All Chapters of 夫と愛人に地獄に突き落とされた私を救ってくれたのは「若」と呼ばれる裏の世界の人でした: Chapter 71 - Chapter 80

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71話

一通り伏見に家の中を案内してもらった音羽は、伏見に1度律子の家に帰りたい事を伝える。 「早速、明日から働かせていただくので1度律子さんの家に帰りますね。今日中に荷物を整理して、明日からはそのまま蓮夜の家に住み込みで働かさせていただきます!」 「分かった。なら、明日は車で迎えに行く。荷物があるなら足があった方が良いだろう?」 雇用主に迎えに来てもらうなんて──。 そんな事、頼めるはずがない。 音羽はぎょっとして慌てて首を横に振った。 「だ、大丈夫です蓮夜!荷物もそんなに多くないですし、電車で移動します!」 「明日、そっちの家に居る律子に用がある。音羽の迎えはそのついでだ。気にするな」 「そ、そうなんですか……?それなら……ありがとうございます、助かります……!」 ついでに迎えに行く。 伏見の言葉を信じた音羽は、お礼を伝えると頭を下げた。 本当の事を言ってしまえば、伏見には律子に何の用事も無い。 だが、こうでも言わないと音羽はきっと電車を乗り継いでやって来るだろう事は容易に想像出来た。 (真面目なんだか……なんだろうな……。もっとずる賢く生きればいいものを……) 伏見は無意識に音羽の頬に手を伸ばした。 「──?蓮夜?」 不思議そうに伏見の手を目で追っていた音羽が、きょとりと目を瞬かせ、伏見を見上げる。 ぎくり、と体を強ばらせた伏見はすぐに音羽の頬から手を遠ざけるとわざとらしく咳払いした。 「すまない、何でもない。──そろそろ一旦家に帰るか?自宅まで車で送る」 「えっ、わ、悪いです!」 車のキーを掴んだ伏見は、ちらりと音羽を見やると続ける。 「だが、以前俺と音羽は夫婦の振りをして周囲を散歩しているだろう?ここで俺が家にいるのに妻の音羽1人が家から出て行き、電車で移動する姿を見られたら……瞬く間に噂が広まってしまうが、いいのか?」 「──あっ、確かにそうでしたね」 あと一押しだ、と伏見は音羽に畳み掛ける。 「それに、そんな噂を息子が耳にしたら?不審者だと思われて近寄って来なくなるかもしれない。それでも良いのか?」 「──い、いやです!恭ちゃんと、また先日のようにお話したい……っ」 「なら、決まりだな。車で送る。乗って行け」 ぐっ、と腰を引き寄せられた音羽は、全く予想していなかった伏見の行動に驚いた。 引き寄せられ、
last updateLast Updated : 2026-03-09
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72話

◇ 「──音羽!」 「律子さん、ただいまです」 伏見に家まで送ってもらった音羽は、帰って行く伏見の車を見送り、家に入った。 音羽が家に入るなり律子が出迎えてくれて──。 「律子さん、今日のお仕事は早く終わったんですね」 普段は早くても夕方頃か、夜遅く。もしくは翌朝まで帰ってこない時もある。 今はまだ、夕方前だ。 それなのに律子が家に居て、音羽は嬉しそうに顔を綻ばせた。 明日から、荷物をまとめて伏見の家に住み込みで仕事を始めるのだ。 律子とゆっくり話を出来るのは今日だけ。 伏見の家で仕事をする事になった事も、律子に説明しないといけない。 「律子さん、今日はもう家を出る予定はありませんか?」 「ああ、今日の仕事は終わりだ。後は家に居るよ」 「──それなら、良かった!」 音羽は両手を合わせて喜ぶと、続ける。 「律子さんが、蓮夜──伏見さんに私が落とした名刺の事を教えてくれたんですよね?」 「あ、ああ……。勝手にあんたの物を拾って、伏見……サンに教えて悪かったね……」 「いいえ、いいんです。律子さんが伏見さんに伝えてくれていなければ……。もしかしたら私はあのまま名刺に書いてあったお店で働いていたかもしれません。……仕事を早く見つけなきゃって、気ばかり焦って……」 「だが……若──、いや、伏見サンにも止められたんだろう?あの店で働く事は……、諦めたんだろう?」 不安そうに音羽を見つめる律子に、音羽は笑顔で頷いた。 「はい。伏見さんに説明してもらって……それで、ああいった仕事はしない事にしました」 「──良かったよ、本当に」 「はい。……それで、その……私の働き先を伏見さんが提供してくださって……」 「え!?伏見サンが、かい!?どんな所を紹介されたんだ!?」 ぎょっと目を見開く律子に、音羽は少しだけ目を泳がせて律子に告げた。 「実は……伏見さんが住んでいるお家に住み込みで、家事代行業務を……」 「住み込み!?」 音羽の言葉に、律子は素っ頓狂な声を上げた。 ◇ 夕食時。 その日、音羽は律子と最後になる食事を楽しんでいた。 「──でも、音羽。仕事も、住む場所も見つかって良かったよ」 「はい、本当に……!律子さんにも、伏見さんにも助けていただいて。感謝してもし切れません!」 「音羽を助けたい、と思うから助けている
last updateLast Updated : 2026-03-09
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73話

◇ 翌朝。 朝、伏見が迎えに来ると聞いて、音羽は朝早く起きて準備を済ませて待っていた。 刑務所から出所し、律子に助けてもらった。 この家に一緒に住まないか、と誘って貰えた。 律子の言葉に甘えさせてもらい、住まわせてもらったこの家は、住んでいた期間は短いが、帰る家のなくなってしまった音羽にとって、この家はかけがえの無い、大切な場所になった。 音羽が家を後にする前に、せめてもの恩返しだ、と家の掃除をしていると律子が起きて来た。 「音羽、あんたこんなに早く起きたのかい?」 あくびを噛み殺しながら、眠そうに律子が寝室変わりの奥の部屋から出てくるのを見て、音羽は申し訳なさそうに言葉を返した。 「ごめんなさい律子さん。うるさくして起こしちゃいましたか?」 「いや、全然……。私は普段からこの時間に目が覚めるんだよ……。刑務所暮らしの癖が抜けなくてね」 「ふふふっ、私もそうなんです。朝早いですものね」 「ああ。全く嫌になっちまうね。健康的な生活になっちまってるよ」 こんな風に律子と軽口を叩き合えるのも、これが最後──。 ふと、音羽の頭の中にそんな考えが浮かんできてしまい、音羽はしゅんと寂しそうに肩を落とした。 「やだね、音羽。これが今生の別れってワケじゃないだろう?若──いや、伏見さんとは私も顔見知りだし、仕事の関係で彼とはよく顔を合わすんだ。時折伏見さんの家に遊びに行くよ」 「──本当ですか!?」 「ああ。そうだ、伏見さんに虐められたら私に言いな!私が怒ってやるよ!」 「ふっ、ふふっ!ありがとうございます律子さん。伏見さんに虐められたらすぐに連絡しますね!」 悲しそうだった音羽の表情が明るい笑顔に変わる。 その顔を見た律子は安心したように頬を緩めると、ふと真剣な眼差しを音羽に向けた。 「……後は、音羽。あんたの息子だけだね。あんなクソ野郎共に負けんじゃないよ?息子を取り戻しな。協力は惜しまないからね」 律子の温かくて強い意志の籠った言葉。 音羽はじんわりと自分の胸が温かくなるのを感じた。 「ありがとうございます、律子さん。絶対に恭ちゃんを取り戻します」 「ああ、その意気だよ」 2人で軽く笑い合っていると、伏見が迎えに来る時間になったようで。 インターホンが押された。 伏見が着いたのだろう。 「──ああ、伏見さんが迎えに
last updateLast Updated : 2026-03-10
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74話

「荷物が少なすぎるな」 車の後部座席に音羽のボストンバッグを置いた伏見は、ぽつりと呟く。 そんなに物が少ないだろうか。 音羽は不思議に思いつつ、ボストンバッグを見ながら伏見に返答した。 「そんなに少ないですか?必要な物は揃っているんですが……」 「いや、この量は確実に少ない。音羽は俺の家で働くとは言え、あの周辺の家の人間からは俺の妻だと認識されているんだから、身なりもそれなりの物が必要だ」 「──あっ」 伏見の言葉に、音羽はそうだった、とすっかり忘れていた【設定】を思い出す。 初めて伏見の家に行った時。 息子の恭と接触したいがために、伏見と夫婦の振りをしてあの周辺を散歩したのだった。 あの時、音羽と伏見が連れ立って歩いている姿は周辺の人に見られているだろう。 その事を考えると、外では伏見の妻として振る舞わなければいけない。 あの周辺は高級住宅街だ。 粗末な服装で出歩く事は出来ない──。 「ど、どうしよう……」 音羽はまだ無一文だ。 伏見の家で働くとは言え、まだお給料を貰う前である。 音羽が困っていると、伏見は自宅方面とは違う方向に車を走らせた。 「とりあえず、急ぎ入用な物を買う」 「だ、だけど蓮夜……!私、自分で自由に使えるお金が──」 「そこは気にしなくていい。さっさと買い物を済ませよう」 伏見はそう言うと、高級ブティックに向かって車を向かわせた。 ◇ 「いらっしゃいませ、伏見様」 伏見に連れてこられたのは、見るからに高級店だった。 伏見が店に入るなり、店員がずらりと揃い、頭を下げて伏見と音羽を出迎える。 その圧巻の光景に、音羽は驚いてぽかんとしてしまった。 「──似合う服を一通り用意してくれ」 「かしこまりました。奥様、でしょうか?」 「ああ。支払いはこれで頼む」 1歩進み出て来た店長と思わしき男性に、伏見は自分の懐から1枚のカードを取り出すと男性に手渡す。 恭しく受け取った男性は、頭を下げて「承知しました」と下がった。 入れ替わるようにやって来たのは、数人の女性店員。 女性店員は音羽の傍にやって来ると、上品な笑顔を浮かべたまま音羽を促した。 「さあさあ、奥様。フィッティングルームはこちらです」 「どうぞこちらへ」 「れ、蓮夜……!?」 伏見に助けを求めるように顔を向ける音羽。 だが
last updateLast Updated : 2026-03-10
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75話

「まあまあ!奥様は肌が白く、きめ細やかで鮮やかなお色が映えますわ!」 「こちらはいかがでしょう?」 「どの服もお似合いで!まるで奥様のために仕立てられたような物です!」 あれよあれよと言う間に、音羽が元から着ていた服は脱がされ、次々に新しい服を着させられる。 今が暑い夏だからだろうか──。 体の線が出て、肌の露出の多い服も多く選ばれて行く様を見て、音羽はぎょっとしてしまう。 かなり刺激的な服も中にはある。 あんな服を自分が上手く着こなせるはずがない──。 そう考えた音羽は、多くの服を断ろうとしたが、次から次へ着替えさせられる速度が早く、口を挟む余裕が無い。 音羽が見ていない所で、伏見に指示をされた店員が複数の下着やネグリジェも手早く梱包していく。 そしてそれはそっと購入した音羽用の服の中に潜り込まされた。 女性店員達の勢いに押され、着ていた服から着替えさせられたついでに音羽の髪の毛も服に合うように軽く整えられ、アップに纏められる。 「伏見様。奥様のお着替えが終わりました」 フィッティングルームの外に居て、店長と話していた伏見は「そうか」と告げてフィッティングルームに顔を向けた。 その時、ちょうど部屋から出て来た音羽と、伏見の視線がパチリと合う。 音羽の服装は、上質な生地をふんだんに使用した清楚なワンピースに着替えられていて。 清楚で上品なのだが、体の線がはっきりと分かるほど音羽の体にぴったりと生地が沿っていた。 胸元も開いていないし、スカートだって短い訳ではない。 それなのに、どこか色気を感じさせる姿に伏見は自分の頭がくらりとするのを感じた。 「……れ、蓮夜?」 音羽の不安そうな声が聞こえ、伏見ははっとする。 似合っていないだろうか、と不安そうに自分の格好を見下ろす音羽に、伏見は柔らかい笑みを浮かべると音羽の腰を抱いて引き寄せた。 「似合ってる。あまりにも魅力的で、言葉を失っていた」 「──ッ」 ストレートな褒め言葉に音羽が顔を真っ赤に染める。 そんな2人の様子を見たブティックの店員達は微笑ましそうに2人を見つめ「奥様、よくお似合いです」と口々に褒めてくれた。 「世話になったな。また頼む」 「こちらこそまた是非ご利用ください!」 「ありがとうございました」 伏見はどこか上機嫌のまま、音羽の腰を抱き寄せてそ
last updateLast Updated : 2026-03-11
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76話

それからも──。 伏見は音羽を連れて様々な店舗に足を運んだ。 化粧品や、装飾品──、靴やバッグ──。 音羽が躊躇いや戸惑いを浮かべる度に、妻の振りをするのだから必要だ、と言われてしまって。 そう言われてしまったら、音羽には断る事など出来ない──。 音羽はその度に「返します」と告げていたが、伏見は音羽のその言葉には一切返事をしなかった。 沢山買い物をして、伏見の家──これから音羽が住み込みで働く家に到着したのは、すっかり夕方になってしまっていた。 「降りれるか?」 「あ、ありがとうございます蓮夜……」 家の駐車場に車を停め、運転席から助手席側に回った伏見がドアを開けて音羽に手を差し出してくれた。 有難く伏見の手を借りて車から降りた音羽。 だが、地面に足を下ろした瞬間、音羽の足にぴりっとした痛みが走った。 「──いっ」 「ああ、やっぱり擦りむけているな。連れ回して悪かった」 「そんな……!蓮夜が謝る必要はありません。私がヒールのある靴に慣れていなかったから……ごめんなさい」 音羽は、ワンピースに合う靴を、とこれまた伏見に買ってもらいそれに履き替えていた。 だが、ヒールの高い靴を履きなれていなかった音羽は、靴擦れを起こしてしまっていたのだ。 音羽の足首は赤く染まっていて、足先も真っ赤になってしまっている。 伏見は音羽の足元を痛ましげに見つめていたが、顔を上げると「抱き上げるぞ」と告げた。 「──え、あっ、きゃあ!」 「しっかり掴まっていろ」 急に体を襲う浮遊感。 そして、突然高くなる視界。 びっくりした音羽は、思わず伏見の首に腕を回して抱きついた。 「すぐに手当をする。家に入ろう」 「ごめんなさい……ありがとうございます、蓮夜……」 音羽は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。 伏見には迷惑をかけてばかりだ──。 音羽を抱き上げたまま、伏見は玄関から中に入った。 ──その後ろ姿を玉櫛 裕衣に見られていた事など、伏見も音羽も全く気付いていなかった。 ◇ 家に入った伏見は、音羽を抱き上げたままリビングに足を進め、ソファに下ろした。 「消毒液と絆創膏を持ってくる。少し待っていろ」 「ありがとうございます、蓮夜」 しゅん、と肩を落とす音羽に伏見は少し乱暴な手つきで音羽の頭を撫でる。 乱暴だけど、どこか優
last updateLast Updated : 2026-03-11
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77話

伏見の男らしい大きくて温かい手のひら──。 節くれだった厚い手が、ゆっくりと音羽のストッキングを脱がすために淵に指が掛かった。 その瞬間、ぴりっとした何とも言えない甘い感覚が音羽の背筋に走る。 「──んっ」 「……」 するする、と伏見の手が音羽のストッキングを下ろしていく。 太ももからふくらはぎ、ふくらはぎから足首へと伏見の手のひらが移動し、そして最後に足首から完全にストッキングを抜き去る。 次に伏見はもう片方のストッキングを脱がせようと再び音羽のスカートの中に手を入れた。 脱がせたもう片方の時と同様、見えないから手のひらで探るしかない。 スカートの中の太ももに伏見は手のひらで触れ、ストッキングの淵を探すように手のひらを上へと進める。 その動きが、何故だか撫でさすられているように感じて、音羽は必死に声を殺すように唇を噛み締めていた。 だが、声は我慢出来ても伏見の手のひらや指が足に触れる度に音羽の体はピクピクと反応してしまう。 数日前に、伏見に押し倒された時の事をふと音羽は思い出してしまって、一気に体に熱が灯った。 伏見の指がストッキングの淵にかかり、ゆっくりと脱がせて行く。 伏見の指が音羽の内ももに微かにひっかかり、その刺激に音羽は耐えていた声を漏らしてしまった。 「──ひぅっ」 「……頼むから、喘ぐな」 びくりっ、と体が跳ねてしまった音羽に、伏見の低い声が言葉を返す。 「あ、喘……!?」 「さっきから体を跳ねさせるわ、色っぽい声を上げるわ……頼むから治療に集中させてくれ。抱きたくなる」 「──っ!?」 抱きたくなる、と直接的な言葉を告げられ、音羽の顔は真っ赤に染まった。 一瞬で音羽の頭の中が、真っ白になる。 音羽が言葉を失っている間に、伏見は手際良くストッキングを脱がすと、救急箱を開けた。 「少し染みるぞ」 ぽつり、と呟いた伏見に足首を持たれ、伏見の膝の上に乗せられる。 硬い筋肉の感触を足の裏から感じた瞬間──。 「──ひっ」 音羽の足先に、じんじんとした痛みが走った。 恐らく消毒液をかけられているのだろう。 足の指も擦れてしまっていた事を思い出した音羽は、そうあたりを付ける。 片足の治療を終えた伏見が、今度は音羽の反対の足を持ち上げ、先程と同じように自分の太ももに乗せると消毒液を足先にかけ、その上
last updateLast Updated : 2026-03-12
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78話

「お礼」と言う言葉に伏見が反応してくれた──。 そう判断した音羽は、ぱっと表情を明るくさせて伏見に続ける。 「そうです!蓮夜には、刑務所に居る頃から沢山助けてもらっていて……!出所した今だって、こうして沢山助けてもらっています!私にもお返しさせてください。じゃないと、申し訳なさ過ぎて……私の気がすみません!」 救急箱を片していた伏見の両手を掴み、音羽は畳み掛けるように一息に告げる。 すると、俯いていた伏見の顔がふ、と上げられた。 伏見を見つめていた音羽と、伏見の目がぱちりと合う。 その瞬間、伏見の瞳にじわりと熱が灯った。 「──っ」 まるで熱に浮かされたような伏見の目。 その熱に、音羽自身も焼かれるような感覚に陥る。 以前感じた、じりじりと身を焼くような熱。 その熱が確かにお腹に籠っている事を感じて、音羽はついつい太ももを擦り合わせてしまった。 片足を床に着き、音羽の足が目線にある伏見には音羽の行動がばっちりと目に入ってしまった。 伏見が顔を上げ、仰ぎ見た音羽の表情。 顔を真っ赤に染め、困ったように眉を寄せている。 だが、伏見を見る瞳に嫌悪や、拒絶の感情は浮かんでいない。 それどころか寧ろ微かに「期待」の感情が見え隠れしていた。 それに気付いた瞬間、伏見はもう我慢が出来なくなった。 「お礼は、音羽。お前に触れさせてくれ──」 「え──、……あっ!やっ、蓮夜……っ!」 伏見はそう告げた次の瞬間、音羽の足に手のひらを添え、そっと押し開いた。 ワンピースの裾を捲し上げ、顕になった音羽の太ももに伏見が顔を寄せる。 伏見の突然の行動に、音羽が驚いたような声を上げて咄嗟に止めようと伏見の肩に手をついた。 だが、それよりも早く伏見の唇が音羽の太ももの内側に触れる。 普段、人が触れるような場所ではない。 皮膚も薄く、刺激に敏感な箇所だ。 そこに伏見の形の良い唇が触れ、ぞくりとした快感が音羽の背筋を震わせる。 次いで、ぴりっとした痛みを感じた音羽は再び短い声を上げる。 伏見は飽きもせず音羽の太ももに口付けを繰り返し、内ももに軽く吸い付く。 何度も何度もぴりっとした痛みを感じ、音羽はその刺激から逃げるように後ずさった。 だが、座っている場所はソファだ。 後ろ
last updateLast Updated : 2026-03-12
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79話

「れ、蓮夜……っ!?」 音羽はソファに押し倒され、自分に覆い被さる伏見をぎょっとしつつ見上げる。 このままだと危険な予感がした音羽は、伏見を押し返そうと彼の胸元に手を置いた。 だが、見上げた伏見の顔がとても苦しそうで。 瞳に灯る熱はじりじりと音羽の身を焼くように強い。 だが、その熱に翻弄されないように必死に堪えているようにも見えて。 「蓮夜……?どうして、そんなに苦しそうな顔を……」 そう呟き、音羽は恐る恐る伏見の頬に手を添えた。 「──どうして、あんたは昔っから……!」 音羽に頬を触れられた伏見は、きゅうっと瞳を細め苦しげに、喘ぐように言葉を紡ぐ。 「え──、……んっ!」 「──くそっ!」 伏見は自分の頬に触れていた音羽の手を自分の手で掴み、そのまま指を絡ませてソファの座面に縫い付ける。 一気に身を屈め、音羽に覆い被さると心配そうに自分の名前を紡いだ音羽の唇を自らのそれで塞いだ。 (嘘でしょ──!?) 音羽は、胸中で叫ぶ。 まさか、伏見がキスをしてくるとは思わなかったのだ。 頭の中が真っ白になって、パニックに陥りそうになる。 音羽の足に触れる伏見の手のひらは酷く熱を持っているように熱く、触れられた箇所から発火してしまいそうだと、音羽は思った。 忙しなく音羽の体を這う伏見の手の動きは少し強い。 だけど、伏見のキスはとても優しくて甘く、脳髄が蕩けてしまいそうだった。 まるで愛情すら感じてしまいそうなキスに、音羽が混乱していると──。 「──ふぁッ!?」 音羽の服の裾から入り込んだ伏見の手のひらが、簡単にワンピースをたくし上げ、音羽の胸に触れた。 胸元まで捲り上げられてしまっていると言う事は、音羽の下半身が、伏見の眼前に晒されてしまっていると言う事だ。 胸を刺激され、音羽はピクピクと体を跳ねさせながら腰をくねらせる。 このままだと、本当に不味い──。 数日前、伏見に触れられて燻っていた熱が、再び音羽の体に灯り始めていた。 音羽に覆い被さり、キスをしていた伏見はゆっくりと顔を離し、音羽をじっと見下ろす。 伏見の唇は湿っており、音羽はそれに気付いた瞬間自分の顔を真っ赤に染めた。 慌てて顔を背け、必死に伏見の視線から逃げる。 伏見は顔を背けた音羽に呆れた。 「──顔を背けるんじゃなくて、普通はこんな事をされた
last updateLast Updated : 2026-03-13
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80話

いっその事、乱暴な手付きで触れられれば良かったのに。 だが、音羽の体に触れる伏見の手の動きは驚くほど優しく、音羽を気遣うように慎重だ。 伏見は音羽の様子をつぶさに観察し、少しでも音羽が嫌がればすぐに手を止めようと思っていた。 だが、伏見が音羽にキスをした時も。 こうして今、音羽の体に触れていても──。 音羽が拒絶するような気配が見えない。 戸惑っているのは良く分かる。 だが、嫌がるとか。拒絶するような感情が全く見えなくて、伏見は逆に自分が混乱してしまった。 (どうして俺を拒まない──!?こんな、無理やり抱かれそうになっているのに……っ) 伏見は、自分の指先で息を乱し、快楽に声を上げる音羽に益々気持ちが昂ってくるのを感じた。 (このままだと、本当に不味い……本当に抱いてしまいそうだ。だが、何も音羽に知らせないまま抱くなんて事、したくない) 本当に抱くのなら。 全てを話して、自分の家の事も受け入れてもらって。 そうしてから音羽とちゃんと繋がりたい──。 このまま音羽を騙すような状況で体を繋げてしまえば。 (音羽は、俺を心底軽蔑して二度と俺と顔を合わせたくない、と思うかもしれない) そうはなりたくない。 そう考えた伏見は、自分の欲を解放する事はせずに、音羽を気持ちよくさせる事に集中した──。 ◇ あれから、どれだけ伏見に乱され、何度達したのか。 音羽は息も絶え絶えの中、ぼんやりとする頭でははっきりとは分からなかった。 ただただ伏見は、何度も音羽を快楽の頂点に押し上げ続けたのだ。 「やっ、もう……、蓮夜、もう無理です……っ」 ぜいぜいと息を乱し、肩で息をする音羽を見下ろしていた伏見は、そこでようやく音羽の体の上から退いた。 「……めちゃくちゃにして、悪かった」 ぽつり、と落ちた伏見の声が酷くか細く、怯えるような響きに聞こえた。 音羽は思わず伏見の顔を仰ぎ見る。 「──蓮夜?」 どうして伏見が辛そうに。 泣きそうな顔をしているのか──。 それに、と音羽は先程伏見が口走ってしまった言葉を不思議に思い、そっと上半身を起こした。 すっかり脱がされてしまったワンピースは、ソファの下でくしゃくしゃに成り果てている。 伏見は自分のワイシャツを脱ぐと、手早く
last updateLast Updated : 2026-03-13
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