جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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第十話

「みんな、おつかれ!」 そう言って入ってきたのは部長のケンさんだった。「ケンさん、お久しぶりです!」「会議参加してくれるんですか?」 などとみんなが反応していると、ケンさんは両手を挙げて制した。「まあまあまあまあ。えー、新入部員を紹介します!」 ケンさんの言葉に、おおおお!とみんな沸き立った。「二人とも入ってきて!」 ケンさんは新入部員を部室に招き入れる。「二人!?」 ガジンが大げさに驚いていると、女子学生が二人入ってきた。背が高くてどことなくキャリアウーマンみたいな雰囲気をした学生と、ふわふわした雰囲気の学生だった。「どうも、福祉学部福祉学科二年の中島麻美です」 キャリアウーマン風の学生が挨拶した。「あ、えーと。私は文学部英文学科二年の林由美です。よろしくお願いします」 ふわふわした感じの学生も中島さんに続いて挨拶する。「えー、二人はね、このまえの公演を観に来てくれてうちの劇団に興味を持ってくれたみたいでね。夏休みに入る直前に入部してくれてました。とりあえず、後期が始まってから稽古に参加するつもりだったみたいだけど、せっかくだから新人公演の最初から参加してもらおうと思って来てもらいました」 ケンさんが経緯を説明する。「じゃ、俺は特に何もしないので、どうしても困ったときだけ助けを求めてください」 ケンさんは端にあるソファに座り、主導権を新人たちに譲り渡した。一年生は全員中央テーブルに集まって座っている。中島さんと林さんもテーブル席に座る。テーブル席は八つなのでちょうどよかった。「えーっと、それじゃあ時計回りでそれぞれの案を発表していこうか」 ガジンが会議を先導すると、理恵ちゃんがガジンの方を向いた。「誰から発表する?」「じゃんけん」 やっぱり最初に発表するのは少し緊張する。でも最後に発表するのも緊張が長引くので遠慮したい。発表は三番目くらいがいいなあと思いつつ右手を上げる。『最初はグー、じゃんけんぽん!』『あいこでしょ!』『あいこでしょ!』『あいこでしょ!』 あいこが続いて人数が減らない。「八人は多すぎたか?」 ガジンがつぶやく。「まあ、大丈夫でしょ。そのうち偏るよ」 僕は八人くらいなら確率で決着が着くと考えた。その考えの通り、次で人数が減った。じゃんけんの結果、瞳ちゃんから発表になった。僕の発表は五
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第十一話

 瞳ちゃんは既成の台本を持ってきた。ルーズリーフ一枚にあらすじと登場人物がまとめられていて、それが人数分コピーされていた。中島さんと林さんが急に増えたが、多めにコピーしていたようだ。瞳ちゃんは立ち上がってケンさんにも渡しに行く。「え?俺の分もあるの?投票しないけど」「余ってるのでいいですよ」「あ、そう。ありがとう」 瞳ちゃんはもとの席に戻る。「これはねー、ユーラシア企画っていう劇団の作品なんだけど。全部のシーンが同じ一つの部屋の中で進んでくの。タイムマシンがある部屋っていう設定で、場面転換はするんだけど動くのは未来だったり過去だったり、時間だけ動くんだよね。それもぜんぜん時間が飛ばなくて、タイムマシン使ってるのに数分先の未来に行ったり一時間前に行ったりして、スペックは発揮してないんだけどそれで話が進んでいくのがおもしろいんだよ」 僕の知らない劇団の作品で、京都の劇団のものらしい。現代劇だがタイムスリップものでSF要素が入っていて、なかなかおもしろそうだった。配られた紙に目を落としながら説明を聞いていた。 次は理恵ちゃんで、さっき言っていたとおりマカベドロップスの作品だった。これも現代劇だが、マカベドロップスの現代劇にはだいたいSFだったりオカルトだったり不思議な要素が入っている。今回理恵ちゃんが持ってきたのもサンタの話だった。理恵ちゃんも同じように説明のための紙を人数分用意していた。「この台本、もう知ってる人もいるかもしれないけど、えーと。小学四年生の男の子の家が舞台で、母子家庭なんだけど。お父さんはもう死んでて、死んでから毎年クリスマスにその子の枕元にプレゼントが置かれてて、でもお母さんが用意したものじゃなくて。幽霊になったお父さんがサンタやってる話」 なるほど。少し説明がわかりにくかったが感動系の話かな。 三番目は二年の林さんだった。「あ、えっとまずは夏休み前の公演、the end of the worldすごいおもしろかったです。本当に感動しました。実は一緒に来た中島さんとは幼馴染でね」 林さんは中島さんの方を向くと中島さんは返事をした。「ね」「うん、で。えーと、中学生の時に一緒に演劇部入ってて、高校はバラバラだったんだけど大学で再開して、一緒に芝居観て。またやろうって話になりました。よろしくおねがいします」「よろしくね」 中
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第十二話

 中島さんの番になった。「私は、台本書いてきました!まだ完成はしてないんですけど」 おおおお!と部室の中が沸いた。拍手も起こる。「ありがとうございます。じゃあちょっと、プロットというか……結末までの流れとかまとめてきたので、配りますね」 中島さんが紙を配り始める。「あ!忘れてた」 隣の林さんがかばんからポテトチップスやチョコ菓子などのお菓子を取り出した。「わたしと中島さんで買ってきました。みなさんで食べてください」「わぁ、ありがとう!」「お、すげぇ。堂々と賄賂出してきた」 裕子ちゃんはお礼を言うが、奥からケンさんが茶化した。「ちがいますよ!お近づきの印っていうか……」「いやごめんごめん、俺の悪い癖だ。冗談だよ」 慌てる林さんにケンさんが謝る。「悪い癖っていうか、センスの悪い冗談っていうか、ねぇ」 ガジンがボソリとつぶやく。「ガジン、お前が俺をどう思ってるのかはわかった」「え?ちょっとまってくださいよ、フォローしただけじゃないすか」「まじで?単純な悪口に聞こえたよ。俺にもお菓子ちょうだい」 ケンさんがガジンに右手を伸ばす。ガジンの両手の上に乗せたティッシュの上に、裕子ちゃんとみずともがポテトチップスとチョコ菓子を置いた。それをケンさんのところへ持っていく。サンキュ、と言ってケンさんはお菓子を受け取った。「もー、かんべんしてくださいよ」「俺が本気出したらこんなもんじゃないよ。ごめんね中島さん、どうぞ続けて」「いえいえ。えーと、私の台本はですね。主人公は女性で、婚約者がいるんですけど、その婚約者が出張中に列車の事故に巻き込まれて行方不明になるんですね。主人公は婚約者の帰りをずっと待ってるんですけど、婚約者は記憶喪失になってて、別人として暮らしてるんです。婚約者は最後、記憶を取り戻すんですけどラストをハッピーエンドにするかしないかはまだ決めてなくて、自然な流れになるようにしたいと考えてます」 中島さんの発表が終わると拍手が起こった。オリジナルをやりたいと思っている部員が多いのかもしれない。次は僕の番だ。
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第十三話

「俺もまだ完成はしてませんが台本書いてきました」 そう切り出して、用意していたプロットをまとめた紙を配る。書けた分だけ人数分の台本を配ろうかとも一瞬考えたが、選ばれていない台本の印刷代に数千円かけるのももったいないのでやめておいた。「ええと、これは宇宙への移住が一般的になった未来の話で、登場人物は一つの家族です。宇宙船が壊れて未知の惑星に不時着したんですが、運よく人が住める環境の星で、壊れてしまった宇宙船の修理の目処がつかない状況でどう生きていくかっていうのをテーマにして書いています。まだちょっとどういうラストにするかは決めてないです」 僕の発表が終わった。緊張から解放され、今日一番の山は越えた。ようやく落ち着いて会議に参加できる。次はみずともが発表する番だ。「わたしは既成の台本を持ってきました。冥土inバチカンのやつです。時代劇なんですけど、時代考証とかけっこうめちゃくちゃで、勢いだけで最後まで突っ走っていく話です。なぜかドラキュラ城みたいのも出てきますし。映画の七人の侍っぽいといえばぽい感じなんですけど、女優が多めに出てるので配役はそんなにいじらなくても良さそうです」「あ、知ってるそれ。パワー!って感じでおもしろいよね」 みずともが持ってきた台本は有名なのだろうか。僕は知らないが、理恵ちゃんは知っていたようだ。みんなはよく演劇を観に行っているんだろうか。まだ発表していないのはガジンと裕子ちゃんだけだ。ガジンが全員に紙を配る。「俺も台本書いてきました。ファンタジー作品になりますね。いやSFかな?ある日起きたら突然猫耳と尻尾が生えた女の子が主人公です。まだ全然序盤までしか書いてないんですけど、同じく耳と尻尾が生えた男の子といっしょに猫の国に行って普通の人間に戻るまでの話にしようと思ってます」「おぉう、なかなかファンシーな話みたいだね」 こころなしか、裕子ちゃんはちょっと引いてるみたいだ。メルヘンな話は好まないのかもしれない。アニメの話とかけっこうしてるんだけど。まあ、大学生がやるのはきついかもしれない。「じゃあ、最後は私だね。私のは既成の台本です。第四反権力っていう、劇団の名前は漢字ばっかりで難しいんですけど。阪神大震災をきっかけにして生まれたらしいです。えー、震災で都市機能が麻痺した状態で避難所もなくて、体育館に避難してきた人たちが助け合って
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第十四話

「他に何か、質問その他ある人いればどうぞ」 ガジンが会議を進めていく。「うーん……オリジナル台本の完成予定日は、気になるけど。聞いてもあまり意味ないかな?」 僕のつぶやきにケンさんが反応した。「ああ、それね。the end of the worldも本番一ヶ月前には完成させるってシュンさん言ってたけど、結局本番一週間前に完成したからね。脚本家の予想は当てにならないよね」「書いてたらなんとなく完成日の予想できそうだけど、稽古始まったら書く時間無くなりそうですね。演出しながらだと」 ガジンも同意する。「シュンさんねー。最後授業なんも聞いてなかったって言ってたね。なぜか家で書くより授業やってる教室で書くほうがはかどったとか言ってたし」 ケンさんの言葉にそんな状況だったのかと興味深く感じた。授業中のほうがはかどるというのは、なんとなくわかるような気がした。「えー、何もなければ投票に移りますかね?」「じゃあ投票用紙作るね。ケンさんは投票しないんですよね?」「うん、しないよ」 瞳ちゃんがルーズリーフを折りたたんで切り分けていく。「どれに投票するか五分くらい考えますか。……短い?十分にする?」「五分後にまだ考えたい人がいたら延長でいいんじゃない?」 ガジンの提案に僕は折衷案を出す。僕は瞳ちゃんが出したユーラシア企画のタイムスリップものの台本を書いた。話がおもしろそうだったからだ。演劇的な視点はよくわからないけれど、話の展開、流れがおもしろいことを重視した。 まだ五分経っていないので、ポテトチップスに手を伸ばす。おいしいけど指に油がつくところを改善してほしい。でも生まれたときからこのスタイルは変わっていないので望み薄だろう。左手でジーパンの尻ポケットをまさぐってポケットティッシュを出し、指をぬぐった。 五分経過し、瞳ちゃんが投票用紙を開票し、集計していく。
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第十五話

 ガジンがダブルチェックで集計し、口を開く。「はい、では開票の結果を発表します。一位は中島さんのオリジナル台本に決まりました!」 わー、と拍手が起こる。「あ、ありがとうございます!私のでいいんですか?」 中島さんは恐縮している。「最多得票数なので、この台本をやりたいと思ってる人が一番多いから、大丈夫だよ」 ガジンはすかさずフォローする。ガジンは一学年上の中島さんにタメ口だなと思ったが、そういえば一浪一留しているのでたぶん年上だった。「ありがとう。たぶん、夏休み中に書き終わらないと思いますけど、がんばります。あと、演出とかやったことないので演出助手ほしいです」「あ、わたし演出助手やってみたいです。他に立候補いなければですけど」 裕子ちゃんが立候補した。「他にやってみたい人いる?」 他に立候補する人はいないようだった。「ありがとう、よろしく。えーと、名前なんだっけ」「橋本裕子です、よろしく」「あ、そういえば自己紹介してなかったね」 そう言ってガジンから全員が自己紹介して、音響や照明などのスタッフをどうしようかという話になると、ケンさんが口を開いた。「スタッフは俺らがだいたいやるから、新人は役者をやるのにウェイトを置いていいよ」 そういうことらしいので、夏休み中は中島さん以外はとくに何もせず過ごすことになった。中島さんは台本の相談について裕子ちゃんに時々意見を聞くらしい。演出と演出助手でいまから方向性を合わせていくということだった。
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第十六話

 長い夏休みが終わった。北海道の夏は本州と比べれば暑さは控えめだ。エアコンがどうしても必要かというとそうでもない。けれど夏休みの間、週三日で入れていたアルバイト先のコンビニの中はいつもエアコンが効いていて快適だった。たまに寒いなと感じることもあったけれど。一ヶ月働いて、少し仕事にも慣れてきたと感じる。 北海道では九月になると肌寒いなと感じることも多くなる。いまはもう十月だ。これから新人公演に向けて本格的に準備が始まっていくのだろう。大学の授業の方は前期だけで終わったものもある。だから後期から新たに始まる授業がわりとあった。教室と講師と教材が変わるとそれなりに気分も引っ張られる。新学期が始まったなあ、としみじみ感じた。 昼休みになった。部員のみんなにしばらく会ってないから部室で食べようと考え、大学生協でやすい弁当を買う。アルバイトは始めたが昼食代は変わらずもらい続けている。携帯電話はまだ買っていない。お金がもう少し溜まるまで待つつもりだった。僕は保険をかけてから行動するタイプだ。携帯電話代だけではなく、このまえみたいに突然カラオケに行ったりすることもあるかもしれないし、公演の打ち上げ代も余裕を持って払えるようになりたい。 部室に入るとすでに十人くらいの部員で賑わっていた。混然としたカップラーメンや弁当の匂いが軽く漂っている。いつものように僕はビールケースに座った。久しぶり、なんて挨拶をされると少し嬉しくなる。生協の電子レンジで温めた弁当のフタを開くと、僕の鼻は嗅ぎ慣れた牛丼の匂いを思い出した。慣れた匂いだが少し懐かしく感じる。その感情もまたすぐに忘れ去るのだろう。「そういえば、新人公演ってなんか進展あった?」 骨折さんがポテトチップスを箸でつまみながら問いかける。お菓子が昼食なのか、食後のおやつなのか判断がつかない。「台本決まったよ」 生協の弁当を頬張っているケンさんが答える。「おぉ、どんなの?」「いや、わかんないけどオリジナル」「誰が書いたの?」 骨折さんは部室にいる一年を眺める。「新入部員の中島さんですよ」 答えたのはカップラーメンをすすっているガジンだ。「中島?へー、新人入ったんだ」「このまえの公演観て入ろうと思ったらしいですよ」 裕子ちゃんがシュンさんに向かって説明する。「ほんと?そっかー、俺の才能がまた人を魅了しちゃったか
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第十七話

 今日の授業が終わり、後期最初の稽古時間になった。ジャージに着替えるとところどころに乾いたペンキが付いていて、少し顔が緩む。洗濯してもペンキは落ちず、まだこれ着るの?と母は眉をしかめていた。けれど演劇部員になった実感が得られる気がして、僕は消えない汚れが気に入っていた。 多目的ホールに新たに入部した中島さんと林さんが姿を現す。「中島ってお前!?」 骨折さんが驚いている。「おっす高橋」 中島さんは慣れたように骨折さんに挨拶する。二人は顔見知りらしい。忘れかけていたが、骨折さんの苗字は高橋だっけか。あれ、本当にそうだっけ。忘れかけているではなくて、本気で忘れていた。「あれ、二人とも知り合いだったの?」 小さな理恵ちゃんが中島さんに尋ねる。「そうそう、学科と学年が同じだからよく話してる」「新人って一年じゃないのかよ。って、え、いつから?」 骨折さんはまだ驚いている。「夏休みの直前」「今日授業一緒だったんだから、言えよ!」「いやー、高橋が演劇研究会って知らなくて」「そんなわけねえだろ、俺も前の公演出演してたわ。っつーか、お前にチケット売ったの俺だわ!」「えー?ゼンゼンキヅカナカッター」 中島さんはいたずらっぽっく笑いながら棒読みでとぼける。 ケンさんもホールに現れ、いつものように柔軟運動、筋トレ、ストップモーション、発声練習を行う。「えっとじゃあ、今日はとりあえず新人公演についていろいろ決めていきます。まず、すでに決まってるのが脚本演出が中島さん。演出助手が裕子ちゃん。あ、この前は仮のタイトルだったけど、もう決まった?」「はい、『玉手箱の幻影』にしました」「なかなか文学的なタイトルだね。じゃあ、新人公演『玉手箱の幻影』ですが、だいたい11月下旬くらいの公演を目指します。台本の完成はいつ頃になりそう?」「たぶんですけど、あと一ヶ月もらえれば完成すると思います」「了解。役者はどのくらい必要?」「えーと、女性は一年生と私と林さんで足りるんですけど、男性が三人出てくるので一人足りないです」 おっと。役者をやるとは言ったが、すでに僕は頭数に入っているらしい。どくんと一回、大きく心臓が脈打つのを感じる。「そっか。台本書きながら演出しながら役者もやるとなったら大変だけど、やる?」「……はい、やりたいです。そのために演出助手もつけてもら
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第十八話

 全員床に座り、輪になっていた。ケンさんが中島さんに確認をとっていく。「基本的には、去年からいたメンバーで音響照明操作関係とか当日受付とかやりますが、もとになるプランは新人にやってもらいます。脚本演出は決まったので、音響・照明・制作・大道具・衣装・メイク・小道具・舞台監督……くらいかな?台本によって大道具とか衣装・小道具の大変さは変わるけど、現代が舞台だっけ?」「はい。衣装とかは新たに買ったりとかじゃなくて、個人で持ってるやつで十分だと思います」「そう。なんか、タイムマシンとかこう、作るやつある?」「いえ、本当にSFとかでもないので特別に用意しなきゃならないものとかはないです」「車とかバスとか舞台上になくてもいける?」「えーと、電車と飛行機は出てきますけど、椅子とかあれば乗り物自体用意する必要はないとおもいます」「んー、なら大道具・小道具はそんな大変じゃないか。はい、じゃあやりたいスタッフの希望とかある?」 ケンさんが新人を見回すと、ガジンが手を挙げた。「はい。俺、音響がいいです」 ケンさんはメモ帳にメモをとる。僕は何にしよう。前のめりになってあぐらをかいていた。両手の指を絡ませて交差したすねの上に置いている。うっすらとてのひらに汗がにじんできた。「はい。あ、かぶってもいいから自分の希望言ってってね」 それなら、と緊張しながら僕も手を挙げる。「はい、俺は大道具やってみたいです」 このまえの公演で助手をした照明よりも、大道具の方がおもしろかったので、ちゃんとやってみたかった。まだ緊張している。やはり大勢の前で発言するのは緊張する。気づくと理恵ちゃんと瞳ちゃんが手を挙げていた。「はい、理恵ちゃんから」「はい、私は制作やりたいです」「はい、次瞳ちゃん」「私は衣装・メイク・小道具やりたいです」 林さんが手を挙げる。僕の希望は言い終わっていたので落ち着いてきた。両手を後ろの床につく。冷たくて気持ちよかった。「はい林さん」「あの、私は照明やってみたいです」「お、いいねぇ。照明おもしろいよ」 最後まで残っていたのぶともが手を挙げた。「ええと、わたしも制作やってみたいです」「うん、そうだね。制作は二人いたほうがいいかな。で、えー。決まってないのは舞台監督か。舞台監督もね、重要だから経験しといた方がいいポストなんだけどな。……山口も
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第十九話

「それじゃあ、続いては。音響操作と照明操作、それぞれのスタッフのアドバイザーを決めます」 骨折さんが手を挙げる。「俺、音響操作やるよ」「はい。他にやりたい人いる?じゃあ骨折お願い。アドバイザーもいい?」「うん、そのつもり」「骨折さん、よろしくおねがいします」「よろしくガジン」「次、照明操作やる人」 久美子さんが手を挙げる。「はい、私やります。林さん、よろしくね。前田久美子っていいます」「はい、よろしくお願いします」 コロさんも手を挙げた。「あ、私も照明やりたい。久美ちゃん、一緒にやっていい?林さん、よろしくね。私のことはコロって呼んでね」「いいよ、よろしく〜」「コロさん、よろしくお願いします」 林さんもコロさんに挨拶した。「大道具は、佐々木くんに頼んでみます。制作も当日受付いるな。アドバイザーやる人いる?」 誰も手を挙げない。「まあ、受付は誰もいなきゃ俺やるか。制作あんまり詳しくないけど。キムとか純子とかタイガーとか、制作できる人はたくさんいるから、頼んどきます。あと、衣装・メイク・小道具もその三人できるから頼むか。で、あとはオーディションか。中島さん、台本何ページくらいできてる?」 タイガーさんは井上愛という二年の先輩だ。旦那さんと付き合っているらしい。「Wordで五十ページくらいです」「けっこうできてるね。じゃあ、それぞれの配役が出るシーン……そうだな、一役につき二ページくらい選んで明日持ってきてもらえる?」「はい、わかりました」「脚本家はこれからリソ使うことが多くなるから、使い方教えるよ」 中島さんが首を傾げる。「リソ?ってなんですか」「リソグラフっていう、コピー機より速く大量印刷できる機械だよ。大学本館の一階にあるやつ」「へー、そんなのあるんですね」「うん。で、明日人数分印刷して、一週間後にオーディションして配役決めたら稽古もう始めないと時間ないからね。十一月末に公演するとしたら、もう二ヶ月ないから」 ガジンが手を挙げる。「ケンさん、十二月に公演じゃまずいんですか?」「いや、十二月でもいいよ。ただ冬休みに入ったら観に来る人いなくなるからね。中旬までには公演しないと」「なるほど」「じゃあ、今日はちょっと早いけど、このくらいかな。というわけで解散!」
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