Todos os capítulos de 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編: Capítulo 61 - Capítulo 70

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第五十九話

「ケンさん、おはよう。私もコーヒーもらっていい?」 身支度を整えたコロさんが食堂へやってきた。「ああ、いいよ。飲んで飲んで」 ケンさんとコロさんは隣り合って座り、会話を始めた。 六時間の睡眠時間では少し短かったかもしれないが、コーヒーのおかげで頭が冴えてきた。台本と役作り用のノートを開いて役の深堀りを始める。三上ショウから財布を盗む男の役作りは、余裕ができてからやればいいので後回しだ。石山先生のことをしっかり考えよう。役作り用のノートには今まで受けてきたダメ出しと、セリフから連想される役についての性格分析、役が歩んできた人生の背景、他の役との関係性などが書かれている。これがあるので、質疑応答はいまのままでもできる。だけど、この作業は何回繰り返しても深まっていくので終わりがない。やればやっただけいい演技ができるようになるはずだ。 まずは台本を最初から最後まで読む。それから役作り用のノートを読む。ノートにかいてあることに違和感を感じたら、それがなんなのか考えて役作りを修正する。その作業に没頭していると、ぽつぽつと他のみんなも起き始めたようだった。「ナベ、朝から真面目だねえ」 役作りを続けていると、起きてきた理恵ちゃんに褒められた。「んー、真面目に遊んでるんだよ。親からは『勉強してると思えばまたそんなことして』とか呆れられるけどね」「それ、遊んでるの?」「小さい頃からあまり遊んでこなかったから、もしかしたら人とは少し感覚が違うかも」「そうだね、ナベはなんか変だよね」「否定はしないけど、世の中に変じゃないやつがいたら気持ち悪いだろうな」「どういうこと?」「そいつのやることとか考え方とかが、全部平均的で逸脱してないんだろ?作為的なものを感じて不気味だよ、そんなやつ」「そういうこと考えてるのが、ナベっぽいよね」「そう?」「そう」 僕は没個性だと思っていたが、そうでもなかったらしい。世間に馴染めないとも感じていたけど。 みんな起きてきて、朝ごはんの準備が始まった。と言っても、昨日作ったカレーを温め直して食器を出
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第六十話

「やっぱ一晩たったあとのカレーうめぇな」 骨折さんの言う通り、野菜と肉にカレーがなじんで、味も濃くなっている。「あー、おかわりしたいけど間に合うかな?」 そういえばガジンはもうすぐバイトに出る時間だったな。そこへおかわりへ行っていた山口さんが戻ってくる。「ガジン、急がないとおかわりなくなるぞ」「え!?もうそんななくなってるんすか?」 ガジンはしゃべりながら最後のひとくちを口の中へかき込み、調理室へ走る。「明日の朝ごはんコンビニ?」「心配が早ぇよ」 骨折さんの心配にケンさんがつっこむ。「今日もどうせ遅くまで起きてるだろうし、どっかそのへんのファミレスで朝ごはん食べに行きません?」「いいね、それ!」 麻美さんの提案に裕子ちゃんが賛同する。明日は午前十時まで借りているので、実質今日が合宿の最終日だ。明日はおそらく後片付けと掃除をして終わりだろう。僕も最後にカレーのおかわりをしたいので、少しだけ食べるペースを早める。本当においしいな。 調理室へおかわりしに行くと、山口さんがいた。二回目のおかわりかな?「お、ナベ。おかわりする?もうあんまり残ってないけど」「一杯分はなくても大丈夫ですよ。けっこう食べたので」「ナベ、細いわりにけっこう食うよね」「燃費悪いんですよ。っていうか、山口さんほどじゃないですよ」「俺もすぐ腹減るんだよね」「麺とか食べた気にならないですよね」「だよな、ガジンとかカップラーメンで済ますの信じらんねえ」 そこへちょうどガジンが通りかかる。「俺の悪口やめてくださいよ」「ただの感想だよ」「ならいいですけど。いってきまーす」「おお、気をつけてな」「いってらっしゃい」「うぃーす」 食事と後片付けが終わり、少し休んでから稽古を始めることになった。「せっかく合宿してるから、外走っちゃったりしない?」 柔軟運動をしていると裕子ちゃんから提案があった。僕
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第六十一話

「みんなばらばらのジャージだから何の集団かよくわからないよね」「そこが演劇部っぽいよね」 コロと久美子が指摘する。二人の言う通り、運動部は通常おそろいのジャージを着て走っているのですぐにわかる。外の風はすこし強かった。会話の声に風の音が混じり、ナベは心持ち耳をすますよう意識する。「ナベのジャージがいちばん何の集団かわからなくしてる」 骨折の指摘にナベは周りを見渡す。わかっていたことだが、ナベ以外のジャージはペンキで汚れていない。使い分けているのだろう。「そうは言いますけど、きれいなままの高校ジャージよりは演劇部っぽくて気に入ってますよ」 ナベはジャージの太ももをさする。下半身のほうが盛大にペンキの汚れが残っていた。「まあ、今日は連休のなかびだから人が少なくてよかったよね」「なんだい理恵ちゃん、それはペンキで汚れたジャージの人と一緒に走るのは恥ずかしいってことかい?」 理恵の感想にケンがつっこむ。「あ、ケンさん、ふつうは恥ずかしいと思うので俺離れて走りますよ」 ナベの中にいたずら心が湧き出たのでペースを上げて集団から距離をとると、理恵は慌てる。「や、そういう意味で言ったんじゃないよナベ」 しゃべりながら走っていると息苦しい。役者として能力を鍛えるための走り方かもしれないな、とナベは感心する。そんなことを考えていたところへ、裕子がナベのみぞおちを目がけて肩から突進してきた。いま流行りのギャグ漫画でヒロインがよくやる行動だ。「なら一緒に走ろっ!」「ふんぐ!」 ナベのみぞおちから変な声が漏れた。同時に香水の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。ちょうどナベの目の下に裕子ののつむじが見えた。「あっはっは!ナベ、どっから声出してんの?」「……みぞおち?」「どゆこと?」「えー……?みぞおちから直通で空気が押し出された、かな?」「痛かった?」 裕子がナベのみぞおちを指先で触れる。「ぜんぜんだいじょう
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第六十二話

 ジョギングを終えて全員が合宿所へ戻るとみずともはすでにアルバイトへ出かけたのだろう、姿が見えなかった。いつもの柔軟運動や発声練習をすませ、シーン稽古が始まる。ガジン、瞳、みずともはアルバイト中のためできるシーンは限られる。「それじゃあ、シーン6行きまーす」 シーン6は、記憶喪失になった三上ショウが病院の清掃員浦島マモルとして三年以上生活を続けている場面だ。三上ショウ役の山口、石山病院の看護婦結城スズ役の由美、石山病院に入院している子ども小野フミカ役の理恵、結城スズの同僚役のみずともはアルバイト中なので久美子が準備を始める。「用意……」 ぱん、という麻美の手を叩く音でシーン6が始まる。 ごしごしと浦島マモルが床を掃除している。ここでは実際のモップを使っている。公演でも多目的ホールに備え付けられたモップを使う予定だった。舞台袖から持っていくのは多少手間だが、簡単に壊れるようなものではないしジェスチャーよりも視覚的に観客の理解度が高まるので現物を使ったほうが良いという判断だ。なによりタダというのが良い。予算を削るメリットは大きい。 上手から片手でうさぎの人形の腕を持った小野フミカが走ってくる。浦島マモルを後ろから追い越したところで、人形を落とす。「あっ」 小野フミカは立ち止まって人形を振り返ると、浦島マモルが人形を拾い、小野フミカに人形を差し出す。「はいどうぞ。廊下を走ると危ないよ。気をつけてね」 小野フミカは少し戸惑いながら人形を受け取る。「ありがとう、おじさん」 ちょこんと頭を下げた小野フミカは小さく笑顔を見せ、歩いて立ち去る。ぱん、と麻美が手を叩いて止める。「フミカ、笑顔は見せないでください。愛想がよかったらもう浦島と仲良くなってるはず。……なんだけど、ここでフミカは浦島に心を許し始めるからな……。立ち去る前にちょっと浦島を振り返ってみて」「はい」 理恵は舞台外に置いた自分の台本にメモをする。「裕子ちゃん、なんかある?」
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第六十三話

「はい、照明変わりました」 照明スタッフのコロの合図でモップで清掃を続ける浦島マモルが歩き始め、下手で折り返す。上手から結城スズと、その同僚の看護婦が並んで歩いてくる。同僚の看護婦役はみずともだが、アルバイトで不在なので久美子が代役を務めている。代役なので台本を持ったままだった。「お疲れ様でした」 浦島マモルは二人に会釈する。「結城さん、今日は夜勤じゃなかったですよね?仕事の後、少しいいですか」「浦島さん、お疲れ様でした。早めに上がれそうですので、ちょっと待っててくださいね」「はい、お先に失礼します」 浦島マモルが上手へ立ち去ると、同僚の看護婦が結城スズに肩をぶつける。「ちょっとぉ」 同僚の看護婦がニヤリと笑う。「なによ」「なーんでそんなによそよそしいのよ」「仕事とプライベートは分けるべきでしょ?」「他に私しかいないじゃない」「……それでも職場よ、ここは」「いま私とタメ口きいてるのは?」 同僚の看護婦がたたみかけると結城スズはかしこまる。「今後気をつけます」「もうやめてよ、鳥肌立つから。それより結婚とかしないの?もう二年は経ってるでしょ?付き合い始めてから」 同僚の看護婦は両腕をさする。「まあ、そのうちね」「急いだほうがいいわよ。記憶が戻ったら別れましょう、なんて話になるかもしれないんだし」「……マモルさんはそんな人じゃないわよ」「あぁ、性格だって違うかもしれないから、逆に結婚しないほうがいいのかもね」 同僚の看護婦はくるりと結城スズを覗き込んだ。「そうなのかな……」「記憶が戻ってもいまの記憶が消えるわけじゃないんだから、好きならがっちり気持ちを掴んどきなさいよ」「そうだね、ありがと」「照明変わります」 コロが声をかけると同僚の看護婦が下手へ歩み去る。久美子が代役で演じた同僚の
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第六十四話

「えー、つぎはシーン9行きまーす。準備お願いしまーす」 シーン9は北海道旅行中の浦島マモルが偶然、浦島マモルが三上ショウだったときの母である三上トモコに再開した後、宮城に戻ってきたシーンになる。浦島マモル役の山口と結城スズ役の由美、小野フミカ役の理恵、そして石山先生役のナベが準備をする。「用意……」 麻美が手を叩き、シーン9が始まる。モップがけをしていた浦島マモルがやがて手を止め、ぼうっと遠くを眺める。ふう、と大きなため息をつくと、うさぎの人形を抱いた小野フミカが同じく大きなため息をついた。二人はお互いに気が付き、苦笑する。「こんにちは」 浦島マモルは、今度はにっこりと笑いかける。「……こんにちは」 小野フミカはおずおず、という感じで挨拶を返す。「えーと、フミカちゃん、だったかな?ため息なんかついて、どうしたの?」「おじさんの方が大きなため息ついてたよ」「フミカちゃんから見たら、おじさんに見えるのかな。まだけっこう若いつもりなんだけど。僕にはね、浦島マモルっていう名前があるんだ」「ねえ、おじさん」「おじさんじゃないよー。お兄さんって呼んでくれないかな?」「おじさんはなんでため息ついてたの?」「意外とがんこだな」 小野フミカはにこりと笑う。つられて浦島マモルも笑った。二人は並んで座る。「……お兄さんはね、実は三年以上前の記憶がないんだ」「ふーん、どんな感じ?」「言葉も喋れるし、どうやって買い物をすればいいかも覚えていたから、生活には困らないんだけど、自分がどこで生まれて、どうやって誰と関わって生きてきたのか覚えてない」「知ってる人が誰もいなかったの?」「そうなんだ。気づいた時、お金も持ってなかったしね。だけど、見つけてくれた人がここの院長先生でさ。こんな得体のしれない僕をここで働かせてくれた。まあ、入院代が払えなかったからかもしれないけど」「なんで入院してたの?」「僕は怪我をして倒
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第六十五話

「石山先生」 真面目な顔をした浦島マモルの表情がナベの目に入る。「浦島くん。お疲れ様」 冒頭のセリフは短いので、完璧にナベの頭の中に入っている。落ち着いて、ゆっくり。貫禄を感じさせるように。ナベの思い描く通りにセリフを出すことができた。それでも、じわりと指先に汗が滲む。舞台に上がることには未だに慣れない。セリフが頭に入るまで持ち続けていたナベの台本は、汗に濡れて乾くことを繰り返し、登場シーンのページは目に見えてよれていた。「あの、ちょっといいですか?」「うん、なんだい?」 山口との話し合いで、この時間は石山の昼休憩、という設定にしていた。演出の麻美にも認められている。石山は休憩時間に突発的な用事が入ることを気にするような性格ではない。ナベは穏やかに応じた。「フミカちゃんのことなんですけど、その、何の病気で入院してるのかとか、聞いちゃってもいいですか?」「それは守秘義務があるからね、答えてあげることはできないな。仲良くなってくれたのかい?」 石山は浦島マモルに、小野フミカの様子に気を配るよう頼んでいた。「そうですね、少しは心を開いてくれたと思います」「そうか、ありがとう。」 ナベは、浦島マモルの目を長めに見つめるよう意識する。ナベは普段の生活ではこんなふうに人の目をじっと見ることはないが、シーン9の稽古を続ける中で舞台の上では見つめることができるようになっていた。「……誰にも言わないって約束してくれるかい?」「はい」 浦島マモルはナベを見つめ返し、しっかりと頷く。ナベはその目の中に強い光を感じた。それに触発され、役の中に没入していく。「……信じよう。フミカちゃんはね、小さい頃にお母さんをなくしているんだ。お父さんはフミカちゃんの高額な治療費を稼ぐために海外で働いていて、ほとんど日本に戻ってこない。お見舞いに来るよりもお金を稼いで早く治ってほしい、ということなんだろう。いまはおばあちゃんがお見舞いに来てくれているけれど、彼女も健康というわけではなくてね、いつも来れるというわ
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第六十六話

 昼十二時を回り、午前中の稽古は終わった。全員で昼食を買いに行き、食事が始まった。「お疲れっすー。あれ?まだ始まったばっかり?」 アルバイトを終えたガジンが食堂に入ってきた。手に下げた袋にはコンビニ弁当が入っている。「お疲れー」 皆、口々にガジンへ挨拶を返していく。「こういう感覚って初めてでさー、みんなはある?」 ナベは役に没入した感覚を自分のものにしたくて、意見を聞いていた。「なになに、何の話?」 ガジンはテーブルの上に袋を置き、空いていた席に座る。「いや、さっきの稽古でさ、セリフがなんか、自然に心のなかから出てきたような感覚を感じたんだよ。こんなの初めてだったんだけど、みんなそういう感覚があるんだったら、やり方を知りたくて」「あー、そういう」 ガジンが袋から弁当を取り出してフタをあけると、大学生には嗅ぎ慣れた牛丼の匂いが食堂内に混じった。「私はねー」 裕子がペットボトルのお茶を飲み込んで口を開く。「その役が誰で、どんな状況で生きてて、いまどういう場面にいるかってゆーのを考える……違うな……そうゆうのをわかってる?っていうのかな。コンビニでご飯買おうと思ったらお金あったっけとか何食べようかなとか考えるし、友達とカラオケに来たら、誰と来てるかとか、この人と一緒ならこの曲歌おうかなとか、その状況で考えることをその役ならどう考えるかなっていうのを台本を読んで考えとく。舞台に立ったらその場のノリに合わせる、かなぁ」 裕子の意見を聞いていた理恵がうんうん、と頷く。「台本の出来も大事かな。台本読んで、そのセリフが自然に思えたらできるよ。あまり良くない台本だと、なんでこの人こんなこと言ってんだろ、って思って役に入れない」「まあそれでも、理解してそいつになんなきゃなんないんだけどね」 ガジンは理恵の考えに賛成しつつ折り合いをつけている。「役者は台本を選べないのよぉ」 久美子がしみじみと吐露すると、コロがたしなめる
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第六十七話

 それからほどなくしてみずともが戻ってきて、昼食をとり始めた。瞳が帰ってくるまでは自由時間になった。ナベは台本を読み込み、このあと始まる役の深堀りの準備を始めた。今朝、ナベは早く起きたので少しだけ役について考える事ができていた。役を与えられてからずっと続けていたことではあるが、今日の稽古で得た感覚から、また新しい役の深堀りができるのではないかと考える。「みんな、おまたせ〜」 瞳が合宿所に帰ってきた。時刻はちょうど午後二時だった。みずともはすでに上がってきて、台本を読んでいる。「え、もう始まる?始まってない?お昼まだだからちょっと食べていい?」「うん、急がなくていいよ。ゆっくり食べてきて。みんな考える時間あったほうがいいから」「ありがとう、食べてくるね」 麻美の許可を得て、瞳は下へ降りていった。役について考えることができる時間はあとだいたい三十分くらいだな、とナベは見積もった。 あの不思議な感覚は、山口の目の光から自分への信頼を感じ、浦島に頼られている、と受け取ったことから始まったのではないかとナベは考える。信頼される病院の先生というナベが石山に対して想像してきた人格が浦島との関係で固められた、ということだろうか。共演者に自分の役を理解してもらうことがあの状態に入る条件なのだろうか? ナベはつい、先程の稽古での体験が嬉しくて役に入る条件を探してしまっていた。役の深堀りをすることであの状態になりやすくなるかもしれない、と思い直して台本と役作りノートを見返し始める。「ごめーん、待ったぁ?」「あれ?早かったね、ゆっくりしててよかったのに」「全然大丈夫だよ。準備の時間足りなかったらまだやっててもらっていいから」 瞳が昼食を終えて上へ戻ってきて、麻美が驚いていた。まだ二十分も経っていない。「とりあえず二時半まで準備時間にしてあるから、それから始めるよ」「わかった」 麻美の説明を聞き、瞳は台本を読み始める。役者たちは黙々と台本を読み、二時半を迎える。「はい、じゃあ時間になったので、昨日の続きをやっていきます。えーと、丸橋サトミ、三上ショウと浦
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第六十八話

「他に質問ある人いる?……いないみたいだね。それじゃあ次、城田マイお願いします」 麻美の進行で裕子が前に出る。「はい!マイはねぇ、ごくふつうの家に生まれて、両親も元気で、兄が一人います。私大卒で、やりたいことをとくに否定もされずにのびのび育ってきました。でもなんだろう、それでやりたいけど抑えつけられるってことがなかったから、逆に自分のやりたいことが見つからない?というより……いつでもできるから見つけることを急いでない、かな。なにかこれがやりたいってこともなくて、いつもその時に興味を惹かれたことをやってます」 それまで全員に向けて適当に視線を流しながら話していた裕子は、瞳に視線を合わせる。瞳の目はつられて少し大きくなった。「それで、昨日もサトミの深堀りのときに言ったけど、会社を決めるときも受かればどこでもいいかって決めたけど、偶然受かった会社でなんかおもしろいことないかな、と思って適当に最初に受かった会社に決めました。それでサトミと知り合って、雑貨っておもしろいなーって。結婚とかは考えてないです。まだ自由でいたいので」 ナベは顔を上げて裕子を見る。城田マイとしての考え方だというのはわかっていたが、自由でいたいという言葉にすこし胸がざわついた。裕子と目が合う。目や表情から感情を読み取られるかもと過剰な心配が沸き起こり、ゆっくりとナベは台本に視線を移す。「サトミのことはね、好きなことがはっきりしてるっていうのも素敵な生き方だなって思わせてくれて、自分と違うタイプだから一緒にいておもしろい」 裕子は次に山口へ目を向けた。「ショウのことは、最初はなんとも思ってなかったけど、サトミと付き合い始めてからいろいろサトミを通じて話を聞くようになって、意識して見るようになったかな。まあ、サトミの相手としては悪くないんじゃないかって認めてる」 続けてガジンに視線を移す。「ジンイチのことはねー。ちょっと鼻につくかも。あからさまにいつもサトミのところに話しかけに行くし、ちょっと信用出来ないかなーって感じ。サトミも迷惑してるし」「えー、俺そんな感じ?いや、俺じゃな
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