一通り伏見に家の中を案内してもらった音羽は、伏見に1度律子の家に帰りたい事を伝える。 「早速、明日から働かせていただくので1度律子さんの家に帰りますね。今日中に荷物を整理して、明日からはそのまま蓮夜の家に住み込みで働かさせていただきます!」 「分かった。なら、明日は車で迎えに行く。荷物があるなら足があった方が良いだろう?」 雇用主に迎えに来てもらうなんて──。 そんな事、頼めるはずがない。 音羽はぎょっとして慌てて首を横に振った。 「だ、大丈夫です蓮夜!荷物もそんなに多くないですし、電車で移動します!」 「明日、そっちの家に居る律子に用がある。音羽の迎えはそのついでだ。気にするな」 「そ、そうなんですか……?それなら……ありがとうございます、助かります……!」 ついでに迎えに行く。 伏見の言葉を信じた音羽は、お礼を伝えると頭を下げた。 本当の事を言ってしまえば、伏見には律子に何の用事も無い。 だが、こうでも言わないと音羽はきっと電車を乗り継いでやって来るだろう事は容易に想像出来た。 (真面目なんだか……なんだろうな……。もっとずる賢く生きればいいものを……) 伏見は無意識に音羽の頬に手を伸ばした。 「──?蓮夜?」 不思議そうに伏見の手を目で追っていた音羽が、きょとりと目を瞬かせ、伏見を見上げる。 ぎくり、と体を強ばらせた伏見はすぐに音羽の頬から手を遠ざけるとわざとらしく咳払いした。 「すまない、何でもない。──そろそろ一旦家に帰るか?自宅まで車で送る」 「えっ、わ、悪いです!」 車のキーを掴んだ伏見は、ちらりと音羽を見やると続ける。 「だが、以前俺と音羽は夫婦の振りをして周囲を散歩しているだろう?ここで俺が家にいるのに妻の音羽1人が家から出て行き、電車で移動する姿を見られたら……瞬く間に噂が広まってしまうが、いいのか?」 「──あっ、確かにそうでしたね」 あと一押しだ、と伏見は音羽に畳み掛ける。 「それに、そんな噂を息子が耳にしたら?不審者だと思われて近寄って来なくなるかもしれない。それでも良いのか?」 「──い、いやです!恭ちゃんと、また先日のようにお話したい……っ」 「なら、決まりだな。車で送る。乗って行け」 ぐっ、と腰を引き寄せられた音羽は、全く予想していなかった伏見の行動に驚いた。 引き寄せられ、
Last Updated : 2026-03-09 Read more