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第百四十八話

百四十八 タクヤがふらつきながらタイムマシンから降りてくる。リヒトとマーサは平気そうに降りてきた。マーサがタクヤを支える。「大丈夫ですか?タクヤさん」 「う……すまない。少し酔ったみたいだ」 「初めてなのでしょうがないですよ」 マーサに背中をさすられ、タクヤはおぼつかない足取りで歩き出す。その手には袋を持っている。嘔吐袋という設定で、タクヤは袋を口元に持っていったり離したりする。袋の中にはパーカーが入っていた。「タクヤさん、こちらです。もうすぐ始まるので見ていてください」 三人が舞台からハケると、シノブが歩いてくる。そこへ先ほどと違ってパーカーを羽織ったタクヤが走って現れる。「ごめん、待った?」 「ちょっと遅かったね」 「ごめん、教授の話が長引いちゃって。もう学食混んでるかな」 「だろうねー。弁当買ってどこかベンチで食べる?」 「そうしようか。そういえばコザクラさん、土日はバイトしてるんだっけ?」 「ううん、土曜日はわたしバイト休みなの」 「あ、そうなんだ」 タクヤはポケットに入っている映画のチケットを探る。「あの、もしよかったら……」 と言いかけたところでジンが走ってきた。「やっと見つけた!コザクラさん、大変なんだ。ちょっときてもらっていい?」 「え、なにごと?……ごめんねマシマくん、またあとでね」 「ああ、うん。大丈夫」 去っていくジンとシノブをタクヤは見送る。「なんだろう、いつも間の悪いタイミングであいつが出てくるな」 言いながらタクヤはパーカーを脱いで袋に入れる。衣装替えによりタクヤは見られていた過去から見ている現在へ戻る。照明が変わり、リヒトとマーサが入ってくる。「確認できましたね、タクヤさん」 「ああ、思い出した。俺はあの時、シノブを誘えてたんだ。……けど、誘えなかった記憶もある。こんなのは嘘の歴史なのに!」 マーサがタクヤの前に進み出るのを、目の端で捉える。「落ち着
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第百四十九話

百四十九「ニカイドウくん!」 客席に背を向けて立っていたジンに上手に立つシノブが呼びかける。これは本来の歴史、歴史調停局員たちがこの世界にやって来る前の出来事だ。「見つかっちゃったな。コザクラさん、一人ですか?」 ジンはゆっくりと振り返る。「なんで、こんなこと……」「なんで?わからないかな。コザクラさん、あなたのせいですよ」「わたしの?」「あんな男と婚約なんてするからですよ」「何を言ってるの、ニカイドウくん……」 シノブは思わず後ずさり、ニカイドウから距離を取る。「ははは。理解なんてする必要はないです。どうせ今の出来事も、歴史から無かったことになるんだから」「あなた、まさか……」「ええ。この歴史では僕とコザクラさんが結ばれることはありませんでした。だから、僕は僕の理想の歴史を手に入れるんです」「そんなことしたって意味ないでしょう!」「いいえ?僕の記憶からもいずれ、僕が歴史を変えた記憶はなくなります。証拠は残らないんですよ」「ちゃんとわたしに、告白すればよかったでしょう……」「それでどうなるんです?断られるだけじゃないですか。マシマタクヤが僕より先にあなたと付き合い始めてしまった。その歴史を変えるんです」「そんなの卑怯よ!」 舞台の緊迫が客席にも伝わっているのをナベは感じる。タイムマシンの裏、舞台袖から客席の空気を感じ取れるのは不思議な感覚だった。「なにが卑怯なものか!僕はあの男とたいして変わらない!コザクラさんのことも、あの男のことも、僕はずっと見ていたんだからな。僕もあの男もコザクラさんに告白をしなかった。あの男はただ運が良かっただけだ!」 ナベは裕子から告白された。その前から裕子のことは好きだったはずだ。自己評価が低いことを言い訳にして自分から告白するという考えから逃げていた。タクヤはその後プロポーズを自分からするが、付き合い始めた時に告白しなかったのは、ナベ
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第百五十話

百五十 ジンが乗り込んだタイムマシンから出てきたのは、タクヤ・リヒト・マーサの三人だった。タクヤがリヒトとマーサに連れられてタイムマシンで過去へ戻るシーンの続きだ。「大丈夫ですか、タクヤさん」 ふらついて出てきたタクヤにマーサが寄り添っている。「ああ、ありがとう。すこし慣れてきたみたいだ。それで、いまはいつなんだ?」 「ニカイドウが初めて過去に戻ってタクヤさんとシノブさんを妨害した後です。タクヤさんはニカイドウにすこし不信感を持っていて、それほど歴史に改変が加えられてもいない。ベストなタイミングと言っていいでしょう」 タクヤの質問にリヒトが答える。「なるほど。で、これからどうするんだ?直接会うのはまずいんだろう?」 「そうですね。やはりまずは、差出人不明の手紙を出すのがいいでしょうか。タクヤさん、自宅にそんな手紙が届いたら警戒しますか?」 「どうだろうな。大学生時代の俺か……。手紙にはなんて書くんだ?」 「ニカイドウジンがマシマタクヤとコザクラシノブに嫉妬して邪魔しようとしているから気をつけろ、あるいはお前にコザクラシノブは似合わない、近づくな的な内容でしょうか」 「あー……気をつけろって方は、お前は誰だよ怪しいなって思いそうだな。うん、差出人不明のやつからシノブに近づくなの方が邪魔されてるって気づくし、がんばるかもしれん」 「手紙の文面はどうしますか?」 「シンプルでいいだろ。コザクラシノブとは俺が付き合うからお前は静かにしてろ、でいいんじゃないか?リヒト、手紙はあんたが書いてくれよ。自分の筆跡だとさすがにわかる」 「ええ、私たちの仕事ですからね。では、試してみましょうか」 タクヤたち三人が舞台からハケる。それと同時に照明が変わり、シノブが舞台に上がった。「あ、マシマくん」 パーカーを着た昔のタクヤが歩いてくる。「コザクラさん、こっちから呼んどいて遅れてごめん」 「ううん。今日はどうしたの?」 「いやそれが、家に変な手紙が届いてさ。これ」 タクヤはシノブに手紙を渡す。
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第百五十一話

百五十一 明転すると、歴史調停局局長役の理恵が立っている。その向かいにはマーサがやはり直立不動で立っている。マーサは局長に向かって三歩近づき、足を揃えて気をつけの姿勢を取る。機敏に敬礼し、また気をつけの姿勢に戻る。「歴史調停局調停課調停士アキウミマーサは、本日付で歴史調停局調停課勤務を命ぜられました!」 マーサは一息で言うと、また敬礼する。「休め」 局長が静かに命令すると、マーサは敬礼を解いて足を肩幅に開き、休めの姿勢を取る。「我々、歴史調停局はタイムマシンの発明によって増加した歴史改変犯罪の解決のために発足した組織だ。たとえそれが正義に悖ることであったとしても歴史の改変を許すことがあってはならない。例えば、ユダヤ人の虐殺はわかりやすい悪行だが、だからといって過去に戻ってヒトラーを暗殺することは許されない。我々の使命は本来の歴史の保全だ」 局長はマーサとの距離を一歩の間合いまで詰め、ペンのようなものを差し出す。マーサがそれを受け取って上着の胸ポケットに差すと局長は再び話し出す。「これは強制的に個人の時間を止める携帯型時間停止端末だ。我々歴史調停局員にしか使用が許可されていない。局員の判断で使用が可能だが、使用者は代償を支払わなければならない。……それは、使用者の記憶だ。最新の記憶から失うように設計されているので、使用する時は同僚のフォローがもらえる場合に限定しておくように。何か質問はあるか?」「はい!端末を使うのはどういう場合ですか?」「過去を変えることができるのは、迷いのない本心からの行動だ。それによって過去が変えられそうになった時、他に手段がなければ使え」「はい!」「以上だ。下がっていい」「失礼します!」 マーサは反転して歩き、立ち止まって胸ポケットからペンを取り出して見つめる。舞台は一瞬の暗転後、マーサだけサスに照らされ、マーサは頭を押さえてふらふらと地面に手をついた。「マーサ!」 タクヤの声で舞台全体の照明が灯る。タクヤは手をついたマーサに駆け寄って目線を合わせる。「あれ?すい
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第百五十二話

百五十二 リヒトが一人で舞台に戻ってくる。「お待たせしました。コザクラさんとニカイドウは安全に解凍しました」 「ニカイドウはどうでもいいけど、シノブは大丈夫なんだな」 「ええ。マーサは大丈夫ですか?」 「はい、わたしは平気です」 「そうですか。あまり無理はしないでくださいよ。……さて、次はどんな手でいきましょうかね」 「それなんだが、俺に考えがあるんだ……俺だってバレなければ、過去の人間と直接コミュニケーションをとってもいいんだったよな?」 「……もしもバレたら、私たちはあなたを捕まえて罪を償わせてからもとの時間へ戻ってもらうことになりますよ」 「それでかまわないよ」 舞台は暗転し、パーカーを着たタクヤが薄暗い照明の光に浮かび上がる。タクヤは靴を脱ぎ、ふーっと大きく息をついてパーカーを脱ぎ、舞台袖に放り投げて座る。『おい、マシマタクヤ』 音響から録音されたタクヤの声が流れる。「うわ!誰だ、泥棒か?」 驚いたタクヤが飛び上がって辺りを見回す。『まあ、落ち着け。俺はお前に助言しに来ただけだ。それが終わったらすぐに帰るよ』 「怪しすぎるだろ!いったいなにが……」 『シノブのことだ』 「呼び捨てなんてコザクラさんとどういう関係だ!」 『我ながら……ゲフンゲフン、めんどくさいやつだな。いいから黙って聞け。……おまえ、このままだとコザクラシノブが他のやつと付き合い始めるのを見てるだけで終わるぞ』 タクヤは顔をしかめて押し黙る。「……」 『あのな。おまえ、コザクラシノブは付き合いたくないやつと付き合うような人間に見えるか?』 「……コザクラさんはそんな人じゃない」 『なら、当たってみろ。嫌ならちゃんと断ってくれるよ』 「断られる前提かよ」 『そう言われたほうがお前、安心するだろ』 「ほんと誰なんだよお前」 『気にするな。まあ、お前なんかコザクラシノブと釣り合う人間じゃないのは本当だろ。でもな、釣り合うまで待ってたら爺さんになっちまうぞ』
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