百三十八「まず歴史調停局員たちがタクヤに説明する場面なんですけど、リヒトの長ゼリフがなんていうのかなあ。読んでる感じに聞こえる。人がしゃべってるんじゃなくてなんだろう、説明書を読み聞かせてるように聞こえるから、もっと自分の言葉にしてください」「はい」 瞳がデカにダメ出しをしている中、ナベはセリフの暗記が不完全だったと反省していた。「マーサはいいですね。セリフも入っててちゃんと自分の言葉で話してるように聞こえます。『タクヤさんには、まだ正しい歴史の記憶が残っているでしょう?』はちょっと表情が冷たいかなって思いました」「ごめんなさい、ちょっとタクヤのセリフが棒読みでイラッ……えーと。素が出ちゃいました」 裕子の言葉がナベの胸にチクリと刺さる。ほんの少し胃の辺りが締め付けられるのを感じた。「めんぼくない。がんばります」「はい。がんばってください」 あたりのきつさとよそよそしさはナベの気のせいなのかそうではないのか、判断がつかなかった。「タクヤはねー。……うーん。短いセリフは比較的マシなんだけど、長いセリフになるとセリフを思い出しながらしゃべってるのがわかるから、ちょっとまだ台本見ながら稽古してもらわないと、ダメ出しできない」「了解っす」 セリフを覚えなければならないが、演出を受けるのも大事だ。演出するレベルにない、というのは耳に痛かった。「あのさー」 裕子の少し不機嫌そうな声に、ナベは何か言われるのかと身構えて続きを待つ。「ダメ出しできないのもそうなんだけど、私もタクヤの心を受け取れないから、なんとかして。これじゃ自主練やってんのと変わんない」 稽古場の空気が固まる。裕子の言葉にナベの頭の中は白くなった。指先が冷たい。「……ごめん。直す」 ナベはやっとそれだけ言うことができた。「……はい、じゃあ続きから行きまーす」 ナベは台本を見ながら立ち読み稽古を再開した
Ler mais