怜央は煮えくり返るような怒りを感じていた。病院での数日間、陽咲があれほど献身的に世話をしてくれたのは、てっきり彼女なりに考え直してくれたからだと思い込んでいた。まさか、本気で自分と離婚するつもりでいたとは思いもしなかった。怜央は怒りに小刻みに震えながら言い放った。「俺は絶対に離婚など認めない。そんなこと、二度と考えるな!」そう吐き捨てると、陽咲の反応などお構いなしにきびすを返し、バンッと激しい音を立てて自室のドアを閉めた。陽咲はピシャリと閉ざされたドアを呆れたように見つめ、心の内で冷たく鼻で笑った。なんと言おうと、直樹と明美の夫婦からは「好きな願いを一つ叶える」という約束を取り付けているのだ。いざとなれば、怜央がどれほど離婚を渋ろうと逃れることはできないはずだ。陽咲は自室へ戻り、これ以上煩わしいことを考えるのはやめにした。しばらくスマートフォンでショート動画を眺めているうちに、深い眠りに落ちていった。翌日、彼女は浩二に車を出してもらい、海棠陶房へ向かった。中へ足を踏み入れると、栞奈が目を丸くして出迎えた。「あら、うちの福の神のお出ましじゃない?」陽咲はふふっと笑って頷いた。「怜央が退院したから、そろそろ陶芸を再開しようと思って。腕が鈍っちゃうのも困るしね」栞奈は「そう」と相槌を打ち、思い出したように口を開いた。「そういえば、颯太が急に辞めちゃったのよ。年が明けたら、また新しく人を募集しないと」颯太が辞めたと聞き、陽咲は驚きを隠せなかった。「どうしてそんな急に?」数日間の休みをもらうと言っていただけなのに、なぜそのまま辞めてしまったのだろう。その話になると、栞奈は途端に腹の虫が治まらないといった様子で、陽咲の腕を引いて傍らのソファに座らせ、愚痴をこぼし始めた。「知らないのも無理ないけど、あの颯太って、楓斗の従弟だったのよ!」陽咲はハッとした。そういえば数日前、車で帰宅する途中、颯太と楓斗が一緒に車から降りてくるのを見かけたのだ。今にして思えば、あれは見間違いなどではなかった。「どうして颯太は辞めたの?」と、陽咲は尋ねた。栞奈は忌々しそうに鼻で笑い、ギリギリと歯ぎしりせんばかりの勢いで答えた。「少し前に、楓斗が誰かにあなたの『陽菜』っていう名を騙らせて陶芸をやらせてた一件、覚えてるでしょ?」
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