラさん、このあと授業ある?」「ううん、今日はもう終わりだよ」「そうなんだ、良かった」 いまならデートに誘えるかもしれない。「なにが?」 断られるのが怖い。自分を否定されるのが怖い。それでも、その気持ちに負けてしまったら自分を信じてもらうことができない。「実はさ、これ」「それ、観たいって言ってた映画のチケット!」 一歩踏み出したら、あとは勝手に進んでいけた。「一緒に行かない?」「行く!マシマくん、ありがとう!」 良かった。タクヤが受け入れられたのか、映画が受け入れられたのかはわからないが、拒否はされなかった。とりあえずいまはそれでいい。「いやいや、たまたまだよ……やった!」「マシマくん?」「あ、なんでもない」 タクヤとシノブがデートの約束をしている様子をジンが陰から見ている。照明とともにシーンが変わる。タクヤはタイムマシンの裏を通り、パーカーを脱いで裏に置いて出てきた。「……そういった
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