All Chapters of 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編: Chapter 81 - Chapter 90

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第七十九話

 九巡目、理恵が7のペアを出して始まる。骨折はパスしたが、由美はJのペアを出す。「……パス」「やった!」 理恵がパスしたので、由美が小さくガッツポーズする。「えい!」 由美が場に出したのは7、8、9だ。「……〜、いいや。はい!」 理恵は不安そうに迷いながらJ、Q、ジョーカーを出す。骨折も由美もパスをしたが、理恵はまだ不安そうだ。 十一巡目、理恵が出したのは8のペアだ。理恵は祈るように顔の前で手を組んでいる。骨折はパスをしたが、由美はAのペアを出した。「あああー!」 理恵は悲壮な声を出した。カードは残り一枚なので当然パスだ。「上がりー!」 由美は3を出して勝ち抜けた。「……パス」 次の手番は理恵だったが、パスをした。残り一枚の状態で3より強いカードを持っていないことが判明した。つまり、いま理恵が持っているカードは3だ。「まじか……!!」 骨折はほっとした声を出す。Kを出し、場が流れる。続いて、8、7、5と一枚ずつ出していき、理恵はそのすべてをパスした。骨折は残り一枚、最後に4を出して上がる。「上がれたー!」「なんだよ、つまんねーなーお前は。一年の女子に罰ゲームさせんなよ」「勝負に先輩も後輩も関係ねー!ギリギリでも上がりゃあ勝ちだ」 山口が骨折をなじるが、骨折は意に介さない。「というわけで、罰ゲームは理恵ちゃんでーす!」「オメーが言うな」 意気揚々と宣言する骨折を山口が軽く小突く。「仕方ない!おごるからみんなついてきて!」「理恵ちゃん、かっこいー!」 やけくそに見えなくもない理恵を瞳が褒める。理恵に続いて、全員一階の自販機へ向かった。理恵は自販機に千円札を三枚入れる。「みんな好きなの買ってって!」 全員お礼を言いながら自販機のボタンを
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第八十話

「それじゃあ、みんな自分で飲みたいものと食べたいつまみ買ってきてください。突撃〜!」『わー!』 コンビニへ到着し、ケンが音頭を取ると、みんな勢いよくコンビニの中へ駆け込んでいった。 ナベはビールはあまりおいしいとは感じない。このまえの打ち上げで初めてビールを飲んだが、大人たちはみんなビールを好んで飲んでいるが苦くて好まれる理由が理解できなかった。どちらかといえば、カクテルなどのほうがジュースみたいで飲みやすかった。なので、ぶどうサワーと梅酒サワーを手に取る。炭酸も苦手なのでサワーにしないでほしいな、と思ったが安くて甘いお酒はなぜか炭酸が多かった。 振り向いておつまみコーナーを眺める。どうせみんな肉類を買うだろうとナベは予想し、野菜系のおつまみを探す。が、見つからない。野菜っぽさを求めて青豆の小袋を手に取る。青豆を見て枝豆も定番だな、と思いついて冷蔵庫の方へ移動する。冷蔵庫の前にはガジンがいた。「なに買うつもり?」「んー……豚のタン塩と焼き豚どっちにしようかって……」  ナベが話しかけると、ガジンは振り向かずに答える。ちらりとガジンの買い物かごを覗くと、ビールが三本入っていた。「どっちも買えば?」 ナベは適当にアドバイスしながら枝豆を探す。上の方の棚にあったので一つ手に取ってかごに入れる。「そうか……そうだな!」 ガジンはそう言って両方かごに入れた。「ナベは何買ったの?」「これ」 かごを前に出す。「肉がないよ、肉が!」「えー、だってみんな買うだろ?野菜が足りんなーって」「……豆って野菜?」 ガジンはかごに目を落として首をひねる。「いやー、サラダとかだとみんな取りにくいかなって考えたら豆になったんだよ」 ナベはちょっとだけ食べてあとは食べたい人がつまめばいいし、他の人からも分けてもらおうと考えていた。その方がいろいろなものが食べられるだろう。「
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第八十一話

 ナベがコンビニを出ると、何人かドアの近くに固まっていた。「ナベー、買えたー?」 裕子が笑顔で近寄ってくる。再びナベは香水の匂いを意識したが、さきほどよりも落ち着いていた。「うん。イカフライも変えたよ」「あー、気にしたんだ」「まあね」「ナベはもうちょっと太ったほうがいいと思うよ?」「それはちょっと自分でも思うかなぁ」「ナベはもっと太ったほうがいいよ、絶対!」 ナベがおなかをさすると、ケンが会話に加わる。ケンはちょっと小太りだった。「あ、そんなですかー?内臓には脂肪ついてるような気がするんですけどねぇ」「え、そうなの?」 ガジンも入ってきた。「うん。昔に比べるとなんか体が重くなったような気がする」「わかる!小学生の時とかさあ、ずっと走ってられてた気がする」 ケンがおおげさにうなずく。「ケンさんは痩せたほうがいいよお。将来病気になるよー」 ケンと付き合っているコロがケンの腹をさする。「え、そこまで?」「あー、もうみんないる。ごめんなさーい!」 ケンが自分の体を見下ろすと同時に、瞳と理恵、麻美と由美が謝りながらコンビニから出てきた。「お、きたきた。えー……そろった、ね。よし、戻ろう」 ケンが人数を確認し、合宿所へ戻る。 ケンは一階食堂のテーブルに全員席についたのを確認し、大袋を二つテーブルに置く。ビールの六缶パックが二つだ。「これは俺からのおごりです!一人一本持ってってー!」 わー、と拍手が起こる。ナベもお礼を言って一本受け取る。あまり好きではないが、もらえるものは何でも嬉しかった。「はいじゃあ、なんだろう。何に乾杯?何でもいいか」 ケンはプシュッと缶ビールのタブを開けて乾杯の音頭に入る。「合宿の成功を祝して!」「合宿に成功とか……まあ、あるか」 骨折の提案に山口
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第八十二話

 テーブルの上のおつまみはあらかた食い尽くされ、お酒を飲みながら会話が続いていた。「あー、なんか体が重くなってきた。風呂入るのめんどくさくなってきたなあ」「やだ、ばっちー」 骨折の発言に麻美が反応する。「汚くねえよ。俺は代謝が悪いんだよ」「あ、それはわかる」「だろ?」「つーか、お前ら。枕投げする元気残ってる?」 山口がだるそうな声で会話に入る。「えー?まだぜんぜん元気ですよー!時間だってまだ十時前ですよ?」 裕子の声はまだまだ元気そうだ。ナベの体は酒の影響で少しだるかったが、裕子が元気なら枕投げもがんばろうと小さく決意した。「んじゃあ、そろそろ風呂入るか。もう酒も残ってないでしょ」 ケンがそう言うと、だらだらと片付けが始まった。「ちゃんと分別しないとね」「さすが理恵ちゃん」 びん・缶・ペットボトルを理恵が分けていき、それを瞳が手伝った。札幌市のゴミの分別は十月から始まったので、まだ慣れない者が多い。 テーブルのゴミがなくなって由美とナベ、みずともが台布巾で拭いて掃除が終わる。「じゃあ、先に女子たち風呂入ってきてー」 合宿所の風呂は一つしかなかった。女子陣が風呂へ向かう。「よし」 山口が立ち上がると、骨折も立ち上がり、つぶやく。「覗くか」 山口は半眼で骨折を見やる。ナベは裕子を見られるのは絶対に阻止したいと思うが、先輩を止められるのか自信がない。「おー、行ってこい行ってこい。骨は拾ってやる。今度からお前のあだ名『複雑骨折』な」「ちょい待てよ。ちゃんと突っ込めよ。覗く気なんてねーって」「俺は止めねーよ?亡き英霊に――敬礼!」 山口が敬礼すると、ケン、ガジンも骨折に敬礼した。ナベも覗く気なんてないという言葉にほっとしてみんなに続いて敬礼する。「まだ死んでねーわ。百歳まで生きるっつーの」 がやがやと男子陣は歯ブラシを持って調理室へ向かった。歯磨きを終えると
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第八十三話

 女子陣が風呂から上がり、男子陣が風呂へ向かう。ナベも脱衣所で服を脱ぐ。自分の筋肉やアレに自信がないので裸を見られるのに抵抗がある。なので、なるべくゆっくり動いた。メガネを外すとナベの視界に映る景色は磨り硝子越しのようなものに変化する。視力が〇・一以下だからだ。ゆっくり動いても限界がある。下着まで脱ぐと同時に、前をタオルで隠した。 浴場へ入ると湯気でさらに視界が悪くなり、床も色だけで判断するので慎重に歩く。「ナベ、なんかおじいちゃんみたい」 ガジンの声がしたので、ナベはその方向を向く。視線の向こうに肌色の塊が見えた。「目ぇ悪いから床が見にくいんだよ」「俺、メガネかけたまま入ってるよ」「俺も俺も」 ケンと骨折の声も聞こえる。「あれ、メガネってお湯ダメなんじゃなかったでしたっけ」「うん、知ってるけど気にしてない」「あ、そうなの?温泉でメガネ洗ったりしたけどなんともないよ」 温泉でメガネを洗うのはマナー違反ではないだろうかと思うが、骨折は先輩なので何も言わない。肌色が見えないところを探して座る。「うーわ、お前せめて洗面器で洗えよ」 山口が骨折を非難する。「お湯に浸かってたらひまだから洗おうかって気分になるんだよ。メガネしてねえからお前はわかんねーだろうけど」「うん、理由になってねえ」 誰にも何も言われないので自分が裸であることはそんなに気にしなくていいか、とナベは少し気を抜いて体を洗い続ける。家では体を洗い終わったあとと頭を洗い終わった後にそれぞれ合計二回湯に浸かるが、いまは少し気を抜いたとはいえ入浴時間を短くしたかった。だから続けて頭を洗う。 昨夜も思ったが、浴場のシャワーは水圧が強い。後ろに人がいないから良いが、頭を洗っているとちょくちょく後ろの壁にシャワーの水が直撃している。「お前かよ、くそ!」 骨折が叫んでいるので、ナベはそちらを見る。頭が白く見えるので、たぶんシャンプーだろうと推測する。「知らねえよ」 そういう山口の声は笑っている。
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第八十四話

 結局、男子陣は全員同じタイミングで風呂を上がった。ナベは二階に風呂セットを置き、湯冷ましのために暖房を消した食堂を軽装でぶらぶらしていると、裕子が駆け寄ってきた。「ねえねえ、アイス食べない?」「え?まだ余ってたの?」「うん、飲み会の時はアイス食べてなかったんだよね」「そうなんだ。ありがとう、もらうよ」「ちょっと待っててー」 ナベは自分だけもらってもいいのかな、と考えたが好意は素直に受け取っておこうと思い直す。裕子はすぐに戻ってきた。「一口食べたいからもらっていい?こっちの味も気になってたんだよね」「そりゃもちろん、もともと裕子ちゃんのなんだし。俺が許可するようなことでもないよ」「ありがと」 ナベは裕子がアイスをすくってそのスプーンを口に含むのを見ながら、これはいわゆるあれなのではないだろうかと考える。中学生じゃあるまいし、なんて言い回しはよく聞くが、実際にその場面に立たされると意識してしまう。「はい」「……ありがとう」 裕子からアイスとスプーンを受け取り、スプーンを一瞬盗み見る。意を決してスプーンを口に含むと、アイスの冷たさが舌を刺激した。思考が勢いよく回転し始めそうになるのを必死に抑えていると、風呂の余韻なのかなんなのかわからない汗が吹き出してくる。「あー、おいしい。ありがとう。チョコ好きなんだよね」 なんて言葉が意識の外から勝手に垂れ流されている。会話の内容はナベにもよくわからない。「そうなんだ、よかったぁ」 裕子は安心したみたいな表情をする。ナベはおいしいなあ、とかなんとか言いながらぱくぱくとアイスを食べ続けた。「ねえ、もう一口ちょうだい」「うん、どうぞどうぞ」 ナベは裕子にアイスを渡しながら、風呂の前に歯を磨いていてよかったと安堵するが、心の中は全く平穏ではなかった。「ありがとう、もう大丈夫」「そう?」 再び渡されたアイスの残りは一口で食べ切れそうな量だった。少し名残惜しいが、心臓に悪いので一口で
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第八十五話

「スタートぉ!」 ケンの号令で枕投げが始まる。全員、ふすまの近くは避けて壁際や隣の部屋の境界線近くに散らばっている。真ん中に立っていれば集中的に狙われるからだ。 枕が宙を飛び交い、乱戦になっている。ナベも手近な相手に枕を投げ、床から拾う。中学生の時に卓球部だったせいか、動体視力は良かった。目の端に枕が映ると的確にはたき落とし、生き残っている。投げる方は得意ではないので、投げ続けてはいるが狙いはつけず、当たったかどうかの確認もしていない。ただ守りに意識を割いている。 周りの喧騒に惑わされることもなく、気がつけば残り四人になっていた。久美子、山口、ガジン、そしてナベだ。それぞれが四方の端に寄っている。「ナベ、くたばれ!」 ナベの方へガジンから、そして無言の山口からも左右から同時に枕が飛んでくる。ナベはどちらの枕へも顔は向けず、目の端に捉える。そして左右に持った枕で両方はたき落とした。「ナベ、すごーい!」 興奮した裕子の声がナベの耳に届く。久美子はナベの方を向いたガジンに枕を投げ、ガジンはアウトになっていた。ナベは姿勢を低くして久美子と山口に枕を投げ、地面から枕を拾う。プレーヤーが減るにつれ、拾える枕の量には余裕ができていた。 ナベが投げた枕は両方外れている。ガジンが抜けたので、久美子とナベで山口を囲む位置関係になっていた。攻撃については久美子のほうが得意だろう、とナベは推測する。なので、山口に先に仕掛けて隙を作る作戦に出た。 久美子の方を警戒しつつ、山口の方へ狙いをつけて投げる。ナベの期待通り、久美子が隙をついて山口を狙ってくれた。ナベの枕は山口に軽くかわされた。だが、山口が避けた先で久美子の枕が山口の足に当たった。「山口、アウトー!」 負けたプレーヤーたちが自然と審判をしていた。「あー、まけたー!」 山口は隣の女子部屋へ移動する。「クライマックスになったようね、ナベ!」「俺の守りは固いですよ」 久美子の挑発にナベが答える。久美子が先に動く。両手に持った枕を時間差でナベに投げる。そのどちらもナベは防ぎ、同時に枕を投げ
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第八十六話

 翌朝。ナベはこめかみに鈍い重みを感じつつ目を覚ました。昨夜、いったんは考えないようにしていた裕子とのあれこれが思い出され、なかなか寝付くことができなかった。だが寝不足とはいえ、気分は悪くない。 昨夜は飲酒をしたうえに寝付けなかったが、まだ時間は七時になっていなかった。部屋を見回すと、ケンの姿だけ見えない。今日もまた朝五時に起きて食堂でコーヒーでも飲んでいるのだろう、とナベは推測する。そう考えると無性にコーヒーが飲みたくなってきたので、洗面道具を持って下へ降りた。 食堂を通るが、ケンの姿はない。もしかして出かけているのだろうか。そういうこともあるだろう、と考えつつナベは洗面しに脱衣所へ向かう。いちおう声をかけるが、誰もいなかった。まだだれも起きていないのだろう。手早く洗面を済ませて洗面道具を片付け、コートをとって食堂へ向かう。戸棚の中に昨日ケンが買ってきたコーヒーの瓶が入っていた。 ケンは合宿で振る舞うために買ったと言っていたので、ありがたくもらうことにする。ポットの中にはまだ熱いお湯が入っていた。食堂の窓は小さい。外はよく晴れているようだ。寒いかもしれないが、日の光を浴びながらコーヒーを飲みたかったので、外へ出る。庭にベンチとテーブルがあったはずだ。 そこにはコートを着たケンが座って新聞を読んでいた。空のコップがあるので、コーヒーを飲んでいたのだろう。「おはようございます」「お、おはようナベ。早いね」「ケンさんには負けますよ」「でしょ?俺より早起きの学生なんて、そうそういないよ」「あ、コーヒーありがとうございます。またいただきました」「うん、いいよ全然。飲んで飲んで」 そこは六人がけのテーブルで、ケンの席から一つ置いて外が見られる座席に座る。周りは林に囲まれていた。朝の少し冷たい、けれど澄んだ空気がここちいい。テーブルは朝日で照らされていて、熱いコーヒーもあるのでコップで手を温めながら飲めば耐えられそうだ。十一月下旬の朝の気温は零度近い。コーヒーを飲み終わったら中へ戻ろうとナベは決めた。「ケンさん、寒くないんですか」「めっちゃ寒い。外のテーブルでコーヒー飲みながら新聞読むとか、
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第八十七話

「ナベ、出かけてたの?」「やっぱそう思うよねー」 裕子の疑問に理恵が反応する。昨夜のできごとが脳裏をよぎり、心臓が跳ねる。「庭にあるテーブルでコーヒー飲んでた。あ、裕子ちゃんも飲む?」 ナベはできるだけいつも通りに振る舞おうと意識したが、できているかどうか自信がなかった。「王族ー。うん、ちょうだい」「理恵ちゃんは牛乳あるけど、コーヒー飲む?」「うん、飲もうかな」「了解」 ナベは牛乳をテーブルに置き、戸棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出す。「理恵ちゃんにはセレブって言われたよ」「うん、生活っていうか、心?に余裕のある人の行動だわ」「余裕ねー。わりといつもいっぱいいっぱいだよ」「そうなの?」 ポットのお湯を確認すると残り少ないので、やかんを吊り戸棚から出してお湯を沸かす。「なんかごめんね、全部やらせて」「ナベ、ありがとー」 理恵が謝り、裕子が感謝する。「いやー、体が冷えたからもう少しお湯を飲みたかったんだよね」「お湯って、おじいちゃんじゃん」 理恵にそう指摘されてナベはほんの少し傷ついた。自分があまり若者らしくはないことを気にしていた。もっとも、若者らしくありたいとも思っていなかったが。「コーヒー飲みすぎると体に悪いからさ」「お茶とか飲めば?」「お茶こそおじいちゃんじゃん。でも、お茶のほうが飲みたいかも。あるかな?」 ナベがいろいろ戸棚を開けると、いかにもお茶が入っていそうな茶筒を見つけた。開けると茶葉の入った袋がある。隣に急須があったので、軽く水洗いした。「ナベー、布団片付けるから手伝ってーって、どっか行ってた?」「外にはいた。あ、ごめん。お湯沸いたらポットに入れといてもらえる?」「オッケー」 お湯の番を裕子に任せ、ナベは二階へ上がる。もう全員目を覚ましたようだった。男子だけで全員分の布団を片付けて下へ降りると、女子たちはお茶やコーヒーを飲んでいた。「ナ
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第八十八話

 地下鉄の近くにあるチェーン店のレストランは、朝七時から営業していた。連休の最終日、まだ九時前の店内はがらんとしていて、ほぼ貸切状態だった。「……バイキング一択じゃない?」 メニューを見てケンが周りを見る。この時間帯、朝食限定のバイキングを頼むことができた。「ほら、女子もサラダとかジュースとかケーキもあるよ。これで八百円て安過ぎん?」 ケンの意見ももっともだ。単品だと割高な値段設定なので、全員朝食バイキングを頼むことにした。ナベはふだん、質素な朝食を食べている。ご飯、納豆、味噌汁。それと漬物などが定番だった。けれど旅行などのバイキングだと、つい食べすぎてしまう。もとは取りたいので今日もたくさん食べることになるだろうが、お腹は空いていたので望むところだった。 とりあえず全種類食べたいので、カウンターに並べられた料理を一つずつ皿に盛っていく。もとを取るには肉と魚だろう、と考えて大皿をいっぱいにする。けれどそれだとバランスが悪いので、小皿にサラダを盛る。ご飯の横にカレーもあったが、米はすぐにお腹がいっぱいになるのでカレーはやめておいたほうがいいだろう、と判断する。ご飯を一膳と味噌汁を一杯とる。スープも三種類用意されていた。余裕があればおかわりすることにして、とりあえず席に戻った。「ナベってけっこう食うよね」 すでに食べ始めていたガジンがナベのプレートをちらりと覗く。「そうかな?食える時は食う……って、貧乏性なのかな」 ときどきサラダを挟みつつ肉や魚料理を一通り食べていく。大皿が空になるころにはご飯茶碗も空になっていた。まだお腹の中には入りそうなので、おかわりをしにいく。最初は中華料理を中心にとったので、今度は洋食を攻める。焼き立てパンとパスタも気になったので少しだけとった。 取った分を食べきるとさすがにお腹がいっぱいになった。最後にケーキ一個とコーヒーを持ってきてゆっくり食べる。もう充分だったが、シメがほしいと思うのはなぜだろう、とどうでもいい疑問が頭に浮かぶ。山口は三回目か四回目のおかわりをしている。全種類を食べきる勢いに見えた。 雑談
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