「ケンさん、おはよう。私もコーヒーもらっていい?」 身支度を整えたコロさんが食堂へやってきた。「ああ、いいよ。飲んで飲んで」 ケンさんとコロさんは隣り合って座り、会話を始めた。 六時間の睡眠時間では少し短かったかもしれないが、コーヒーのおかげで頭が冴えてきた。台本と役作り用のノートを開いて役の深堀りを始める。三上ショウから財布を盗む男の役作りは、余裕ができてからやればいいので後回しだ。石山先生のことをしっかり考えよう。役作り用のノートには今まで受けてきたダメ出しと、セリフから連想される役についての性格分析、役が歩んできた人生の背景、他の役との関係性などが書かれている。これがあるので、質疑応答はいまのままでもできる。だけど、この作業は何回繰り返しても深まっていくので終わりがない。やればやっただけいい演技ができるようになるはずだ。 まずは台本を最初から最後まで読む。それから役作り用のノートを読む。ノートにかいてあることに違和感を感じたら、それがなんなのか考えて役作りを修正する。その作業に没頭していると、ぽつぽつと他のみんなも起き始めたようだった。「ナベ、朝から真面目だねえ」 役作りを続けていると、起きてきた理恵ちゃんに褒められた。「んー、真面目に遊んでるんだよ。親からは『勉強してると思えばまたそんなことして』とか呆れられるけどね」「それ、遊んでるの?」「小さい頃からあまり遊んでこなかったから、もしかしたら人とは少し感覚が違うかも」「そうだね、ナベはなんか変だよね」「否定はしないけど、世の中に変じゃないやつがいたら気持ち悪いだろうな」「どういうこと?」「そいつのやることとか考え方とかが、全部平均的で逸脱してないんだろ?作為的なものを感じて不気味だよ、そんなやつ」「そういうこと考えてるのが、ナベっぽいよね」「そう?」「そう」 僕は没個性だと思っていたが、そうでもなかったらしい。世間に馴染めないとも感じていたけど。 みんな起きてきて、朝ごはんの準備が始まった。と言っても、昨日作ったカレーを温め直して食器を出
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