All Chapters of 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Chapter 81 - Chapter 90

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81話

何かを言おうとして、口を開いては閉じてを繰り返す伏見。 そんな伏見を、音羽は急かす事はせずじっと待った。 だが、結局伏見は音羽からふいっと視線を逸らしてしまって──。 そして、ソファから立ち上がった。 「蓮夜──……っ」 どうして、こんな事をするのか。 どうして以前、あんな事をしてまで自分が危ない仕事を始めようとするのを止めたのか──。 伏見は、昔の自分を知っているのか──。 音羽は、次々と込み上げてくる疑問を伏見に問いただそうとした。 だが、伏見を見上げた音羽は、伏見が窓の外に視線を向け、目を細めた姿を見た。 何かを見つけた、と言うようなそんな伏見の表情。 「蓮夜、どうしたんですか──」 音羽がそう聞こうとした時。 窓の外に向いていた伏見の顔がぱっと音羽に戻り、音羽の腕を掴んでソファから引き上げた。 「音羽の息子が帰って来た。散歩に行こう。接触するぞ」 「──っ!恭ちゃんが!?ま、待ってください!すぐに服を着ます!」 昔、伏見と会っていたかもしれない。 伏見は、昔の自分を知っているのかもしれない。 その事はとても気になるが、今の音羽にとって1番大事なのは息子の恭だ。 音羽は慌てて伏見に脱がされた下着やワンピースを急いで身に付けた。 ◇ 「──あ。おばさんに、おじさん。こんにちは……」 「こんにちは」 音羽と伏見が手を繋ぎ、外に散歩に出る。 玉櫛の家に向かって道を歩いていると、音羽の姿に気が付いた恭が自ら声をかけてきた。 音羽は恭に挨拶をされた事が嬉しくて嬉しくて。 だが、それを顔には出さないように細心の注意を払い、微笑みを浮かべて挨拶を返す。 「保育園の帰り?楽しかった?」 音羽が恭の背丈に合わせてしゃがみ込む。 そうすると、僅かに恭の瞳に感情が揺らいだように見えた。 恭は手を繋いでいる運転手を窺うように見上げた。 だが、運転手は伏見と言葉を交わしているようで、恭は迷ったように視線を揺らしたあと、音羽にぽつりと小さな声で答えた。 「あまり楽しくないです……」 「──え?」 どうしたの──。 どうして、保育園が楽しくないの。 音羽はそう聞こうとしたが、伏見と運転手の会話は終わってしまったようで。 運転手が恭に顔を向け、話しかける。 「さあ、坊っちゃま。お家に入ったらお勉強の先生がいらして
last updateLast Updated : 2026-03-14
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82話

門の奥に消えてしまった恭を、姿が見えなくなってもその場から動けずに、ずっと立ち尽くしていた音羽。 そんな音羽に背後から伏見が話しかける。 「──音羽」 「……!す、すみません蓮夜……!」 「大丈夫か?」 「大丈夫、です。その、家に戻ります、か……?」 繋いだ手に少しだけ力を込めた音羽が、伏見を見上げる。 その視線を受けた伏見は「いや」と否定の言葉を口にし、繋いでいる音羽の手を引っ張った。 「少し買い物でもしてから帰ろう」 「──あっ!確かにそうですね。食材を買わないと……!」 「大荷物になりそうだな。車で行くか」 ぐっと伏見に手を引っ張られ、音羽は前を歩く伏見に着いて行った。 伏見と音羽は一旦自宅に戻り、車に乗り込んだ。 今から向かうスーパーは高級住宅街の中にある。 音羽も、昔は良くそのスーパーを利用していた事があるが、まさか再び自分がそのスーパーを利用するようになるとは思わなかった。 スーパーにカートを押しながら入った音羽は、陳列棚に並んでいる商品を眺めながらその値段の高さに舌を巻く。 (この付近に住む人達の収入の高さが計り知れないわね……。──嘘でしょう!?お肉が100gで2500円!?ブランド和牛じゃないわよね!?) あまりの値段の高さに音羽が品物を凝視していると、音羽の様子を眺めていた伏見は品物を手に取った。 「肉を買うのか?どれが必要なんだ……?違いが良く分からん。全部買っていけ」 「──へっ!?ちょ、ちょっと蓮夜……!全部なんて2人じゃ食べきれないわ!」 パッケージを見た伏見だったが、眉を寄せてそう呟くと、なんて事ないように次々と肉のパッケージを手に取り、カートに入れて行く。 音羽はぎょっとして伏見を止めようとしたが、伏見は「次は何が必要なんだ」と音羽からカートをさらりと取ってしまい、そのまま通路を進んで行く。 音羽はスタスタと歩いて行ってしまう伏見の後を慌てて追いかけた。 ◇ 車に戻ってきた2人。 音羽は、後部座席に沢山置かれた買い物袋に唖然としていた。 「絶対にこんな量、2人じゃ消費し切れないです……」 「そうか?作ってくれれば食べる。普段はあまり飯を食わないからな……音羽と住んだら健康的になりそうだ」 「え……っ、普段はあまり家で食事を摂らないんですか?」 音羽はそう答えながら、ふと伏見
last updateLast Updated : 2026-03-14
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83話

自宅に帰って来た音羽と伏見。 音羽も荷物を持とうとしたのだが、沢山の品物が入った買い物袋は全て伏見が持ってしまう。 「音羽、悪いが鍵を開けてくれ」 「わ、分かりました……!」 音羽は両手が塞がっている伏見の代わりに、慌てて玄関に駆け寄ると教えてもらっていた解錠キーを入力する。 電子音がして、施錠が解かれると音羽は玄関扉を開けた。 「どうぞ、蓮夜さん」 「開けさせて悪い。キッチンに運べばいいか?」 「は、はい!ありがとうございます!」 どういたしまして、と笑って進んで行く伏見の背中を、音羽は何とも言えない表情で見つめた。 (何だか……誤魔化されちゃった気がするわね……。夕食の時に蓮夜にもう1度聞いてみよう) 昔、自分は伏見と会った事があるのか──。 それが関係していて、こんなに自分に良くしてくれるのか──。 (こんな風に蓮夜に助けてもらっているばかりじゃ駄目だわ。今の私にはお金も無いし……大したお礼はできないけど……) せめて、自分を雇ってくれた本来の理由。 家事を完璧にこなし、蓮夜の役に立とう、と音羽は気合いを入れ直した。 ◇ 夕食前。 音羽は、キッチンで下拵えをしていた。 忙しくキッチンを動き回る音羽を、珍しい物を見るように先程から伏見がリビングから眺めていた。 音羽は、自分の背中にひしひしと突き刺さる伏見の視線に居心地が悪くなってしまう。 「れ、蓮夜……ご飯が完成するのはもう少し後です……その、見ていても何も楽しくないでしょう……?お部屋で寛いでいたらどうですか?」 堪らず、音羽が伏見に向かってそう話しかけると、ソファに座って音羽を眺めていた伏見が口角を上げて言葉を返す。 「俺の寝室を見ただろう?ベッドと棚しかない。あの部屋で過ごすより、ここで音羽を眺めている方が楽しい。俺の事は気にせず、料理に集中してくれ」 「そ、そうは言っても──」 こんなに見られるのは初めてだ。 しかも、伏見の視線はどこか温かくて。 とても優しい笑みを浮かべている事に本人は気がついていないのだろうか──。 音羽がドギマギしていると、手元が狂ってしまった。 ──さくり。 と、包丁で指先を切ってしまい、音羽は小さく声を漏らした。 「──痛っ」 「切ったのか!?」 ほんの小さな音羽の声。 そんな声にも伏見は気付き、慌ててソフ
last updateLast Updated : 2026-03-15
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84話

柔らかな表情も。 優しげな眼差しも。 今の伏見からは綺麗さっぱり消えていて。 伏見の黒い瞳には、何の感情も浮かんでおらず、まるで底無しの沼のように真っ暗だった。 そんな表情を見た事がなかった音羽は、びくりと怯えるように体を震わせた。 「れ、蓮夜……?」 「──っ、悪い、何でもない。痛みは……?」 「わ、私は大丈夫です。蓮夜がすぐに手当をしてくれたので……でも、蓮夜が……」 「それなら、良い。これからは気を付けてくれ」 音羽がまだ話していると言うのに、伏見は遮るようにして立ち上がってしまった。 救急箱を元に戻しに行くのだろう。 普段だったら、音羽の言葉を遮ったりなんてしない。 柔らかな、優しい表情で最後まで話を聞いてくれるのが伏見の常だ。 それなのに、今の伏見には明らかに違和感しかない。 (私が……何か蓮夜にとって、触れられたくない事を口にしてしまった……?) 伏見が絆創膏を巻いてくれた指先に、視線を落とす。 何か余計な事を口にしてしまったのは明白だ。 音羽はエプロンの裾をきゅっと掴み、俯いたまま謝罪を口にした。 「すみません、蓮夜。私が余計な事を言ったんですよね……。今度からは、余計な事は喋りません──」 「──違うっ」 音羽が声を微かに震わせ、そう言葉を紡ぐと。 救急箱を片付けに行っていた伏見の背中が弾かれたように振り向いた。 「悪い音羽。音羽が余計な事を言った訳じゃない。……ただ、昔の事を思い出しただけだ。……昔の俺は、お世辞にも良い生活をしていた訳じゃないかは……。ただ、嫌な事を思い出しただけだ。悪かった、音羽」 伏見は音羽の元に戻りつつ、そう説明をしてくれる。 伏見の言葉に恐る恐る顔を上げた音羽の視界に入った伏見の表情は、普段見慣れた優しげな顔に戻っていた。 先程の、何の感情も宿していない、まるで能面のような表情ではなくなっていて。 その事に、音羽はほっと胸を撫で下ろした。 いつもの伏見に戻った事が、とても安心して──。 そこで、音羽はハタ、と目を瞬かせる。 (待って……どうして私は蓮夜の様子にここまで……) 音羽は自分の胸元に手をやり、戸惑う。 (蓮夜が普段の蓮夜じゃないみたいなのが、凄く嫌で……怖くて……。いつもの優しい蓮夜の方が、彼らしいって……どうして私はそんな事を思って……) 音羽
last updateLast Updated : 2026-03-15
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85話

音羽は、騒がしく鳴り響く自分の心臓に気付かないふりをしてキッチンへ戻った。 (違う、違う違う──!) 必死に、否定する。 (違うわ、ドキドキなんてしていない……!ただ、蓮夜の整った顔が目の前にあったから……!) ただ、それだけだ。 音羽は自分にそう言い聞かせる。 伏見にキスをされても。 体を触られても。 快楽を与えられても。 (蓮夜は、私に教えるためで……っ!私が危ない事をしたらいけないって、身を持って教えてくれただけ……!) そう、必死に言い聞かせる。 (私には、恭ちゃんを取り戻すって言う大きな目標があるのだから。それ以外に心を揺らしていたら駄目……それに、私は蓮夜より年上なのに何も知らないから、蓮夜は教えてくれただけよ。蓮夜は、とても優しい人だから──) 伏見が、音羽の前で見せている優しさ。 伏見を知っている他の者が見たら、卒倒するくらい珍しいものだ。 だが、伏見の本当の仕事を何も知らない音羽は、伏見がただただ優しい人だと信じきっている。 本来の伏見の姿なんて、全く真逆だというのに。 音羽は伏見の事で頭がいっぱいになってしまいそうで。 慌てて料理に集中する。 頭の中を料理の事に無理やり切り替えてしまえば、この動揺も。 変に騒ぐ胸も、落ち着くだろう。 ◇ 音羽が料理に集中し始めて数十分。 沢山の食材を調理し、慌ただしくキッチン内を動く音羽を、いつの間にかリビングに戻ってきていた伏見は雑誌を読む振りをしてずっと盗み見ていた。 「──まるで、夢みたいだな……」 ぽつり、と伏見が零した声も、料理に集中している今の音羽には聞こえていない。 伏見は、音羽がこんな風に自分の家にいて、自分のために料理をしている姿が未だに信じられなかった。 幼い頃に助けてくれた、少し年上のお姉さん。 音羽が自分の小さな手を引っ張って必死に走る背中を、伏見は涙で滲んだ瞳でずっと見つめていた。 当時、短い足を必死に動かして走る伏見が転んでしまうと、音羽は慌てて伏見に駆け寄り、抱き上げて逃げてくれた。 音羽自身だって、怖かっただろう。 音羽も恐怖に涙を浮かべていた。 だが、音羽より年下で、子供だった伏見をこれ以上怖がらせてはならない、と音羽は自分だって子供だったのに必死に伏見を守り、大人の元へ駆けてくれた。 その時は、まだ。 音羽の
last updateLast Updated : 2026-03-16
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86話

◇ 「──よし、出来た!」 音羽は出来上がった沢山の料理を満足気に見て、興奮したように声を上げた。 伏見がぽいぽいと大量購入したお肉。 肉を消費するためにロールキャベツや生姜焼き、野菜炒めなどを沢山作った。 日持ちするものはまた明日の朝食に使えばいい。 音羽が自分の力作達に満足していると、ふと目の前に自分のではない影がかかるのが見えた。 「美味そうだな」 「──ひゃっ」 音羽の耳元で聞こえた低く、艶やかな声。 まるで音羽の耳に直接吹き込むように囁かれた声。 その声の近さに、音羽はびくりと体を跳ねさせた。 くつくつと笑う低い声が聞こえ、音羽は背後を見上げる。 「れ、蓮夜……驚かさないでください……!」 「悪い。そんなに驚くとは思わなくて」 伏見の長い両腕が、まるで音羽を閉じ込める檻のように体の両側に置かれている。 料理を置いているテーブル。 その淵を掴むように伏見の両手は置かれていて。 そして、背後には伏見自身がいる。 音羽は伏見に閉じ込められてしまっている状況に気付き、頬を赤らめた。 「れ、蓮夜。料理を運びますから……どいてください」 蚊の鳴くような声か細い声で呟く音羽。 音羽が俯くと、彼女の真っ白なうなじが伏見の眼前に晒される。 真っ白なうなじには、伏見が付けた鬱血痕──キスマークが幾つも散らばっているのが見えて、伏見はその痕を見てじくり、と腹に熱が灯るのを感じた。 だが、先程怯えさせてしまった事を思い出し、伏見はすぐに両手を上げて音羽を檻の中から出してやる。 「料理をリビングに運べばいいか?」 「──あっ、はい……!ありがとうございます!」 「音羽は飲み物を用意してくれ。冷蔵庫に入っている」 「分かりました。蓮夜は何を飲みますか?」 「コーヒーを頼む」 「冷たいのですよね?」 「ああ」 こくり、と頷く伏見に音羽も笑顔を返す。 音羽は食器棚からグラスを2つ用意して、伏見のアイスコーヒーと自分用の烏龍茶をグラスに注いだ。 グラスに入った氷が、リビングのテーブルに置いた拍子にカラン、と涼しげな音を立てる。 全ての料理を運び終わり、夕食にも丁度いい時間になった。 音羽と伏見はリビングのテーブルに座り、揃って「いただきます」と口にして料理に手を伸ばした。 音羽が作った料理を口にした伏見の目が見開
last updateLast Updated : 2026-03-16
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87話

夜。 夕食後、洗い物を終わらせた音羽はリビングで寛ぐ伏見に倣い、自分もソファに腰を下ろした。 手持ち無沙汰になりテレビのリモコンを手に取ってテレビの電源をつける。 すると、ニュース番組が流れた。 その番組では、天気から始まりその日あった様々な事をキャスターが紹介していた。 その中で、玉櫛ホールディングスが海外の企業との提携を確立させ、国内では初の試みとなる共同事業に国内外から注目を浴びている、と言う内容が報道された。 「──っ」 音羽は、テレビ画面に映ったかつての夫──玉櫛 樹の姿を見てびくりと体を震えさせた。 海外企業の社長だろうか──その人物と笑顔で握手を交わしている姿がテレビ画面に映っていたが、突然ぶつりとテレビが消える。 「胸糞悪い男の顔を見てしまった」 不機嫌さを隠しもせず、伏見が呟く。 だが伏見の表情は、音羽を心配するように窺っているように見える。 音羽は伏見を安心させるように笑う。 「本当ですね。凄く嫌な物を見てしまいました」 びっくりしたのは、本当だ。 突然樹の姿が現れた事に驚いた。 だが、思ったよりも音羽の心は動揺していない。 樹の顔を見たら、辛い気持ちが湧き上がってくるのでは。 音羽はそう思っていた。 だが、不意打ちに樹を見てしまっても。驚きはしたが、以前のように──刑務所に居た時のように動揺したり、悲しみを感じたり苦しかったりはしなかった。 樹の顔を見ると、恭を思い出してしまう。 それによって、心が苦しくなる。 だが、恭以外では樹に対して何も感じない。 音羽の様子に、無理をしているような感じが無い。 その事をしっかりと把握した伏見は、胸を撫で下ろした。 そして小さく笑みを浮かべると、口を開く。 「本当に最悪な気分だ。だが、浮かれているあいつの顔が絶望に歪む様を見てみたいと思わないか、音羽?」 「──絶望、ですか?」 「ああ。音羽を裏切り、酷い事をしたあいつにも。それに、音羽の元夫を寝取ったあの女にも復讐してやればいい」 「復讐……」 「ああ。いくらでも手を貸すぞ?」 にんまり、と笑みを深める伏見。 音羽は、もしかしたら伏見はそんな事を言って自分を励ましてくれているのではないか。 そう、思った。 だから深く考えず、伏見の提案に乗ってみせる。 「そうですね。樹も、裕衣にも復讐
last updateLast Updated : 2026-03-17
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88話

翌朝、5:30。 音羽は伏見から与えられたスマホのアラームを切ると、欠伸を1つ零して起き上がる。 「6時には蓮夜を起こさなきゃ。その前に、軽く朝食の下準備をしちゃおうかな」 音羽はぐっと伸びをして、ベッドから降りる。 寝巻きから着替え、軽く身支度を終えて部屋を出る。 キッチンでお味噌汁を冷蔵庫から出して温め、昨日下味を付けていたお肉を取り出して調理を始める。 そうしているうちに伏見を起こす予定の6時になってしまった。 「もうこんな時間?早く起こしに行かなきゃ……!」 朝は時間が経つのが早い。 音羽は濡れた手を軽く拭い、伏見の寝室へ向かった。 「──蓮夜、蓮夜起きてますか?」 伏見の寝室。 一応外から軽くノックをしてみたが、中から返事は返って来ない。 音羽は寝室のドアノブに手を伸ばし「失礼します」と口にしてからノブを回した。 「入りますね……」 カチャリ、と小さな音を立てて開いた扉。 扉を開けてみると、伏見の寝室は真っ暗で。 音羽は壁を手探りで伝い歩き、記憶していたベッドの位置に進む。 暗闇に目が慣れてきて、音羽のすぐ目の前に伏見が眠るキングサイズのベッドが見えた。 伏見はぐっすりと眠っているようで、掛布団が規則正しく伏見の呼吸に合わせて上下しているのが見えた。 「蓮夜、蓮夜。もう6時です、起きてください」 音羽はそっと声をかける。 だが、声をかけたくらいでは伏見が目を覚ます気配は全く無い。 音羽は少しだけ迷ったのち、直接伏見の体に触れ揺さぶって起こそうと決めた。 「蓮夜、蓮夜起きて──」 伏見の肩であろう場所に音羽が手を伸ばし、触れて軽く揺らした。 その瞬間──。 「きゃあっ!」 布団の中から伸びてきた伏見の腕が、音羽の腕を掴み、強い力で引き寄せたのだ。 堪らず、音羽は悲鳴を上げてベッドに倒れ込む。 伏見は倒れ込んだ音羽の腰を抱き、そのままベッドの中に引きずり込んでしまう。 「なっ、ちょっと……!蓮夜、起きてください……っ」 「──んん、うるさい……」 「──ひっ」 伏見の低く、掠れた声が音羽のすぐ近く。耳元で聞こえる。 あまりの近さと、低く掠れた色っぽい伏見の声に、音羽は思わず悲鳴を上げてしまった。 だが、音羽の腰を抱き、背後から強く抱き寄せる伏見の腕はあろう事か音羽の胸元に伸びていて──
last updateLast Updated : 2026-03-17
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89話

「ひんっ」 音羽の鼻から、甘ったるい声が抜ける。 その声を聞いた瞬間、蠢いていた伏見の手がぴたり、と止まった。 (あ、あれ……?終わってくれる……?) 音羽はそんな希望を抱いたが、どうも終わってくれるようでは無かった。 むしろ、伏見の手は明確に音羽を愛撫しだしたのだ。 音羽の服の中に入っていた伏見の手が、素早く音羽の下着を下ろし、胸を露出させてしまう。 「──ぁっ、やだっ、嘘っ!?」 「……音羽も期待してたのか?胸の先が硬くなってる」 音羽の胸先を、伏見の指先がきゅっと抓る。 その瞬間、音羽の背筋にびりびりとした快感が走り抜け、背がしなる。 「──んんっ」 びくっ、と体を跳ねさせた音羽に気分を良くした伏見の手は、更に刺激を続けた。 伏見は片手で胸を刺激していたが、もう一方の手も音羽の服に潜り込ませ、両手で胸を刺激しだしたのだ。 ふにゅり、と伏見の手の中で胸が歪み、胸の先を執拗いほど刺激される。 ぞわぞわとした快感が音羽の腹に溜まってきて、それが今にも弾けてしまいそう──。 そんな瞬間に、伏見の手は音羽の胸からぱっと離れてしまった。 「──えっ、あ……」 音羽が思わず残念そうな声を出してしまうと、背後からくつり、と笑う声が聞こえた。 伏見の喉奥で笑う声を聞いた瞬間、音羽の顔が真っ赤に染まる。 (な、何を私は期待してたの……!?れ、蓮夜に止めて欲しかったのに、どうして残念がって……っ) 音羽の目に羞恥やら快楽やら、様々な感情が込み上げてきて、涙の膜が張る。 音羽が混乱しきっている間、伏見の手は今度は音羽の腹をなぞり、腰をゆっくりと手のひらで摩りながら下降していく。 伏見の手のひらが目指す場所は、明白だ。 伏見の思惑を察した音羽が慌てて手を静止しようとしたが、時既に遅し。 伏見の手は、音羽の下半身──長ズボンの中にするり、と入り込んでしまった。 「──あっ」 「……濡れてる」 再び、くつりと喉奥で笑う伏見の声が聞こえた。 そしてぐぐっと伏見の指が、音羽の敏感な場所を強く押し込んだ。 押し込まれる度に、音羽の腰がビクビクと跳ねる。 まるで、陸に打ち上げられた魚のようにしなる音羽。 そんな音羽に、伏見は背後から抱きしめるようにしていたが、がばりと体を起き上がらせると、音羽の肩を掴んで簡単にくるりと回転させた。
last updateLast Updated : 2026-03-18
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90話

音羽のぼんやりとした視界がはっきりとしてくる。 すると、そこで伏見の首に回していた自分の腕がまず1番に目に入った。 男らしく、太い首。 喉仏がごくり、と上下するのが見えた。 そして、音羽が視線を下に移動させると──。 伏見の何も身にまとっていない上半身が視界に入り、音羽はぎょっと目を見開いた。 「なっ、何で裸──っ」 「──あ?ああ、夏の間はいつもこの格好だ。気にしないでこっちに集中しろ、音羽」 「えっ、あっ、やあっ!!」 どうやら、1度音羽が達してもそれは終わらないらしい。 本格的に伏見が音羽に覆い被さり、これからが本番だ、とばかりに伏見が舌舐めずりするのが見えた。 音羽は悲鳴を上げたかったが、それは伏見によって嬌声に変わってしまった──。 それから、たっぷり小一時間。 伏見が満足するまで音羽は乱され、何度も達した。 2人の間に挿入は無かったが。 最早それ以外は全て伏見にされてしまったのではないか、と言うほど伏見は様々な手で音羽を乱した。 終盤など、伏見の硬くそそり立った物で下着越しに何度も擦り上げられ、突き上げられた。 挿入こそなかったが、最早これは抱かれているようなものだ。 しかも、困った事に音羽は伏見に触れられても一切嫌悪感も、拒絶感も何も抱かなかった。 それは、伏見が触れる手が音羽を気遣い、優しかったからだろうか。 そんな風に、大事に触れられる事など、音羽は今まで無かった。 過去、音羽は元夫とそう言った行為は何度もしている。 だからこそ、恭を授かる事が出来たのだ。 だが、音羽は訳が分からなくなるほど、頭が真っ白になってしまうほど、この行為が気持ちいいと思った事はない。 いつも痛くて、苦痛で。 早く元夫が満足してくれればいい、と耐えるような時間だった。 優しく触れられる事など無かった。 伏見のように、まるで慈しむように。ちゃんと音羽が気持ちよくなっているか、つぶさに観察されて大事に抱かれる事なんて、無かったのだ。 「──音羽、大丈夫か?」 さらり、と伏見の優しい手が音羽の頭を撫でる。 戯れるように音羽の髪の毛を指先に巻き付け、するりと指が抜ける。 「我慢出来ずに悪い。水は?飲むか?」 「飲み、ます……」 音羽は息も絶え絶えだ。 体の向きを変えようとしても、上手く力が入らなくて。 音羽が
last updateLast Updated : 2026-03-18
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